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3.戦闘チュートリアル

バイザーを外して身体を伸ばす。

うーんとストレッチをしていると、スマホにメッセージが届いていることに気が付いた。


『チュートリアル終わったら連絡くれるって言ってたけど、全然連絡ないし何かあった?私今はお昼ご飯食べて休憩してるから、何かあったらこっちに連絡してね』


どうやら姉の冬華も休憩していたらしい。

うっかりチュートリアルに時間を掛けすぎてしまったものだから、心配させてしまったようである。(尚まだ終わっていない)


相変わらず過保護な姉に苦笑しつつ、謝罪のメッセージを送りながら自分も昼食をとるべく部屋を出た。


『冬華姉心配かけてごめんね。ギルドでうっかり資料室に籠ってたらこんな時間になってました。

ちなみにまだチュートリアル終わってないので、もう少し待っててください』


すぐにピロンッと返信が届く。


『まだ終わってなかったんかーい!w

了解、ログインしたらお店で作業してるから、また連絡してね』



「『了解』っと…」

姉は最近ようやく自分のお店を持てたらしい。自分のと言っても姉個人の店ではなく、友人二人と合同でお金を出しあって契約したのだとか。


この友人二人というのは姉の学生時代からの友人で、私もよく一緒に遊んでもらった人たちだ。姉と趣味が同じなためか社会人となった今でも仲が良く、こうやってゲームの中でもよく3人で何かしていることが多い。

今はアクセサリーや防具メインの店を3人でやっているらしく、話を聞いた感じでは“トータルコーディネート出来る店”として結構プレイヤーに人気なのだとか。


たまに同じゲームをすると私のキャラに合わせた防具をよく作ってくれたりしていたので、どうやら今回もそうしてくれるつもりらしい。姉たちのセンスに任せておけば間違いないので、今回も楽しみにしたいところ。

しかし1陣のプレイヤーであり、人気の生産者であろう彼女たちが作る防具である。果たして今日始めたばかりの私が買えるのは一体いつになることやら。正直姉だけだと「インスピレーションを刺激してもらったお礼!」だとか言って下手するとタダで貢いできそうなので、姉の友人たちに協力してもらってでも何とか阻止せねばならない。いくら身内であろうともおんぶに抱っこはよろしくない。その辺は大切なことなのである。


などとちょっと遠い目をしつつも昼食を終え、私は再びRFOの世界へと戻って行った。




《冒険者ギルドで依頼を受けてみましょう──》


ログインした途端、まるで早よ受けろやと言わんばかりに通知がきた。

もしかしたら未完了のクエストがあると、ログインと同時に知らせてくれる設定があるのかもしれない。ちょっと圧が強い気がするけれど。


通知に急かされとりあえず部屋を出るも、まずは1階の食堂で腹拵えをしてからギルドへと向かう。

どうやら依頼は戦闘のチュートリアルになるらしく、討伐依頼しか受けられなかった。とりあえず<ホーンラビットを3匹討伐しよう!>という依頼を受領すると、《戦闘フィールドへと転送します──》というアナウンスの後に一瞬で知らない場所へと景色が変わっていた。


そして目の前には10㎝ほどの角を生やしたウサギ。


《戦闘のチュートリアルを開始します──》

《まずは武器、又は魔法を使用して攻撃してみましょう──》


やたらシンプルな指示に、いやもう少し詳しい説明を…と思ったけれど、長杖を構えてみるとフッと頭の中に使い方が浮かんでくる、という何ともファンタジーな仕様により無事解決しました。


魔法はまず【使用したい魔法】を選択すると、杖の上に光の玉と同時に詠唱ゲージが現れる。そしてそのゲージが溜まると実際に詠唱はしなくても発動可能状態となるらしい。そこから杖を振るなり敵に向けるなりすると、光の玉が飛んで行って相手を攻撃する。

たぶんレベルの高い魔法になるにつれ、この詠唱ゲージが長くなっていくんだと思う。

そして〈杖術〉の方は、とりあえず殴る・突く・払うといった動きが出来るらしい。あ、魔法の効果が上がるとかではないんだ…とちょっとショックを受けたりもしたけれど、大体理解した。


まずは目の前のホーンラビットを見つめながら風魔法の【ウィンドボール】の詠唱を開始し、狙いを定める。


ひょいっと飛ばした魔法が直撃するも、削れた体力バーは3分の1ほど。

これは風魔法のレベルが低いからか、それとも私の知力が低いから威力も弱いのか……

とりあえず攻撃されて怒ったホーンラビットが向かってきたので、杖で殴っておく。


パリンッと体力バーが全損したホーンラビットが淡く光ったかと思うと、そのまま光の粒子となって大気に溶けて消えていった。


《ホーンラビットを倒しました》

《続けてあと2匹倒してみましょう──》



その後2匹のホーンラビットもサクッと倒して分かったことは、魔法を打つよりも殴った方が早い。ということでした。

いや、知力が低いのは最初から分かっていたことである。今後の成長に期待、ということで良しとしましょう。


そんなこんなで無事討伐が終了すると、再び景色が一瞬で切り替わりギルドへと戻って来ていた。


「お疲れ様でした。こちら討伐報酬の150Gになります。」


150G。1匹50Gというのはたぶんこれが討伐依頼の最低価格なんだろう。

戦闘終了後は経験値の他に、ホーンラビットの角、肉、皮がドロップしているので、序盤はおそらくこれらを売って金策をするのが1番オーソドックスな進め方なのかな。

特に残しておきたい物は無かったので、全てギルドで売り払う。微々たる額ではあるけれど、ゲーム序盤というのはこれだけでも結構わくわくする。そして笑顔の受付嬢に見送られてギルドを出ると、


《以上でチュートリアルは終了となります。元の場所へと転送します──》


アナウンスとと共に周りの喧騒が戻ってくる。

まだまだ街中に溢れかえるプレイヤーたちにうんざりするも、その輪の中から外れ路地の片隅まで行きシステムを開く。そこで姉から教えてもらっていたフレンドコードを入力してメッセージを送った。


『夏樹です、ようやくチュートリアル終わりました。冬華姉のお店ってどの辺?あ、私の今回の名前はジュカでいくのでよろしくね。』


返事はすぐに返ってきた。


『お疲れ~!お店の位置は地図を添付しておくね。今回はジュカちゃんなんだね!了解、お店で待ってるよ~』


添付されていた地図を確認すると、姉の店はどうやら街の南側にあるらしい。

冒険者ギルドからは少し離れているので、スキルのレベル上げもかねてその辺の物をどんどん鑑定しながら歩いて行く。

そうして色々とチェックしながら歩いていると、ものによって鑑定した際の説明に差があることに気が付いた。


例えば、


[素材]ホーンラビットの皮 品質:普通 レア:No(ノーマル)

[備考]草原に多く生息する角ウサギの皮。冬の防寒具として庶民に人気があるが、1枚が小さいため防寒具にするには数が必要。真っ白な毛皮は貴族にも人気がある。


[武器]鉄の剣

[備考]鉄で打たれた剣。


これである。

んん…?あぁこれはあれですね、ギルドの資料で見たかどうかの差かな。

ギルドは主に周辺の魔物や植物の情報、野営の注意事項など冒険の基礎というべき情報が多かったと思う。武器についての資料は見ていないし、たぶんそれが原因なんじゃないのかな?


ついでにステータスを確認してみると、鑑定のレベルがすでに3に上がっていた。

鑑定するだけでもレベルは上がると思うのだけれど、知識を得ることでも鑑定レベルが上がるというのもどこかリアルで面白いね。うん、これはさらに本を沢山読まねば!


そんなこんなで無事姉の店の前にたどり着いた。

事前に聞いていた通り、『Viola(ビオラ)』という店名を確認していざ入店!看板の下にcloseの札が掛かっていたけれど、まぁ問題ないでしょう。



───カランカラン

軽やかなドアベルの音に、奥の机で作業をしていた黒髪の女性が振り返る。


「はー……ぃ、……え?」

目と口をパカッと開けながらこちらを見つめる女性に、ニヤリと笑いながらフードを払う。



「よォ、待たせたか?」



「?????えっ……えっ!?ジ、ジュ、ジュカ()()!?!?」

「あァ、()がジュカだ」


名前を名乗ってはみたものの、姉の混乱は治まらず未だ拳を握りしめながらプルプルと震えている。


「ンギ…ギ…ぎゃ……」

「ン?」


突然の鳴き声に首を傾げる私。




「んぎゃっこ"い"い"ぃぃぃーーー!!!!!!」




うるっっっさ!?!?!?

思わず猫耳を伏せ、眉間に皺が寄る。


「ちょっ何や今の声!?!?」

「何事ですか~?」


姉の突然の奇声に奥から人が飛び出してきた。

その間も奇声を上げ続ける姉に、顔をしかめる私。


「おい、コレを何とかしてくれ…」


「えっ誰やこの褐色イケメン???」

「ふぅん、ワイルドなイケメンにキュートな猫耳ね………………たまんねえな」

「おい、中身が漏れとるで」

「うふふふふ、失礼しました。あら?でも今日は夏樹ちゃんが来るからお店閉めてたんじゃなかったんですか?」

「う"ぅ~~()がナっちゃんだよぉ~!ひぃん、カッコいいよおぉぉ……」



「「マジかよ」」




相変わらず仲の良い三人である。


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― 新着の感想 ―
やっぱ“ひぃん”って鳴くヤツは変な癖があるな……www
わざわざプレイヤーとNPCの境が無いって銘打ってるからにはロールプレイの方がやりやすいのかも?
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