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ストーカー系女子とアンニュイ系男子の攻防戦  作者: 緋色
四章

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25/30

場外:ほつれる裏地

 軽快な電子音が響く。

 それが自分の家のインターホンだと気づき、藤井亨は顔をあげた。

 集中していたのでそれと数瞬、認識できなかったのだ。

 凝った首を傾け、肩を回す亨。

 そうしている間に、再び玄関が亨を呼んだ。

「へえへえ」

 だるそうに立ち上がると、裸足で床を叩く音をさせ、そう歩くこともなく玄関にたどり着く。

「どちらさん?」

「どもっすー」

 扉を開けると朗らかな声。

 鮮やかな金髪はサイドテール、耳にはいくつものピアス、赤いカラーコンタクトレンズ、右手首にはレザーのブレスレット。

 明るめのへそ出しルックの少女の姿がそこにあった。

 亨は咄嗟に扉を閉めようとした。

 が、重い感触に阻まれた。

 視線を落とすと、扉の間に差し込まれた厚底靴が我が物顔で玄関に侵入してきていた。

 亨は嫌そうな顔でゆるゆると顔をあげた。

「……税務署か?」

「なんすかそれ? というか、彼女が来たってーのに、随分なご挨拶じゃないっす?」

「反射なんだから仕方ねえだろ」

「なんでそこまで警戒されるのか。とりあえず入っていいっすか? 外、暑くって」

 手で首筋を仰ぎながらうんざりした表情で――八重垣瑠璃子はいい加減我慢できなくなって扉に手をかけた。

 壊されてはたまらない、とばかりに亨は瑠璃子を迎え入れる。

 案外冗談でもない。スチール製の扉だが、この少女にかかればどうなることやら。亨としては、自腹で修繕費を払ってまで確認したいことでもない。

「涼しっ」

「やっぱり今日もいい天気か」

「そうっす、一雨来てほしいくらいっすー」

 はやる気持ちそのままに、クーラーが効いた室内に駆け込む瑠璃子。

「靴くらい揃えろよ」

「後でするっすー」

 クーラーの風が当たる場所に、ゆらゆらと立ち位置を変える瑠璃子。

 亨は一つ嘆息すると、先ほどまで使用していたノートパソコンの蓋を閉じた。

 それに気づいた瑠璃子が取り出したハンカチで汗を拭いながら聞く。

「ゲームのお邪魔しちゃったっす?」

「お勉強だよ。そりゃパソコンでゲームもするが」

「おおー、勤勉ー」

 瑠璃子が改めてテーブルのパソコン周りを見ると、なにやら分厚い本、ノート、筆記用具と、亨の言うことが確かだとわかった。

 そうなると、ちゃちゃを入れる気もなく瑠璃子も素直になるというものだ。

「や、申し訳ないっす」

「いや、止め時見失ってた感があったし、いいきっかけだったかもな」

 最初は珍客への不満をごまかすためだったが、言い終わる頃には腑に落ちる理由となっていた。

「我ながら気が利く女っす!」

「偶然だろ」

 一旦勉強は終了なのか、散らばっていた筆記用具を片付け始める亨。それを尻目に、瑠璃子は部屋を見渡していた。

「なんだ?」

「結構小綺麗っすね?」

「じろじろ見んな、失礼って教わらなかったか?」

「覚えてねっす」

「そうかよ」

 見渡して、小綺麗に加えて清潔感、さらには落ち着きを部屋に見出して、瑠璃子は気が付いたように手を打った。

「いつでも女を連れ込めるようにしてる感じ!」

「そうだが?」

「……うへあっ?」

 思いもよらぬ素直な反応が返ってきて、咄嗟に瑠璃子は亨を振り返ると距離を取り、身構えてしまった。

 対して亨は、本、ノートを本棚にしまいながら澄ましたものだった。

「人をからかう時は、自分がからかわれる可能性も考えとくんだな」

「……うむう」

 構えをゆるゆる解きながら、瑠璃子は唇を尖らせる。

 そんな彼女を尻目に、亨は台所へ向かった。

「コーヒー淹れるが、飲むか?」

 ちゃんと客として扱ってくれる亨に、意外そうに瑠璃子は目を瞬かせる。

 次いで浮かんだのは難しい表情だった。

「コーヒーっすか」

「麦茶もあるが?」

「じゃあそっちで!」

「了解。適当に冷蔵庫開けていいぞ」

「セルフとか気が利かないっすー」

「コーヒーの準備で手が空かねえんだよ」

 ぶーぶー言いながら、亨の近くをすり抜けて冷蔵庫を開ける瑠璃子。

 その中は案外整頓されていた――というか、がらん、としていた。

 豆腐と納豆、あとは話題に上がった麦茶くらいで、どんな食生活をしているのか想像がつかない。

「はやく閉めろ」

 指摘されて、やや呆然としていたことに気づく瑠璃子であった。

 それから、瑠璃子は麦茶、亨はドリップコーヒーで一息つく。

 テーブルでくつろいでいるとようやく瑠璃子の汗も引き、来た用事を思い出せるというものだ。

 がさごそとバッグを漁り、瑠璃子はバインダーを取り出した。

「ご所望の資料っす」

「……ああ」

 紙で出てきたことに、少々驚く亨。それを手に取ると、しげしげと眺めた。

「……別にデータでよかったんだが?」

 肩をすくめる瑠璃子。やれやれこれだから、と聞こえたのは亨の幻聴か。

「わかってないっすねー。今時データの方がどっかからか漏れるんすよ。今も昔もアナログが一番っす」

「なるほどな」

 言われ、確かに、と亨は頷くしかなかった。自身もIT系企業に勤めているのでその危険性は重々承知していたからだ。

 対して、挑発した形になった瑠璃子は面白くなさそうだった。

 それを気にせず、コーヒーを口に運びつつ資料をめくっていく亨。

 その間、瑠璃子はスマホをいじってマネージャーとしての自身に切り替えていた。

 美咲の負担を考え、オファーを取捨選択し、スケジュールを組み立てていく。

 中には映画の主演女優を、との話もあり、その人気や実力ぶりを裏打ちしていた。

 もちろん瑠璃子としては、拘束時間もあって承諾するはずがない話である。

 しかしただ突っぱねると回り回って美咲の評判に響いてしまう。

 モデルとしての価値が下がることについては美咲も瑠璃子も特に気にしていないが、それが人格攻撃となってしまっては美咲の身の危険につながってしまう。

 それを考慮し、柔らかく返す。つまり、そもそも護衛を必要とするような場面を減らすことは、瑠璃子にとっては命題と言えた。

 ――学校などの一つの舞台なら検討します。ただし彼女役はアイデンティティが損なわれるのでご配慮をお願いいたします。

 そんな文面を返す。

 これなら移動は極力抑えられて、拘束時間は短くなる。

 後半の配慮は、拘束時間などとは比べ物にならないくらい重要な項目だ。

 彼氏の存在がむしろ売りのモデルのサキが、そんな役をしては幻滅されるから――というのは表向きの理由。

 誰かの彼女役など、幸人一途な美咲が演技でもするわけがなく、烈火のごとく怒り狂うことは間違いない。

 そんな話が彼女の耳にでも入ろうものなら、それを持ってきた会社をその日の内に消滅させるか、自身の引退を選ぶだろう。

 双方にいらぬ被害が及ばぬ内に、火消しをするのは当然と言えた。

 という、一女子高生にとってはマネージャーはなかなかに荷が重い役割だが、当の本人は割とゲームを攻略する感覚で楽しんでやっている。

 瑠璃子にとって、美咲のそばに居る、役に立つというのはそれこそアイデンティティそのものなのだ。

 マネージャーとしての業務を終え、瑠璃子が顔を上げると、亨は苦笑の色を浮かべていた。

「おっそろしいねえ、竜禅寺は。個人のデータが、こんなにも詳細にわかるとはな」

 資料冒頭には、佐倉千佳の文字。

 そう、亨が瑠璃子に提供を依頼したのは佐倉千佳の身辺データだったのだ。

 近況さえわかればいい、と気軽に頼んだはずなのに、今目の前にあるのは出生からのデータで、なぜか両親やその家族のものまで網羅されていた。

 が、佐倉千佳の出向が誰の意思によるものかを辿っていくと、そこにまで行きついたのは必然ではあった。

「千佳さんの伯父が背後にいたのか」

「つっても、可愛い姪に泣きつかれたから、という程度のことらしいっすけどね」

 資料によると、佐倉千佳の伯父は亨が――ひいては幸人が勤めている会社の大株主であり、確固たる影響力を有しているとのこと。

 その伯父からしてみれば、今の職場で針の筵に晒されている姪の頼みとあらば、一肌脱ごうというだけのことだったのかもしれない。

「で、あの人は何食わぬ顔でやって来た、ということか」

 あらかた資料を読み終わり、亨は細かい文字で疲労した目を揉んだ。

「そして系列が違うから、竜禅寺はうちの会社に影響を及ぼせない、と来たもんだ」

「お手あげ、とは言いたくないっすけどね」

 瑠璃子からしてみれば、親友の想い人の近くにかつての彼女がやってくる、というのは察するに余りある状態だ。

 しかも当の美咲本人は決して立ち入れない場所と来ている。それは瑠璃子も同じで、彼女の内心は見た目ほど穏やかではなかった。

「まずは一敗、というところか」

 だがそれは決してただの一敗ではなく、致命傷ともなりうるものだ。

 それが大きければ大きいほど、どれだけ小さな勝利を重ねても逆転には届かなくなってしまう。

 佐倉千佳の出向は、それほどと言えた。

 しかも以前とは違い、もう幸人と千佳の間に確執はなくなってしまっており、近づく条件もそれほど悪くはない。

 和解を傍観したのは早計だったか、とは思うものの、幸人の心情もある程度は理解できたため、見過ごすしかなかった。

 それに、今更の話でもある。

「とは言っても、そうそう幸人も揺るがねえだろうが。俺も防波堤として、動きはするしな」

 それには賛同も否定も、声は上がらなかった。瑠璃子は難しい顔をして、飲み干されたグラスの底を見つめていた。

 亨は思う。

 遊園地での邂逅の時に「また」と言っていたではないか。

 その時に何か手を打っていれば、あるいは。

 いや、もう地ならしは整っていて隠す必要がなかったとしたら。

 それはあの時にはもうすでに、詰んでいたということ。

 考えれば考えるほど、盤面に逃げ場はないように思えた。

「……相変わらずだな、あの人は」

「……相変わらず、っすか?」

 反応が遅れたのは、瑠璃子も考えこんでいたからだろう。

 亨は頷いて腕を組む。

「昔っから、その手の搦め手はめっぽう上手くてな。俺も幸人も抜け出せた試しがねえ」

「それ、ダーリンと寺島さんがヘボだっただけなんじゃ?」

「俺だけじゃねえよ。あの人は将棋もチェスもディベートも、やたらめったら強くてな。大学時代はまさに無双無敗で、勝てる奴なんて一人もいなかったんだよ」

「……そんな人が浮気?」

「人間関係には通じなかったんだろうよ」

 とんとん、と佐倉千佳の資料を指で叩く亨。

 人を動かすのが得意だったが、それは閉鎖された社会の中だけで、いざ外に出てみたら読み違えの元になったとは皮肉な結果ではあった。

 しかし、と亨は考える。

 一度大失敗をやらかし、それを糧として人の機微についても学び、さらに強力になったとしたら。

 勝てる気がしねえ。

 さすがに、それを口に出すと挫けそうな気がしたので、喉の奥で留め置いた亨だった。

 気づくと、瑠璃子が探るようにこちらを窺っていた。

「なんだよ?」

 名案でもあるのか、と期待を含んだ問いかけだったが、瑠璃子が導いた結論は全く別方向のものであった。

「いやー、やけに詳しいので、もしかしたら初恋の人かと思ったり? そんなわけないっすよねー。にはは」

 亨が千佳を指す時の「あの人」という言い方から感じたニュアンス。

 それをなぜか馬鹿正直に確認してしまっていた。

 セリフの途中から、見当違いだったか、とあっけらかんとした声音になった瑠璃子。最後は、ごまかすように乾いた笑いが付け足された。

 ――が、当の亨はピクリとも反応せずに瑠璃子を眺めやったかと思うと、静かに書類に視線を落として再度、内容を確認した。

 瑠璃子の乾いた笑いがしぼんでいく。

「――え」

 ずきり、と胸の奥を刺す痛みに、瑠璃子は動揺した。

 視線を逸らされ、ため息をつかれて、ようやくいらぬ地雷を踏んでしまったことに気づく。

「……まさか、お前に感付かれるとはな」

「……す、すみません」

 謝ることしかできない。下衆の勘繰り、と言われても仕方なく、また、今の問題には何の関係もない話だった。

 まったく本当に、なぜ自分はそんなことを言ってしまったのか。

 しかし亨本人は顔をしかめただけで、瑠璃子を怒りはしなかった。

「誰にも言うなよ。話がややこしくなるだけだ」

「は、はいっす」

 それどころか、冷静にたしなめられる始末。こんなはずでは、と瑠璃子は我が身を振り返る。

 気まずくなってしまった雰囲気を変えるため、何とか話題を絞り出そうとする瑠璃子。

 右往左往する視界に入って来たのは、亨の背後にあるカレンダーだった。

 吟味することもなく、瑠璃子は咄嗟にその話題を切り出した。

「そ、そう言えば父の日ってどんな感じでした? うちのにはネクタイ送ったんすけど、食い物が良かった、なんて言われて思わず手が出そうになったんすよ。でも、まだ勝てないからやらなかったんすよー」

 時期は少し遠かったが、他に思いつかなかった。後から考えれば、この状況に即した他の話題もあるだろうに、よほど自分は焦っていたらしい。

 ――そして、そのつけは静かに取り立てられた。

「お前が勝てないとか、よっぽどなんだな。そうだな、お前には話しておくか」

 なんでもないように、亨は静かに話し出した。

「施設の出なんだよ、俺」

 瑠璃子は何の反応もできなかった。

「物心ついた頃には、もうそこにいてな。いや、施設ってこともわからなかったんだっけな。なんにしろ、あんまり経営状態良くなかったみたいで、転々としたっけ」

 その顔は、やはりなんでもなく。他人事のように回想は続く。

「なんで、親の顔も名前も知らねえし、親代わり、と呼べるほど交流できた人もいなかったっけな。だからなんにもしてねえ」

「す、すみません」

 ようやく理解が置いついた瑠璃子は、反射的にその言葉を選ぶしかなかった。

 竜禅寺美咲の護衛にしてマネージャー、という特殊な立ち位置ではあるが、両親も祖父母もまだ健在の瑠璃子には到底わからない感覚。

 しかし、それをあえて言わせてしまった後悔が心を満たそうとする。

「俺は気にしてねえし、お前も気にすんな。タイミングを選ぶとコロっと女が落ちるから、話題としては重宝してんだよ」

「クズっす!」

「面倒くさい女に切り出すと、フェードアウトもしてくれるしな」

「そっちもクズっす!?」

「処世術ってやつだ、覚えとくと役に立つぞ」

「いやな処世術っすー……」

「社会の海ってのはそういうあれこれを活用しないと渡っていけねえんだよ」

 もしかして、言外に慰められているのだろうか。もしそうだとすれば、惨めなことこの上ない。

 瑠璃子の、一瞬は上がったテンションも、急速にしぼんでいく。

 が、当の本人はそんな瑠璃子に気づくことなく、肘をついて壁際の本棚に目をやった。

「まあ、それなりに荒れたわな。喧嘩もしたし、少年院の世話にならなかったのが不思議なくらいだ。裏では施設の人たちが頭を下げてくれてたのかも知れねえが」

 話は続く。

「で、幸人に会ったのは高校の時だった。入学式だったかねえ? いやにじろじろ見てくるから、喧嘩なら買うぜ、って言ったらあいつ、鞄に着けてたキーホルダーを見てただけだったらしい。当時流行ってたアニメのやつな。俺は毒気を抜かれて、追い払うくらいはした、んじゃねえかな」

 ここまでくれば瑠璃子にもわかる。今、藤井亨が語りたいのは自分のことでは決してない、と。

「クラスが一緒になって、他の奴らは怖がって近づかねえってのに、やたら構って来てよ。『そのアニメを好きな奴に悪い奴はいない』って言って、俺を庇ったりもしてくれてよ。なんとなくつるむようになった。ま、今思うとあいつも複雑な家庭だからな。見ていられなかった、って感じなのかねえ。本当、あいつはあの頃から変わらねえわ」

 クーラーの効きすぎなのか、妙に冷える。瑠璃子は、そう錯覚したかった。

「その時から、俺の目標は幸人の味方になった。俺の味方をしてくれてたから、当然といや当然で恩返しって感じだな。大学もあいつと同じ所に行きたくて、死に物狂いで勉強したっけ。あんなに頭を使ったこと、あれで人生最初で最後じゃねえかな。まあ結局、勉強でもあいつに助けられて足引っ張ったかも知れねえけど、なんとか一緒に合格できて。さすがにその時は、我慢できなくて泣いちまったっけな。それをからかってくる癖に、自分も泣いてんだから世話ねえわ。んで、大学入ってから千佳さんに会うわけだが――」

 亨は肘を引き寄せ、瑠璃子を見た。彼女は消沈しているように見える。

「とりあえず、今日はこんなもんか。彼女ならこれくらい知っといてくれ」

「……覚えとくっす」

 そうだった、と瑠璃子は反応が遅れた。

 単純に親交を暖めるためではない。情報共有、ただそれだけの時間。

 なにか別のことに錯覚していた瑠璃子は、先ほどまでの時間を自分の中にようやく落とし込んだ。

 それでも、気分は切り替わらず。

「……すみませんでした」

「気にすんなっつった。だがまあこれからは、話題は選ぶこったな」

「……気を付けるっす」

 そう、気を付けていればよかっただけの話だった。

 余計な関心を持たず、目先の課題だけに向かっていれば、こんなことにはならなかった。

 そうすれば、わざわざ出自のことなど言わせず。

 ――初恋なんて、知らずに済んだ。

 瑠璃子は静かに立ち上がると荷物を持ち、玄関へ向かう。

「……帰るっす」

「ああ、ありがとうよ。まだ暑いだろうし、気をつけろよ」

 いつもより静かな様子の瑠璃子を、亨は頓着せずに玄関で見送った。

 扉が閉まる。

 妙な様子だったので、今日はもういいか、と思って連携を兼ねて身の上話としたのだが。

 なにやら肩を落としてしまった。色々達者に見えても、瑠璃子は弱冠十六歳。

 失敗したか、と首を傾げるも、それより、と亨は佐倉千佳の調査報告書に視線を落とした。

 亨にとっては、こちらの方がよほど難題であった。

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