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ストーカー系女子とアンニュイ系男子の攻防戦  作者: 緋色
七章

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46/54

場外:crank up

「――ハッピィィィィィィエンドォォォォォォォォ!!」

「必殺技みたく叫ぶな、近所迷惑だぞ」

「いやいやいや、これは俄然、喜ぶところっしょ! ほら、亨くんもわっしょいわっしょい!」

「祭りかよ!」

 有頂天にはしゃぐ瑠璃子に一喝する亨。

 まとわりついてくるような瑠璃子に、仕方なく手を差し出すと――ハイタッチの音が響く。

 夕暮れ時、公園を横切る散歩道に、他に人影はない。

 どこか物悲しい雰囲気のはずなのに、それを打ち消すように喜びの声があたりに響く。

 それどころか瑠璃子は全身でそれを示し、飛び跳ねて、ただでさえ短いスカートの裾を揺らす。

 亨は大きく呆れのため息をついて、念のために周りに視線を巡らせ、今度は安堵に息をつく。

 ――とうとうやりやがったか。

 そうして苦笑に頬を緩める亨。

 その原因は一つ、瑠璃子のスマホに届いた報せだった。

 それは家族に認められた、というものであり。

「これでミサを阻むものなし!」

 どこぞの格闘家のように拳を突き上げる瑠璃子。

 そう、それは竜禅寺の全面的なバックアップを受けられるようになったということになり、もう幸人と美咲の前途を邪魔するものはなくなった、ということであった。

 浮かれ喜び跳ねる瑠璃子に、ふと疑問に思う亨。

「お前さん、親友を取られて悔しくねえの?」

「ぜーんぜん?」

 くるくると回る瑠璃子。

「ミサが選んだお相手なら、どーんなクズでもOKっすよー」

「クズ言うな。そんな奴じゃねえよ」

 気分を害されながらも、呆れたような表情の亨。

 感情の制御ができていないような瑠璃子に、いくら言っても無駄か、と諦めたのだった。

「いやー、これは結婚式も近いっすかねえ? そうなるとそうなると、ウェディングドレスが必須! うひー、うちがデザイン出来たらいいなー!」

「ああ、そういや勉強してたっけな」

「そうなんすよー。どこから聞きつけてきたのか、ミサの事務所にデザインしてみないか、とか言われてるっすねー」

「それって囲い込みってやつじゃねえの?」

「やっぱりそうっすよねー。大人って怖いっすー」

 話題に反して、やはり瑠璃子は浮かれており、隙をついて飛び出しそうになる喜びをかみ殺すのに必死だった。

 仕方なしに、亨も少しは付き合うことにした。

「案外、子供が出来るほうが先だったりしてな」

「おおー、ありうるありうる! 二人の子供、絶対可愛いよね! めっちゃ楽しみ! あ、でもそうすると、うちおばさんって呼ばれちゃう!?」

「躾りゃいいんじゃねえか、(あね)さんって呼べってよ」

「うちはヤクザか!」

「似たようなもんだろ」

 亨は笑みを浮かべ、瑠璃子はけらけらと笑う。

「佐倉さんとか、投げたブーケ必死に取りに行きそうだし!」

「ありそうな話だ」

 想像というより妄想が時系列なく前後に行き来する瑠璃子、意地の悪い笑みを浮かべる亨。

 瑠璃子は夢見るような表情で、さらに続ける。

「でも、でも! うちのほうに飛んでくるんよ、ブーケ! で、受け取ったうちにミサは口パクしてさ! 『次はあなたたちの番ね』――とか! うっひゃー!」

 想像のブーケで顔を隠すようにする瑠璃子。

 その頬は、ハイテンションなのか夕日なのか、赤く染まっている。

 そうして、ブーケから顔を出すように瑠璃子は亨の反応をうかがい――。

 ――怪訝そうな亨に気づいた。

「……え、と?」

 瑠璃子の方こそ首を傾げた。

 ここは、いつものように軽快につっこむところではないのか。

 そう――ここはそういう場面のはずだ。

「……ああ、そうか」

 亨は気づいたように、優しい、だがどこか疲れたような笑みを浮かべた。

「お疲れさん。お互い、よく頑張ったよな」

 ――何の労いだろうか。

「ここまで来たら、もう焚きつける必要はねえ。比較対象としての俺たちはお役御免だ」

 そう、確かにそう。

 最初はそういう理由で、偽装恋人として始まったのだ。

 始まって、続いて、今まで二人三脚でやって来て、走り抜けた。

「見事エンディング、クランクアップ。ミッションコンプリートだ」

 待って。

 待って待って待って。

 瑠璃子の内心の連呼は届かない。

「だからもういい。お疲れさんだったな、本当に」

 そうして亨は手をあげた。

 いつもやっていたハイタッチ。

 締めくくりには相応しい、その儀式。

 ――最後の、儀式。

 瑠璃子の頬を、涙が伝った。

 それでもやっぱり、藤井亨は怪訝そうに首を傾げた。

「なんで泣いてるんだ、八重垣?」

「なんで!?」

 感情が爆発して、亨の胸倉に手が伸びた。

「お、おい」

「わかんないの!? なんで泣いてるか!」

「お、おう」

「なんで終わりなの!?」

「いや、だから」

「なんでうちだけが好きなの!?」

「……はあ?」

「なんでなんでなんで!」

 いやいやをするように首を振る。その度に涙が飛び散る。メイクも散々だ。

 いつものように、せっかく綺麗に着飾っているのに。

 隣で恥ずかしくないように気合入れたのに!

「なんでそんな、他人行儀にうちを呼ぶの……!?」

 視線が落ちる。

 なにもかも、夕日に染まっている。

 一日が終わろうとしている。

 二人の関係と、同じように。

「ハニーって呼んでよ。瑠璃ちゃんって呼んでよ。恋人でしょ、うちら!!」

「演技だったろ」

 断ち切る様な冷淡な声。

 信じられず、恐る恐る顔を上げると、そこには迷惑そうな表情があった。

「勘違いしてるだけだ。憑依型俳優ってやつだろ、いわゆる。役が演者に乗り移るってやつ」

「ち、ちが」

「違わねえ。まあ、気持ちは分かる。俺も何度か勘違いしそうになったしな」

「だ、だったら」

「そのまま勘違いしとけと?」

 亨は、やれやれ、と肩をすくめた。

「ごめんだね。俺にとっちゃ、お前さんは幸人をだまし続けた罪の象徴なんだよ。そんな奴と、演技が終わってもずっと一緒にいるなんざ」

 力が抜けた一瞬をつき、亨は瑠璃子の手を振り払って後ろに下がった。

 その勢いに、瑠璃子はたたらを踏んだ。

 亨は乱れたネクタイを緩めた。

「息が詰まってしかたがねえ」

「……そ、う」

 想像のブーケはもう、どこにもない。

 恨みがましい視線が上がる。

 涙に濡れ、夢から覚め、薄情者を見る視線だった。

 視線を突き刺したまま、手が動いた。

 引きちぎる勢いで、右手首のブレスレットを外すと亨に投げつける。

 思い切り力を込めたはずのそれは、ぽすん、と頼りない音とともに亨の胸元にぶつかり、落ち――地面に力なく横たわった。

「お疲れ。だから、さっさとどっか行って」

「当然だろ。演技が終わったら退場するのが役者ってもんだしな」

「うるさい。口ばっかりよく回る……!」

 その声を振り切って、亨は後ろに歩き出した。

「じゃあな。次からはせいぜい、自分を大切にしろよ」

「うるさい! 早く行け!」

 片や後ろ手にひらひらと、背筋をまっすぐ伸ばし。

 片やかすかに擦りむいた手首を気にすることなく、身を翻し。

 二人の関係は、そのブレスレットのように、あっさりとほどけたのだった。

読んでくださり、ありがとうございました。

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