6.知識は力なり
姉の店を出た私は、その足で図書館へと向かっていた。
場所はギルドの資料室で読んだ『始まりの街散歩』という本に載っていた。地図もセットになった“る○ぶ”的な本だったと思う。普通に面白かったです。
本を読んだことで登録されたミニマップを便りに図書館を目指すと、問題なく辿り着くことが出来た。
そして冒険者ギルドより一回り程小さな石造りの建物に入ると、受付に居た丸眼鏡のよく似合う初老の男性と目が合った。
「こんにちは。本日は初めてのご利用ですかな?」
「あァ」
「そうでしたか、ご利用ありがとうございます。では初回は登録料がかかりますので、500Gお願いします。」
「これもついでに頼む」
「紙束とペンですね、では全部で650Gになります。………はい、確かに。もし何かお探しの本がありましたらご案内できますので、お気軽に声をお掛けください。」
「わかった」
そして受付を離れ、目的の本を探す。
ちなみに今買った紙束とペンは、〈集中〉のスキルを習得するためのものである。
この〈集中〉のスキルの効果は、攻撃系はクリティカルの発生率が高くなり、生産系では成功率が上がるという地味に嬉しいスキルである。
しかし紙束とペンはただ持っているだけでは効果がない。実際にメモしたり何なりちゃんと使用することでスキルを習得することが出来るのだ。
ちなみにこれは習得方法の一例で、他にも素振りや型を何度もやったり単調作業を繰り返す、なんてことでも習得は出来るらしい。この辺は各自の好みによると思う。
私、というか“ジュカ”は素振りを何度もやるなんて面倒だからやらないし、単調作業も好きじゃない。でも新しい知識を蓄えることには貪欲なので、このメモ方式を選んだ訳である。
ついでにこの方法だと言語スキルもレベルが上がるので、一石二鳥である。
そんなことを考えつつ探してきた本は、『今さら聞けない~魔力って何?~編』と『はじめての魔法』シリーズである。
本の題名はさておき、『はじめての魔法』シリーズは火・水・土・風・光・闇の基本属性の6冊でワンセットになっている。そして『今さら聞けない~魔力って何?~編』は読んだ後に魔法を使うと、〈魔力操作〉のスキルを覚えることが出来るのである。
さらにこの〈魔力操作〉のスキルと『はじめての魔法』6冊分の知識を得ることで、〈魔法学〉のスキルを習得することが可能になる。そのとき〈魔力操作〉のスキルは〈魔法学〉に統合されるので表記はされなくなるらしい。
これは魔法の威力が上がったり、消費MPを減らすことで効率が良くなったりなど、他にも便利系の魔法を覚えたりとかなり重宝するそうです。
こういったスキルは初期に覚えておいたほうが間違いなく便利なので、この法則を見つけてくれた先人たちの知識には感謝するばかりである。
あと余談ではあるけれど、『今さら聞けない~○○~編』もシリーズ本となっていて他にも採取編や剣術編など様々な種類があったりする。
採取ではこんな道具を使うと品質が上がる、やら剣術では敵のこういった部位を狙うといい、など覚えておくと便利な小技系が掲載されているので割と人気シリーズであるらしい。シリーズ名はどうかと思うけれど、わかりやすさと便利さでは満点である。
そうして目的の本を探し出し、適当に空いている席に腰を下ろす。
さすがに室内でフードマントは怪し過ぎるので、脱いだものをそのままバサリと隣の席に放っておいた。
暫くは本を読み、気になった部分をメモに書き取りつつ時間を過ごす。
《特定の行動により、スキル〈集中〉を習得しました──》
全ての本を読み終わると同時にアナウンスか入った。
文字通りすっかり集中していたらしい。
〈魔力操作〉のスキルをゲットするのはとりあえず明日に回し、今日の目標を達成したことに満足して思い切り伸びをする。
ググッと身体を伸ばしながら窓の外を見れば、夜にはなっていないものの陽は沈み始め、空を赤く染めようとしていた。
そんな夕日が目に入り眩しさに目を細めると、隣に放っておいたフードマントが一瞬光を反射した気がした。
(ん?)
気になってフードマントを持ち上げてみるも、黒い布で作られたこれに光を反射するような素材は着いていない。特に光沢のある生地でもないのだ。
(気のせいかな?)
じっと見るも再び光る様子はない。
しかし光に翳してみたり傾けたりしていると、マントの背中の内側部分、その中央辺りに光の当たる角度によって何かの模様が浮かぶことに気が付いた。
(模様……いや、文字?何て書いてあるんだろ……?)
とりあえず日が沈んでしまう前に、どうにかこうにか文字を読み取って紙にメモしておいた。光を反射するとはいっても、光の加減によってはそう見えるというだけで実際は光っていないのだ。本当に正しく読み取れているのかどうかは全く自信がありません。
そして一応これはおそらく何らかの文字だと思われるけれど、何の情報も無ければ資料を探すことも出来ないので、とりあえず受付にいたおじ様に聞いてみることにしました。
「なァあんた、これが何なのかわかるか?」
「おやこれは……。失礼ですがこれをどちらで?」
「これに描いてあった」
持っていたフードマントを見せると、おじ様は納得したように頷いた。
「そちらは“巡り人のフード”ですか。ふむ、………なるほど…」
何やら一人で考え込むおじ様は、どうやらこの文字(?)について何か知っている様子。暫く黙ったあと考えが纏まったのか、スッと顔を上げてこちらを見た。
「おそらくこれではないか、というものでしたら心当たりがあります。」
「へェ、それで?」
「神代から使われていた、という古代文字の一つですね。」
「ほォ…それについての資料はどこにある?」
「残念ながら、今のあなた様にはまだ閲覧権限がありませんな。」
「閲覧権限だと?」
おじ様曰くこの図書館には貴重な資料もいくつか保管されており、それは厳重に管理されているそうな。そしてそれを見る為には資格が必要だと言う。
「その資格ってのはどうやって取るんだ」
「ふむ、そうですな…。資格にも様々な種類がございます。しかしどの資格を得るにしても、必ず専門の知識が必要となるでしょう。あなた様でしたら、まずはその文字と同じようなものを探してみる、という所から始めてみるのも良いかもしれませんな。」
ふぅむ、同じようなもの……ねぇ。
面白そうじゃないですか。神代からあるという古代文字に資格が無ければ読むことの出来ない資料。好奇心を擽りロマン漂うなんて素晴らしい設定なんでしょう。大好物です。
まだ知ることの出来ない新しい知識の気配にテンションが上がる。
期待に目を細め、興奮からか猫耳がピンッと立って尻尾が揺れる。
「ふぅん」と素っ気ない返事をしたものの、興味津々なのはおじ様にはバレバレだったのかもしれない。
何やら微笑ましそうな顔でこちらを見ているので…。
若干気まずくはあったものの、おじ様からは取り敢えず古そうなものを調べたら何か見つかるんじゃね?というアドバイスも貰えたので、今日の所はこの辺でお暇することにしよう。
「また来る」
「はい、またのご来館をお待ちしております。」
おじ様に別れを告げて宿へと向かう。
再び日の暮れた街の中には、まだまだプレイヤーたちが溢れかえっている。
(古いもの、ねぇ……)
ゲームは始まったばかり。まだまだ分からないことだらけだけど、それが楽しい。
ふとご機嫌に揺れる尻尾が視界を掠めた。
案外この“ジュカ”というキャラクターは自分の本質に近いのかもしれない、と気付いてしまいフッと笑みがこぼれた。