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あなたのために

 ど、どうしよう……!

 考えれば考えるほどわからなくなってきた。

 キャミソールにハーフパンツと言う、あまり人に見せられない姿で、部屋をあっちへうろうろ、こっちへうろうろするあたしの様は、この間出会った迷子のチヒロちゃんのよう。

 デートの服って、どうすればいいの!?

 全開のクローゼットにも、皺にならないように広げてベッドにも、いくつもの候補があるというのに、まるでイメージが固まらない。

 もう一度、壁に目をやった。

 そこには、プロジェクターに大写しされた幸人さんの凛々しい姿。

 変装中の衣装の胸元に仕込まれたカメラがとらえていてくれた、あたしに似合う様に背筋を伸ばす幸人さんの姿。

「ひゃああっ……っ」

 その眼差しの力強さに、あたしは数秒も目を合わせていられない。動悸が激しくなり、午前三時と言う時間にもかかわらず、一向に眠気が襲ってこない有様だ。

 そう、もう当日、もうそんな時間。

 こんなはずじゃなかった。

 リコと一緒に服を選んだときは、

「よし、これでいけるわ!」

 と勢い込んだし、リコのお墨付きももらった。

 準備万端だったはずなのに、念のためにと前日になってから確かめてみたら、何かが違う、となり今に至る。

 最初のイメージからは逸脱し、かといって定まるわけでもなく迷走を続けている。

 リコはもう寝ているし、まさか幸人さんに聞くわけにもいかない。

「ど、どうしよう……!」

 切羽詰まった声が自分の耳に届き、さらに焦燥を煽る。

 半ば自棄になって、叩き起こそうとリコのアドレスを開くべくスマホを手にするあたし。

 ディスプレイを点灯させると、先ほどまでのメッセージのやり取りが目に飛び込んでくる。

 相手は幸人さん。

 そのやり取りは、デートに浮かれてはしゃぐあたしと、それをなだめる幸人さんで占められている。

 この時は、幸人さんは大人すぎる、と思っていたけれど。

 今読み返すと、幸人さんの文面には、落ち着きながらも楽しみにしてくれているとわかる気配が滲んでいた。

 それらを映すスマホを掲げながら、あたしは、すとん、と腰を落とす。

 そうして、大写しの幸人さんをみた。やられないように、盗み見る様に、少しだけ。

「リラックスして来いよ」

 楽しみにしている、お休み、の直前の幸人さんのメッセージはそれだった。

 そうして思い返すのは、あの言葉。

「美咲に似合う男か?」

 あたしは、プロジェクターの電源を落とした。

 灰色の壁が視界に広がる。

 何を考えていたんだろうか、あたしは。

 あたしの方こそ、幸人さんに似合う女になりたかったはずなのに。

 いつの間にか、記録としての幸人さんに張り合うかのように頭を悩ませていた。

 言い合ったはずだ、たくさん遊ぼう、と。

 だったら、優先すべきは動きやすさのはずで、それは服選びの最中にリコとも共通していた意見だった。

 そこからあたしに似合う様に、あたしとリコが納得しあいながら、万全として選んだ服だったはずなのに。

 それをないがしろにして遠ざけて、あげく叩き起こそうだなんて、なんて恩知らずなんだろうか。

 そんな女が幸人さんに似合うわけがないし、ましてやリコの親友でなんていられない。

「気負い、かあ」

 思えば、これを見越しての幸人さんの「リラックス」だったのかもしれない。

「敵わないなあ」

 悔しいはずなのに、それを心地よい、と思う自分もいる。

 あたしは勢いよく立ち上がると、大きく頷いた。

「寝よう! 寝て、戦いに備えるのよ!」

 そうして、ある意味開き直りのようにベッドへダイブ。

 幸人さんの優しい文面を思い出しながら、うつらうつらと。

 良く眠れたかは、わからない。



 カーテンから差し込む日の光で目が覚めた。

 どこかぼうっとした頭で手を伸ばし、枕もとのスマホを取り上げて、ディスプレイを点灯させて時間を確認する。

 デートまであと二時間だった。

「えっ……!」

 殴られた様に目が覚めた。

 飛び起きながら逆算する。

 シャワー、ヘアセット、お化粧、服は寝る前に考えたあれでいい、鞄の荷物確認まで含めると。

「朝ご飯は無理ぃっ……!」

 ベッドから駆け出し、電話をかける。幸い、一コール目ですぐに出てくれた。挨拶もなしに、それが飛び出す。

「助けてリコ!」

『どしたん!?』

「ごめんなさい、寝坊したの……! 幸人さんに待ち合わせ場所を変える様に伝言お願いできない!?」

 持って行くバッグの中身をチェックしながら、自分の声の必死さにおかしさすら覚える。

『了解、車も回すし!』

「ありがとう! 支度する!」

『落ち着いてね!』

 打てば響くようなリコがありがたかった。

 あちらも用意するためか、即座に切れる。

 あまりの焦燥に震える手を押さえつけ、しなければならないことを思い返し、デートどころか野戦病院さながらの心境であれこれ片付けていく。

『連絡OK。エントランス前にいるよ、こけないように♡』

 あたしを落ち着けようとしてくれている、リコからのそのメッセージは大分前に届いている。

 そうして、ようやく服と荷物の準備まで辿り着いて、玄関の姿見で一息つけた。

 服装、髪型、お化粧におかしな点はなし。

 大丈夫、リコと考えた狙い通りに、ちゃんとあたしを魅せてくれている――はず。

 一点、落ち着かないあたしの表情を除いては。

『OK?』

 しっかりしろ、とばかりのリコからのメッセージ音が、あたしをかろうじて動かした。

『行く』

 それだけを返し、慌ただしく部屋を出てマンションのエントランスへ。

 そこで待っていたリコに導かれて、道路脇の黒塗りの乗用車、その後部座席に飛び込んだ。

「――はあっ」

 慣性を感じさせず滑るように走り出した空間についたことで、ようやくあたしは息をできた。

「大丈夫? 間に合うから、ゆっくり息して」

 リコが言葉通りの表情で覗き込んでくる。

 あたしはそれに目を向けることも頷くこともできず、荒い息で呼吸を繰り返す。

 過呼吸とまではいかなくても、そうと感じる位に苦しく、心臓がうるさかった。

 丸まったあたしの背中に手を添え、擦ってくれる動きが優しい。

 しばらくそうしてくれて、あたしはやっと落ち着けた。

「……死んだかと思った」

「大袈裟ー」

「大袈裟なもんですか」

 あえてのんきにしているのか、それに返すあたしの声は弱々しい。

「……でも、ありがとう、リコ。命拾いしたわ」

「大袈裟ー」

「だから大袈裟じゃないんだけどっ」

 少し声を張りあげて横を向くと、ほっとしたように目じりを下げるリコの顔。

 それでようやく、あたしは色々なことに気づけた。

「……ごめんなさい」

 なのに、出てくるのはその一言だけ。思わず涙が浮かびそうになる。

「こらこらー、化粧崩れるってば。もー、せっかくちょびっと元気になったのにー」

 まるで妹を落ち着かせるように、目じりに浮かんだ涙をハンカチで吸い取ってくれるリコ。

 あたしは身じろぎもできずになすがままだ。

「もしかして、あんまり寝てない? ご飯も食べられなかったとか?」

「……そうなの」

 昨日を思い出す。

 意外と家庭的、と言ったら失礼だけど、リコは料理が上手。

 当日の朝、慌てないように、時間の節約になるように、とわざわざ朝ごはんを作り置きしてくれたのだった。

 リコは料理中、いたずらっぽく笑った。

「寝坊しても平気なようにねー」

「そんなヘマしないわよ」

 と、あたしは返したのに。

 でもリコは、怒るどころか「あちゃー」という表情になって、自分の荷物を漁り始めた。

「何か食べられるものあったかなー……あるわけないか。河原崎(かわらさき)さん、なにかないっすかー?」

 すぐに何もないと判断して、問いかけるリコ。ちょうど信号で止まったタイミングで運転手の河原崎さん――寡黙な彼女がシート間のボックスをあけると、そこには何本かのスナックバー。

「頂くっすね。はい、ミサ」

 リコの手で扇のように広げられたバーから適当に選んで開封。リップが崩れると嫌なので、割って口に放り込む。

 正直、焦燥にあてられて胃がむかむかしているくらいだったけど、倒れても嫌だからなんとか飲み下す。ただ作業的に、それを繰り返す。

「着くまでもう少しあるから、ちょっと休む? 肩貸すよー?」

「……お化粧、崩れちゃうから」

 それに、とあたしはリコの姿に目をやった。

 今日のリコは、いつもの派手な服装ではなく、大人しめな色合いのロングのプリーツスカート。

 いつもはサイドにまとめている髪もおろしていて、耳が隠れていてピアスも見えない。

「着いて来てくれるんでしょう? せっかくのお洋服、汚しちゃっても悪いもの」

「それは気にしなくてもいいんだけど」

 薄めのお化粧とは言え、肩にもたれるなんてしたら色移りは避けられない。それを落とす時間もないし、護衛として変えた衣装だとは言え、せっかくの綺麗な佇まい。汚したくはない。

「……でも、ありがとう。やっと落ち着けた感じ」

「ん。寺島さんにも、女の子の準備は長いから、ってことで快く待ち合わせ場所変えてもらったから、今頃遊園地向かってるはず。連絡来てたりする?」

 そう言えば、と思ってバッグからスマホを取り出すと、リコの言った通り着信が来ていた。

『ゆっくりでいいから』

 その気遣いに、また泣きそうになる。それをリコに見せると、にやり、とした笑顔を返された。

「愛されてますなー」

 そのからかいに頬が熱くなる。

 けれどそれ以上に、安堵が押し寄せてくる。

 今日の待ち合わせ場所は駅だった。そこで合流して遊園地、というのがあたしの考えたプランで、幸人さんは頷いてくれた。

 長く一緒にいたいから、と言うのがその理由だったのに、あたしは車で行かざるを得ず、幸人さんを一人で行かせる羽目になってしまった。

 焦っていた時はそこまで考えが至らなかったけど、落ち着いた今では逆に肝が冷えそうになる。

 もし機嫌を損ねてしまったら。

 もしその結果、もういい、なんて言われてしまったら。

 あたしはきっと立ち直れない。

 決してそんな人ではない、と思いつつもどこか捨てきれなかったこの悪感情。それらを、すっぱりと取り払われた気持ちだった。

「……あふ」

 気が抜けた分、眠気が襲ってきて欠伸をかみ殺すこともできなかった。

「ミサ、背中向けてくれる?」

「いいけど……?」

 首を傾げつつ言った通りにすると、首から肩から背中まで揉まれていく。

「眠気覚ましと緊張ほぐし。会う前からこんなだと、最後まで持たんよー」

「……本当、そのとおりね。ありがとう、気持ちいいわ」

「今日は暑くなるらしいよ。日傘持ってる? 貸そっか? あと、絆創膏とかも」

「心配してくれてありがとう。持ってきてるから大丈夫よ」

「ならばよし。帽子……は合わないんだよね、今日のミサのコーディネート」

「ええ。持ってきてるの? それなら今日のリコに似合いそうだから、被って行ったらいいかも」

「そうするー」

 何度か往復で揉まれて、自分の身体が思ったより強張っていたことに気づかされた。

 そこで、車は止まった。どうやら着いたらしい。

「本当ありがとう、何から何まで。行ってくるわ」

「力抜いてけー。お礼はラブラブな土産話でよろ」

 リコは両の親指を立てた握り拳と、ウインクで。

 運転手の河原崎さんは寡黙な一礼で見送ってくれた。

 リコは幸人さんの視界に入らないように、離れて着いて来てくれる手筈だからここまで。

 さあ、ここからは一人でちゃんとしないとね。



 車から降りると、目が眩むような日差しが出迎える。

 リコが言っていたように、今日は暑くなりそうな一日だった。

 少し歩くと、メッセージでやり取りした遊園地前のオブジェが見えてきた。

 さすが土曜日の人だかり、まだ幸人さんの姿は見えない。

 時間を確認すると、車で送ってくれたことが功を奏したのか、まだ少し時間はあった。

 あたしは街灯によりかかると、バッグの中を探した。

 目的は絆創膏。ストラップサンダルが新品のせいで、早くも肌が擦れて来ていたのだ。

「……? え、あれ?」

 ない。

 それどころか、一緒に入れたはずの日傘も見当たらない。

 そんなまさか、と思ってバッグの中を底までひっかき回しても見つからない。

 朝飛び起きて、リコに電話をかけながら、時間を惜しみながらした荷物チェックの時は、バッグの中に確かにあった。

 必死に記憶を掘り返して、思い至る。

 ――このバッグじゃない。

「うそ」

 じとり、と額に汗がにじんでくる。

 確認すると、幸いなかったのはそれだけで、他は揃っていた。

 腕時計に目を落とすと、もうすぐ待ち合わせの時間。

 リコに借りる時間はないし、まさかまた時間を伸ばしてもらうわけにもいかない。

 あたしは、なるべく足に負担をかけないように歩くしかなかった。

 そうすると、人を割った先に見えたのは幸人さん。

 あの日の服に小ぶりのショルダーバッグの幸人さんは、あたしに見つけてもらう様に堂々としていた。

 あたしはその姿に引き寄せられていく。

 あたりを見渡していた幸人さんの視線が、ゆっくりとあたしに向かう。

 と、幸人さんのその動きが止まる。

 あたしはそれに向かって近づいて。

「ここ、こんにちは。いい日和ですわね?」

 って、いやあああああああっ!?

 なんて挨拶してるのあたし!?

 いくら緊張してるからって、こんな避暑地のお嬢様みたいな言い方で、しかも噛むとか! ほら、幸人さんもきょとんと!

 ――してない。

 呆然として、じっとあたしを見ていた。

「ゆ、幸人さん?」

 恐る恐る声をかけると、幸人さんは我に返ったようだった。

 けれど、目が泳いで、あたしに視線を戻し、を繰り返している。

 見ると、仄かに顔が赤い。

「だ、大丈夫? 顔が赤いわよ?」

 心配になって覗き込むと、天を仰いで逃げられて、観念したようにため息をつかれた。

「……こんにちは。見惚れたんだよ、言わせるな」

「…………え」

 幸人さんを見返すと、一瞬視線を合わせてくれたけど、また横に逸れた。でも、その言葉は真っすぐ紡がれた。

「……可愛いよ。似合ってる」

 確かに聞こえたその声に。

「……あ、あ、あ。あ、ありがとう、ご、ござい、ましゅ……?」

 あたしは壊れたスピーカーのように、頭をぐらんぐらんさせてお礼を言う事しかできず。

 幸人さんは、そんなあたしをおかしそうに目を細めて見下ろすと。

「じゃあ行くぞ、お姫様。好きにエスコートさせてもらうからな」

 そして、そっと手を取られた。

 あたしは内心で叫ぶ。

 やったわ、あなたのおかげよ! 天国のリコ、見てくれてる!?

 殺すなー、と返してくる想像上のリコはこの際、気にしないことにした。

 


 正直、あまりに浮かれすぎていて、きちんと受け答えをした記憶がない。

 確か、最初はメリーゴーラウンドに乗ったはず、くらい。

 そんなあたしを引き戻したのは、皮肉にも靴擦れの痛みだった。

「大丈夫か?」

「うん、躓いただけだから」

 反射的にそう答えた。幸人さんは安心したように視線を前に戻し、その姿にあたしは安堵する。

「暑いし、屋根のある所に行くか。ミラーハウスとかどうだ?」

「うん、楽しそう」

 とは言いつつ、今は浮ついていてどんなところでも楽しい。

 そばには大好きな幸人さん、しかも手を繋いでいてくれて、あたしの歩幅に合わせて歩いてくれる。

 あたしを見つめてくれるし、しかもその様はどこか照れくさそうで、ちゃんと意識してくれていることに胸が潤む。

 けれど、そうして入ったミラーハウスは、今のあたしには鬼門だったみたい。

 たくさんの鏡はあたしの方向感覚を狂わせ、ただでさえ睡眠不足でぎりぎりな足取りをおぼつかなくさせる。

「ちょ、ちょっと怖い。幸人さん、掴まっていい?」

「どうぞ。可愛いところあるんだな?」

「もう、どういうことよ」

 すねた様子で――なんとかごまかした。幸人さんとのスキンシップを楽しむ余裕もない。心なしか、気分も悪くなってきている。

 でも、隠し通さないと。

 なんとかミラーハウスを抜けると、日差しはますます強くなってきていた。

 出口は日陰だったからまだましだったけど、周囲、地面から熱がまとわりついてくる。

 逃げる様にパンフレットを取り出し、次の目的地を指差した。

「幸人さん、次はウォータースライダーなんてどう?」

「いいな、涼めそうだ」

 幸人さんも、そしてきっとあたしの顔も赤い。

 このままだと熱中症になりそうだし、なんとか回復しないと。

 けれど、みんな同じことを思ったのか、ウォータースライダーは長蛇の列だった。

 じわじわとしか動かない列、しかもそれは施設の外側にはみ出しているので屋根の恩恵を受けられない。

「すまん、日傘持ってこなかった。こんな物しかないけど」

「ううん、充分よ」

 申し訳なさそうな幸人さんが、ハンカチを広げて頭の上にのせてくれる。

 そう、その優しさだけでいい。

 日傘を忘れてしまったあたしが悪いんだから。

 それを口に出すと、どういう反応が返って来るのか、なんだか怖い。

 やっと順番が回って来たウォータースライダーで涼を取り。

 それでも、意識は遠ざかろうとする。降りてこようとする瞼を無理やりこじ開ける。

 もつれそうな足を、なんとかいつも通りに動かす。

 大丈夫、ばれてない。

 幸人さんは終始、穏やかでにこやかなのがその証拠。

「次はジェットコースターね!」

「おいおい、はしゃぐと転ぶぞ」

「大丈夫よ!」

 そう、大丈夫。ジェットコースターの刺激で、ちゃんと気を取り直すから。

 そうして、眠気覚ましとばかりに、ジェットコースターで悲鳴をあげ。

 大いに楽しみ、はしゃぎ。

 木陰にベンチを見つけて休憩中。

「はー、楽しかった。幸人さんはどう? 楽しめてる?」

 にこやかなあたしに、幸人さんが同じく笑顔で返してくる。

「ああ、久しぶりだよ、こんなにはしゃいだのは。美咲はコースターでけっこう大声あげてたな。ミラーハウスもだったが、結構怖がりなのか?」

「そんなことないわよ、ただ――」

 ――ただ、なんだろう。言葉が続かない。

 それに、視界も狭い。

「た、ただ」

 早くしなきゃ。幸人さんが、怪訝そうに続きを待っている。

 楽しんでもらわなきゃ。

 せっかく作ってもらった時間を、有意義なものにしてもらわない、と。

 それが最後。

 視界が回転し、暗くなり――。

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