52.出航!
“巡り人”の巡り人たる所以を聞いたところで、今後の具体的な話である。
今まではパルゥと一人と一匹で気ままにやってきたのだけれど、イグニス大陸にいる間はずっとハインリヒさんがくっついてくるのかと思うとちょっとげんなりしてしまう。別に悪い人ではないんだけれど、前回の遺跡調査を思い出すと割と面倒臭い人だったような…。
「お前、もしかして旅の間ずっと引っ付いて来るつもりか」
「はい、護衛ですので」
「………。別に街の中は必要ねェだろ」
「いえ、他国では何が起こるかわかりませんし、それにこれでも一応侯爵家の出ですのである程度融通を利かせることはできるかと」
「チッ、貴族のお坊ちゃんの世話なんざご免だぞ」
「まさか!ジュカ様にそのようなことをさせるはずがありません!寧ろ私にジュカ様のお世話をさせて頂きたくっ!!」
「……………ハァ?」
何を言ってるんだこの人。
なぜ三男とはいえ貴族(しかも高位)のお坊ちゃんであり騎士でもある彼が、私の世話を焼くというのか。え?護衛ってそこまでするの?しないよね?
「なんでテメェに世話されなきゃいけねェんだ。必要ないに決まってンだろ」
「そうですか…」
いや、そんなにしょんぼりされましても…
「で、ですが、ジュカ様が心置きなく調査を行う為にも、私が憂いを払うのが一番良いのではないかと」
「くどい。必要ねェって言ってンだろ」
何でそんなにお世話したいんだこの人は。
ギッと睨みつけても、しょんぼりはするけれどほんのり嬉しそうなのが妙に腹立たしいんですけど。
とりあえずお世話したい欲は捨ててもらい、基本ハインリヒさんは私について回る予定だそうなので今後の流れについて説明していく。
「ハァ……とりあえず出発は明日だ。向こうに居る期間は特に決めてねェ。足りないもんは今日中に用意するか現地調達しろ、以上だ」
「わかりました。ちなみに船の手配はお済みですか?」
「あァ、知り合いの船に頼んである。チッそれの確認もか」
急遽一人増えてしまったのでジャンヌに確認をしなければ。忘れないようにその場でメッセージを飛ばすと、ジャンヌも丁度ログインしていたらしくすぐに問題無いとの返事が帰ってきた。
「一人増えるくらい問題ないとよ。明日はココに来い。何か質問は?」
「いえ問題ありません。態々確認して頂きありがとうございます。」
「フン、遅れるなよ」
「はい、勿論です」
そうして打ち合わせを終えた私たちは、そのままギルドを後にした。
◇
「おーい、コッチのやつも運んどいてくれ!」
「あ?おい誰だよコレこんなとこに置いた奴」
「なーなー!あいつ腹痛でログインするの遅れるから出発ちょっと待ってて!って言ってるけど」
「はあ?30分待って来なかったら置いてくっつっといて」
「りょー」
おーおー活気づいてますねえ!船に荷物が積み込まれて行くのって見てるとなぜかテンション上がっちゃうよね。しかも立派なガレオン船ですよ!帆が真っ赤でめちゃめちゃ格好いいです。
「フフン、どうだいうちのペペロンチーノ号は!立派なもんだろ?」
「まァ悪くねェな」
「そうだろ!」
相変わらず太陽のような笑みを浮かべて隣で胸を張っているのは、ペペロンチーノ海賊団のクランマスターことジャンヌである。
「ったく何でそんなに反応薄いんだよ。すげー!って驚くくらいしろっての」
その隣で悪態を吐いているのは、ジャンヌの幼馴染みであり副マスのカインである。
彼が不機嫌というか拗ねているのは、私がハインリヒさんというイケメンを連れて来たせいである。待ち合わせ場所に現れた私たちを見つけた時ものすごい顔で睨まれました。ゴメンて。
でもジャンヌは人誑しではあるけれど、別に男好きという訳ではないのだからそこまで気にしなくてもいいと思うのだけれど。いやもしかして逆か、ハインリヒさんがジャンヌに惚れたら困るのか。
うーんどうだろう?ハインリヒさんのあの笑顔は基本営業スマイルと変わらないとは思うのだけれど…。
「ったく相変わらずキャンキャンうるせェ野郎だな」
「あ゛ぁ?」
「でも確かにそうだよなァ、これ以上ライバルが増えちまったら困るもンなァ?」
「……わかってんなら連れてくんじゃねーよ!」
「はいはい、そりゃ悪かったな」
「くっそ…!ジュカだってあんなイケメン騎士なんざ連れ歩いて、女全部捕られても知らねぇからな!………いや、お前の顔ならそんな心配要らねぇのか。ケッ!」
やさぐれていらっしゃる。そうだね、今も目の前でハインリヒさんと楽しそうに会話してるジャンヌを見せつけられているものね。
実はカインとはちょこちょこ連絡を取り合っているので、最近では随分と遠慮が無くなってきている気がする。前はもう少しくらい取り繕っていたのにね。
「ンなことより、道中の魔物はどんなのが出るんだ?」
「んなことじゃねーよ…。まぁそうだな、基本は魚系で飛び上がって魔法を撃ってくるか突き刺さってくる奴らが多いな。あとは上から鳥系が結構来る」
「へェ。デカイ奴は出ねェのか?」
「あ~船が小型船だと船底に穴あけられたり、体当たりで転覆させようとしてくるのが出るけど、流石にこのサイズの船だとそういう奴らは来なくなる。あとはまぁ運が悪けりゃフィールドボスのイカ野郎が出るくらいだろ」
「なるほどな」
どうやら海で襲ってくる魔物は、乗っている船の大きさによって変わってくるらしい。
ペペロンチーノ海賊団も最初の船は漁船サイズのものだったそうで、沖へ出た瞬間にサメやらどデカイ魚系の魔物やらに船を破壊されて全員死に戻ったそうです。
ものすごく渋い顔をしたカインが言うには、船は一応修理で直すことも可能なのだそうだけれど、その修理費は馬鹿にならなかったとのこと。
なので小型船で魔物と戦いながら修理を繰り返すよりも、一気に船を大きくしてある程度の大きさの魔物は無視出来るようにした方が効率的なんだそうです。
フィールドボスも流石にこのサイズの船になると壊されはするけれど転覆まではいかなくなるらしく、なんとかギリ戦えるようにはなるらしい…とのこと。本当に大丈夫ですか?
それでもこのガレオン船もかなりの値段だったろうし、船の材料集めなんかもしてたみたいなので本当にお疲れ様でしたと言った感じです。そんな船にタダで乗せて貰っている私はかなりの幸運なのではないだろうか。心の中で拝んでおきますね。
そんな話をしていたらジャンヌたちも戻ってきた。
「いやあハインリヒはすごいね!話を聞けば大陸中を巡ってるそうじゃないか。聞いたこともない魔物の話なんかも多いし、また話を聞かせて欲しいね!」
「楽しんでいただけたようで何よりです」
カインが物凄くぐぬぐぬしています。
しかしこういった光景はいつもの光景なのか、周りのメンバーたちも「まーた姉御が誰か誑かしてんのか」「副マスどんまい」「あーいつものやつね」と全く気にした様子はない。気にしているのはカインだけである。
そんな中ススス…と近寄って来たハインリヒさんがそっと耳打ちしてくる。
「どうやらジャンヌ殿に特に問題はなさそうですね。戦力についてはまだ何とも言えませんが、船の大きさ・強度に関しては問題なくイグニス大陸まで辿り着けるでしょう。」
いやキミ情報収集しとったんかい!
さすが騎士様、お仕事に忠実である。あとついでのように「カイン殿のことは異性として意識はしていないようですね。」とか言うのは止めてさしあげなさい。カインが泣いちゃうでしょ。
悲しい事実の再確認はともかく、必要な荷物は船に積み終わったので私たちも揃って船へと乗り込む。
「荷物の積み忘れはないね?よーし、錨を上げなあっ!」
ジャンヌの号令で水夫 (クランメンバー)たちが甲板の上を動き回る。
船が完成してからそれほど経っている訳ではないだろうに、見事に統率のとれた動きである。この辺りもジャンヌやカインが上手くまとめてるんだろうな。
「それじゃあ行くよっ!出っっ航ーーー!!!」
「「「ぅおおおおーーーー!!!!」」」
そうして私たちを乗せたペペロンチーノ号は、大海原へと向かって動き出した。




