21 王都攻略戦4
リープゲン侯爵の動きはツクヨミがとらえているので、俺は侯爵が通るはずの大通りの真ん中に全員を転移させた。
全員というのは、フォルシーナ、マリアンロッテ、ミアール、クーラリア、バヌアル、ミルラエルザである。
戦が始まっているので通りには誰もいない。こちらの合図を見てドルトンたちは攻撃をやめたはずなので、城壁の方からも戦の音は聞こえてこない。
「ちょちょちょ、これどうなってんのさ!? 本当に一瞬で場所を移動したっての!?」
初めての『転移魔法』に女魔導師バヌアルは腰を抜かしてその場に座り込んでいた。
「バヌアルさま驚きすぎです。先ほど公爵様が説明なさったでしょう?」
「だけどお嬢、こんなの神話の世界の魔法だよ!? 誰だって腰が抜けるって」
マリアンロッテに引っ張られて立ち上がるバヌアル。なかなかリアクションの大きい女性のようだ。
一方周囲を見回していたミルラエルザは、確認を終えたのか俺の方に向き直った。
「個人で『転移の魔道具』を超える力を扱えるとは驚くばかりです。やはり公爵閣下のもとに下って正解でした」
「多少の制限はあるがな。魔族の『転移の魔道具』の方が優れている部分もある」
「その言いようだけで、もはや私など足元にも及ばないとわかります」
恭しく礼をするミルラエルザ。口元に冷笑も浮かんでいないので、一応は真剣に言っているようだ。
遠くから大勢の人間の足音が聞こえてくる。
通りの向こうから、リープゲン侯爵が兵士を率いて走ってくるのが見えた。
「お父様、一騎打ちで決着をつけるおつもりですか?」
「うむ。リープゲン侯爵は剣に生きる御仁のようだ。そのような人物とは剣と語るよりほかはない」
「お父様なら万に一つもないとは思いますが、ご武運をお祈りしております」
「必ず勝ってこよう」
そうフォルシーナに答えて、俺は一人前に歩き始める。
リープゲン侯爵も俺の姿を認めてか足を緩め、兵士たちをその場にとどまらせた。
侯爵は壮年の男だった。長めの黒髪を後頭部で束ね、どことなく侍崩れの浪人のような雰囲気がある。
刃のように鋭い目、厳しく結ばれた口元には髭をたくわえている。身につけているのは実用本位、動きやすさ重視の軽装のミスリルの鎧。手にするのは身長ほどもある長大な両手剣で、こちらはミスリルではなく、さらに強靭なオリハルコン製だ。
なるほど一目見て超高レベル剣士とわかる出で立ちで、全身から漏れる強者のオーラもすさまじい。
通りの中ほどで、10メートルの距離を置いて向かい合う俺とリープゲン侯爵。
「貴公は王都守備隊の将、リープゲン殿で間違いないか?」
「さようでござる。高名なブラウモント公爵閣下とこのような形でお会いすることになるとは、誠に無念にござる」
侯爵の言葉を聞いて、俺は一瞬吹き出しそうなってしまった。
侯爵がござる言葉って……。確かにゲームじゃセリフなかったけどさあ。
「将軍ももうおわかりであろうとは思うが、王城と国王陛下の身柄はすでにこちらの手にある。貴殿が仕えるゲントロノフ家の令嬢マリアンロッテ殿も私に同調している。貴殿がおらぬ城門もすぐに破られよう。この戦、すでに勝敗は決している。潔く投降する気はないか?」
「拙者はゲントロノフ公より、国王陛下を死しても守れと命じられてい申す。その命に違うことは拙者の剣の道にもとる行い。拙者はただ、敵を倒し主君を守るのみにござる」
「ふむ、剣の道か。ならば剣にて貴殿を別の道に導くこともできようか」
「公爵閣下が拙者より優れた剣をお持ちならばあるいは」
「よい。では始めるか」
俺が『シグルドの聖剣』を抜くと、リープゲン侯爵も大剣を構えた。
瞬間膨れ上がる互いの闘気は、一瞬だが周囲に竜巻を巻き起こす。
「エイジン・リープゲン、参るッ!」
叫ぶと同時に、リープゲン侯爵はその場で大剣を縦横無尽に振り回した。
一振りするごとに光の刃が生まれ、俺に向かって飛翔してくる。
『斬月』という、剣士が習得できる基本的な飛び道具スキルだが、侯爵のそれは大きさも速度も桁違いだ。恐らく威力も相応だろう。
「マークスチュアート・ブラウモント、その剣受けよう。『破星冥王剣』」
俺はシグルドの聖剣を縦に一振り。刃から伸びた光の帯が、飛来するすべての光の刃を両断して消滅させる。
「さすが『蒼月の魔剣士』殿ッ!」
その声は俺のすぐ近くで聞こえた。侯爵が、超高速の『縮地』で飛び道具より早く踏み込んで来たのだ。
侯爵の大剣が上段から閃き、俺の剣に止められる。凄まじい金属音が響き渡り、光の粒子が花火のように飛び散る。
「拙者の剣を止めるとはッ! だがッ!」
侯爵は一陣の旋風となり、さらに苛烈にオリハルコンの大剣を打ちつけてくる。
その剣は荒々しいが冷徹で、一撃一撃が的確に打ち込まれてくるだけでなく、すべての剣に意味があり、次の剣、さらに次の剣の布石になっている。
モンスター相手だけでは身につかない、対人戦にも熟達した、まさに達人の剣である。
「見事な剣だ、リープゲン将軍」
しかし俺の『神速』は、それら卓越した剣技をもすべて丸裸にしてしまう。
なにしろ動きを見てから、『後の先』ですべて対応することができてしまうのだ。もちろんマークスチュアート自身が剣の天才でもある。その相乗効果はあまりにズルが過ぎた。
「ぬおおッ、『心牙清明斬』ッ!!」
侯爵が必殺技を放つ。ゲームではロークスも身につけていた、単体強攻撃スキルである。
振り下ろされるオリハルコンの大剣、その刃が瞬時に分裂し、無数の刃となって俺を包むように迫ってくる。
「『無尽冥王剣』」
合わせて俺は範囲攻撃必殺技を放つ。
瞬間的に放たれた無数の斬撃が、無数の刃を迎え撃ち、そのすべてを切り裂いた。
刹那、動きが止まるリープゲン侯爵。その目にはわずかな驚愕の揺らぎがあった。
「『無明冥王剣』」
俺は三度必殺技を放つ。一筋の光と化した俺は侯爵の脇を抜け、その後ろへと駆け抜けた。シグルドの聖剣でその胴を薙ぎながら。
「ぐふッ! 無念ッ!」
リープゲン侯爵が膝を付く。その脇腹はざっくりと裂け、押さえた手の隙間から血があふれ出す。
「マリアンロッテ嬢、回復を」
「は、はいっ!」
俺の言葉にマリアンロッテが跳ねるように反応し、走ってきて侯爵に回復魔法『ライトヒール』をかけた。
杖の先から流れ出す光に包まれ、侯爵の脇腹の傷は急速に癒えていった。
「いかがでしょうか? リープゲン侯爵さま」
「かたじけないマリアンロッテ殿。お見苦しいところをお見せいたした」
「いえ、侯爵さまは祖父の命令を守ろうとしただけです。それが見苦しいなどということは決してありません」
「お気遣いかたじけない。しかしなるほど、マリアンロッテ殿が公爵閣下に与したのも納得がいく剣技でござった。拙者の完敗でござる」
「では侯爵さまは……」
「公爵閣下に降伏をいたす」
リープゲン侯爵は大剣を地面に置き、そして俺の方を向いて正座をし、深く頭を下げた。
「ブラウモント公爵閣下。閣下の剣の冴え、まっこと感服し申した。我が軍勢は今より公爵閣下のもとに降り申す。なにとぞ受け入れられたい」
「うむ。降伏を受け入れよう。こちらも兵を引く。東と南の城門を開放し、我が軍とローテローザ公の軍を王都内に引き入れさせよ」
「ははっ!」
俺はその場でツクヨミに『戦闘止め』の信号魔法を撃たせ、侯爵は率いてきた兵士たちとともに城壁の方へと向かった。
「お父様、見事な一騎打ちでした。あれほどの剣の達人ですら歯牙にもかけないとは、お父様のお力はもはや並ぶものがいないと思います」
俺の元に小走りにやってきたフォルシーナが、頬を上気させて見上げてくる。
マリアンロッテやクーラリア、ミアールなどもやってくるが、全員が少し陶酔したような目つきになっている。
う~ん、今回はちょっと格好をつけすぎたかもしれないな。俺の中のマークスチュアート面がやったことだから仕方ないんだが。
「娘のお前にそう評されるのは嬉しく思う。私はお前の前では常に強くあらねばならぬな」
「でしたら私はお父様に一生ついて参ります。そうすればお父様は誰にも負けないのですから」
「ふっ、それは助かるな」
銀色の頭をなでてやると、フォルシーナはその手を取って頬にあてた。
さて、これで王都攻略戦自体はこれで決着した。ただしまだ決着していないものが一つだけ残っている。
果たしてどんな裏があるのか、そちらもきっちりと明らかにしないとならない。




