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ストーカー系女子とアンニュイ系男子の攻防戦  作者: 緋色
六章

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37/54

凜姿佳人

 ――歩くことの、なんて難しいこと。

 方向、距離、踏破そのものの是非。

 そして――その手段。

 考えなければならないのに、幸人さんと引き離されてしまったという事実が焦燥を煽り、それすらままならない。

 せっかくリコ、凜花お姉ちゃんが親身になってくれているというのに、どうしても上の空になってしまう。

 手が震えてくる。

 見かねたのか、凜花お姉ちゃんが、ぼそりと呟いた。

「……作戦会議」

「それっす!」

 招集メンバーは、今のこの三人に加えて藤井さん、千佳さんだそう。

 あたしは正直、その中に幸人さんが含まれていないのでどうでもよく、事務的に頷きを返した――らしい。

 そう、そのあと一人さえいれば、以前に集まったゲーム大会のメンバーそのもの。

 その時、開けることができたクローゼット、向かい合うことができたチェス盤に結び付く家族が、壁となっているこの現状。

 あれからさほど時間も経っていないというのに、激変してしまった事態にあたしは胸を締めつけられる。

 そうしていると、インターホンが鳴り、リコが玄関に来客を迎えに走る。

 あたしはそんな気になれず、ただソファで脱力している。

「よう」

「ようこそっす、亨くんー!」

「おいおい瑠璃ちゃん、人前だぜ」

 だと言うのに、玄関から聞こえてくる、来客藤井亨とあたしの親友、リコこと八重垣瑠璃子の声。

 ぎり、と聞こえたのはきっとあたしの歯が食いしばられる音。

「こんにちは。二人とも、仲良しだね」

 続く佐倉千佳の声。

 おそらくリコと藤井さんを評したのだろう、それは何とものんきで、あたしの神経を逆なでる。

 あなたは幸人さんと同じ職場で、いつでも会えるからそうなんでしょうけれど。

 すでに表面張力だけで保たれていたあたしの限界が、溢れだしそうになる。

「……本当にいいんだろうか、ここに来ても……」

 それに続いて聞こえてきたのは、幸人さんの自信なさげな声。

「――はぁっ!?」

 その声はあたしをいきなり動かした。

 視界の隅に、あたしの動きに驚いたのか、凜花お姉ちゃんのびっくりした顔が映り込む。

 それを気にせず、あたしは玄関へ。

 そこで見たのは、リコと藤井さんと千佳さんの後ろに、所在なさげに佇む幸人さんの姿だった。

「ゆ、ゆき……っ!」

 喜びの余り、その名前を呼ぼうとして。

 幸人さんと、目が合った。

 その瞬間、思い出すのはあたしのために頭を下げていた幸人さんの姿。

 ――そうして、それ以上、あたしの口からは何も出てこなかった。

 名前を呼ぶ資格すら、きっとない。

 俯いてしまったあたしの肩を、優しく抱く感触。

「――とりあえず、中に入ってもらっていいかな」

 耳元の凜花お姉ちゃんの声は、低く静かだ。

 それが僅かにあたしを落ち着け、奥のリビングへ導く。

 あたしと凜花お姉ちゃん以外も、それに続く気配。

 けれど、それがあたしには恐ろしい。

 罪の証が、静かに煽り立ててくるかのようだった。

 そして、あたしはソファに座らされ。

 同じソファに、距離を置いて幸人さん。

 リコ、藤井さん、千佳さんは一旦客間へ姿を消す。

 そう誘導したのは凜花お姉ちゃんで、そのお姉ちゃんはあたしと幸人さんの間に、腰を下ろした。

 凜花お姉ちゃんを隔て、あたしは幸人さんと同じソファに座っていることになる。

 お姉ちゃんが、どうしてそうしたのかはわからない。

 けれど、それはわかりやすい構図でもあった。

 幸人さんとあたしを断絶する家族の壁。それが現状。

 静かに口火を切ったのはお姉ちゃんだった。

「幸人くん。どうしてここに?」

 それは責めたり問い正したりするものではなく、単純な疑問を含んだものだった。

 そう、それはあたしが第一に確認したいことだった。

 来客は藤井さんと千佳さんだけだったはず。

 予め幸人さんが来るとわかっていれば。

 ――わかっていれば。

 あたしは、一体どうしていただろうか。

「あ、ああ。千佳に誘われて。一度は断ったんだが……強く言われて」

 申し訳なさと、緊張が入り混じった幸人さんの声。

 あたしは、その顔を見たい、という衝動を全力でこらえなければならなかった。

 ――幸人さんが足りない。

 なのに、同じ場所にいるのに声だけを聞かされ、理性では遠ざかるべきだとわかっているのにそれもできず。

 何もかもが幸人さんを求めている。

 あたしは、必死でそれを引き留める。

「幸人くん、それは経緯。わたしが知りたいのは、気持ち」

 あくまで、凜花お姉ちゃんの声は理性的で、やっぱり静か。

 でも、その中には譲れないものも混じっていて。

 一瞬、幸人さんは息を飲んだようだった。

 けれど、ためらいがちに話し出す。

「……非常に、情けない話だが」

 そこで区切り、大きくため息が聞こえた。

「……ただ、会いたくなったんだ――美咲に」

「――あたしもっ……!」

 水位が溢れた。

 もう何もできず、ぼろぼろと零れ落ちる。

「あ、会いたかった。死んじゃうかと思った。でも、どうしたらいいか……わ、わからなくて。ご、ごめんなさい」

 そう。

 いくら考えても、わからなかった。

 まずは謝らないと。

 でも合わせる顔がなくて。

 身体は歩いていても、心はずっと行き止まりに佇んでいて。

 強がる姿勢も思い出せなかった。

 ――いつかに逆戻りしたみたいだった。

 なのに、身体は温かさに包まれた。

 逞しい男性の腕の中。

 いつの間にかお姉ちゃんは立ち上がっていて、後ろ手に手を振って、客間へと消えていく。

「すまん、美咲」

 見上げると、すぐそこに幸人さんの申し訳なさそうな顔がある。

 久しぶりに見たそれは、どこかやつれているようだった。

「ち、がう。幸人さんは、何も。あ、あたし、が」

 そっと、幸人さんの頬に指を伸ばすあたし。

 あたしの言葉を否定しようとしたのか、口を開きかけ、そして閉じると、苦笑する幸人さん。

「だったらもう、二人とも悪かったことにしようか」

「……え?」

 目を細める幸人さんに、あたしの思考が止まる。

 幸人さんは、伸ばしたあたしの手を握った。

 まるで、あたしの何かを繋ぎ止めるみたいに。

「それでおあいこで、終わりだ。俺は美咲に会いたくて、話したいだけだ。ただ謝り合うなんて――せっかく会えたのに、そんなのもったいないじゃないか」

 それは、まるで枯れた森を潤す雨のような優しさで。

 霧を晴らすような力強さに満ちていて。

 あたしの涙も吹き散らし、ただ頷かせたのだった。



「――あからさまじゃないかなあ」

 にこやかな表情なのに、悔しさを声音に滲ませる、という器用なことをしているのは千佳さんだった。

 落ち着いた、との判断だったのか、しばらくして凜花お姉ちゃんが、リコ、藤井さん、千佳さんを連れて戻って来たのだ。

 そうして、千佳さんがあたし達を見ての第一声がそれだった。

 ソファで幸人さんの腕にしがみつき、隙間はない。

 みんなの前で恥ずかしいけど、離れたくないのだから仕方ない。

 なにせ、今まで欠乏していた分まで補給しなければならないのだから。

「飲み物入れるっすよー」

「手伝う」

 ほっとした様子のリコと凜花お姉ちゃんの先導で、各自に飲み物が振るわれる。

 あたしの前には、リコ特製のホットミントティー。

 同じものが幸人さんの前にも置かれたのは、何かの意図だろうか。

「……いい香りだな」

 物珍しそうな幸人さん。

 そんな表情すら愛おしく、あたしは頬が緩んでばかりだ。

 幸人さんがカップを手にするのと同じタイミングであたしも手にし、小さくカップを触れ合わせた。

 そうして、幸人さんと微笑みを交し合う。

 それだけなのに、もうあたしは蕩けてしまいそうだった。

「ど、どうして連れて来ちゃったんだろう……」

 前に置かれたダージリンに手を付けず、頭を抱えている千佳さん。

 自分のなしたことに、大層後悔しているようだった。

 それを察したわけでもないのだろうけれど、幸人さんが千佳さんに視線をやった。

「俺にとってはありがたかったよ、千佳」

「ゆ、幸人……」

 幸人さんの真摯な視線にさらされたからだろうか、頬を染めた千佳さん。

 羨ましい――けど、これくらいはまあ、許してあげよう。

 幸人さんをここまで連れて来てくれたのは、他ならぬ千佳さんのようだし。

「感謝のしるしは、好意でもらえると嬉しいな」

「なんでそうなる」

 あけすけな言葉に、呆れ顔の幸人さんだった。

 前言撤回、やっぱり敵だわ。

 あたしはなお一層、幸人さんの腕を抱きしめる身体に力を込めた。

「ホストと客の関係っすー」

「言いえて妙だな」

「ひどい例えはやめてくれるかなあ?」

 雑に例えたリコ、おかしそうな藤井さん、引きつった笑いの千佳さん。

 それらを興味深げに見ていたお姉ちゃんだったが、ふと首を傾げた。

「本当に、どうして連れて来たの?」

 そのお姉ちゃんの質問は、やっぱり単純な疑問の色しか含んでいなかった。

 藤井さんも千佳さんに視線を巡らせた。

「まあ、確かにな。言われたこと考えりゃ、反してるだろうし」

 切り出すのは苦しかったけれど――みんなには、ママに言われたことを共有してあった。

 だから助けてほしい、という呼びかけに、千佳さんが答えてくれたことは意外ではあったのだけれど。

「うふふ」

 みんなの注目を浴びたからか、得意げな千佳さん。

 もったいぶるようにダージリンの芳香を味わい、あたしへ、次いで幸人さんに視線を投げかけた。

 そこに含まれるものに、あたしの眉が角度をつけたことを自覚した。

「後から気づかれるくらいなら、自分からしたほうが得点になるかな、って思って。だから、ちょっとはわたしによくしてくれてもいいと思うよ、幸人」

「……何の話だ?」

 遠回りなのかよくわからない話に、幸人さんでなくても首を傾げてしまう面々。

 あたしだけは、千佳さんの瞳に込められた温度に、訳がわからないままに徐々に気分がささくれていく。

 千佳さんはダージリンを味わう。

 さながら、勝利の美酒のように。

 ぽん、と凜花お姉ちゃんが気づいたように手を打った。

「母さんは、会うなとは言ってない」

「凜花ちゃん!? それ、どうして先に言っちゃうかなあ!?」

 千佳さんの悲鳴のような声。

 それに構わず、あたしの記憶が巻き戻る。

「ここに来てはいけません」

 ママはそう言った。

 けれど、そうだ。

 ――それ以上は、何も言われてない!

 幸人さんと視線がかち合った。その口が開く。

「それはつまり」

 あたしは頷いた。

「交際そのものを否定されたわけじゃない……!」

 なんてこと。

 言われたことが衝撃的過ぎて、あたしは交際はおろか、接触すら禁じられたものと思っていた。

 だから神経をすり減らしていたというのに。

「おー、すげえな凜花ちゃん」

「そうっす、凜花さんは時々すごいんすよ、亨くん」

「えっへん」

 小さく拍手をするリコと藤井さん。

 無表情の中に嬉しさを滲ませて、胸を張る凜花お姉ちゃん。

「すごいのわたしだよね? ね、ねえ、どうしてこうなっちゃうの? ねえ幸人?」

「こうなったら、それこそ作戦会議ね。幸人さん」

「ああ、考えよう。みんなもいてくれるしな」

 頷き合う幸人さんとあたし。

「き、聞いてくれる!?」

 千佳さんの叫びは、気にしないことにしたあたしたちだった。



 嘆く千佳さんを尻目に、リビングに引き出されてきたのは会議で使うような大きなホワイトボード。

 前のゲーム大会で、勝敗などを書くためにわざわざ購入したものだった。

 あの時は、こんな風に使うとは思っていなかったけれど。

「えー、ということで相関図を書いてみたっす」

「登場人物は八人」

 ホワイトボードの両側に立ったのは、司会役なのかリコと凜花お姉ちゃん。

 幸人さんとあたしを取り巻くように、他の竜禅寺家の面々六人の名前が配置してあった。

「知らない人もいるので、順次説明。まずは高峰(たかみね)。我が家の父」

「大分前に会ったっきりだなあ」

 凜花お姉ちゃんの読み上げに、懐かしそうな幸人さん。

 パパの名前のそばに「1」と数値を書き込むリコ。

「お元気でしたっすよ。ミサと寺島さんについては、成り行きに任せるような雰囲気だったっす」

 数値は脅威度ということなのかしら。

 だとしたら、パパは無害ね。

 以前も応援してくれてたし。

「続いて、次女の凜花二十歳。わたしのこと。脅威度は0」

「……ちょっといいだろうか、凜花さん」

「なにかな、幸人くん」

 進行を止めた形になった幸人さんは言いにくそうだった。

 その表情が深刻で、あたしも凜花お姉ちゃんも首を傾げた。

「……脅威度0、と言ってくれたが。本当に思うところはないのだろうか。……それとも、さっきので合格を頂いたと思っていいんだろうか」

「……さっき?」

 思い当たるところのないあたしに対し、凜花お姉ちゃんは眼鏡の奥の瞳を瞬かせた。

 そうして小さく笑みを浮かべる。

「わざわざ確かめるとか、幸人くんは真面目」

「……と言うことは?」

「合格。まずは想いがあるか確かめたかった。そうじゃなかったら帰ってもらっていた所」

 大きく安堵の息をついた幸人さん。

 二人の会話で、ようやく意味がわかった。

 そしてそれは同時に、あたしも試されていたということ。

 もし、あそこであたしが躊躇ったり言葉を濁していれば――資格なし、とされていて。

 あたし自身も、その裁定を受け入れていたかもしれない。

「だから進めると判断して、この会議を開いてる」

「……肝に銘じるよ」

 あくまで淡々としている凜花お姉ちゃんに対し、恐々としている幸人さん。

 それはあたしも同じ。

 いまだ薄氷の上なのを強く認識する。

「……いや、凜花ちゃん、ホントにすごくね? ちょっと寒くなってきたわ、俺」

「言ったじゃないすか、さっきも」

「凜花ちゃんじゃなくて、凜花さんって呼んじゃいそうだね」

 藤井さん、リコ、千佳さんと続く囁き声。

 そうよ、あたしの自慢のお姉ちゃんを思い知るといいわ、藤井さんも千佳さんも。

「次は桐也(とうや)兄さん、二十七歳。脅威度は――いくらだろう」

 悩ましそうな凜花お姉ちゃん。

 あたしは、その名前を聞いて気が重くなる。

 チェスでの対戦以来、ろくに話もしていない。

 あたしが一方的に遠ざけているわけではない。

 かといって、近づいてくるわけでもない。

 縁遠い。

 他の兄姉と違って、その表現が一番近い。

 しかし、幸人さんの声は何気ないものだった。

「ああ、鏑木桐也さんは大丈夫。全面的に応援する、と言ってくれた」

「……え?」

「……鏑木?」

 あたし、凜花お姉ちゃんと続く疑問の声。

 リコも首をかしげている。

「カブラギ? 竜禅寺じゃねえの?」

 藤井さんも不思議そうで、それは千佳さんもそうだった。

「え、と、幸人さん。鏑木……桐也、って言った?」

「そ、そうだが? 美咲を妹と言っていたぞ?」

 まるで、騙されたのか? と言わんばかりの幸人さん。

 戸惑いつつ、リコが言う。

「寺島さん、鏑木は竜禅寺の分家っす。桐也さんがそれを名乗ってたってことっすか?」

「あ、ああ。鏑木冴さんの夫と聞いたが」

「……そう言うこと!?」

「――おお。ついにやったか、冴さん」

「聞いてないっすよ!? 黙って結婚してたってこと!? 薄情にもほどがあるっす!」

 幸人さんの説明に、あたし、凜花お姉ちゃん、リコの間で驚きが爆発した。

 冴さんは、あたしも小さい頃に遊んでもらった幼馴染で、特に桐也兄さんと仲が良かった。

 疎遠になってから全然連絡を取り合ってなかったけど、まさかそんな風になってたなんて――いえ、時間の問題だとは思っていたけれども!

 それを薄々感じていて、切り出すのは冴さんの方からだと思っていたらしく、めでたい、とばかりのお姉ちゃん。

 言葉通り、薄情者と憤るリコ。

 が、事情を知らない千佳さんと藤井さんは冷静だった。

「うーんと。要するに、美咲ちゃんのお兄さんは、いつの間にか結婚して、姓が変わってたってこと?」

「そうらしいな。けどそれ、今は関係ねえんじゃねえの?」

「関係あ……! いえ、うん、ないけど……! でも……!?」

「応援してくれるってことだから、脅威度0でいいんじゃねえか。幸人、どういう経緯でそうなったんだ?」

 感情の整理ができていないあたしに対して、やっぱり藤井さんは冷静に幸人さんに問いかけた。

「この間、アークラインに打ち合わせに行っただろう? そこの社長が鏑木桐也さんでな。個人的に話をされた」

「それ、誘い出されたってことじゃないかな?」

「だろうな。誰かさんみてえだ」

 藤井さんの視線に、つい、と視線を逸らす千佳さん。

 そのやりとりに、あたしの驚きは徐々に去っていった。

 それはリコも凜花お姉ちゃんもで、二人して顔を見合わせている。

 こほん、と凜花お姉ちゃんは咳払いした。

「――話を続ける。じゃあ、桐也兄さんも脅威度0で」

「了解っす」

 桐也兄さんの名前の横に「0」と書くリコ。

「……次は長女、紗月(さつき)お姉ちゃんかしら」

「うん。うーん……」

 あたしもだけど、凜花お姉ちゃんは次に行きたくなさそうだった。

 リコは苦笑し、「紗月二十八歳」の横に「5」と書き足した。

「おっと、こりゃ手強そうだな」

「そっすねー……男嫌いなんすよ、紗月さん」

 藤井さんとリコの会話が端的な脅威度を表現している。

「……男嫌い?」

 首をかしげる千佳さん。

「……紗月姉さんは昔、男の子にいじめられてた」

「……結婚した相手に裏切られて、ますますそれに拍車がかかっちゃったの」

 凜花お姉ちゃん、あたしと続く説明に、幸人さんは難しい顔をした。

 お姉ちゃんがさらに続ける。

「しかも、紗月姉さんは美咲大好き。近づく男は法的手段を使ってでも追い払いそう」

「竜禅寺さんのそれは姉譲りってことか」

 あたしに法的手段で抹殺されそうになった経験のある人が何かを言っているけど、それは置いておくとして。

「……長男、蒼真兄さん」

 あたしの声を受けて、リコは「蒼真三十歳」に「4」とした。

 それを見た幸人さんの顔が青ざめる。

「……あれで4なのか」

 幸人さんは顔を覆ってしまった。

 落胆――いえ、その様は絶望しているよう。

「ど、どうしたの、幸人さん」

 あたしの心配に、幸人さんは躊躇いがちに話してくれた。

 蒼真兄さんとの――面談、とやらを。

「――言ってくれるじゃねえか」

 言葉で怒りを表したのは藤井さん。

 千佳さんは無言で顔をこわばらせ、目を険しくしている。

 あたしだって――家族じゃなければ、殺意を抱いていただろう。

 一言文句を、と思ってスマホに伸ばした手が優しく抑えられた。

 それは幸人さんの手だった。

「いい。言われて腹が立ったのは事実だが――言い返せなかったのも事実だ」

「……でも」

「いいんだ。何一つ――間違ってはいない」

 ひどいことを言われたはずなのに、それをまるで噛み締めているかのように。

 あたしを抑えた手を、逆の手で包み返して、あたしはリコを見た。

 そしてリコは、パパの隣、ママの名前「玲仁」の近くに「∞」と書き込んだ。

「で、最後。ミサのママさん、玲仁さんっす。ラスボスっすね、要するに」

「無限大って無理ゲーじゃねえか。打つ手あんのか、これ?」

「……さあ」

 あたしと同じで、ママを知っている凜花お姉ちゃんが首を傾げる。

 それはリコも同じで、だからこその無限大、なのだろう。

「でも、竜禅寺の人たち全員が反対ってわけじゃないのが、まだましなのかな。いっそ全員反対してくれてたらいいのに」

「千佳さん、何か言った?」

「何も言ってないよ?」

 あたしの問いに、澄ました顔の千佳さん。

 耳にした、ここにいる全員が苦笑いだ。

 空気を緩和させる目的で言ったのなら大したものなのだろうけれど――きっと本気だ、間違いなく。

 でも――そう。

 全員反対じゃない。

 ということは、全員賛成に転じてくれる可能性はある。

 どうしたらいいかはわからないけれど――考えよう。

 歩き続けよう、そこに辿り着くまで。

読んでくださり、ありがとうございました。

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励みにもなりますので、よろしくお願いします。


また、「拝啓、○○に出会いました。」という王道冒険ファンタジー小説も掲載しておりますので、よろしければぜひ。

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