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Capture4:お世話と駆け引き

【急募】が日間ランキング79位にランクインしました!!

読んで頂きありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。


プラスして、少しタイトルを変更しました。

Before:【急募!!】子猫を拾ったらもれなく他校の女子高校生(美少女)もついてきたんだがどうすればいい?


After:【急募!!】子猫を拾ったらなぜか他校の女子高校生(美少女)もついてきたんだがどうすればいい?

「お風呂場、借してくれてありがと」


 それがすっかり綺麗になった子猫と一緒にリビングへとやってきた天華の第一声だった。


「お、さっぱりしたな」


 颯太もちょうどリビングの片付けを終え、子猫用の飲み水が入った平皿をキッチンからリビングの中央へと運ぼうとしていたところだった。


「水は?」

「先にこの子を乾かしたほうがいいわ」

「ドライヤーだな。ちょいまち。あ、タオル」

「ありがと」


 天華から湿ったタオルを手渡してもらい、颯太はそそくさと洗面所に戻る。タオルはプラスチックの籠の中に入れ、ドライヤーを手に取り再びリビングへと戻ると、子猫が一心不乱に水飲み皿に顔をつけていた。


「おっ、いい飲みっぷり」

「柳くんがお皿を置いた直後にぱたぱたしだして。床に下ろしたらもう一直線」

「水っておいしいからな」


 喉が渇いているとき、なんだかんだ一番おいしく感じるのは水だと颯太は思う。甲乙つけがたいのは風呂上りの炭酸飲料。口に入れた瞬間に弾け、喉を刺激するあのしゅわしゅわ感は病みつきになる。


 2人して子猫が水を飲む平和な風景を見守っていると、しばらくして子猫は皿から顔を上げた。


「お、満足したっぽい」


 飲み皿の水はあまり減っていない気もするが、濡れた口の周りをぺろぺろとピンク色の舌で拭いながら満足気な様子。


「え? 減った?」と思っても本人が満足していれば全く問題ないのだ。


「ほら、早くからだを乾かさないと」


 子猫が水分補給を一生懸命に行っているかたわら、ドライヤーのコードをコンセントに差し込んでいた天華が子猫に近づく。


 そして、大人しく居座る子猫を捕獲し、いざ乾かそうとドライヤーのスイッチを押した途端、


「にゃっ!」


 と、驚き声を発し、子猫は短い手足を元気いっぱいにぱたつかせると天華の腕の中でじたばたと抵抗をはじめて見せた。


 本体後部にある吸込口から空気を吸い込こむ機械音と未知の温風にさらされ、動物的危機感を覚えたのだろう。子猫は天華の腕の中から抜け出すために全身全霊でからだをくねらせもがく。


「あ、こら」


 当の本人は一生懸命逃げおおせているつもりのようだが、控え目にその姿はとても愛らしかった。追いかけてしまいたくなる魅力がある。


 よく見ると、ばたつく子猫を(いさ)める天華の口角も自然と緩んでいた。


「捕まえた! 柳くん、今のうちにドライヤーを!」

「よしきた」


 天華が子猫の動きを抑えているうちにドライヤーを受け取った颯太が乾かす連携プレイ。子猫のお世話なんてろくにした経験はないが、二の足を踏んでもいられない。颯太がもたついたせいで風邪でもひかれたら本気で凹んでしまう自信がある。


 でも、だからってやり方を間違えてもいけない。

 子猫ファースト。いきなり強風をあてるようなまねはせず、最初はきちんと子猫のことを考えた弱風で、タオルドライでは拭えなかった水滴をゆっくりと、されどきちんと乾かしていく。


 しばらくの間、弱風を当てていると子猫も次第に慣れてきて、ほとんど抵抗という抵抗をしなくなった。

 時間が経つにつれ、自分に害するものではないと本能的に理解したのだろう。


 未知なるものをいきなり突きつけられたら誰だって怖いと思う。それはとても普通で、正常なこと。ましてや颯太たちが出会った猫は、生後間もない上に、無責任な人間の手によって遺棄されている。同じ人間である颯太たちを怖がるなってほうが酷な話だ。


 最後の水滴まで乾く頃にもなると、子猫はもうされるがままになっていた。リラックスしているのか、正座した天華の膝上で無防備な体を晒している。ドライヤーに関する恐怖心はほとんど消えてしまったようだ。


「よく頑張ったぞー」


 ドライヤーのスイッチを切り、颯太は子猫の頭を軽く撫でた。心の底から頑張ったと思う。恐怖心に打ち勝つ行為は生物に共通して困難なことなのだ。


 そしてそれは子猫を抑え、途中からからだを撫でていた天華も同感だったようで、颯太が撫で終わったあとすぐに「えらいえらい」と、小さな頭を丁寧かつ優しい手つきで撫でた。


「役得だな」

「なに、羨ましいの?」

「代われるものなら代わってほしいまである」

「撫でたいなら撫でればいいじゃない」

「僕的にはそっちじゃないんだなー」

「……あえてどっちなのかは聞かないから」

「そりゃ、もちろん、天上さんの膝上ーーあだっ」


 全てを言い切る前に軽く脳天を叩かれてしまった。今度はちゃんと痛かった。


「聞かないって言ってる相手にわざと言おうとするな」

「いてて、つれないなー」

「つれなくて結構。自業自得でしょ」


 これ以上調子に乗ったら痛い目に遭うな……と、叩かれた脳天を撫でながら颯太はしみじみと思った。


 そうなる前に建設的な話をしたほうがいい。

 例えば、これからの流れとか。


 颯太の誘いで場所をソファーに移す。2人は人一人分ほど空けてソファーに座る。遠からず、近からず。会話に困らない距離感。


 先に口を開いたのは颯太の方だった。


「実際、子猫って何を食べさせればいいんだ? 数日預かるんだからさすがに水だけじゃダメだろし」

「そうね、栄養価の高い食べ物は与えないとダメって書いてある」


 まるで何かから情報を得たような言い方が気になり横目にみると、天華はいつの間にか取り出したスマホの画面を見ていた。アメジストのような瞳が右から左へ文字を追っている。


「子猫は急速な成長期を迎える……驚くほど多様な必須栄養素……タンパク質、ミネラル、ビタミン、脂質、炭水化物……敏感な消化系に優しくて、小さな口と歯に適したもの……」

「なるほど、わからん。つまり?」

「ウェットフードやドライフードね」

「ウェットフードやドライフード?」


 聞き慣れない名前だった。颯太の認識ではキャットフードはキャットフードと総じられているのでまるでピンとこない。


「要するに子猫用のキャットフードよ」

「それは市販で販売されているんだよな?」

「ドラックストアやホームセンター、大きいショッピングモールにはだいたいペットショップが入ってるからそこで販売されているわね」

「そうなると……ここから一番近いのはスーパーになるな」


 ぱっと思い浮かんだのは、普段から颯太が買い出しに利用しているスーパーで、一応徒歩圏内。おおよそ10分ほどの位置にある。


「そこにキャットフードは売っているの?」

「……記憶にないな」


 ペットを飼育していない颯太がペットフードエリアを気にする理由はなく、知る由もなかった。


 冷凍食品や惣菜、飲料水コーナーならばっちり覚えているのだが、残念ながらそれは今必要としている情報ではない。脳裏に役立たずという単語が右から左へ流れていく。


「それに、今から買い出しに行くとしてもな」


 こうしている間にも大粒の雨粒がリビングの窓ガラスを強く打ち付けていた。


「それにしてもよく降る」

「今日一日中降り続けるらしいわよ」

「へー」

「出かける前に天気予報とか確認してないの?」

「僕は自分で確認する派だから」


 今朝だって自宅を出る直前に空に重たい雲が覆っていたのを確認してから傘を手にしたほどだ。


 そんなんだから午前中は晴れ、午後から雨の場合、大抵雨に降られながら帰るはめになる。完全に自業自得だ。


「バカね」

「おっしゃる通り」


 ぐうの音も出ないので甘んじて思慮の浅さを受け入れる。颯太自身、自分が思慮にかける人間であると理解しているのでノーダメージだ。


「折り畳み傘は持ってないの?」

「持ってない」

「一つくらい常備しておきなさい」

「ご忠告どうもありがとう」

「買いなさい」

「……はい」

「いつ買うの」

「いつか買おうかな」

「……」

「っと、思ったけど、やっぱり早めに買っとこ」

「そう、じゃあ、明日」

「明日かー」

「決まり」

「え?」


 さらっと聞き流せない爆弾発言が投下されたことに気づき、すぐさま追求しようと口を開こうとするも、


「必要なもの、色々買いに行くから」


 と、まんまと天華に機先を制され、颯太は二の句を告れなかった。


「……明日、行くの? 2人で?」

「へー、いやなの?」

「いやっていうか……」


 颯太だって健全な年頃の青年だ。正直、天華ほどの美少女と一緒に買い物にくりだせるのは嬉しいし、気分が上がるし浮かれてしまう。


 けれど、2人が出会ってからの時間と距離感を考えればあまりにも急展開すぎて及び腰になる。都合が良すぎて美人局(つつもたせ)的な怖さを疑わざるにはいられない。理性では問題ないと判断できても本能的な部分で得体の知れなさを感じるのだ。


 しかし、そんな颯太の心情を知ってか知らずか、次に放った彼女の言葉が颯太の憂いを軽く吹き飛ばしてしまった。


「いろいろ買う必要がありそうだから、荷物持ちは必要になるでしょ?」

「なるほど、僕は荷物持ち要因か」

「不服?」

「むしろ納得」


 逆に『君のことが気になるから』みたいな甘い言葉のほうがより猜疑的(さいぎてき)になっていたところだ。


「ふーん、どうして?」

「だって、天上さんみたいな美少女が出会って間もない僕のことを気になるからって理由だけで遊びに誘うほうが怖いって、普通」

「へー」

「あれ、僕の価値観、なんか間違ってる?」

「普通すぎてつまらない」

「なんだそりゃ」


 理不尽ここに極まれり。いったい何を期待していたのか。どんな返しをすれば彼女の期待に応えられたというのか。


「僕はなんて答えれば良かったんですかね?」

「もっとトキメクような台詞(セリフ)かしら」

「なるほど。じゃあ、君と一緒にいたい。君のことをもっと知りたい。だから、明日、あの街へ出かけよう」

「……キモい」

「え~」


 オーダー通りにトキメク台詞(セリフ)を言ったつもりだったのに、今をときめく女子高校生の乙女心には刺さらなかったらしい。敗北者という単語が右から左へと流れていく。


「ま、それはそれとして荷物持ちは細マッチョを目指す僕にはうってつけな役回りだからいいけど」

「その気もないくせに」

「いや、きっと十年後には理想の自分になっている。たぶん、きっと、おそらく」

「浅い見積もりね。諦めた方が楽なんじゃない?」

「無理をせず、小さなことからコツコツと、それがトレーニングの基本だから」

「それにしたって十年は長期的すぎるでしょ」

「ま、それはそれーーって、ん? ちょっと待った。明日、僕らが出かけたら子猫のお世話は誰がするんだ?」


 大変なことだ。まさか天華は子猫を連れて買い物に行くつもりなのだろうか。


「大丈夫。考えがあるの。でもそのためには柳くんの協力が必要になるわ。協力してくれる?」


 颯太の懸念など最初から織り込み済みだったらしく、居住(いず)まいを正した天華が明日のプランを滔々(とうとう)語り出すのだった。


 

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