67.危機一髪
「チッ」
右肩に刺さった矢自体にそこまでダメージはない。問題なのは矢尻に塗られた麻痺毒の方である。
ステータスに麻痺の状態異常が表示され、一気に重たくなった身体に思わず舌打ちするも状況が悪い。
そして目の前に振り下ろさせる刃に「さすがにこれはヤバいかも…」と慌ててインベントリを開こうとするも、痺れた身体は動きが極端に遅くなる。全く間に合いそうにない状況に頭の中で『クエスト失敗』の文字がちらつく。
やっぱり誰かを守りながら戦うのって向いてないですわあ!って、えっちょ、これ本当にヤバいのではっ!?ッア────!
「っ!?───っ!」
もうダメかと思った次の瞬間、目の前の敵は突如現れた巨大な植物たちに絡めとられていた。
ヤシの木のような木の幹に挟まれ、蔓性の植物に手足を取られて身動きもとれずにジタバタする敵に、鈍くなった動きのまま何とか止めをさす。次の敵が来る前に何とか解毒薬を飲んで麻痺を解除することに成功して一安心です。
まあこれはどう考えてもザリムのお陰なので礼は伝えねば…と思い小脇に目を向けると、顔色を失くしてぐったりとしたザリムが意識を失っていた。
「オイっザリム!」
慌てて頬を叩いてみるも、反応はない。
まずは安全確保が最優先かと周りを確認するも、どうやらさっきの攻撃が敵方の最後の足掻きだったらしく、ハインツが射手を始末したことで戦闘は終了したらしい。そういえばさっき倒した目の前の敵が、もしかしたら隊長と同じ顔だったかもしれない。まぁいいか。
「ジュカ様っ!ご無事でしたか!?」
「あァ。それよりもコイツだ」
「これは……特に外傷などはなさそうですね。急激に魔力を使ったことによる反動でしょうか…?」
なるほど…。確かに横を見れば、晩餐の時に見たものとは比べ物にならない規模の植物が生えている。ならばとMP回復薬をドパドパかけてみると、目は覚ましたものの顔色はまだ悪いままである。
「オイ、気がついたか」
「う゛ぅっ…ここは…?」
「東の港だ。気分はどうだ?」
「……最悪だ。頭は痛いし身体も怠い……何をしている、早く私を寝所まで連れていけ…」
この野郎……と思わなくもないけれど、帝国連中から助けに来たとはいえ、こちらもまたこのガキんちょに助けて貰った身である。甘んじて宮殿まで送り届けてやるしかあるまい。
ぐったりしたままのザリムを抱え宮殿まで戻ると、宮殿では完全武装した島民たちとそれに指示を出すおじさんの姿があった。
最初はザリムの奪還に関しては消極的な姿勢なのかと思いきや、まさかの島民全員での襲撃準備をしているとは思いもよらず、面を食らってしまった。
「ザリム様っ!!」
そこへ私たちの存在に気が付いたおじさんが、泡を食ったように駆けつけてくる。
「ザリム様っ!あぁよくぞご無事で…!怪我はございませんか?よくお顔を見せて下さい…」
「私は無事だナースィフ。だが少し疲れてしまった。私は部屋で休むぞ」
「っ!畏まりました。すぐにお部屋までお連れ致します。」
「いや、それはこの男にやらせよう。おい、早く部屋まで連れていけ」
「ア?護衛かなんかに運ばせりゃイイだろうが」
「ハァ!?この私が助けてやった恩を忘れたのか!サッサと行け!」
「チッ」
既に助けたことを若干後悔し始めているけれど、もうサッサと運んでしまおう。なぜなら私の機嫌も下がっているけれど、ハインツの機嫌もだだ下がっているからである。早くこの状況から解放されたいです。
部屋まで運びベッドに寝かせてやると、余程疲れていたのかザリムはそのまま眠ってしまった。そして部屋を出た扉の先には、予想していた通り侍従のおじさん──ナースィフが立っていた。
「ザリム様のご様子は?」
「すぐに寝たみてェだな」
「……そうでしたか。ここではなんですので、こちらへどうぞ」
「あァ、そうさせてもらうぜ」
さぁ、答え合わせの時間である。
◇
──コトリ。
目の前に差し出されたお茶からは豊かな香りが漂ってきている。
その香りを十分楽しんでからお茶を口に含めば、甘味と僅かに感じる苦味が互いを引き立て合い味を上手く一つにまとめている。
そうして一息吐いた後、ナースィフは語りだした。
「『星命力』についてご説明するためには、まず私たちがどうやって暮らしてきたのかということから説明しなければいけないでしょう。」
その一言から始まったこの“楽園島の住民”たちの話は、私が考えていたよりもかなり壮大な話でした。
まずこの楽園島の住民たちは実は元々はオーレリア大陸で暮らしていた一族らしい。しかし彼らは何かから逃れるように大陸を出た。そしてたまたま蜃気楼に囲まれたこの島にたどり着き、外敵に襲われる可能性のかなり低いこの島は彼らにとって安住の地となったそうである。
しかしそんなこの島で一つ懸念だったのは資源が乏しかったこと。このままでは一族は遅かれ早かれ滅亡してしまう。そんなときに彼らが目をつけたのは、地下を通る莫大なエネルギーだった。
「莫大なエネルギー?」
「ええ。皆様は『龍脈』というものをご存知ですか?」
『龍脈』。大地を流れる気の流れ…みたいなやつだったかな?確か風水的なやつだった気がするけれど…。
「はい、その認識で間違いないでしょう。その『龍脈』を流れるエネルギーこそが『星命力』。『星命力』があるからこそ大地に草木が生えて水が溢れ、世界を暖める熱が生まれる。つまりすべての生命の源となる力がこの『星命力』なのです。元々この島の下にはその流れがありました。そして、それを知った我々の先祖たちはそこに──────穴を開けたのです。」
「そこから無理矢理大地のエネルギー、『星命力』を引き出すことで、この島は緑で覆われ豊かな水が溢れ出す生命力に満ちた島となったそうです。──“まるで楽園のような島だ”と言われるほどに。」
そこで再びお茶を啜り、重たいため息を吐くとナースィフさんは再び問い掛ける。
「皆様は創世神話をお読みになったことは?」
「創世神話ってあれだよね、女神様が星を生んでそのあと他の神様もどんどん作りだして世界ができた~ってやつ」
「ええ、そうです。ではその創世の女神と他の神々はどのような関係だと思いますか?」
「関係…?えーと、女神が作りだしたっていうくらいだし、家族みたいな感じ?」
「いえ、実は違うのです。」
創世神話を読み込んでみると、実は細かい部分で色々と書き分けられているらしい。
まず女神の次に出てくる神は『光の神』と『闇の神』。これは女神の力の影響を受けて自ら誕生したとされている。そしてその次に出てくるのは『土の神』『火の神』『水の神』『風の神』の4柱。この4柱は女神が創りだしたと書かれている。
つまりイメージ的には『光の神』と『闇の神』は女神の直属の部下。そして『土の神』『火の神』『水の神』『風の神』の4柱は女神の眷族といったものになるそうです。
そして、直接女神が『生んだ』と表記されているのは、『星』ただ一つであるらしい。
「他の神々と違い、創世の女神様が人々と関わったとされる神話はほとんどありません。しかし極稀に描かれる話は、ほとんどが『星』に関わることのみなのです。」
ということは、女神の大切な子供である『星』を傷付け、さらにはそこから『星命力』さえも奪っていたとされる先祖たちは一体どうなったのか。
「なるほどなァ。それで楽園とまで呼ばれた古代都市は、たったの1日で砂漠に沈んだってワケか」
「その通りです。しかしたまたま都市の外に出ていた者の中には、運良く生き残った者も僅かながらにいたのです。」
「それがお前らか」
「ええ。その中でもかつての王族の末裔となるのがザリム様です。」
「へェ」
なんでもその頃の古代都市は、無理矢理『星命力』を奪い取っていた影響か都市自体は繁栄していたものの、島の端の方から徐々に砂漠化していっていたそうだ。その中で「もっと穴を拡げて引き出す星命力の量を増やすべきだ」という派閥と「穴を塞いで自力で発展させる道を探すべきだ」という二つの派閥に別れていたんだとか。
そして生き残った王族というのが後者の派閥であり、たまたま砂漠の調査のために町を離れていたために難を逃れたということらしい。そして生き残ったはいいけれど、都市は砂の下へと沈んでしまった。島の外へと助けを呼ぼうともしたそうなのだけれど、何故か彼らは蜃気楼から先へと進むことはできず、島から外へ出ることができなくなってしまったらしい。
「──我々は罪人です。女神がもっとも大切にしていた我が子を傷付けたのですから。この生命の途絶えた土地から出られないのも、きっと当然のことなのでしょう。」
「しかしそれでも私たちは生き延びたかった」
「そしてそれを族長一族に全て肩代わりさせるなど、やはり我々はどこまでいっても罪人でしかないのです。」
──ピロン
《クエスト「咎人の楽園島」をクリアしました──》
次回もう少し説明が続きます。




