Chapter24:終わり良ければ全て良し
お世話になります。
雨粒です。
【急募!!】が一区切りつきましたので、ここで完結とさせて頂きます。
全24話、読んでいただいた方、ありがとうございます!!
ブックマーク・評価をしてくださった方、ありがとうございました!!
感想を送ってくれた方、ありがとうございました!!
みなさんに感謝です!!
「ふぁ〜」
「どした、颯太、やけに眠そうだな」
怒涛の土日が過ぎ去った週明けの月曜日。
颯太はいつも以上に眠たげな眼をしゃばしゃばさせて、迎えた昼休みを校舎裏のベンチに座ってのんびり過ごしていた。
目尻溜まった涙を右手の指で拭う颯太の横には、そんな颯太を横目に面白おかしく眺める友人の風磨。口元にはストロー。その先端は紙パックに刺さっている。部活動生が喜ぶたんぱく質15グラム入り。ココア味。
「やっぱりあれか、刺激的な女の子との出会いが原因か?」
「うん?」
「ありゃ、これは相当重症なご様子で」
二度目の欠伸をしていて風磨の話が入ってこない。何か聞き逃したような気がしたので尻目に風磨を見て尋ねると、どこかニヤけたような表情を浮かべているだけで、言い直すつもりはないらしい。
「んで、結局、あの子猫はどうなったんだ?」
「コユキのことか?」
「コユキ? ちょっと待て」
待っている間に欠伸をもう1つ。常に付き纏う眠気のせいで、午後からの授業が今から憂鬱だった。いや、授業が憂鬱なのはいつものことか。
「なぁ、コユキって、あの子猫の名前……で、いいんだよな?」
「ん? ああ」
「ああって、颯太、お前、子猫ちゃんに名前なんていつ付けたんだよ」
「昨日」
「昨日? 昨日って……もしかして寝不足の原因ってまさか」
「そのまさか。昨日は、いや、今朝までは、ほんとうに激闘だった」
つい数時間前まで天華と電話を繋ぎ、一晩中子猫の名前について懊悩しね意見を出し合った。そして、議論に議論を重ねられた結果、最終的に『コユキ』という名前に決まったのが朝の5時過ぎだった。
「そうか……それは、大変だったな」
ぽんと左肩に手を置かれて同情されてしまう。
彼女持ちの風磨も身には覚えがあるのだろう。
「んで、結局、子猫は天上さんが飼うのか?」
「ああ」
「そういうのは、もっと早く言えよな。今朝、登校するときとかタイミングはいくらでもあったろ」
「言ってなかったか?」
「聞いてたら言わねぇよ」
「悪い、じあ、今、言った」
「今言ったって……ったく、まあ、別にいいけどよ」
世の中には、『終わり良ければすべて良し』という言葉がある。
風磨は、子猫を保護センターで保護してもらうことに対して疑念を抱いていた。
風磨的には、子猫を颯太か天華のどちらかが飼育すれば、それ以上のハッピーエンドはなかったのだ。
「でも、良かったな。子猫……じゃなくて、コユキ? 相当、颯太や天上さんに懐いていた様子だったから、これでハッピーエンドってわけか」
「あ」
「今度はなにを思い出したんだ」
今日の颯太の頭はかなりボヤけている。ぼーとしている。早々にそう判断を下した風磨は、心持ちを大きく颯太に接すると決め、ずっしりと待ち構えるスタンスに切り替えていた。
「そういえば、天上さん、もう1匹猫が増えたな」
「へー……って、ん? ちょっと待て。ちょっと待て。どうしてそうなった? どうしてそうなる?」
風磨は心持ちを大きくすると決めた先ほどの自分の決定をかなぐり捨てて颯太に迫った。
「まあ、なんつうか、天上さん、幼い頃に猫を飼っていたんだけど」
「新情報!!」
「まあ、なんだ、かくかくしかじかあって、老夫婦に預けていたその猫……ユキが介護施設におじいさんが入ることになったのを機に、天上さんのもとに戻ってきたんだ」
「うわ、そのかくかくしかじかってのがめっちゃ気になるわ」
「ま、かくかくしかじかなんだよ」
「……そうか、かくかくしかじかか」
頭上一面に広がる水色の空を眺めて言葉を濁した颯太を横目に、風磨も颯太と同じ空を見上げた。
「でも、それって、いいこと、なんだよな?」
「とても、な」
見上げ空には綿毛のような雲が気持ちよさそうに漂い、颯太と風磨をのんびり見下ろして通過していった。
眠気との死闘を経て迎えた放課後。
担任の「号令」を合図に教室を出たのが2分前。
大きなあくびを噛み殺しながら靴箱で外履きに履き替えて、颯太は他の生徒の一部となって昇降口を出る。
校門へと続く道は、颯太と同じく下校する生徒の列が形成され、がやがやと生徒たちの声が賑わせる。
1人、その中に紛れる颯太の耳に、前を歩く2人組の男子生徒の話し声が聞くとはなしに聞こえてくる。
「なあ、1年のまきちゃんっているだろ?」
「あのめっちゃ可愛いって噂の硬式テニスの子だっけ?」
「そうそう。そんで、そのまきちゃん、3年の巻島先輩から告白されて、巻島先輩、振られたってよ」
「まじか」
「まじ。サッカー部の佐藤たちが言ってた」
「なあ、たしか今日って硬式テニス部の練習あったよな。ちょっと見に行かね?」
「あり。部活動見学にかこつけて仲良くなったりできたりして」
そんな会話を最後に、前を歩く2人組の男子生徒が列から外れ、グラウンドに続く階段を軽い足取りで下って行った。
校門から出た颯太はその足で駅方面へと向かう。
高校から駅までは10分ほど歩くけば到着する距離感。
ズボンの右ポケットからBluetoothイヤホンを取りだし、両耳に装着してからスマホで音楽をかける。
ちょうど4曲目の中盤あたりに差し掛かったとき、駅に到着し、西口から自宅が構える北口へと連絡橋の下を通り抜けていく。
北口に出ると、天華がクラスマンションの頭が見えた。颯太はそのまま天華の暮らすマンションまで歩くと、それを横目に自宅まで続く道をさらに歩いてく。
自宅まで歩く颯太の頭の中に、昨日、天華と電話通話したときの、彼女との会話が過ぎる。
颯太と別れたあと、唯華はその足で天華のもとへ向かい、すべての事情を話し、ユキを直接天華のもとへ帰したらしい。
天華は、唯華の行いを許したわけではないが、今までのような反発的な態度は改めると言っていた。
活動休止していた芸能活動の方は、様子を見ながら、徐々に復帰する方向で検討すると本人から聞かされている。
そんな彼女に、颯太からは「よかったね」とか「大丈夫?」とか、彼女の選択を配慮した言葉はあえてかけず、ただ簡素に「そっか」と、彼女の選択を見守るような心持ちで答えておくに留めた。そんな颯太の淡白な反応に、天華は面白くなさそうな、つまらなそうな反応をしていたのは印章的だった。
話の最後には、もし、彼女が芸能活動を再開させ、仕事で自宅を留守にする際は、ユキとコユキは颯太が面倒を見ることなったときは、もはや苦笑するしかなかった。「よろしくね」と微笑みを浮かべる彼女を前に、男として「NO」とは言えなかったのだ。
そんなことを思い出しながら、自宅まで続く道を歩いていくと、コユキを拾った陸橋が見えてくる。
陸橋まで残り5メートルに差し掛かったとき、颯太は柱の横にダンボールらしき箱が置かれているのに気がついた。
「おいおい、まじか」
蘇る二日前の記憶。
導かられるように、引き寄せられらように1歩ずつ近寄っていくと、ダンボールの中から「にゃあ〜」と小さな鳴き声が聞こえてきた。
そして、颯太がダンボールの中を覗き込んだとき、
「なにしてんすか?」
背後から見知らぬ声が聞こえ、反射的に振り向いた先で、颯太が通う高校の制服を着た、健康的やけた肌が印象的な女子生徒が訝しげな目でこちらを見ていたのだった。




