69.一方その頃
■side 椿
「「「ありがとうございました~」」」
カランと軽やかな音を立てて扉が閉まる。
「いや~今日も盛況やったなあ」
「ですね~。あの動画の影響は絶大でしたね」
「ホンマそれな。イケメン様々やで」
「あの動画から騎獣装備の注文も増えましたもんね」
「言うても今は見た目装備ばっかりやけどな」
「ハンスたちは称号取れたんでしたっけ?」
「取れたらしいで?んでその情報を掲示板にも載せたらしいから、その内他にも称号取る奴らも増えるやろな」
「なるほど~」
「「それにしても……」」
さっきから一切会話に加わろうとしない椿の方に目を向けると、カウンターに突っ伏しキノコでも生えてきそうな程度にはジメジメとした椿の姿がそこにはあった。
「う゛ぅ~……ジュカくんが足りないよおぉ……動画だけじゃ全然足りない…生身のジュカくんに会いたいようぅ…」
「そーいやジュカって今どこにおるんやったっけ?」
「確か新しく発見された大陸に行くって言ってませんでした?」
「うっうっ……今はなんか蜃気楼に囲まれた謎の島にいるって言ってたあ…」
「なんやまた変な場所に行っとるんか」
「相変わらずですね~」
ジュカの近況自体は実家に帰った際や、電話で話したときに聞いているので知ってはいるのだが、ジュカの生身の姿はここ暫く会っていない。動画を見れば動く姿を見ることはできるけれど、それだけでは短すぎる。出来ることなら壁となってジュカの生活を朝から晩まで見守りたい。
椿は夏樹に関してはまだ『過保護な姉』という括りでギリギリ収まってはいるけれど、ジュカに関しては十分に厄介な限界オタクであった。
今の所思うだけであって実行に移さないだけの理性は残っている。
「いっそのことジュカくん配信とかやってくれないかなぁ…」
「いや絶対やらへんやろ、あの性格やで」
「もしやったとしても、何も喋らずに垂れ流しにしてそうですよね~」
「いっそのことそれでいい…いや寧ろそれがいい…」
「重症やな」
ジュカ欠乏症に嘆く椿に二人の反応は至って平常通りである。まあいつものことなので。
「そういえば配信といえば、近々3陣の解放があるんでしたっけ?」
「あ~そう言えばそうやったな。確か国内無制限解放になるんやろ?」
「そう言ってましたね。割と有名な配信者なんかも参戦するみたいですよ」
「まあ一次も二次も結構な倍率やったもんなぁ。無制限解放になってようやくってとこなんやろな」
「プレイ人口が増えるのはいいことですけど、配信者につられて厄介なファンの人たちとかが来ないといいんですけどね~」
「無理やろうなあ。厄介な奴らはホンマ何考えとるのか分からんからな~」
「基本言葉通じないですもんね」
「他人に絡まんのやったら好きにやってもらってええのにな」
配信者がゲーム配信をするのは何も問題はない。その攻略を参考にする人もいれば、ゲームはしないけれど人がゲームをしているところを見るのが好き、という人も沢山いるだろう。しかし厄介なファンというのはどこにでも存在しているのである。
例えばファンの中には“ガチ恋勢”と呼ばれる人たちも一定数は存在する。勿論恋をするのは当人の自由であるし、その事に関しては何も問題はないのだけれど、中には好きが高じて相手のストーカーになってしまったり、相手のライバル、又は恋愛対象になりそうな相手を攻撃してしまう、なんて行動に出てしまう輩も存在していたりするのである。
他にもその配信者が活動しているときに他のプレイヤーが邪魔をしないように、そのエリアを勝手に封鎖しようとしたりなど、挙げていけばキリがない。
誰かを応援するのはいいけれど、それはあくまで個人でやることであり、周りに迷惑を掛けてまで行ってしまうのはマナー違反である。何事にも一定のラインというものは存在するのだ。
これが対面ならまだしも、画面越しやアバターを介するとその一定のラインを容易く踏み越えてしまう輩が数多く存在するのが、ゲームに限らずネット上での長年に渡る大きな問題の一つでもある。法整備が進む昨今であってもそれらの問題が中々無くならないのは、中には悪意によるものも数多くあるけれど、ことの発端となる元の感情が『好き』という感情だからこそ厄介なのかもしれない。
オンラインゲームで長くサービスを続けてもらうにはゲームの過疎化は一番の敵だろう。しかし面倒なプレイヤーが増えるのもまた困る。RFOは他のゲームに比べてプライバシーやネットリテラシーに関してはかなり配慮されているとはいえ、問題が全くないという訳でもない。運営には頑張ってもらいたい所である。
「あっジュカくんからメッセージきた!」
机にへばり付いていたかと思いきや、ガバッと起き上がった椿の前にはウィンドウが展開されている。
「おっ噂をすればやな。ジュカは何て?」
「いや私がジュカくんを見たかったからSS送って!って言ったんだけどね」
「催促してるじゃないですか。で、どれです?早く見せて下さい」
「ユリちゃんすごいグイグイくるじゃん……」
「イケメンを見るのは健康にいいんですよ」
「どんな理論やねん」
何だかんだいいつつも、3人でぎゅうぎゅう押し合いながらSSを確認する。
「ジュカくん写ってないじゃんっ!?」
「あ~この『撮れって言われたけど面倒だから適当にその辺写しときました』感が完全にジュカやな。相変わらずキャラ作り込んどるわ」
「でも普段なら無視一択なところを、適当でもちゃんと撮って送ってくれる辺りに愛を感じられる良い1枚ですね。あと尻尾の影が写り込んでいる点がポイント高いです」
「ほ、本当だ…っ!ジュカくんの尻尾の影が写ってる!きゃわわ……」
「かわいいか……?それよりもこの建物やろ!こういうのも雰囲気あってええなー」
「アラビアンな感じですよね~。現地の人の服装も見てみたいです」
「この色使いがいいよね!今度の新作に取り入れてもよさそう…」
キャイキャイとジュカからのSSで盛り上がっていると、また新たな客の訪れを告げるドアベルの軽やかな音が店内に響く。
「「「いらっしゃいませ、『Viola』へようこそ」」」
本日も店は好評なようである。
暫くは不定期投稿になってしまいそうです…。よければのんびりとお待ち頂ければ幸いです(;´Д`A ```




