30.ギルドへ報告
「それじゃあ各々準備するものとかもあると思うし、日にちが決まったらまた連絡するね!」
「あァ、じゃあな」
椿たちに別れを告げて店を後にする。
ふむ、思わぬ形で時間が出来てしまった。元々私は拠点もないし、準備と言っても回復薬などの消耗品を補充すれば完了である。
あぁ、それなら図書館でドーラまでの情報を集めておいてもいいかな。
「いらっしゃいませ。本日はどのような本をお探しで?」
「ドーラ周辺の情報を適当に」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ。」
そう言って案内してくれるおじ様の後に続き、目的の本棚へと進んで行く。
「………騎獣を無事に手に入れられた。一応礼を言っとく」
「それはそれは、ようございました。しかしそれはあなた様の功績。礼は不要ですよ。」
「フン。あァそういえば、ついでに忘れられた遺跡も見付けたぜ」
「それは………真ですかな?」
「あ?真に決まってンだろ。オら、これが遺跡で見つけた文字の写しだ」
「……失礼致します。」
嘘じゃないもんっ!本当に遺跡あったんだもんっ!!
という茶番は心の中に留め置き、おじ様に嘘つきと勘違いされてしまうのはとても悲しいので、証拠品として書き写したメモを差し出す。
「こ、これは………!?」
おぉ、普段は常に好々爺然としていて逆に心の内を読ませないおじ様が、珍しく驚きの感情を顕にしている。
「………ちなみにこちらの情報をギルドへ報告などは?」
「してねェな」
「でしたら、ぜひ報告なさることをお勧め致します。新しく発見された遺跡や情報には報酬が出ますからな。」
「ふぅん」
「……ただ、その場合は信憑性を確かめる為に、調査への同行依頼などが出るかもしれませんが。」
「面倒臭ぇ」
「その場合は特別依頼となりますので、そうした実績を積み重ねますと新たな職業に就けたりしますぞ。」
「…………。」
ぐぬっと押し黙った私に、ホッホッホッと笑いながらメモを返してくれるおじ様。
完全におじ様の掌の上で転がされている気がしないでもないけれど、確かに魅力的な話ではある。
べ、別に元からギルドへは行くつもりでしたし?
報酬が貰えるのなら、そのついでに報告してもいいかなってだけですし?
特別依頼を受けるかどうかなんてまだ分かりませんからねっ!?
ちくせう。頭の中でホッホッホッ……というおじ様の笑い声がリフレインしている気がする…。
図書館で情報を集めること暫く。
とりあえずドーラ周辺の情報は粗方調べられたかな。
道中にある村の位置に、出てくる魔物の情報。
あとはドーラの特産品等々……
そういえば前にギルドの資料室で“る○ぶ”的な観光案内本を見つけたけれど、あれの《ドーラ編》とかは置いていないんだろうか。
それぞれの街でその街の情報しか得られないっていうのは何気に結構不便なのでは…?
それとも住民たちは観光旅行とかはやっぱりしないのかな。……まあ街の外は魔物もいて危ないし、態々危険を犯してまで旅行したりはしないのか。
何にせよ情報収集はこの辺でいいかな。できれば美味しい海鮮のお店なんかも知りたかったんだけれど、これは現地で探すしかないか。
きっとドーラの冒険者ギルドには、“る○ぶ《ドーラ編》”があるだろうし今度は忘れずに寄らねば!
………っとその前に、ヤヌルカの冒険者ギルドにもね。
◇
「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ。」
相変わらず素敵な笑顔の受付嬢に迎えられる。
まずは納品依頼で納品出来るものはしてしまい、残りの魔物素材は全部売り払ってしまおう。
……うん、中々の収入ですね。
普段は荷物が一杯になるとその辺の店で適当に売っていたので、ギルドポイントも稼げるのであれば、今後は面倒臭がらずにちゃんとギルドに売りに来ようかな。
「クエストとは別で報告があるんだが?」
「……かしこまりました。では別室へご案内しますので、そちらで報告をお願いします。」
受付嬢に尋ねると同時に〈リューヒカイト語〉のメモを一緒に見せると、チラッと視線で確認した後にっこり笑顔でそう言われた。
へぇ、不用意に情報を広めないようにちゃんと徹底されてるんだ。
「それではこちらの部屋でお待ち下さい」
通された部屋でのんびりと出された紅茶を飲んで待っていると、暫くして一人の男性が入って来た。
「お待たせ致しました。私はこの冒険者ギルド〈ヤヌルカ支部〉で事務長をしておりますへルマンと言います。さて今回は何か報告があるとのことでしたが、こちらの古代文字に関すること、ということでよろしいですか。」
「あァ」
目の前に座ったのは、金髪の30…いや、40代くらいの男性だろうか。
机の上に置かれた資料の向きを然り気無く揃えているあたり、真面目な人っぽいね。神経質そうとも言う。
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「ふむ………どうやら間違いなさそうですね。それではこちらはギルドから王都の研究所へと報告させて頂きます。ああ、その際遺跡までの案内などで指名依頼が出る可能性が高いので、こまめにギルドへ顔を出して頂けると助かります。」
へルマンさんに遺跡の大体の場所と内部の状況、あとはリューヒカイト語が刻まれていた柱の部屋の情報なんかを話して一息つく。
第一印象は取っ付きにくそうなイメージがあったけれど、話をしてみると意外と聞き上手で割と話しやすい人だった。
まぁ事務長といえば、ギルド内の人事管理なんかにも関わっているだろうし、ギルド員の話を聞いてあげることも多いだろうから納得といえば納得、かな?
確かに冷静に話を聞いてくれそうなイメージはある。
というか、これってもしかしてギルドに全然寄らないと、折角指名依頼が出たとしても本人不在ということで別の人に流れてしまったりするのだろうか?
流石にそれはないと信じたいけれど………うん、今後は必ずギルドに寄って行くように気を付けよう。
「それにしても、よく忘れられた遺跡を発見できましたね。」
「まァ、ヒントはあったしな」
「ヒント……ですか?」
「?図書館の“特別蔵書室”に置いてあンだろ」
「!?……なんと、資格をお持ちで?」
「無きゃ入れねェだろうが」
「え、ええ、その通りです。いやしかし驚きました、巡り人の方で“特別蔵書室”のことをご存知の方はあまりいらっしゃらなかったものですから。」
「そうかよ」
なるほど、意外と“特別蔵書室”の存在を知っているプレイヤーは少ないらしい。
こういったゲームで検証好きなプレイヤーは割と居るし、学者系の称号を持っているプレイヤーはそこそこいると思ってたんだけどな?
もしかしたら“特別蔵書室”の存在を知るにも何かトリガーが必要なのかもしれない。
「アーノルドさんの審査は中々厳しいですからね。」
「アーノルド?」
「おや、ご存知ありませんか?図書館で司書をなさっている丸眼鏡をかけた男性ですよ。」
「そういや名前は聞いてなかったな」
「そうでしたか。彼は長年あの図書館に勤めている方で、噂によれば訪れた人は全て覚えているそうですよ。」
「……やべェな」
「ええ、凄い方ですよ。知識も大変豊富な方ですので、ギルドが助言を貰いに行くこともあるんです。」
なんと図書館のおじ様改めアーノルドさんは、かなり凄い人だったらしい。
一応アーノルドさんの審査とは何だったのかと聞いてはみたけれど、やっぱり詳しくは教えてもらえませんでした。当たり前か。
その後は少し雑談をして、ついでにドーラでお勧めのレストランなんかも教えて貰ってからギルドを後にした。
へルマンさんも流石ギルド員というか何というか中々の情報通で、地元民しか知らないという隠れ家的な名店から、本人は全然行きそうにない最近人気急上昇中のふわふわパンケーキのお店までしっかり教えてくれました。
いや、あなたジュカの顔見てよくそのお店紹介できましたね?




