33.ドーラ
「あ~ーーやっと着いたなぁ!」
「おー!やっぱり港町は活気があっていいねえ」
「どこかで美味しい海鮮料理でも食べたいですね~」
途中の村で一泊して、無事ドーラに到着しました!
う~ん、白い壁にオレンジの屋根、窓や建物の周りを飾る色鮮やかな花や緑が街の活気に更に彩りを加えているね。
風が運んでくる磯の香りに魚介の気配を察知したのか、中々戻ろうとしないパルゥさんをなんとか宥めて送還する。
「さて転送装置も無事に登録できたし、この後はどうしよっか?」
「せやな~。とりあえずは腹ごしらえせぇへん?」
「いいですね~。どこかにいいお店はあるかしら?」
私がパルゥとの静かな攻防を繰り広げていた間に、次の方針は決まったようです。
「旨い飯屋ならコッチだ」
「あれ?ジュカくんもドーラに来るのって初めてだよね?」
「事前に情報くらい仕入れるモンだろ」
「さっすが~!ジュカくん頼りになるぅ!」
「フン」
そんな会話も挟みつつ、尻尾をフリフリへルマンさんに教えて貰った店〈海猫亭〉を目指して進む。
ギルドの事務長が勧める地元民にしか知られていない隠れた名店である。期待に胸は膨らみ腹は減る。それにしても聞いた後店の場所がマップに登録されていなければ、絶対に辿り着けなかった自信がある。路地裏入り組みすぎなんですけど…。
「なあ、ホンマに道合うてるん?えらい奥の方まで入って来とるけど」
「街の中ってここまで作り込まれてたんですね~」
「お店持つと基本出歩かなくなるからねー。なんか新鮮」
マップを頼りに暫く進んでいると、周りが住宅街といった雰囲気に変わってきた。
井戸端会議をする住民の奥様たちやおいかけっこをする子供たち。窓辺の花壇の世話をする人なんかを見ると、NPCもちゃんと生きてるんだなぁという気分になるね。
そしてマップの示す場所はこの先である。
「ここだな」
目の前には風通しの良さそうな大きな窓に、扉の上の“海猫亭”の文字。そして開け放たれた扉からは美味しそうな匂いが漂ってきている。
「おぉ~めっちゃええ匂いやな!」
「楽しみですね~」
「この匂いだけでお腹空くね、早く入ろう!」
3人に急かされて扉を潜ると、奥から気っ風のよさそうな女将さんが声を掛けてくれる。
「いらっしゃい!あんたたち4人でよかったかい?空いてる席に座って待っててちょうだいな」
その言葉に適当に席に着くも、どこにもメニューが見当たらない。
「おや、あんたたちうちは初めてかい?うちのメニューは一つしかないのさ、この【シェフの気まぐれ定食】ってやつだね。その日仕入れたモノによってメニューが変わるんだけど、これが中々旨いって評判なんだよ!」
へえ!リアルでもたまに聞くけれど、実際にこういう形の店に来るのは初めてである。
博打的な面はあるけれど、旬のものを食べれることは間違いないしそもそも地元民に人気の店である。これは期待が高まりますね!
「ジュカくんご機嫌だね~」
「うぷぷ、めっちゃ耳がピコピコ動いとるで」
「ご馳走さまです」
くっ…!またしても耳がっ…!そしてユリさんは一体何に対しての挨拶なんだ!
3人に生温い目で見られつつ待つこと暫し。
出てきた料理は、アサリにしては大分大きい貝のワイン蒸しに魚のフライ、バゲットのセットだった。
フライについてるソースはタルタルかな?貝のワイン蒸しからは立ち上る湯気からワインの香りが鼻腔をくすぐる。
貝を一つ取ってチュルンッと口の中へ流し込む。
貝の出汁と旨味のエキスが混ざり合ったスープが口の中を幸せにしてくれる。このスープ一生飲んでいられる…。さらの肉厚な貝の身に歯をたてれば、そこからさらに溢れだす濃厚でクリーミーな味が五臓六腑に染み渡る。
「うんまあ~~~……」
「この魚のフライもサックリしてていいですね~。この濃厚なタルタルソースとよく合います~」
「んん~美味ひぃ~!」
椿たちも気に入っているみたいで良かった。
というか本当に美味しいな、この店。へルマンさんに感謝である。
残った汁やソースも、バゲットをつけて食べれば最後まで楽しめる。
あとこのタルタルソース、何気にニンニクがきいていてめちゃめちゃ美味しい。このソースだけでも食べたいくらいです。
全員ペロリと平らげ、大満足で店を出る。
「いや~満腹やわぁ。ええ店やったな!」
「本当ですね~また来ましょう」
「うんうん、ジュカくんに感謝だね!」
いや、是非ともお礼はへルマンさんにお願いしたい。また今度お礼に何か持って行こうかな。
その後の椿たちは素材を求めて市場へと繰り出して行った。
私はそこでお役御免となったので、探索も兼ねてその辺をお散歩することに決めブラリと歩き出した。
◇
コツンコツンと石畳の上を進んで行く。
街の大通り沿いは武器屋や防具屋、冒険に必要なアイテムを取り扱う道具屋など需要の高い店が軒を連ねている。
反対に需要の低いものや言ってしまえばプレイヤーたちにとってはあまり必要のないもの、花瓶や時計、絵画のような嗜好品に相当するものなんかは路地を入った裏通りなんかにある。
まあホームを持てば多少の需要は出るかもしれないけれど、今のところはほぼ住民用と言っても過言ではなさそう。
そんな裏通りをブラブラしている今現在。
よく見れば絵画の一つ一つにちゃんと作者のサインが入っていることに気が付く。
「はえ~細かいなぁ」と細部への拘りに感心していたけれど、その内プレイヤーの中からも有名画家が誕生したりするんだろうか?
実は椿たちの店〈Viola〉にも、時折住民の冒険者が買いに来たりすることもあるらしい。さすがにベテランが着るには能力が低いので、来るのは駆け出しっぽい冒険者らしいのだけれど。
でも「デザインが気に入った」と何度も通ってくれる住民も居るようなので、それは嬉しいだろうなと思うのと同時に、AIのレベルの高さにまた驚かされたものである。
そんな裏通りを歩いていると、ふと一軒の店が目に留まった。
(あれは………)
店のショーウィンドウには、何やらよくわからない像やら古そうな照明器具なんかが飾られている。
さらに奥に見えている店内も、飾られているものに統一性はなく、雑多なものが置かれている上にどれも年季が入っていそうな物ばかり。
(ま、まさかこの店は……!)
骨董品店ではないですか!?
正に浪漫の塊のような店である。入らないわけがないよね!
という訳で早速お邪魔します。
チリンという軽やかな音を立てて入店すると、古いものが色々と混ざりあった独特の匂いが鼻をつく。
古本屋なんかもそうだけれど、古いものって独特の匂いがあるよね。嫌いじゃないです。
そしてゆっくりと店内の品物を見て回っていると、嬉しいことにちょこちょこと【???の欠片】を発見した。
これを集めて行けば、また〈リューヒカイト語〉のように新しい古代語のスキルを取得出来るだろうと思うとニヤニヤ笑いが止まらない。いえ、不審者ではないんです、通報は止めて下さい。
今回の【???の欠片】は小さな香炉だったり、複雑に編み込まれた組紐だったりとリューヒカイト語の欠片とはまた違った趣のものだった。
次はどんな歴史に触れられるのかとワクワクしながら欠片を集める。おそらくこれで全部だろうと会計に向かうと、香炉だけはやたらと高かったけれど他はそこまでではなかったのでほっと胸を撫で下ろす。
まあでも【???の欠片】は欠片と言うだけあって、そもそも壊れたり欠けたりしているものが多いのでそこまで高いものはあまりないんだけどね。
店の去り際に「他に似たような品を売っている所は知らないか」と尋ねてみたけれど、残念ながら知らないと言われてしまった。
その代わりこの街でも蚤の市を開いている所があると言って、そこならもしかしたら掘り出し物があるかもしれないとのことだったので、有り難く場所を教えてもらいました。
ちなみに会計をしてくれた青年はこの店の店主のお孫さんだそうです。
もともと店主の祖父が道楽で集めた物を売っている店だそうで、今日はたまたまお孫さんが店番をしているとのこと。
残念ながら彼は骨董品には興味がないらしく、店番をしているのもおじいさんがぎっくり腰で動けなくなってしまったからだそうです。
う~ん、もしそのおじいさんが居たら、仕入れ場所とか見つけた場所を色々聞いてみたかったんだけどなぁ。残念。
しかし蚤の市なら掘り出し物にも期待はできるだろう。前に欠片を見つけたのも蚤の市だったし。
そしてドーラはこの大陸の玄関口。
ものだけではなく、住民たちも人族だけではない多種多様な種族の人たちが集まっているのだ。きっと私が求めているものだって見つかるだろう。
(フフフ……さて、どれだけの欠片が集まるかなぁ)
耳はピコピコ尻尾はユラユラ
──新たなお宝どこだろな。




