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第五話・ドラゴンVSセレナ

「つまりの……」


 セレナによると、私の体の中に魔力があるらしい。

 高濃度の魔素(謎フルーツ)を体内に取り込んだことで、私の中で魔素が暴れ出した。

 それをセレナが一晩中コントロールしていたことで、魔力として安定したのではないか――と、いうのがセレナの見立てだ。


 もう、何が何だかだ。自分の手をじっと見てみたけど、魔力というのがよく分からない。


「魔法を使ってみよ」


 セレナの目がキラリと光る。


「え!? 使えるの?」

「うむ。その魔力量なら十分使えるはずじゃ……そうじゃ、これを用いるがよい」


 セレナはそう言うと、指先くるんで亜空間から『魔法の杖』を取り出した。


「この杖は妾の魔力と繋がっておるのじゃ。杖を通じて妾が魔力を制御すれば、初心者の主でも魔法が使えるはずじゃ」 


 私は、差し出された杖を、恐る恐る手に持つ。

 映画で見る様な、50センチくらいの木の棒だ。


「……やらなきゃダメ?」

「主なりの魔法のイメージでやってみよ」

「で、でもやり方が――」

「杖に意識を集中して、魔法を使う自分の姿をイメージするだけじゃ」

「で、でも……」

「四の五の言わんと、さっさとやるのじゃ!」


 魔王の娘(セレナ)が急に怖いんですけど。


「わ、わかったよ」


 やればいいんでしょ!


 とりあえず、言われたとおりにやってみる。

 目をつむり、頭の中で「魔法、魔法」と念じてみた。

 すると杖の先から虹色の光があふれ出した。


 まばゆい光は、肌を覆うように私の全身を包み込む。

 そして、パジャマがその光に溶けて、形を変えていく。


「――えっ!?」


 鏡に映る自分を見る。


 ピンク色の、ひらひらふりふりドレス。

 胸元のリボンに、星形の宝石がきらめいている。

 腕には光るハートのブレスレット。

 足元は、羽根やリボンがデザインされた白いブーツ。

 そして、右手の杖が可愛いステッキに変わっている。


 ……どう見ても、プリエタの主人公『プリズマ・ルミナス』だ。


「な、な、な、なんで!?」

「ふむ、主にとっての魔法のイメージが『それ』だった。と、いうことじゃな」


 たしかに、私にとって魔法と言えばプリエタだ。

 小さいころから何度も見ているし、結花に散々付き合わされたばかりだし。


「だからって、変身しなくても……」

「プリズマ・フォーム・チェンジじゃな」

「やめて、はずかしいから!」


 ……こんなの、結花に見られたら大変だよ。

 なんて思っていたらスマホが鳴る。結花だ。


『美玲ちゃん、大丈夫? 熱、下がった?』


 結花の声に、いつもの元気がない。

 私のことを心配してくれてるのだろう。


「う、うん、もう平気」

『よかった! じゃあ、学校は?』


 パッと明るくなる結花の声。


「あー……今日は休むよ」

『そっか。じゃあさ、いまセレナちゃんがバズってるの知ってる?』

「なにそれ?」

『ドラゴンとの動画が大バズリしてるんだよ。セレナちゃん、世界中で大人気みたい』


 私が寝込んでいる間に、そんなことになっていたのね。


「セレナは超絶美少女だからね、仕方ないね」

「ん? 妾がどうかしたか?」


 ふふ、君の可愛さが世界にバレたということだよ。


『ちなみに、美玲ちゃんも大人気だよ』

「はぁ? 私が? なんで??」


 ――?? どういうこと!?


『だって、動画に美玲ちゃんも映ってるし』 

「何で私だけなの!? 結花もいたでしょ!」

『うん。でも、あたしは何もしてないもん』


 私が何をしたって言うの!?


『美玲ちゃん、ネットで「パズ子ちゃん」って呼ばれてる』

「な、な、な、ななな、なにそれ!?」 


 パズ子って何? だから私はバルスしてないし! 鉱山で働いてないし!!

 知らない間に、また変なあだ名が増えていた。

 しかも今度は世界中って……なんだか、また熱が出そうだ。


 ネットで人気者になるなんて、私の人生の予定表にない。こんなの肖像権の侵害だ! 大迷惑だ!!


『じゃあ、学校行く前に、美玲ちゃんとこ寄るね』


 一人で憤慨していると、結花そんなこと言い出した。


「――え!? ううん、大丈夫。来なくていい」


 私はそれを断固拒否する。


『えー、なんで?』

「そ、それは……」


 今の私は、完全にコスプレ状態なのだ。これ以上はメンタルが保たない。

 心配してくれているのは嬉しいけど、今はそっとしてくれるとありがたい。


 ところで……私は、いつまでこんな格好なのだろうか?


『なんで行っちゃだめなの? って……あれ?』


 結花の声が急に焦ったようになる。


『美玲ちゃん、大変! 穴を見て。校庭の上、空の穴!』


 空の穴? あれ以来『例の穴』は、ずっとおとなしくしていたはずだけど……。

 私はカーテンを開け、空を見上げる。

 校庭の真上、よく晴れた空に、いつものように異世界につながる穴が、ぽっかりと開いていた。だけど……。


「――うそ!?」 


 穴からは、セレナが降ってきたあの日と同じように、眩しい光が溢れ出している。

 その周囲は稲光がビカビカと輝き、なぜか私の中にゾワゾワとした感覚が走る。

 体が熱くなる気がして、不思議な気分になってくる。そう感じるのは、きっと魔力のせいだ。


「これは……ちと、マズイかもしれんの」


 険しい顔で穴を睨み、セレナが呟いた。

 その言葉で、あの日の光景が頭によぎる。その時――。


 バリバリバリッ!!


 空に稲妻が走り、轟音が響く。そして光をすり抜けるように、大きな影が穴の中からゆっくりと降りてくる。

 影は一つでは終わらなかった。

 光が収まり穴が暗闇に戻った時、そこには三つの巨大な影がうごめいていた。


 真っ赤な鱗に覆われた、見覚えのある恐ろしい姿。

 大きな翼を広げ、学校の上空をぐるぐると旋回する三つの巨体。


『ド……ドラゴン……』


 スマホの向こう、結花の声は震えている。

 私は全身が強張り、声もでなかった。


 この前と同じ、真っ赤なドラゴン。

 三体のうち一体は一回り大きくて、額の真ん中に大きな角を生やしている。

 大きな角のドラゴンは、他の二体とは何か気配が違う。

 うまく言えないけど、なんとなく『格が違う』そんな気がする。


「グワアアアアアァァァァァアアア!!」


 ドラゴンが上げた大きな咆哮。

 それをきっかけに、街がパニックになっていく。

 登校中の生徒たちの悲鳴と、クラクションの音が入り混じる。

 スピーカーから警報が鳴り響くと、校庭に常駐している自衛隊が動き出した。


 自衛隊が上空のドラゴンへ、攻撃を開始する。


 けたたましい銃声が響く。自衛隊はドラゴンに向け、機関銃を打ちまくった。

 だけどドラゴンは平気な顔をしている。

 全くダメージを受けていないようにしか見えない。


 数分間の銃撃が止んだ。


 ドラゴンの鱗は、全ての銃弾をはじき返してしまった。

 一体のドラゴンが、怒りの表情で自衛隊を睨みつける。

 その口を大きく開け、炎の息を吐き出す態勢に入るドラゴン。


 校庭には、逃げ遅れた生徒たちの姿も見える。

 その場にいた全員が、絶望に飲み込まれた瞬間、視界の端で光が走る。

 空を貫く光の直線は、炎の息を吐き出す寸前のドラゴンの頭を吹き飛ばした。


 頭のないドラゴンは、真っ逆さまに落下し、ズドンとグラウンドに墜落した。


「愚竜めが、調子に乗るな! 貴様らの狙いは妾であろう!」


 窓の外。いつの間にか、あの時と同じ軍服のような衣装になっているセレナが、空中に立ちドラゴンを睨んでいた。

 長い金髪が風になびかせ、オーラのような光が全身を包み込んでいる。

 その姿は、まるっきり正義の魔法少女そのものだ。


『きゃー! セレナちゃん! す・て・きーー!!』


 スマホの向こうで結花が大興奮だ。何してるの? 早く逃げなよ!

 

「グルアアアァァァ……!!」


 大きな角のドラゴンが低い唸り声を上げた。窓ガラスがビリビリと鳴り、鼓膜が震える。

 距離を置いて睨みあう、セレナとドラゴン。

 ドラゴンの体に浮かぶ魔力からは、不気味な殺気? みたいなものを感じる。


「セレナ! あのドラゴンはセレナを、こ……殺しに来たの!?」

「それは分からん。しかし聖女は邪を払い浄化する存在じゃ。邪竜である彼奴らにとっては、天敵そのものなのじゃ。

 あの愚竜共が、妾をここで亡き者にし、聖女の降臨を阻止するために送り込まれた刺客である可能性は否めんな」


 セレナは視線をドラゴンに向けたまま、いつもより少し低い声で言った。


「……どちらにせよ、この世界にとって迷惑な存在であることに違いない。同胞である妾が始末をつけるのが筋じゃ」


 セレナは右手を上空のドラゴンに向ける。

 かざした右手が激しい光を放つ。

 その光に、あの時は分からなかった、魔力の存在を感じてしまう自分に戸惑う。


「フンッ!!」


 右手から光がほとばしり、例の破壊光線が飛び出した。


 破壊光線は大きな角のドラゴンへ、一直線に襲い掛かる。

 でも直撃すると思った瞬間、ドラゴンの巨体を覆うように現れた魔力の球体が、破壊光線をはじき返してしまった。

 弾かれた破壊光線は、球体の表面を滑る様に方向を変え、空の彼方に消えた。 


「ぬ、結界!? やはり上位種か……ならば!」


 セレナが右手を握り魔力を込めると、そこに光の剣が現れた。


 剣を構えるセレナの周りで、風が渦を巻く。

 次の瞬間、セレナは矢のような速さで、ドラゴンに迫った。


 その勢いのままに、ドラゴンに斬りかかるセレナ。

 捉えたと思った光の剣は、甲高い音を立て、魔力の球体に阻まれて止まった。

 セレナは光の剣に魔力を集中させ、もう一度斬りかかる。


 右へ左へ――光の剣が振り抜かれるたびに、魔法同士がぶつかる音が空に鳴り響いて行く。


――バキィィィィンッ!!


 大きな音を立てて、魔力の球体が割れた。砕けた光が、花火のように降り注いでいく。


 セレナがニヤリと微笑む。セレナの勝ちだ。


 とどめの一撃を斬りかかろうとした時、セレナの背後から、もう一体のドラゴンが襲い掛かった。


「セレナ、うしろ――!」


 私は思わず叫んだ。


 セレナは振り向きもせずに、左手を背後に向ける。すると、ドラゴンの巨体が、空中でピタリと止まった。 

 

「グ……グガ……ガガガ!?」


 全く動けなくなったドラゴン。苦しそうにもがくけど、びくともしない。


 セレナとドラゴンの間に、光が集まる。

 光は魔力を溜め込みながら、小さな塊になっていく。

 そんな事が分かってしまう自分が怖い。


――ドンッ!


 ドラゴンの鼻先で、光の塊が爆発した。


「ギャアアアアアアア……!!」


 その衝撃で、ドラゴンは煙を吐きながら吹き飛んだ。


 その時、セレナが「しまった」って顔をした。明らかに焦っているのが、ここからでも分かる。

 ドラゴンが吹き飛ばされた先には、校舎があった。

 セレナは慌てて両手をかざす。その両手からドラゴンに向かって、魔力が流れていく。


 校舎にぶつかる寸前、ドラゴンは空中で止まった。ホッとするセレナ。「セーフ」って顔だ。

 その隙をついて、大きな角のドラゴンが急降下する。そのままものすごいスピードで、セレナから離れていった。


「あ、逃げた!」


 逃走を図るドラゴン。セレナはドラゴンを追いかけようとして、すぐに動きを止めた。

 険しい顔で、離れていくドラゴンを目で追っている。セレナはすごく悔しそうだ。


 どうしたんだろう? 不思議に思っていると、スマホの向こうから結花の震えた声がする。


『え……うそ!? き、きゃぁぁぁぁぁぁ……――』


 スピーカーから、結花の悲鳴が響いた。 

「第六話・ユイカを救出せよ!」に続く。

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