59.アイテム修理
果たしてどのくらいの時間が経ったのだろうか。
気が付けばコーヒーだけでなく普通に食事までしてしまったのだけれど、ガルドさんはまだ作業を続けている。流石に精密機器を弄っている時に食事を出されても食べはしないだろうから差し入れはしていないけれど、そろそろ休憩を挟んだ方がいいような気がする。
邪魔にならないタイミングで声を掛けようかと思っていたら、一段落ついたのか顔を上げたガルドさんと目が合った。
「?…………ああ、アンタらか!いやあ一瞬誰かと思ったぜ」
いや忘れてたんかいっ!
確かに会ったばかりだし別のことに集中していたら忘れられても仕方ないけれども!まったく……
「で?直りそうなのか」
「おう、まあ何とかなったな。ただこの部分……おそらくは古代文字だとは思うんだが、ここがなんともなあ。流石に俺は古代文字は読めねえしよ」
「あァ、それなら俺が読めるからいい」
「はぁっ!?お前これが読めんのかっ」
「まだレベルが低いから完璧にとはいかねェが、まァ何とかなンだろ」
「へぇ、人は見かけによらねえもんだな」
「うるせェ」
この粗暴なキャラが実は知的っていうのがいいんでしょうが!ギャップ萌えという言葉を知らんのかと心の中で叫びつつ、表面上はシレッと受け流す。きっと分かる人は分かってくれると思うんです。
とりあえず渡された羅針盤を鑑定してみる。
[アイテム]導きの羅針盤 品質:良 レア:Ra
[備考]表面にツヴェールク語が刻まれている。正しい手順で稼働させることで行き先を示すようになる。
おお、アイテム名が【壊れた羅針盤】から【導きの羅針盤】に変わっている。
ガルドから詳しく話を聞いてみると、羅針盤は中々に複雑な機構になっていたらしく本来の物とは大分違う仕様になっているらしい。
羅針盤とは本来コンパスの役割をするものなのだけれど、この【導きの羅針盤】は方角を示すものではなく、常に一点を示すような機構になっているらしい。しかもそれは今も示している訳ではなく、この羅針盤に隠されたギミックを解いて初めて稼働するようになるのだとか。
ふ~~ン?悪くないんじゃない?
フフフ。これでも私、謎解きは得意なんですよ。
再び【導きの羅針盤】を目の前に掲げて、ギミック解除のヒントになるであろう刻まれた〈ツヴェールク語〉の解読を試みる。
「ゆ、め……夢?みるも……も、の?…………め………チッ、まだ全部は解読出来ねェか」
「ん~~?ちょっと待て、それってもしかしたら『夢見る者の夢』って書いてあるんじゃねえか?」
「『夢見る者の夢』だァ?」
「ああそうだ。『夢見る者の夢』ってのはヴァイキングの間に伝わる伝説みてぇなもんで、ガキの頃よく聞かされたんだよ。ほら、その本にも載ってるだろ」
ガルドさんに言われたページを見ると、確かに『夢見る者の夢』という言葉が載っている。なるほど、ヴァイキングたちの間に伝わる少し不思議なお話、といった所だろうか。
───ある時一人の船乗りが海に落ちてしまい、気がつくと見知らぬ島にたどり着いた。
その島は蜃気楼に囲まれた不思議な島で、船乗りは自分が一体どこにいるのか皆目見当がつかなくなってしまった。
困った船乗りは仕方なく島を探索してみると、周りを砂漠に囲まれた中で一際目立つ町があることに気がついた。
船乗りはこれで助かったと思い町へ近づくと、なんと驚くことにその町は砂漠のまん中にあるというのに、町の中心には巨大な噴水から水が溢れ、緑や色とりどりの花が咲くまるで楽園のような場所だった。
町の人も皆親切で、船から落ちてしまった船乗りを大層心配してくれた。
故郷に戻るためにも暫くの間町に滞在することになった船乗りは、ある一人の娘と恋に落ちた。
やがて娘との結婚を決めた船乗りには一つだけ心残りがあった。家に残してきた母親である。
最後に母親にだけは自分の無事を伝えたいと思った船乗りは、一度だけ故郷を訪ねてみることにした。
必ず戻ると娘に約束し、船乗りは故郷へと旅立つ。
そしてなんとか故郷へとたどり着き母親と再会することができた船乗りだったが、愛しい人を残してきてしまったのでまた戻らなければいけないと母親に伝えると、母親は優しく船乗りを再び送り出してくれた。
こうして船乗りは愛する娘のもとへと再び戻っていったのだが、蜃気楼に囲まれた島に着いたとき、そこにあの楽園のようだった町の姿はどこにもなかった。
辺りをいくら探し回っても、あるのはどこもかしこも砂ばかり。
船乗りは大きな悲しみを抱えながら再び故郷へと帰ってきた。そしてそのまま母親と二人静かに暮らしていったという。
海ではときに思いもよらない体験をすることがある。
まるで自分が夢見た世界へと連れていってくれる蜃気楼も、またそのひとつであろう。
夢幻の蜃気楼は夢見る者の夢を見させてくれる。果たしてそこは悪夢なのか楽園なのか。
それは蜃気楼へとたどり着いた者にしかわからないことである。───
ほお~~中々に興味深い話である。
蜃気楼で幻を見る話は割とポピュラーな話だけれど、出てくる作品によってはかなり内容が変わってくるものでもある。まあ蜃気楼は巨大な蛤の化物が発生させたものであるとかもあるしね。
ちなみにこの話だと、楽園は幻だったけれど島自体はちゃんと存在してるっぽいよね?船乗りは行き来してたみたいだし。
それにしてもこの“夢見る者の夢”が何だというのか。ここから先が全然分からないんですが…。つまりこれは蜃気楼のことを指しているとか?じゃあ蜃気楼の……場所?もしも場所なら本当にそこに蛤の化物がいたりして…。いや、もしかすると船乗りが行った島の場所なのかもしれない。でも砂漠しかない島の場所を態々こんな形で示したりするのだろうか?
うーーん、もう一度羅針盤を見てみると、側面に小さなツマミが付いていることに気が付く。時計のようにツマミを弄るとカチカチと何かが動く感覚がするので、おそらくこれを正しく動かすことでギミックを解除するんだろう。ツマミということは必要なのは文字や言葉ではなく、何かしらの数字なのかもしれない。
何か他にヒントは……。
夢見る者の夢、船乗り、蜃気楼、楽園、砂漠……………ん?楽園、砂漠………最近何かで見たような…?
あ、アレだ!『アルフ・ライラ・ワ・ライラ』だ!王立図書館で見つけて、面白かったから結局古本屋で探しだして買った本である。
この中に載っているお話の一つに、『砂漠に沈んだ古代都市』というお話があったのだ。
これは砂漠のまん中にあるにも拘わらずまるで楽園のように栄えていた都市が、神の怒りに触れてたった1日で都市全部が砂漠の中へと沈んでしまったという話だった。
一体何が神の怒りに触れてしまったのか、何故その都市は砂漠の中なのに楽園のように栄えていたのかは全然わからなかったけれど、何かこの話ってヴァイキングのお話と重なる所がありません?
どちらも砂漠の中でやたらと栄えていた楽園のような場所だったとあるし、船乗りが故郷へ行っている間にその楽園が無くなってしまったのも、その都市が1日で砂漠に沈んでしまっていたのであれば、まるで夢を見せられていたと勘違いしてしまうのにも納得である。
(これは……もしやビンゴでは?)
もう一度『砂漠に沈んだ古代都市』という話をしっかり読み直してみると、いくつかの情報が散りばめられていることに気付く。太陽の位置や星の位置、日付の情報など意識して読んでみると様々な情報が見え隠れしているね。
ただ、島の位置を特定出来そうな具体的な言葉は載っていないらしい。
そこでハッ!と思い出してあるものをインベントリから取り出す。
「お、アストロラーベじゃねえか。お前そんなもんまで持ってんのか」
そう、実は何気に古代から使われていたという天体観測機である。これで本から見つけた情報を当てはめてみると……
思った通りいくつかの数字が浮かび上がる。
普通ならこれが位置情報だと思ってしまいそうだけれど、これがもし【導きの羅針盤】のギミックを解除するための数字なのだとしたら…。
うーん、これを考えた人の性格はかなり悪そうですね。勘違いして楽園を探しに行く連中を見てプギャってたりしたのだろうか。まあとにかく、今わかったこの数字に合わせてツマミを回転させてみますかね。
カチカチ………カチカチカチ、カチカチ─────カチッ。
最後何かがはまった感覚がした後、羅針盤の針がグルグルと回りだした。
やがて回転が治まると、針はゆっくりと一つの方向を示しだす。
それは羅針盤をいくら動かしても示す方向は変わらず、ただ一点だけをひたすらに指し続けていた。




