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5.〈椿 side〉

──カランカランと軽やかな音を残して扉が閉まる。


そのままズルズルと座り込んでしまった椿を心配する者はここにはいない。


「今日ここに新たな推しが誕生しました…。この奇跡を与えたもうたナッちゃんと神に心からの感謝を……っ!!」


座り込みながら手を組み祈りを捧げる椿に、いつものことだと放置しつつも頷く二人。


「いやぁ夏樹もまたどえらいキャラ作ってきたな」

「本当ですね~。新しい扉が開いた音がしました」

「いや、ユリはいつでも扉全開やん」

「失礼な、これでも好みのカップリングにはうるさいですよ?」

「はいはい」


そんな会話を交わしつつ、二人はいまだに床で座り込む椿を引き起こして椅子に座らせた。


「でも、思ったより元気そうで安心したわ」

「ええ。前のゲームでのことは話でしか聞いてませんけど、かなり悪質でしたもんね」


そこでようやく祈りを捧げ終えたのか、椿が猛然と喋り出した。


「そうだよ!もう本っっ当に信じらんないんだから!あのゲーム好きのナッちゃんが半年近くもゲーム出来なくなっちゃってたんだよ!?」


机をバンバン叩く椿のセリフに、あの夏樹が半年も!?と二人は驚愕をあらわにした。

夏樹本人は自分のことをそこそこのゲーム好きだと思っているが、周りから見ればその一つのゲームに対するのめり込みっぷりは、いっそ狂気を感じるほどである。本人はあくまでRPを楽しむためだと主張しているが、もともと凝り性というのもあって割と酷いことになっている。


「というか夏樹の作るキャラって、いい意味でNPCっぽいんよなあ」

「そうですね~。作り込みが徹底しているから、プレイヤーじゃなくてNPCだって思い込んじゃう人が多いのよね。夏樹ちゃんも全然中身を感じさせないし」

「それな。そもそも夏樹が中身の素を見せるのなんて、私らか冬李たちと一緒に居るときだけやしな」

「それも絶対に周りに会話を聞かれたりしない所でだけ、って徹底してるものね~」

「まあだからこそ、“そーいうキャラ”が好きな奴ははまるっちゅうか……頭のイカれたファンが湧くっちゅうか……」

「万人受けする訳ではないんだけど、好きな人はドツボにはまっちゃうのよねぇ…まあその時のキャラにもよるんでしょうけど…」


そうなのだ。夏樹はキャラ作りが徹底している分、所謂“中の人”を感じさせないので「そのキャラめっちゃ好き~~!」となるファンが必ず一定数現れるのである。

そして前回のキャラが金髪ツインテールのロリッ娘お嬢様だったので、自称紳士やら執事やら下僕やらが大量に湧いてしまったというのが事の発端である。


二人は「「はあ~~…」」と盛大なため息を吐いた。


「本っ当にあのド腐れ畜生下種野郎共絶対に許さねぇんだからなっ……!!」

椿のドンッと机を叩いた音が、その怒りが未だに消えていないことを物語っていた。


椿が夏樹からその話を聞いたときには時既に遅し。

そのときの椿は同じゲームをやっておらず、聞いたときには夏樹はもう既にゲームを辞めていた。

一緒に話を聞いていた冬李も同じく、二人は般若を背負い下種共への復讐を決意した。


しかし「もうそのゲームは辞めたし、別に気にしてないよ」と笑う夏樹に過度な追及は出来ず、奥歯をギリィッと噛み締めることしか出来なかったのだ。

本当は草の根掻き分けてでも、変態共を捜しだし駆逐してやりたい。でももしかしたら、そうすることで再び夏樹を傷付けてしまうかもしれない。そんなことは出来ない、でも悔しい。ジレンマである。


そもそも夏樹は、自キャラが他のプレイヤーたちに見られたり絡まれたりすることを嫌っている訳ではないのだ。


どちらかと言えば折角作ったのだから見てもらいたいし、寧ろ感想を聞きたがる方である。まあそれも、作り込みが甘い部分を洗い出して更にブラッシュアップするためのものでしかないのだけれど。


他のRP勢を見れば自分からも絡みに行くし、頼まれればファンサもする(ちなみにその場合はその時のキャラクターの性格設定による)。


しかし、何事にも限度というものがあるのだ。


今回“ジュカ”という一般的には近寄り辛そうなキャラを作ったのは故意か無意識か。

どちらにせよ“また前回の二の舞になるのではないか”という不安がまだ多少は残っているのだろう。


「まぁパッと見は確かに話し掛け辛そうではあるっちゃあるんやけど……」

「ええ。シンプルに顔がいいんですよね」

「くぅっ…隠しきれないナッちゃんの魅力!そこに痺れる憧れるぅっ!だが変態共、貴様らは絶対に許さんっ!」

「せやなぁ。まあたぶんっちゅうか絶対に今回も熱狂的なファンは湧いてしまうやろうけど、マナー違反はあかんよなぁ?」

「そうですね~。イエスジュカくんノータッチですから」

「ジュカくんの平穏はお姉ちゃんが守るからね!!」



口では気にしていないと言いつつも、どこか寂しそうだった夏樹。

RFOの宣伝を目にするたびに憧れのような羨望の眼差しを向けるものの、すぐに眉をひそめて目を逸らすのだ。


((俺たち/私たちのナツ/ナッちゃんが!!ゲームしたいのに出来なくて悲しんでる!!!!))


そこからの双子の行動は早かった。

あらゆるコネと伝手を駆使してRFOを手に入れ、夏樹がいつ遊び始めても大丈夫なように万全なサポート体制を整えたのである。夏樹はスタートダッシュをきめて攻略最前線を目指すようなタイプではないので、参戦が多少遅くなったとしても気にしない。寧ろある程度情報を手に入れてから始めたいタイプだ。

というか双子もRFOには普通に興味があったので、一緒に遊ぶのに何の問題もない。寧ろ何故前回のゲームでは一緒に遊んでいなかったのかと唇を噛んだほどだ。


彼らは友人たちを誘い、ゲームの中でも力をつける。かわいい妹が心置きなくゲームを楽しめるように。




だって彼女が生み出すあらゆるキャラクターの一番のファンは、いつだってこの双子なのだから。

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― 新着の感想 ―
流石に粘着相手ならキャラ崩しても良かった気がする…! でも拘りならしょうがないネ
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