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価値観

 調理中にかかって来た後輩の瀬戸からの電話は、だいぶん面倒くさいトラブルのSOSだった。

 何とか現状を聞き出して対応策を伝え終えた時には、大分時間がかかっていた。

 電話越しだったのでこちらも気が急くばかりで嫌な汗をかいていた。

「もう食べたかな?」

 安堵のため息をつきつつ、ベランダから部屋への窓を開けると。

「死になさい」

「うおおおおっ!?」

 聞こえてきたのは物騒な会話であった。

 何事か、と思えば美咲と亨は並んでテレビに向かっていた。手に握られているのはテレビゲームのコントローラー。

 亨はゲームのありかを知っているので、美咲をゲームに誘ったという所だろうか。

 会話からして美咲の勝利、亨の敗北、というところか。

 それにしては、美咲の表現は直接的すぎるが。

「ただいま。疲れた」

「お帰りなさい、幸人さん。な、なんかいいわね、このやり取り」

「お疲れ。畜生、あそこで一発入ってたら」

「負け惜しみね」

「けっ」

 腰を下ろすと、美咲がすすっと寄ってきてぴたりと並んで座って来た。

 見ると、顔を赤くしている。

「べ、別にいいでしょ」

「何も言ってねえよ」

 だが、悪いが少々疲れた。それ以上言葉を返せず肩を回すと、美咲は後ろに移動して肩を揉み始めた。

「悪いな」

「こんなの、何でもないわよ! お疲れ様! えへ、うえへへへへ……!」

「おい」

「こ、これ以上は何もしないからやらせてよお……」

「それはありがたく受け取るよ」

「う、嬉しい……!」

 うきうきした様子の美咲に苦笑が零れる。それに肩を揉まれるのは実際に気持ちがいい。さっきまでの緊張が解きほぐれていく。

 ゲームの敗因を分析していた亨が顔をあげた。

「結構、厄介だったか?」

「ああ。ログインできないってユーザーの問い合わせが何件かあってな」

「瀬戸ちゃんの泣き顔が思い浮かぶようだぜ」

「休日出勤に一人だぞ? そんなの俺だって泣くわ」

「確かに。で、解決はしたのかよ?」

「なんとかな。ログ漁りまくって結局、ウェブサービスのブロックに引っかかってたってオチ。そこに辿り着くまでが長かった」

「あーあれな。発生頻度低いから、思いつくまで時間かかるんだよな」

「ああ。ブロック解除したら解決したってよ。ああ、そういやもう食べたか?」

「いんや。幸人を待とうって話になったからまだだよ。温めなおすわ」

「悪いな」

「功労者だろ? 休んどけって」

「ああ」

 亨は立ち上がると台所に歩いて行った。

「どう、幸人さん?」

「ああ、ありがとう。気持ちいいよ」

「よ、よかった」

「先に食べててもよかったんだが……まあ、初対面の相手と一緒だと気まずいか」

「それもあったけど、仕事している人を置いてというのもあったのよ。トラブルって結構あるの?」

「いや、滅多にない。ある時は大体、こういう感じで間が悪いな」

「ホントね」

 後ろから苦笑の気配がする。あまり揉むと逆に痛くなると判断してなのか、その手は肩を擦るだけとなっている。

 けれど、その温度がとても心地よい。そうやってさりげなく程度を加減できるところが本当にすごいと思う。

 ……まあ、あるシチュエーションでは全く加減できないというのは玉に瑕だが。

「う、うへへ」

 こんな具合に。

「おい、涎垂らしてないだろうな」

「……そ、そんなわけないでしょ? あたしをなんだと思ってるのっ」

 そういう割に、返答までに間があったし片手が離れたぞ? 涎を拭いたのか?

 そこに呼びかかる亨の声。

「温まったぜー。お二人さんもみたいだが」

「まるで冷めてたみたいに言わないでくれる? あたしたちはいつだって熱々よ」

「へえへえ、ご馳走様」

「あら、食べないの?」

「食べるわっ」

 美咲と亨の遠慮ないやり取りに、俺は正直ほっとした。

 藤井亨は俺の昔からの友人で、気の置けない間柄である。

 竜禅寺美咲は最近知り合ったばかりだが、もう俺にとっては大事な――彼女、と言っていいだろう。

 いずれは二人を引き合わせないといけないと思っていたが、照れが勝ってなかなか実行できなかった。

 いや、避けていたところもある。

 亨は千佳以後の俺の女性関係構築に積極的になるように促していたが、値踏みを含む見方をすることがある。前回の二の舞にならぬように、という意味合いもあるのだろう。

 そこは正直、心配をかけて申し訳ない、という気持ちだ。

 美咲は竹を割ったような性格だが、割った結果に危うさが潜んでいるような気もしている。

 俺への愛情故――と言うと自惚れが過ぎるかもしれないが。

 要するに、二人とも社交性があって人間関係の構築は得意そうだが、反面ドライなところもある、と踏んでいたからだ。

 そんな二人を引き合わせたらどうなるか。

 相性次第で、最悪どちらかを失うかもしれない、とそんな嫌な想像が二の足を踏ませていた。

 結果、ずるずる引き延ばしになって偶然の出会いとなってしまい、しかも間柄を取り持つどころか仕事で放置する羽目になってしまった。

 俺は二人に比べて不甲斐ない部分が多すぎる、と最近よく思う。

「さ、食べよ、幸人さん。ゲームで紛れてたけど、やっぱりお腹空いたわ」

「そうだぜー。さすがにもう待ちきれんわ」

「……ああ、そうだな」

 ともすれば塞ぎ込みがちになりそうな俺を、明るい声と笑顔で真っすぐ引き上げてくれる。

 そんな二人を失わなくて良かった、と俺は心底から思うのだった。



「お、美味しい……! 幸人さん作の手料理を食べられるし、スキンシップもできたし、今日はなんて嬉しい日なの……!?」

「半分以上は俺も手伝ったんだが?」

「知らないわよ、そんなの」

「ひでえ話だ」

 各自ご飯をよそって、カレーライスを囲んだ食卓。

 美咲と亨のやり取りに、俺は苦笑するしかない。

 和気あいあい、というには美咲の亨への態度が雑だが、亨もそれを面白がっている節があるので、わざわざ指摘して改めさせるのは野暮と言うものだろう。

 ふと、もし俺たちが同年代で、高校や大学で一緒の時間を過ごしていたとしても、こんな風なやり取りになっただろうな、と思った。

 気兼ねない安心感。

 休日にそんな時間を持てることに、俺はどこかほっとするのだ。

「口に合ってよかったよ。美咲はお嬢様だから、正直どうかと思ってたが」

「高級レストランに負けず劣らずよ。というか、そんな豪華なディナーばっかりのイメージなの? インスタントのカップラーメンだって、普通に食べるわよ」

 不思議そうな美咲に、俺は意外を禁じ得ない。

「そうなのか。姿勢がいいし食べ方も綺麗だし、常にそうかと」

「き、綺麗? あたし綺麗?」

「夜道で会う怪異かよ」

 一言だけ切り取って喜ぶ美咲をまぜっかえす亨。そうされて、美咲は亨を鼻で笑った。

「藤井さんはわかってないわね、女心。さぞかし、おモテにならないんじゃないかしら?」

「いや、普通にモテるわ」

 本当かしら、という美咲の懐疑的な視線が飛ぶ。

 実際、亨は彼女が途切れたことがない。長続きもしないわけだが、デリケートな話題なので俺はそれに関しては特に言うことはない。

 その後も和気あいあいと――と言うには物騒な表現が飛び出すこともあったが――食事を終えた。

 最近は、美咲が好みの緑茶を差し入れてくれたりしてるので、そちらで食後のお茶となった。

 お茶を淹れるのは俺である。美咲が気を遣ってやってくれようとしたが、淹れること自体が好きなので遠慮してもらった。

「うーん、でもあたし好みの品を置いてくれてるだけでも満足ね。いずれは歯ブラシとか着替えとか、えへ、ふへへ……!」

 そんな野望が呟きとして聞こえてきたが、とりあえず聞こえないふりをしておいた。

 俺としては、果たしてそんな未来があるのか、いまいち現実感がない。千佳と同棲していた時はそのようなこともあったが、美咲とは年齢差などもあり――きっと、同じビジョンは見えていない、と思う。

 そんな考えを紛らわせたり、整理したりするのに、この時間は丁度よかった。

 ちらり、と亨に視線をやると、妄想にふける美咲を眺めやっていた。

 そこに宿るのは呆れ――だろうか。

 俺も似たような心情を抱くことはあるが、切りがないんで精々、許容してほしいと思う。

 ちゃぶ台に並ぶ湯飲みに、今回のお茶が美咲の差し入れだと聞いた亨は首を傾げた。

「竜禅寺さんは紅茶のイメージだったわ」

「紅茶も好きよ? でも、幸人さんのおうちに似合うのはこっちだもの」

「確かに」

「紅茶だとまた別に茶器を揃えないといけないしな。俺の家、狭いから置く場所ないし」

 ぎくり、と美咲の身体が跳ね、慌てて手を振った。

「い、いえ、その、そのお……ち、ちが、狭いと思ってるからとかじゃ、その……!」

「え? あ、いや、違うよ。よく考えてくれるな、って話だぞ? 嬉しいんだよ、その気遣いが」

「う、ふへ、ひああ。ど、どどど、どういたしましてえええっ……」

 突然褒められたからか、美咲は顔を赤くして手で覆ってしまった。直接的な誉め言葉に、美咲は弱いんだよな。そこも可愛い所ではあるのだが。

 亨が胸焼けの表情で肩をすくめた。

「幸人は女心がよく理解できていることで。さぞかしおモテになるんでしょうなあ」

「そんな深淵、わかるわけねえだろ」

「いやー? そのさりげない配慮に、ラの字の子は結構多いんだぜ?」

「それ、ホの字のこと言ってるのか? 表現が古すぎだろ」

「なにそれラブのことじゃないでしょうね詳しく聞かせてほしいわ」

 先ほどの赤面はどこかに消え去り、句読点のない冷たいセリフを吐き出した美咲は、ちゃぶ台に静かに両手をついて身を乗り出した。

「目がイッてんぞー。幸人、いつもこんな感じなのか?」

「叩けば治る」

「じょ、冗談に決まってるじゃない」

 頭を庇いながら言い繕う美咲。やめろ、まるで俺がDV夫みたいじゃないか。

「ま、普通にカレカノやってるみたいで安心したよ。……いや、普通か? 安心できるか、これ?」

 安心したようにため息をついたのに、最後は疑問顔になってしまった亨に、俺は思わず吹き出した。

「人それぞれってやつだろ」

「ああ、まあそうだけどさ」

 亨の視線を追いかけて、俺も美咲を見た。そこに浮かぶのは、感激したような表情だった。

「ゆ、幸人さんがカレカノを素直に受け入れてくれた……げ、現実なのよね? う、嬉し……!」

「……う、あ、ああ、まあ」

 そう確認されると、さすがに恥ずかしくなる。亨もいるし、どう答えようか迷ったが、ここは素直に言うべきなんだろう。

「あ、ああ。改めて、よろしく」

 さすがにどもってしまい、顔を見れなかった。

「ふ、ふああ。は、はい、こ、こちらこそ。や、やや、やったあ。こ、これはもう、高校卒業したら、け、けけけ結婚して専業主婦ね……!」

「いや、さすがにそれは早すぎんだろ」

 亨の意見に俺も賛成だ。

 が、美咲は潤んだ瞳のまま、敵愾心が籠った視線を亨に突き刺した。

「黙って。もう決めていることなんだから」

 ――――なんだって?

 決めているって、高校卒業したら専業主婦ってことを?

 これだけの才能を秘めていて、たくさん努力をしてきた美咲が?

 絶句してしまった俺は、思わず亨と顔を見合わせた。

 亨はどこか冷めた目で見返して来た。俺が動揺のあまり何も言えないのをどう察したのか、そのまま美咲に視線を転じる。

 同じように美咲を見ると、そこには俺を見つめる期待のこもった前のめりな姿勢。俺の了承を疑っていない、無垢な表情があった。

 亨のため息がやけに大きく聞こえた。

「……ああ、なるほど。独断か」

 吐き捨てられたそれに、美咲の表情が急転する。

 見たことがないほどの無表情に。

「……何が言いたいの?」

「言うのは俺じゃねえよ。幸人」

「あ、ああ」

「竜禅寺さんは高校卒業と同時に、お前と結婚して専業主婦だってよ。どう思うよ、これ?」

「どうって」

 聞かれ、俺は内心を整理した。

 さっきは突然のことで驚いてしまったが、冷静にその理由を掘り起こす。

 俺と美咲の価値観の違いと照らし合わせて、確かに言いだしそうなことだと思いつつ、そこに自分の理屈を絡めてみた。

 ああ、だから咄嗟に言葉が出てこなかったのか、という理由を見つけた時に、俺は自分の平凡さを自覚する。

 別に卑下することでもないのだろうが――こういう時に、俺は俺の世界と美咲の世界のギャップを思い知るのだ。

「美咲」

「は、はい」

 俺の姿勢をどうとらえたのか。

 無表情は消え失せ、期待と不安が複雑に入り混じったグラデーションへと変わる。俺の好きな、表情豊かな美咲がそこにいる。

「大学にも行かず、就職もしない、ってことで合ってるか? いや、他に色々美咲にはできることがあると思う。その沢山を選ばず、ただ……」

 どうか否定してくれ、と思いつつ、俺は聞いた。

「……ただ、俺の傍にいたい、って言ってるのか?」

「はい」

 美咲は、込み上げてくるもの、それらすべてを震えに押し込んで、シンプルにそう答えた。

 そこにあるのはただただ無垢な歓喜。

 美咲からすれば、プロポーズの返答をしたっていう感じのことなんだろう。

 だから美咲は、そのままのテンションで亨を振り返った。

「み、見た見た!? か、感動のこのシーン! 立会人、藤井さん立会人ね! 結婚式のスピーチで、これぜっっっっったいエピソードに盛り込んで!」

「おい、竜禅寺さんよ」

「録画しておけばよかった! く、悔やまれるわ! 一世一代のこのシーン、子供や孫に自慢できたのに!」

「竜禅寺さん」

「あ、今からでも遅くないわ、藤井さん、動画撮って! ええと、スマホスマホ――」

「聞けっつってんだよ!」

「な、なによ。親友の幸人さんを取られたことが、そんなに悔しい? 大丈夫よ、披露宴では一番いい席用意してあげるから」

「今の幸人を見ても、そんなこと言えるのかよ?」

「は? なによそれ。――――?」

 どこか遠くに聞こえるやり取り。

 それは無機質にネット上を流れるデータみたいだった。

 それは人間には直接読み取れず、また、読み取る気も起きない。

「……よろこんで、くれない、の?」

 近くに寄る気配がする。けれど、それに俺の心は動かない。

 ただ、謝罪の念が込み上げるだけだ。

「どうして。ずっと一緒にいたいのに。た、ただ、それだけなのに」

「ごめん」

「え」

「色々なものを諦めさせて、ごめん」

「え」

「俺が、美咲の未来を狭めて」

「え」

「奪って、しまった」

「奪われたいの!」

 聞きたくない。

「謝らないで。奪っていいの。あたしのすべてを捧げたいの。あげたいの。だから謝らないで。あたしがそうしたいだけなの!」

 もうやめてくれ。

「どうして」

 もう、本当に。

「……どうしてわかってくれないの!?」



 顎に衝撃。

 俺は床に転がった。

 ――みたい、だった。

 何が起こったかわからなかった。

 緩慢な動作で身体を起こすと、疲れたような亨がそばでしゃがみこんで俺を見ていた。

 周りを見渡すと俺の家で、ちゃぶ台には三つの湯飲み。

 美咲の姿は見えない。

「……っつ」

 声を出そうと動かした口の中が痛んだ。

「わりぃな。声かけても反応がないんで、荒療治になった。竜禅寺さんは怒鳴って帰ったぜ」

「……ああ」

 顎を擦る。幸い痛みはその周辺だけだった。

 その間に亨は姿勢を改め、足を投げ出すと後ろ手に身体を支えて天井を仰いだ。

「いやー、すげえお嬢さんだったな。いるんだな、あんなの世の中に」

 感嘆、呆れ、辟易、苦笑、色々なものが込められた感想だった。

 それに俺は同調できず、苦悩が満ちるだけだ。

 そんな俺に亨が聞いた。

「どこまで覚えてる?」

 正直思い出したくもなかったが、覚えているものは仕方がなかった。

「わからず屋呼ばわりされたところまでかな」

「全部か。そんで出て行った」

 痛みに顎を押さえる。

「どうせなら、記憶を飛ばすくらい殴ってくれたらよかったのに」

「親友にそこまでできるかよ」

「ありがた迷惑な話だ」

「にしても、狂気の沙汰だな。ストーカーの本領発揮ってところか?」

「価値観の違いだろうな。常に全力、ということでもあるんだろうが」

「そんな可愛げのある話かね」

 ふと、亨と目が合った。

「で、あんなんでも好きなのかよ?」

「ああ」

 意識せずに、俺はそう答えてしまっていた。

 そうしてから、苦笑する。苦笑できた。

 返って来たのは心底からの呆れだった。

「お幸せに、ってか? そこまでのハードルが随分と高そうな気がするけどな」

「ああ、俺もそう思うよ」

「この場合の見解の一致ってのは、喜ぶべきことなのかねえ」

「見解か。……その不一致が表面化したってことなんだろうな」

「……幸人と、竜禅寺さんの将来図についての話か?」

「ああ。美咲は短絡的だが明確で、俺はまったく描けていなかった。そりゃ、齟齬が起きるに決まってる。一般人とお嬢様なんだから、なおさらな」

「お嬢様育ちは関係あんのかね?」

「……ないかも知れないな。それが美咲なのかもしれない」

「生来のストーカー気質ってことかよ?」

「かもな。少し話をしたが、父親も同じらしいし」

「遺伝かよ」

 いい加減面倒くさくなったのか、投げやり気味に亨は床に寝ころんだ。

「で、幸人はあの竜禅寺さんとの結婚は視野に入れてるのかよ?」

 「あの」を強調する亨の質問に俺は向き合う。

 答えはすぐに出た。情けない方向に。

「今はそこまで考えられねえよ。なるようにしかならねえだろ」

「さすがの幸人も、結婚に関しちゃ優柔不断な、男の大勢の例に漏れねえか」

「美咲と違って、俺はそこまでレアじゃねえんだよ」

 俺も床に寝そべった。冷たいフローリングが気持ちいい。

「けど正直、亨とこういう話ができるようになったのは助かる。ずっと一人で悩んでたからな。ありがとうよ、親友」

「どういたしましてだぜ、親友」

 霧が晴れた、とまではいかない。

 けれど、どこか自信のない自分にも、譲れないものはあったらしい。

 視線を動かすとちゃぶ台が見える。

 小さなそれはいつも美咲からの防波堤となり、心安らぐ時間を提供してくれている。

 そのちゃぶ台の端から、小さな見覚えのない板のようなものが張り出していた。

 身体を起こしてそれを手に取ると、センサーが反応したのかディスプレイが点灯した。

 俺も見覚えのある精悍な男性と柔和な女性に挟まれ、照れくさそうに、けれど嬉しそうに微笑んでいる美咲がいた。

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