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Capture8:瓢箪から駒

いつも【急募】をお読み頂きありがとうございます。

おかげさまで400PV到達しました〜!!

目下の目標としまして完結まで執筆することです。

今後ともよろしくお願い致します。


「お客さま、何かお悩みでしょうか」


 颯太と天華がウェットフードについて懊悩(おうのう)していると、不意に声をかけられた。


 反射的に見ると、店名がプリントされた緑色の前掛けを着た女性店員がキャットフードの前で頭を悩ませる颯太たちを見兼ねて声をかけてきた。


 結局、こういうのは有識者(ゆうしきしゃ)に尋ねるのが一番だ。

 早速、颯太と天華は子猫に合うウエットフードの選定に困っていることを伝える。


 すると、子猫のからだの大きさやからだ付き、皮膚の様子、毛並みなどを尋ねられ、昨日撮っていた写真を見せると、「これとこれとこれががおすすめです」といくつか素早く選定して、その理由も込みで丁寧かつわかりやすく教えてくれた。


 颯太が一番初めに手に取ったキャットフードもおすすめの一つだったが、子猫が颯太の家にいる期間を考慮すると内包量の関係から落選となった。


「よし、これで決まりだな」

「ええ、これならあの子もたくさん食べられるわ」

「結局昨日はミルクだけしか口に入れてあげられるものがなかったからな」

「そうなんですねー。けど、それでよかったかもしれませんね」

「そうなんですか?」

「はい。お写真の子猫ちゃんにはきちんとしたご飯が必要ですので。変にお魚やご近所のスーパーで販売しているような一般的なキャットフードでは子猫のお腹に負担がかかり、消化器官によくありませんので」

「不幸中の幸だったか」

「どこかの誰かさんは『ミルクだけでは可哀想だ~』とか言ってミルクに食パンをふやかして食べさせようとしていたけど」

「……その節はお世話になりました」

「まあ、子猫にあげる前に私の意見を求めてきた点は良くやったと言えるわね」

「ははー」

「ふふ、おふたりは仲がよろしいですね? 羨ましい限りです」


 颯太と天華の会話をはたで聞いていた店員さんが何を思ったか微笑ましげな表情を浮かべていた。


「あ、僕ら、仲良さげに見えますか?」

「はい、とても」

「そうですか? いやー、よく言われるんですよ」

「ちょっと、勝手に私たちの関係値を捏造しないで。君と私、まだ面識をもって二日目でしょ?」

「え? そうなんですか?」

「そうなんです。さっき見せた子猫がきっかけで僕ら出会いましてー」

「きゃーっ、すごい素敵な出会いじゃないですかっ! 羨ましいですっ!」

「こらっ、何かってにぺらぺらと!」

「でもそれが事実なんです」

「そう、だけど……そうだけれど……」


 それだけ呟いて最後のほうはもごもごと口ごもりながら天華は透明感抜群の白い肌を少し紅色に染めていた。


 すこし調子に乗りすぎたらしい。それに、これ以上あれこれ発言をしたら間違いなく痛い目に合わされる。


 そうなる前に、颯太は店員さんにお会計をお願いすることにしたのだった。


×ーー×


「あのー」

「はい?」


 宣言通り、子猫に入用なものは天華が購入するらしく、レジでキャットフードのお会計を済ませる天華を店舗入り口付近で待っていると、先ほど対応してくれた女性店員さんが颯太に話しかけてきた。


 何か忘れでもしたか、あるいは伝え忘れたことでもあっただろうか。


「すこしお尋ねしたいことがあるんですけど……」


 どこか恐縮した態度。

 視線は颯太を捉え、かと思えば、ちらっと背後を窺い、すぐに颯太に戻る。


「何か忘れ物でもしましたか、僕ら」


 持ち物といえばスマホと財布くらい。

 言われてすぐに尻ポケットとサイドポケットを手で触り、問題なく所持していることは確認できた。


「あ、いえ、そうじゃなくて」

「と、いいますと」

「あの、実は、先ほどお話をしていてもしかしたらと思ったのですが、お客さまのお連れの方ってもしかして……天上天華さんですか?」

「えっ?」


 何事かと思ったら、まさか今日、初めて面識をもった相手の口から天華の名前が出てくるとは思わず、颯太は素で驚き目を見開いた。


 人間、本気で驚愕した時は案外、言葉が出てこないものだと颯太はこんな状況で思い知ることになるとは思わなかった。


「あ、もしかして人違いでしたでしょうか?」

「え、あ、いや、ただちょっとびっくりしたんで言葉が出てこなかったんです」

「ていうことは、やっぱり!」

「えぇ、まあ、そうですけど……」


 ぐっと身を乗り出した店員の圧に押し負けて颯太は軽く身を引いた。


「私、今年で18になるんですけど、小さい頃、よく天上天華さんが出演していたテレビを見て育ったんです!」

「へ、へぇ~」

「あのあの、今から声かけるのは迷惑かなって思いますので、お客さまのほうからまたのご来店お待ちしてますとお伝えしていただけないでしょうか!」

「わ、わかりました」

「よろしくお願いします! ではっ!」


 そう言って、いうが早いか嵐のようにやってきた店員さんは、帰りもさながら嵐の如き勢いで店内へと消えていくのだった。


「……」


 そして1人、嵐が去った場所に取り残された颯太は、ペットショップの店員さんからもたらされた天華の過去ついて処理できずに、多くの人が行き交う店内の風景を前に立ち尽すのだった。



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