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第九話・魔法少女は降臨する?(終)

「セレナちゃんじゃないのなら、誰が聖女なの?」


 そわそわと前のめりになる結花。

 余計なこと聞かなくていい。ちらちらとコッチを見るな!


「うむ……預言の伝承を『聖女』と解釈していたことが、そもそも間違っておったのじゃ。『魔力の乙女』とは『魔法少女』のこと。つまり……清浄なる魔力目覚めし乙女とは――ミレイ、主のことなのじゃ!」


 どこかの名探偵のような仕草で、セレナがびしっと私を指さす。


「――は、はぁ!? な、ななな、何言ってるの! そそ、そんなわけないでしょ!!」


 もう訳が分からない。いつの間にか、一番私が『荒唐無稽な、ファンタジーの住人』になっている。

 だけどこんな話を、簡単に受け入れるわけにはいかない!


 でも、セレナは見逃してくれない。


「いや。邪悪な竜を、その魔力で浄化して見せたミレイこそが『清浄なる魔力目覚めし乙女』に違いないのじゃ! 魔法少女ミレイを国へと連れ帰ること。それこそが、妾の使命だったのじゃ!!」


 だったのじゃ、じゃないよ。そんなの迷惑だよ。


「伝説の魔法少女キターーーー!!!!」


 結花、ウルサイ! ちょっと黙っていて!!


「と、いうワケでミレイよ、妾の世界へ降臨し、そして浄化し救ってくれ」

「そんな預言、間違ってるかもしれないし、私じゃないかもしれないでしょ!!」


 預言なんて眉唾だし、異世界の預言に私が出てくるなんて、どう考えてもおかしいでしょ!!


「いまさら何を言うておる。現時点で完全に預言通りではないか」

「そうだよ、美玲ちゃん。往生際が悪いよ」


 二人はもう、完全に決め込んでいる。ここで負けるワケにはいかない!


「でも……穴を通れないのに、どうやって帰るの?」


 あの穴は、通れないはず。だから、私もあちらの世界には行けない。だから預言通りにはならない。私の勝ちだ。

 セレナを家に帰してあげたいとは思うけど、コレばっかりはしょうがない。


「方法はある。邪気を浄化すればいいのじゃ」


 自分の言葉に自分で頷きながら、セレナは言葉を続ける。


「最初に妾がこちらに来たのは事故のようなモノじゃ。しかし、妾が通れぬ穴を、邪竜共が通ることが出来るのは、あの穴が邪気に侵されておるから。妾はそう考えておる。

 すなわち、穴を浄化してしまえば、妾たちが穴を抜けることが出来るはずなのじゃ!!」


 ドヤ顔のセレナ。ドヤ顔美少女だ。


「つまり、美玲ちゃんが魔法で『浄化』をするってことだね」

「うむ。そういうことじゃ。穴を構成する魔力のベクトルを反転させることで、通路としての性質を変えるのじゃ」


 見つめ合い、頷き合う結花とセレナ。二人だけで納得されても困る。


「どうして私がそんなことしなくちゃいけないの?」


 そんなことしたら、預言の通りになっちゃうじゃん。

 

「なんじゃ、妾を見捨てる気か? 主はあの時、妾が帰れるようになるまで、最後まで面倒を見ると言うたではないか」


 ソレを言われると、言い返せない。私だって、セレナを見捨てたいと思ってなんかいない。


「――それに、穴を浄化してしまえば、邪悪な存在の侵攻を防ぐことも出来るぞ」

「え、そうなの?」


 セレナの言葉で、ちょっと事情が変わった。

 預言のことはとりあえず置いておいても、あんな怖いドラゴンがもう来なくなるなら、やる価値はあるかもしれない。

 と、そんな風に思ってはみたものの、結局先が見えない。 


「……で、でも、やり方がわからないよ?」


 また『ノヴァ』するの? だけど、必殺技だよ。穴が吹き飛んじゃったりしない?

 トワリアが、浄化されてラブリードラゴンになったのは、ただの偶然だ。意図してやったことじゃないし、確実なやり方なんてわかるわけない。


「三十五話だよ、美玲ちゃん! ルミナス・ディスペルシュートだよ!!」


 今度は結花が、得意気にドヤ顔をした。


「なんじゃそれは? 妾はそんなモノ知らぬぞ?」

「あ! そっか、ネタバレしちゃってごめんね。アニメの三十五話で、敵の呪いにかけられて闇落ちしちゃったアクアを、ルミナスが解放するムネアツシーンがあるんだよ」


 結花は私の部屋に置いたままにしていた、ブルーレイボックスセットから、三十五話の収録されたディスクを取り出して、再生させる。

 一気にスキップされた画面には、毒々しい紫色のコスチュームで暴れるアクアが、ルミナスの魔法で元の姿に戻っていくシーンが映しだされた。


「おお、なるほど! 確かにこのイメージなら、あの穴の邪気も祓えるかもしれぬの!」

「でしょ! ホントはこの後、ルミナスとアクアの友情ムネアツ抱擁シーンがあるんだけど、それはまた今度、ゆっくりね!」


 名残惜しそうに、テレビの電源を切る結花。こんな楽しそうな結花は、小学生の時以来かもしれない。

 

 そしてすっかり外堀を埋められてしまった私は、もうやるしかない。

 セレナに返しそびれていた魔法の杖を、窓の外『例の穴』に向けて、まっすぐにかざす。ヤケクソメンタル再始動だ。


「え……永遠に輝く、親愛の星たち。その煌めきは、影を照らす――」


 セリフと同時に、魔法陣が現れて白とピンクの光がカーテンのように私を包み込んだ。

 二色の小さな星が、私の周りをくるくると回り出した。

 星の動きに合わせて、パジャマはルミナスのコスチュームに変わっていく。


 ――なにこれ!? 


 まるっきりプリエタの変身シーンそのものだ。さっき変身した時は、こんなのなかったよね!?


「なんじゃ、すっかりその気ではないか」


 小さな声でセレナが何かをつぶやいたけど、結花のはしゃぐ声でよく聞こえなかった。


 鏡にルミナスに変身した私の姿が映る。いきなりエンジェルモードだ。

 そしてマジカルステッキになった杖が、キラキラと輝きだす。

 もう、どうなっても知らない。私の責任じゃないからね、行くよ!


「――友を救うため、光よ闇を祓え……いけっ! ルミナス・ディスペルシューーートォォ!!」


 さっき見たばかりの、三十五話を私なりに完璧に再現した。


 ステッキの先に魔法陣が現れる。そこから飛び出したピンクと白、二色の魔力の弾丸が彗星のようにキラキラと尾を引いて螺旋を描いて行く。


 二色の螺旋は、校庭上空の穴に向かって進む。


 魔力の弾丸は穴にぶつかり、闇の中に吸い込まれるように消えた。

 魔力を飲み込んだ穴の中心から、一筋の光が校庭に伸びる。そして少しずつ広がって、巨大な光の柱になった。


「主の魔法は、相変わらず派手じゃのぉ」


 セレナが呆れたように呟く。そんなこと言われても知らない。これはプリエタの魔法だから、私のせいじゃない。

 でも、校庭の真ん中にそびえ立った光の柱は、まさに現実離れした光景だ。

 これをやらかしたのが自分だという事実が、全く受け入れられない。 


 その様子を隣で見ている結花が、私の肩をポンとたたく。


「美玲ちゃん、また目立ってるね」


 え……だ、大丈夫、私の仕業だとはまだバレていないはずだ。全部セレナがやったことにすればいい。うん、そうしよう。


 最初にセレナが頭を吹き飛ばしたまま、校庭に放置されていたドラゴンの死体が、光の中で溶けるように消えて行った。

 ソレを見た自衛隊の人たちが、もう一体のドラゴンを慌てて光の柱から遠ざけようとしている。あんなの何に使うんだろう?


 しばらくすると、光が少しずつ薄くなり、柱は徐々に細くなって消えて行った。

 光の柱が完全に消えて穴が姿を見せると、中の暗闇にピンク色の魔法陣が浮かび上がった。

 穴から漂う気配が変わったのが、私にも分かる。


 なんか、街中がざわついている気がするけど、今はあえて気にしない。全部セレナに丸投げする予定だ。


「これって、浄化成功ってことでいいの?」


 とりあえず今は、それが重要だ。


「うむ、間違いない。さすが預言の魔法少女じゃ」


 セレナは「天晴じゃ」と、お姫様らしいセリフで褒めてくれた。

 これでドラゴンはもう来ないし、セレナも家族の下に帰れそうだ。

 私は預言も魔法少女も受け入れたわけじゃないけどね。


「ミレイよ、妾の国に行くのは嫌か?」


 心の中を見透かしたみたいに、セレナは私を見る。


「嫌って言うか、いろいろと気が重い。だから……私に期待しないでほしい」


 預言なんて私には関係ないし、私は目立ったり、特別な目で見られるのがやっぱり得意じゃない。これが正直な思いだ。

  

「そうか。前にも言ったが、妾には魔王の娘たる矜持がある。主を無理やり巻き込んだりはせんぞ」

「セレナはそれで納得してくれるの?」

「ふむ。本音を言えば、来てほしい。主が来てくれれば助かると言うのも事実じゃ……」


 優しく微笑むセレナは、空を見上げ、言葉を続ける。


「しかしそれ以上に、主に妾の世界を見せたい、国の皆にも新たな友を紹介したい。それが妾の想いじゃの」


 セレナはそう言って、少し寂しそうに笑った。

 その目線の先には、例の穴がピンク色の魔法陣を描いていた。

 あの向こうにはセレナの故郷があって、そこには彼女の家族や友達がいる。

 友達として私を招待したいというセレナの気持ちは嬉しいし、私だって、その想いには答えてあげたい。


「……異世界に……セレナの家に、遊びに行くってことでもいい?」


 これが今の私が、セレナの友情に応えられる、精いっぱいの答えだ。


「ふむ、無論じゃ! もともと縁も所縁もない異世界の未来など、主が背負う言われのない事じゃ。妾が言い出した事ではあるが、預言なぞこっちの都合にすぎぬのじゃからな」


 セレナの表情がパッと明るくなった。満面の異世界美少女スマイルが見れただけで、私は満足だ。


「――当然あたしも行くよ、いいでしょ?」

  

 こちらも満面の笑みで、結花がセレナの袖をつかむ。


「ぬ……連れて行ってやりたいが、主は――」


 セレナが何かを言おうとした時、トワリアが結花の頭の上に乗った。

 どうしたんだろうと見ていると、魔力の球体が結花を包み込んだ。


「おお、ドラゴンの結界か! 今のトワリア(其奴)は、ミレイの魔力の塊のような存在じゃ。ミレイの特殊な魔力に守られておれば、魔力を持たぬユイカでも、穴を通ることが出来るぞ」

「わお! トワちゃんありがとー!」


 結花が両手を頬にあてながら、頭の上のトワリアにお礼を言う。   

 どうやら話が出る前に、問題を解決してしまったらしい。

 セレナの破壊光線だって弾き返したあの『結界?』なら、きっと安心だ。


「ぴゅ!」


 トワリアは気にするなって感じで、軽く鳴いた。男前すぎるよトワちゃん。


「では、行くか」


 セレナが右手の人差し指を立てて『くるん』としようとした。


「ちょっと待った!」

「なんじゃ? 魔法で飛んでゆかんと、行けぬではないか」

「ちゃんと準備しなくちゃ! 着替えも用意しないと、手ぶらで異世界旅行なんて行けないよ」


 いきなりすぎる。心の準備だっているし、お母さんにも許可を取らないと。


「そんな物は必要ない。妾とて、プリエタの続きが見たいのじゃ。だから城の皆に無事を報せたら、今日はすぐに戻ってくるぞ。夕餉までには帰るのじゃ」


 セレナは「母上殿の作る食事の方が、美味じゃからの」と、不敵に笑った。

 どうやら二つの世界を股にかけた、二拠点生活を考えているらしい。

 ウチは謝礼金を貰っちゃってるし、私としてもセレナとの生活を続けることは大歓迎だ。

 私も向こうに行ったきりというワケにはいかないし、セレナとお別れするのもイヤだしね。


「そういうことなら――」


 その時トワリアが突然「きゅぅ!」と強く鳴いた。


「ん? どうしたの、トワちゃん?」


 小さな翼をぱたぱたとはためかせ、窓際まで行くと空に向けてもう一度「きゅぅ!」と鳴いた。


 トワリアの見つめる先。校庭の上空では、例の穴がまた眩しい閃光を放っていた。

 ドラゴンたちが出てきた時とは明らかに違う。私の中の魔力がビリビリと震えているのが分かる。 


 なんだかよく分からないけど、何かとんでもないモノが出てくることだけは間違いない。

 穴は浄化したのだから、もう怖いドラゴンみたいなのは、出てこれないハズなのに……。

 

「ぬ、アレは……」


 セレナが呟いた。そして穴からは、得体の知れない魔力が溢れ出した。


「セレナは、アレが何か分かるの?」

「うむ。この魔力は、妾の父上じゃ」


 へ? ちちうえって父上? 


「えっと……セレナのお父さんということは……」

「ままま、魔王キターーーー!!!!」


 結花の絶叫が街にこだました。


 ついに魔王までやってきてしまった。魔王という響きが怖すぎる。

 だけどセレナのお父さんなのだから、きっと良い人……だと信じたい。

 浄化した穴から出てこられるってことは、少なくても『邪悪』ではないはずだ。


「でも、魔王がどうして……」

「父上は妾のことが心配なだけじゃ。穴の邪気が祓われたのを見て、後先考えずに来てしまったに違いないのじゃ」


 やれやれって感じで、セレナが溜め息をつく。


「魔王なのに、そんなにおっちょこちょいなの?」

「父上は妾を溺愛しておるからのぉ。じゃが心配するなミレイよ、すぐに追い返す」


 セレナは「この世界で魔王などという存在が、異質すぎることぐらいは妾にも分かるぞ」と、眉を上げた。


 まさか異世界の魔王が、娘溺愛の父上(パパ)だったとは……。

 セレナはああ言っているけど、(セレナ)を心配してわざわざ世界の垣根を越えてきたのに、なんだか可哀そうな気がする。


魔王(お父さん)に、こっちの生活を見せてあげたら?」


 冷たく追い返さなくてもいいんじゃない? どうせ一緒に帰るんだし。


「ぬ、そうか? しかし、妾には甘くても魔王じゃ。もし不興を買い怒らせることがあれば、この国を焼き払ってしまうかもしれんぞ。それでも良いのか?」


 眉を寄せ、セレナは真剣な表情で私の目を覗き込む。


「そんな……」


 私はあの穴から感じる魔力に意識を向ける。

 ドラゴンはもちろん、セレナと比べても圧倒的なその迫力に、私は思わず息をのんだ。

 私のせいで、世界の終わりがやって来るかもしれない。もしそんな事になったら……。

 

「――真に受けるな、冗談じゃ。父上は偉大な王じゃと言ったではないか。非道な真似など決してせぬ故、安心せい」 


 セレナは真顔になって、右手でピースサインをした。 


 異世界ジョーク……。


 結花は「だよねー」と、笑っている。だから私も「真に受けてなんかいないよ」って顔をする。


「しかし……ふむ、そうじゃな。預言の魔法少女である主がそう言うのであれば、きっとそれが正しい選択なのかもしれぬの……よし、わかった。ならば親子共々よろしく頼むぞ」

「――え!? 魔王もウチに来るの!?」

「そういう事になるぞ。何せ、妾たちには選択肢が無いからの」


 どうしよう……いまさら「やっぱり魔王お断り」なんて言えない。

 本当にちゃんと帰れる? 魔王も一緒に暮らすことになったりしない?


 薄れていく光の中から、少しずつ人影見えてきた。

 街の人たちは不安そうに空を見上げている。ついさっきまでドラゴンが暴れていのだから当然だ。


 隣では、結花が呑気にはしゃいでいる。魔王にお願いして自分も魔法少女にしてもらおう。とか、企んでいるんだと思う。


「ルミナス取られちゃったから、あたしはアクアだね」


 ほら、やっぱり。


 セレナは、なんだかんだ言って嬉しそうだ。強がっていてもずっと心細かったのかもしれない。

 私はというと……この街はどうなるの? 私はどうなるの? 元の毎日は、もう戻らないの? 


 そんな不安でいっぱいだ。


 普通の中学生だったはずの私の日常は、気がつけばすっかり魔法少女に染められてしまった。


 ……でも、ちょっと期待もしている。


 魔法にわくわくしたり。結花とセレナと三人で、異世界を冒険できたら楽しそう。なんて考えたりもする。


 その時――。


「きゅーーーーーーぅぅぅぅ」


 トワリアが空に向かって長く鳴いた。

 そして魔王を見上げるその小さな瞳がきらりと光った。


 また次の、新しい魔法の予感とともに――。





―― 魔法少女は降臨する・完 ――

「魔法少女は降臨する!~校庭の上空にあいた穴から降ってきた留学生は、魔法でドラゴンを倒しちゃう魔王の娘でした~」は、これで終了です。

 

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