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第二話・異世界留学生

 眠れる謎の美少女が、私の腕の中で静かに目を覚ました。

 彼女は、ぽかんと口を開けたまま、フリーズしている。


「むむむ……」


 茫然とした様子で、きょろきょろ辺りを見回す謎の美少女。

 一通り見渡した後、その緑色のつぶらな瞳は、ドラゴンへ向けて止まる。


 ドラゴンの大きな体が、ビクンと震えるのが分かった。

 その姿は、怯えているように見える。


「貴様……妾を屠ろうとしよったな」


 謎の美少女は、小さな声で呟いた。

 可愛い顔から可愛い声がしたはずなのに、なぜかその声に鳥肌が立った。


 謎の美少女は、ドラゴンに向けて、小さな右手をすっとかざす。

 真っすぐに伸ばしたその手は、やがてキラキラと輝きだした。


「ギャァァーーー!!」


 悲鳴のような声を上げ、ドラゴンが慌てて体を反転させる。

 私たちに背を向けると、翼を慌ただしくはためかせ、飛び立とうとした。


「逃がすか。死ね――」


 その瞬間。かざした右手から閃光がほとばしる。 

 校庭の砂が舞い上がり、目の前が眩しくきらめく。

 光は一直線にドラゴンの背中を貫くと、そのまま空の彼方に消えて行った。


「グギャァァァァァ……!!」


 けたたましい断末魔の鳴き声が、グラウンドに鳴り響く。

 ドラゴンは「ドスン」と、大きな音を立てて、グラウンドの真ん中に落下した。 


「――…………」


 自分の身に起こった出来事が、現実に思えない。

 だけど、目の前にはお腹に大きな穴をあけたドラゴンが、横たわっている。


 全く動かなくなったドラゴンが、まだこっちを睨んでいる気がする。


 体の震えが止まらない。

 全身が硬直したまま、動けなくなってしまった。


「ぬ?」 


 震え続ける腕の中で、謎の美少女は私の顔をジッと見つめる。

 その顔はとても穏やかで、あの恐ろしい事実(こと)と、まるで結びつかない。。


「もう、心配せんでもよい。奴は死んでおる」


 そう言うと彼女は、私の腕からフワリと舞い降りる。

 そして私と結花を、ハグするようにそっと抱きしめた。


 謎の美少女の体が、キラキラと光る。

 すると全身が暖かくなって、同時に体から緊張が抜けていく感覚がした。


 気持ちがなんだか楽になって、気付くと震えも止まっていた。


「少しは落ち着いたか? そういう魔法をかけたからの、もう大丈夫じゃ」


 そう言って、優雅に微笑む謎の美少女。

 その時、私の腕を掴んだままの結花の体が『ビクン』とした。


 怖いのか、優しいのか、彼女の本性がよく分からない。

 分かっているのは、あの『穴?』から出てきたことと、ドラゴンを倒せるくらい強いということ。

 あとはものすごい美少女だということくらいだ。


「ところで……ここは何処じゃ? (ぬし)らは誰じゃ?」


 吸い込まれそうに澄んだ、瞳が向けられる。

 だけど私はうまく声が出ない。

 それに、なんて答えればいいのかも、よく分からなかった。


 見つめ合ったまま、なんとなく気まずい沈黙が続く。


「……ここが、預言にあった『異界』なのか……」


 謎の美少女が何かをつぶやいた時、結花の全身がプルプルと細かく震え出した。


「ま……ま……」

「ま?」「ぬ?」

「魔法少女キターーー!!!!」


 結花の絶叫が学校に、街に響き渡った――。






――あれから街は大騒ぎだった。


 学校は休校。警察や消防、マスコミがたくさんやって来た。ドラゴンの死体は自衛隊がどこかに持って行ったらしい。

 例の美少女は黒塗りの車に乗せられて、一度連れて行かれたと思ったら、ナゼかすぐに戻ってきてしまった。それからはずっと体育館にこもって、事情聴取が行われてるという噂だ。


 私を含め、生徒や教師たちへの聞き取り調査が続いた。いろいろ聞かれたけど、私に答えられることは特にない。

 だって、美少女(かのじょ)の名前も聞いてないからね。そんな余裕なかったし。



 そして四日が過ぎ、授業が再開された。

 校庭の上空には『例の穴』がポッカリ開いたまま。

 その下で自衛隊の装甲車が常駐している。

 こんな状況で再開して大丈夫なのかな? とも思ったけれど、穴に関しては『対策』を取ったそうだ。


 教室では朝からドラゴンと美少女の噂で持ち切りだった。

 クラスメイトたちは、興奮気味にあれこれと考察合戦を繰り広げていたりする。

 その中心では結花が得意気にオタク知識を披露していた。


 そして謎の美少女とのファーストコンタクトをした私は、ずっと質問攻め。

 でも正直言うと、あの時のことはあまり思い出したくない。

 ドラゴンに殺されそうになった恐怖、お腹に大きな穴が開いた姿……あれから私は、あの光景を毎晩夢に見ているんだよね。


 とにかく今日は学校中が、あの日を出来事を夢中で語り合っている。

 で、その中に聞き捨てならない不穏な話が混ざっていた。


「え? なにそれ……?」


 それは、あれ以来私が、下級生たちから「バルス先輩」と呼ばれている。というものだった。

  ……なんで!? バルスしてないし! 

 下級生に変なあだ名をつけられて、いじられるなんて、私が一番回避したいヤツだ。

 私の嫌いな言葉は「悪目立ち」なのに……。


 思わぬ精神的ダメージを受けて、私が頭を抱えていると、授業開始の時間から二十分ほど遅れて、担任の女性教師(せんせい)が教室に入ってきた。


「皆さん、少しは落ち着きましたか?」 


 教卓に荷物を置くと、先生は教室を一通り見渡す。生徒全員(私たち)が無事登校したことを確認して、安心したように微笑んだ。

 それから一つ息を吐くいて、ナゼか「よしっ」と意を決するみたいに話を切り出す。


「えーいきなりですが、このクラスでは今日から留学生を迎えることになりました」


 ……留学生? 転校生じゃなくて? こんなタイミングで? 意外な展開に、クラス中がざわつき始める。

 

「どうぞ、入ってください」


 先生に促され、教室に入って来たのは――。


「……え?」


 思わず声が漏れた。その姿を見た瞬間、私の中にあの時の恐怖が鮮明によみがえる。


「妾の名はセレナ・レイ・ドラガナン。今日から皆の学友じゃ、よろしくたのむ」


 落ち着いた美声で一礼したのは紛れもなくあの『謎の美少女』だった。


 長くてキレイな金髪が窓からの光を浴びてキラキラと輝く、アニメの世界から飛び出したような美少女。

 宝石のような緑色の瞳は、興味津々という感じで教室の隅々を行ったり来たりしている。

 白いブラウスと濃紺のスカート。学校指定の制服を着ているのに、彼女は異彩を放っていた。


「えー、皆さんも知っているとは思いますが、セレナさんは校庭の真上に空いているあの『穴』の中からやって来ました。えーと……あの穴は『異世界』につながっているのだそうです。先生も正直よく分かっていないので、あとはセレナさん聞いてください」


 二つ前の席で「異世界」に反応した結花の肩が揺れる。


「うむ。心得た」


 セレナは凛と背筋を伸ばし、私達を見回した。それから言葉を選ぶように、ゆっくりと語り出す。


「妾は次元を越え、この国にやって来たのじゃ。その顛末は簡単に言うと『ちょっとした魔力の暴走に巻き込まれた』と、いうところかの。つまり……」


 セレナの話をまとめると、だいたいこんな感じだ――。


 彼女は異世界にある『ドラガニア王国』のお姫様で、竜の血を引く『魔竜族』の末裔らしい。

  同じ一族の人たちの反乱で命を狙われて、大きな戦闘になってしまった。

 そこでセレナも正規軍の“主戦力”の一人として、反乱軍と戦っていたそうだ……。

 ちなみにあのドラゴンは、その反乱軍の仲間らしい。  


 そして、セレナのお父さんの魔力が敵の『魔導兵器』と衝突したせいで暴走してしまった。

 その結果、空に大きな穴が開いて、彼女はそこに引き込まれ、気づいたら校庭で私の腕の中にいた――。  


 で、穴は今も開いたままなのに、こちらから中に入ることが出来なかったそうだ。 

 

「……そのまま帰れず困っておったところ、この国の元首殿の計らいで、留学生として学ばせてもらうこととなった。以上じゃ」


 教室がシーンと静まり返る。それぞれに顔を見合わせ、クラスメイトたちは言葉を失う。

 ファンタジー小説のような話が、とても現実に思えない。

 疑っている訳じゃないけど、あまりにも荒唐無稽だよ。 


 そんな中、セレナはにこやかに、そして堂々と佇んでいた。

 オーラと言えばいいのか、何か普通じゃない雰囲気が溢れている感じがする。


「――ハイッ! 質問!」


 最初に声を上げたのは結花だった。右手をまっすぐ上げると、机を叩いて立ち上がる。


「セレナさんって……魔法少女なんですか!?」


 唐突すぎる質問に、クラスメイトたちの視線が結花に集まる。


「まほ……? なんじゃそれは、妾は偉大な魔王の娘である」

「ま、魔王……!?」


 私は思わずペンを落とした。クラス全体が固まる。

 ドラゴンがいるんだから、魔王だっていても不思議じゃないけど……。異世界なんだし。

 それにしたって、魔王って響きが不穏すぎる。

 

「あのぉ……」


 一人の男子生徒が、勇気を振り絞り緊張気味に口を開く。


「そ、それじゃ、セレナ……様は、日本を征服したりするんですか?」


 セレナは涼しい顔で微笑むと、肩をすくめる。


「ん? そうじゃのぉ。妾が本気になれば、魔法も魔術もないこの国を制圧するなど、造作もない事じゃの。

 ――じゃから主らも妾に不敬を働かぬよう、せいぜい言動には気を付けるがよい」

「「「――――!!」」」


 教室全体がざわめきと戦慄に飲み込まれた。次の瞬間、セレナは真顔で手を振る。


「冗談じゃ。真に受けるな」


 ……きつい異世界ジョークが飛び出し、リアクションに困る私たち。

 安堵と困惑が入り混じる中、空気を読まない結花がさらに食い下がる。


「じゃあ、じゃあ! あのドラゴンを倒した魔法――あれって、何て名前の必殺技なんですか!?」


 セレナは、きょとんとした顔をして、首を傾げる。


「ぬ、ヒッサツ……ワザ? ようわからんが、あれはただの破壊光線じゃ」

「えー!? つまんなーい! もっとこう、“エターナル・ドラゴンシュート”とか、“プリティ☆マジカルビーム”とか、魔法少女らしい名前つけないと!!」


 結花が駄々をこねるみたいに、無茶苦茶な事を言い出した。


「なんじゃ貴様はさっきから? 妾は魔法少女などではないと言うておろうが」

「何言ってんの!? 美少女が魔法を使ったら、それはもう魔法少女でしょ!!」


 睨みあう二人。教室に妙な緊張が走る。

 魔王の娘を相手に、あまり無茶なことはしないでほしい。

 

 限りなく魔法少女っぽい美少女を目の前に、興奮が止まらない結花。

 私はというと、正直怖い。私にとってセレナはドラゴンとセット、トラウマそのものなのだ。

 下級生からいじられるのもイヤだし、異世界からの留学生とは、しばらく距離を取っていこうと思う。


「ンンッ。ハイッ皆さん静かに!」


 私がドラゴンとバルスのトラウマに向き合っていたその時、浮足立つ生徒たちを諫めるように、先生が一つ咳払いをした。


「セレナさんには、あの『穴』を監視するという任務があるそうです。ですから、この教室で生徒として授業を受けながら、同時にその役割を果たしていくことになっています」

「うむ、そのように頼まれたのでな。今のところ穴は沈黙しておるが、万一に不測の事態が起きても、妾が対処するゆえ安心するがよい」


 セレナはそう言って胸を張った。


 その言葉でクラスメートたちから、ほっと胸をなでおろすような空気が広がった。

 あんな恐ろしいドラゴンを簡単に倒してしまった彼女なら、きっと心強いに違いない。

 それでも、やっぱり私は……。


「――ところで結城美玲さん。ご両親からは何か聞いていませんか?」


 先生が視線が向けられ、私は小さく首を振った。


「いいえ、何も……」


 突然に話を振られたけど、思い当たる事は特には無い。


「あー。今朝決まったことらしいので、やはりまだ伝わっていないんですね。実はセレナさんは、今日から結城さんの家にホームステイすることになったんですよ」


…………は?


「第三話・ホームステイと彼女の矜持」に続く。

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