38.指名依頼
セレン様と別れた後は、真っ直ぐ冒険者ギルドへとやって来ました。
受付の方に顔を向けると、受付嬢も私に気付いたらしく声を掛けられる。
「ジュカ様お待ちしておりました。依頼の件でご相談があるのですが、お時間よろしいですか?」
「あァ、大丈夫だ」
「では別室にてご説明させて頂きますね。」
受付嬢の常とは違う対応に多少周りがザワザワしているけれど、それに特に反応することもなく部屋へと向かう。
「別室で依頼の相談ってなんだ?」
「密室で二人きり……だと!?」
「さあ?何か特別なクエストとか?」
「え~裏山。どこで見つけたんだろ」
「さあな。てか内容によるだろ」
「それな~。あースキルポイント足りね~」
「何か良さげなクエストねえかなー」
一般的なRPGだと最初に出てくる敵は弱く、ストーリーの後半になるにつれ敵は強くなっていく。
なので物語が進むにつれて最初の街には寄り付かなくなることが多いけれど、RFOはオープンワールドなこともあってこの最初の街であるヤヌルカの周辺にも強い敵はいるし、序盤ではオーバースペックとなるような武器を作る腕のいい職人もいたりする。
なのである程度の街が解放された今でも、ヤヌルカを拠点にしているプレイヤーは結構いたりするんだよね。
うんうん、住民との交流を深めるとどんどんディープな情報が出てきたりなんかもするものね、楽しいよね。
あと別に受付嬢とデートの相談をするわけではないので、そんなに睨まないで下さい。
「お待たせして申し訳ありません。先日お話した遺跡の件で指名依頼が来ていますので、そのご説明をさせて頂きたいのですがよろしいですか。」
通された部屋にやって来たのは、前回も対応してくれた事務長のへルマンさんだった。
「あァ、内容は?」
相変わらず資料の角をキチッと整えながらへルマンさんが言うには、どうやら今回の指名依頼の内容は遺跡までの道案内とその調査のお手伝いらしい。
「調査は王都の研究所の奴らがやるんじゃねェのか?」
「ええ、本格的な調査は勿論そうなります。ですが今回はその本格的な調査をする為の下準備といいますか、遺跡がどの程度の規模で何をどのくらい準備していったら良いのかを確認するための調査、といった形になります。」
「なるほどなァ」
「なので遺跡内部にどのような物が残されているのかを知る為にも、古代語の知識をお持ちのジュカ様は正にうってつけなのでしょう。」
「ふぅン」
まあ私が調べたのは最奥の部屋だけだったけれど、遺跡自体は結構な規模だったし、あんな密林の中で調査を続けるにはある程度生活するための施設なんかも必要になってくるんだろうね。
「今回調査に同行するのは、王都の古代遺跡研究所の研究員が3名にその護衛として騎士団から6名の者が付く予定だそうです。この護衛対象の中にはジュカ様も含まれていますね。」
「態々騎士団が出てくンのか?」
遺跡は魔物の出る密林のど真ん中にあったし、そりゃあ研究員さんに護衛は付くだろうとは思っていたけれど、てっきり別の冒険者が来るのかと思っていた。
それに一応私も冒険者ではあるんだけれど、研究員の人たちと一緒に守ってもらえるとは。てっきり自分の身は自分で守れスタイルなのかと思ってました。
それを伝えると、「まあ監視の意味もあるんでしょうね」とのこと。
え?監視とな?
「それだけ今回発見された『チブチア族の遺跡』というのが重要だということですよ。」
「ンなに重要な部族だったのか?」
「『チブチア族が』というよりは『チブチア族の作った宝飾品が』といった方が正しいですね。チブチア族の作った宝飾品というのは、王侯貴族の間でも愛好家が多いことで有名ですから。彼らの残した宝飾品、又はその技術の一端でも見つかれば、国で確保しておきたいのでしょう。」
「ハァ…面倒臭ェ」
「まあ要は猫ババさせないための監視、といった所でしょう。」
いやまあ理屈は分かりますけどね?
パルゥの装備を見れば、それに物凄く価値があることも愛好家が多いのも分かりますけどね?
え~……何か物凄く依頼受けたくなくなってきたんですけど…。
不機嫌さを示すように尻尾がタシンタシンとソファを叩いている。
すると私が依頼を断りそうな雰囲気を察したのか、へルマンさんがこんな言葉を掛けてきた。
「ちなみにこの調査で成果を上げられますと、“考古学者”の職業に就ける可能性が高くなりますよ。」
「…………」
それ司書のおじ様も言ってたけどさ~、別に職業に就いたからってステータスが上がる訳でもないし?しかも確実に就けるじゃなくて、可能性の話でしょ~???
別にこの依頼受けなくても考古学者になれなくなる訳じゃないしな~。
「『考古学者』になるメリットは?」
「そうですね…。国の管理する遺跡への入場許可、遺跡・遺物に関する情報開示、別大陸への渡航許可が降りやすくなる…といった辺りでしょうか。」
「!………。」
マジですか!?
め、めちゃめちゃ魅力的……っ!
依頼は面倒臭そうな雰囲気がプンプンするんだけれど、たぶんこれ調査でキッチリ成果を上げられたらワンチャン職業ゲット出来るのでは…!?ぐぬぬ…
「かしこまりました。それではそのように連絡しておきます。」
くっ、国家権力に屈してしまった…っ!
まあいいでしょう。悩みはしたけど、この依頼は元々受けるつもりだったしね。
「あとは調査期間ですが約一週間となっています。調査報酬は案内料とは別に、その期間で調査した分だけ報酬が支払われる歩合制になるようですよ。」
ふむふむ。頑張れば頑張るだけ報酬が貰えるシステムですか。
いつからクエストを開始するかはこちらから選べるようだし、ちゃんとプレイヤー側の都合に合わせてもらえるのはありがたいね。
まぁいつの時間が都合がいいかなんて、それこそプレイヤーによって千差万別だろうしね。
うん、クエストは次の土曜日に開始でお願いしました。
土日をフルに使って、報酬をたっぷり貰って職業もゲットするぞ~!
◇
「という感じで今度の土日に遺跡調査のクエストに行ってくるよ」
『へぇ~、この間話してた遺跡ってそんな続きがあったんだねえ』
あれからログアウトしてのんびりしていたら冬華から電話が掛かってきたので、ついでにさっきの冒険者ギルドでの話を伝えておいた。
『でもそれってもしかしたらチェーンクエストなのかもね』
「チェーンクエスト?」
『そうそう。まあ簡単に言ったら続きのあるクエストだね。一つのクエストを達成するとその続きのクエストが来て、それをクリアするとまた次のクエストがーってやつ』
「ああ、そういう。でもクエストのアナウンスなんて出てたかな?」
『あーそれは多分だけど、“非表示”タイプのクエストなんじゃないかなあ?』
「そんなのあるんだ」
『あるんだな~これが』
椿によると、クエストにはクエスト欄に普通に表示される“通常”タイプのクエストと、クエスト欄に表示されない“非表示”タイプの2種類のクエストがあるのだとか。
えっ表示されないならどうやってクエストって分かるの?
となりそうなものだけれど、シークレットタイプのクエストはクエストが完了した時に初めてアナウンスが入ってクエストだったと分かるシステムだそうです。
…………。
そういえば遺跡で最奥の部屋の解読が終わった時にクエスト完了の通知が入って、「あれ、これってクエストだったんだ?」ってなりましたねえ!
なるほどなるほど、
これはシークレットクエストですね。
『でももし本当にそれがチェーンクエストだったら、調査中に何かイベントがあるかもね~』
「イベント?」
『うん。一応今確認されてる情報だと、チェーンクエストって最低でも5つくらいは続くみたいでね』
「そんなに続くんだ」
『まあ選択を間違えちゃうと途中で終わっちゃったりとかはあるみたいだけどね』
「ふぅん?そういうこともあるんだ」
『あるみたいだよ?例えば依頼者を護衛するクエストだったのに、その護衛対象が殺されちゃったりしたらクエストも続けられないからね~。まあこれは間違いっていうか失敗扱いだけどね』
「なるほど。確かにそれは続けられないね…」
つまり椿は何を言いたかったかというと、今回の依頼で私も護衛対象に含まれてはいるけれど、もしかしたら戦闘もあるかもしれないから準備は怠るなよ。ということである。
う~ん流石ゲームの世界。殺伐としてるね!




