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Chapter7:デート?

 

 目的のショッピングモールは、颯太の自宅から電車で一本の距離に建てられている。

 今回、颯太と天華が子猫のご飯を求めて足を伸ばしたのは駅直結型の大型商業施設。


 1階から3階まで多岐に渡るジャンルの店舗を取り扱っており、そのなかには映画館も内蔵されていて、休日の今日は多くの人たちが各々の目的で店内を行き交っていた。


 このショッピングモールに訪れれば、大抵の入用が手に入るというイメージを颯太はもっていた。いや、おそらくそのイメージは颯太だけではなく、この地域に暮らす多くの人の共通認識で相違(そうい)ないだろう。



 だから、颯太と天華のお目当てであるペットショップもきちんと店を構えてあり、それは1階の端の一角に設けられていた。



 店外から目立つのは透明なアクリル板の内側で自由気まま戯れる子犬や子猫たち。

 子犬たちが愛嬌を全開にじゃれる愛らしい光景に、親子連れやカップル、友達同士で訪れた多くの人たちが魅了され、頬を緩ませたり、癒されていたりする。



 中には購入を真剣に検討しているのか、ふわふわの被毛(ひもう)が魅力的なトイプードルをまじまじと見つめている女性客もいた。

 総じて、どこのペットショップにも見られる平和な空間がこのペットショップにも広がっていた。


 この中で客として訪れている人はどれくらいの割合を占めているのかと考えつつ、前を歩く天華の後ろについていくかたちで颯太は店内へと足を踏み入れた。


 さすがはペットショップということもあり、店内にはペットに関する大概の物が格エリアごとに仕分け、陳列されていた。

 2人のお目当てであるキャットフードは店内に入ってから1分も経たずに見つかった。



「うおっ、結構種類あるな……」



 品揃えがいいのか、ざっと目に付く限りでも両手の指の数以上のキャットフードが揃っている。

 おまけにパッケージごとに特色があり、過去に購入したことがない者にはひと目でどれが子猫に適しているのかイマイチ判断がつきにくい。


 颯太は試しに子猫の写真がプリントされたキャットフードを一つ手に取ると流し気味に包装(パッケージ)に書かれた文字を追う。



「金のスプーン……至極なうまみ仕立て」



 挽き小魚パウダー入りのたっぷり1・5キログラム。それが小分けパック四枚入りで内包されているらしい。

 よく見ると包装(パッケージ)の左隅には誇らしげに「売り上げNo.1」という栄光の記録が記載されている。



「なるほどなるほど」



 わかったような、わからないような。

 とりあえず適当に手に取ったキャットフードが市場でぶいぶい言わせているのだけは理解できた。


 颯太は商品名だけ、とりあえず頭の片隅に入れて他のキャットフードはいかほどのものかと品定めするために手に取ったキャットフードを商品棚に戻す。


 そして、品定めをすること数分後。



「うーん、どのキャットフードも全体的に同じのように見えるけど、やっぱり子猫用ってなると、ドライフードとウェットフードの二択に絞られそうだな」

「ウエットフードは水分含有量が多いから歯が生え揃っていない子猫でも食べやすいのよね」



 時を同じくしてキャットフードを見比べていた天華がよりわかりやすい解説を加えてくれた。端っこから中心にかけて調べていたら、気づかないうちにお互い近寄っていたのだ。



「あとは味のバリエーションも豊富だし、少量でも効率よくエネルギー摂取できる点が大きなメリットと言えるかしら」



 ウェットフードには缶詰タイプと少量ずつ袋に密閉保存されたパウチタイプの2種類がある。

 どちらも水分含有量が多いため、水漏れを防ぐ創意工夫が施されている。



「けれど、一度開封してしまうとすぐに消費しなきゃ鮮度を保てない、または歯に汚れが付着しやすいことからしっかりとした歯のケアが必要とされることから飼い主の工夫や手間暇が要求されるの」



 天華がウェットフードとドライフードの商品をそれぞれ片手に持ちながら各々のポイントをわかやすく、かつ、丁寧に説明してくれる。



「逆にドライフードは水分量が少ないかわりに栄養価の高い総合栄養食で、一日に必要な栄養バランスがきちんと摂取できるのよ」

「人間で例えるところのプロテインとか満足バーみたいなもんか。けど、歯は大丈夫なのか? ドライっていうからにはやっぱりそれなりに硬いんだろ?」

「確かにウエットフードより硬くて歯自体にかかる負担は(いな)めないわ」

「ふむ、ならウエットフードの方が良さそうだな」

「けれど歯応えがあることで咀嚼(そしゃく)したときに歯の表面が擦れて歯肉(しにく)が刺激されることで口内炎の防止に繋がるらしいの」

「ほーお、そんな利点があるんだなー」

「でも、やっぱりドライフードは硬いから、子猫が慣れるまで食べさせられないわね」

「じゃあ、ウエットのほうが色々と都合が良さそうってことか」



 そう口にしながら、颯太は昨夜のことを思い出す。

 あれは何気なく人差し指を差し出したとき、子猫にはむっと噛まれたのだが、たしかに痛いというよりも、むしろくすぐったいという印象を抱いた。


 今、思い返してみてもあの歯では大概の食べ物が危ぶまれるのは目に見えている。

 太刀打ちできる対象は豆腐くらいだろうか。とてもじゃないがドライフードなど噛みきれない。


 まさに夢のまた夢といえる食べ物。

 せめて「噛まれて痛い、ふざけんなコノヤロー」と思わせるくらい丈夫な歯でなければ、逆に子猫の歯が欠けてしまう恐れがあるのだ。



「となると、あとはウェットフードの選別か」

「問題はそこね」



 ウエットフードといってもピンキリで、高価なものでは5千円、安価なものなら2千円以下で販売されている。

 一般的な違いの見解としては、高価なウエットフードのほうが栄養価が高くバランスよく配合されているイメージを抱く。


 でもだからといって2千円以下のウエットフードが良くないかと言われればそうじゃない。

 中には30年以上にも渡りキャットフードを作り続けているブランドもある。


 これはどの商品にも共通していることだが、長く続く商品には長く続くだけの特徴や理由があり、高いという点のみ鵜呑(うの)みにし、安心してこれだと決めることは難しく思える。


 そうやってしばらく懊悩(おうのう)していると、



「お客さま、何かお悩みでしょうか」



 と、颯太と天華は不意に声をかけられた。



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