42.VS 野盗
パルゥに乗り遺跡を大きく迂回しながら密林を進む。
やはりこれはイベントで今は特別なフィールドになっているのか、普段なら襲ってくる魔物たちも今はその姿を全くと言っていいほど見掛けない。
暫く密林の中を走って敵の背後まで回ると、そのまま〈隠密〉を使って気配を隠す。
使う魔法はもう少しで進化させられそうな土魔法を使ってスキルレベル上げをしてもいいのだけれど、土魔法は物理属性にもなるからか当たると結構大きな音が出る。相手が金属製の武具を身に付けていたりなんかすると特にね。
なので奇襲ミッション中の身としては、やはりここは音の出ない風魔法一択でしょう。
風魔法が2次スキルに進化して最初に覚えたのは【ウインドバレット】である。
前方に放射状に射出される範囲魔法で、弾速も早く動いてる敵を狙うのなんかに適した魔法である。
しかし今は敵を各個撃破したいので、範囲魔法では寧ろ邪魔になってしまう。そうすると、ランス系も貫通してしまうと困るしアロー系がベストかな。
アロー系は杖を横に振りながら放てば矢が横並びに飛んで行くし、杖を構えたまま放てばほぼ同じ箇所に多段ヒットするという割と使い勝手の良い魔法である。
〈瞑想〉で魔法の威力を高め、目の前にいる回復職の男の後頭部に狙いを定める。
「ガハッ……」
〈急所〉+〈不意打ち〉+〈隠密〉のボーナスで結構なダメージである。
しかし敵も然る者、流石にこの一撃で倒すことは出来なかった。しかしそこは私の可愛いパルゥさんである。ふらついた敵の喉元に噛みつき、引き摺り倒す。
そのままゴキンッという音を立てて、どうやら敵は倒れたようだ。
………………。
うん、もしかしたらちょっとエグかったかもしれないね。うん…。
い、いやいや!これは奇襲ミッションですから!これが正解だから!ねっ!?
まあ何はともあれ、敵が倒せるなら問題は無いでしょう。
ではこの調子でドシドシ敵を狩って行くぞー!
・
・
・
………ふぅ。
始めは順調に奇襲出来ていたけれど、ガンガン敵を倒していけば流石に野盗側にも気付かれてしまう。
なので今は遺跡の外に立っている石柱の影に隠れて息を潜めております。
「ジュカ様」
ッ!?!?!?
「………チッ、こんな所で何してやがる」
ビッッッックリしたぁ!!えっ何でいるの!?というかいつ来たの!?全然気付かなかったんですケド!!
「私の役目はジュカ様の護衛ですから。遅ればせながら馳せ参じさせて頂きました」
「向こうの連中はどうした」
「あちらには隊長も居りますし、残っている騎士たちも己の仕事くらいはこなせるでしょう」
「……そうかよ」
ほぉん?ハインリヒさんて実は結構……
「ここは私がお守りするのでどうぞお下がりください…と言いたい所ですが、どうやらジュカ様は隠密行動に優れているご様子。それでしたら私が囮を務めますので、どうぞジュカ様はご自由に動かれて下さい」
護衛 とは
何?ハインリヒさんは私を守りに来たんじゃないの???
寧ろ戦うことを推奨されたんですが…。
まあ、確かに戦いたいし、大人しくしてろって言われるよりは全然いいんですけどね?何か釈然としないな…。
「他の調査員の方たちのように戦う術を持っていないのであれば大人しくしていて欲しいですが、ジュカ様のように戦う術をお持ちの方であれば、その戦いをサポートし一番動きやすい状況を作ることもまた一つの護衛の仕方なんですよ」
「ふぅン」
「それに」
「あン?」
「実は私も、防御より攻撃の方が得意なんです」
そういうと、ハインリヒさんは持っていた盾をインベントリに仕舞い、右手と同じようなロングソードを左手にも装備した。
「それでは行って参ります」
そう告げると、ハインリヒさんは両手にロングソードを構えた二刀流スタイルで敵へと突っ込んで行った。
うわあ……
完全なバーサーカースタイルで暴れるハインリヒさんはとても楽しそうである。
あの人普段はあんなに騎士然としてるけれど、実は中身は全然違いそうだよねえ。
さっきの自分の護衛対象以外はどうでも良さそうな発言といい、普段の笑顔もただの営業スマイルみたいなものだったりするんだろうなあ。
「ハァ…俺たちも行くか」
「ガルr」
幸い野盗たちの注目はハインリヒさんが掻っ攫って行ったため、どいつも背後がガラ空きである。
「おいテメェら何チンタラやってやがる!コイツ等はお宝をたんまり隠し持ってやがるんだ、絶っ対ェ逃がすんじゃねえぞ!なにがなんでも見つけ出すんだ!」
おや?もしやコイツが親玉なのかな?
それにしてもお宝ねえ…。
確かにチブチア族の宝飾品が見つかればお宝で間違いないでしょう。しかし私たちがお宝を隠し持っているのかと聞かれれば、答えは“ノー”である。
結局今回の調査でチブチア族の宝飾品が出てくることはなかったのだから。
てっきり今回の調査メンバーの中に内通者がいて、こちらの情報を野盗たちに流していたのかと思ったりしたのだけれど、どうやら違ったらしい。
まあそんなことはさておき、敵の頭は早めに潰しておくに限るよね。
◇
《『野盗たちの襲撃』をクリアしました。クリアした事により報酬とスキルポイントを入手しました──》
野盗の頭目を倒すと同時に、そんなアナウンスが流れた。
(あーやっぱりこれってイベントだったんだ。さて報酬は……と、おっゴールド!やったね)
どうやら頭目を倒すと残りの野盗たちは逃げて行くらしい。
もしかしたらこの残党たちの数によって報酬額が変わったりするのかもしれないけれど、ハインリヒさんが大分倒してくれていたので報酬はかなり良かったんだと思う。懐が大分潤いました。
そうして調査員のメンバーたちのいるセーフゾーンまで戻ってくると、リナさんたちが慌てたように駆け寄ってきた。
「ジュカさん!怪我はありませんかっ!?もうっ心配したんですよ!」
「そうですよ!あんなメモだけ残して、見つけた時は心臓が止まるかと思ったんですからね~!」
「……無事で安心した」
み、みんないい人~!癒される~!
表面上はハイハイと適当に受け流しているけれど、内心では歓喜の花が舞っていますよ。ニコニコしちゃうね。
「ちょっ何笑ってんですか!」
「ハイハイ、心配掛けて悪かったな」
思わずにやけそうになる顔を隠す為に、カールの頭をポンポンして奥へと引っ込む。
危ない危ない。ニコニコしたジュカさんは解釈違いですからね。にやけ顔が治るまでは大人しく引っ込んでおきます。
「くっ…!顔がいい……っ!」
「あれは……私がされていたら危なかったかもしれません…。」
「はぁ…。あれは魔性だな」
いや聞こえてるからね!?魔性ってなにさ!ジュカは男なんですけど!?
調査員は3人とも無事。騎士の中には何人か怪我した人もいたみたいだったけれど、そこはそれ、ポーションをグビッとやればあっという間に完治である。これぞファンタジーだよね。
そして次の日の朝──。
「よし!では出っ発!!」
だからうるせーのよ。
相変わらず必要性の感じられないバカでかい号令に頭を振りつつ、帰路へ着く。
…というか魔物の出る密林のド真ん中で叫ぶのはやめなさいな。
「残るはフュントまでの道程となりますが、最後までしっかり護衛を務めさせて頂きますのでよろしくお願いします」
帰りも行きと陣形は変わらず、横に並んだハインリヒさんが爽やかな笑顔で告げてくる。
「……フン」
横目でチロリと見た姿は相変わらず騎士然としている。
しかしこの騎士様は何気に我が強いし、意外と人の意見を聞かない。なので私の中では“ぞんざいに扱ってもいい人”というカテゴリーに分類されたので、一々真面目に応対する気は失せてしまった。
まあハインリヒさんもニコニコ笑顔のままだし、別に構わないでしょう。
帰りの道中も特に問題はなく、無事にフュントまで到着した。
この後は冒険者ギルドにて完了報告を行えば、今回の指名依頼は無事に完了である。
「ジュカさん、今回はご協力本当にありがとうございました。いつか機会があれば、ぜひ古代遺跡研究所にも顔を出して下さい。お待ちしています」
「ジュカさんお世話になりました!また調査依頼があったら一緒に行きましょうね!」
「世話になったな。……息災で」
「ふんっこの調査期間で宝物の一つも見つけられないとはな。嘆かわしいものだ。おいっサッサと王都へ帰還するぞ!もたもたするな!」
チョビ髭さあ~~~!!!もうなんなの?お前本当にさぁ…
調査員たちとこのチョビ髭の差よ。
そりゃモテないよ。髭はもう一生独身でいた方がいい。それがきっと世の為人の為になるから。
するとそこへスルッとハインリヒさんが現れた。
「ジュカ様、この度は大変お疲れ様でした。あの、もしよろしければ連絡先をお伺いしてもよろしいでしょうか」
「あ?」
連絡先とはつまり、フレンド交換である。
なぜに?と問い返してみれば、
「いえ、もしかしたら今後今回のことで何かご連絡を差し上げることがあるかもしれませんので…」
とのこと。
ジッと見つめ返してみるも、その顔はうっすら微笑んだまま。
……まぁ知られた所で特にデメリットはない、かな?
「……オラよ」
「ありがとうございます」
そうして、一週間に渡る調査依頼は無事に終わりを迎えた。




