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22.騎乗チャレンジ

ヴァイスを出て東へ向かう。

とは言ってもヴァイスは鉱山に囲まれているので結局は迂回しなくてはいけないのだけれど。一度南へ下ってからもう一度北へ行くというとても面倒な道程である。

でもそれをしないと平野が続くエリアになり、敵が群れで襲ってくる地帯に入ってしまうので致し方なし。冬李兄が「とても面倒臭い」と言うだけあって、敵がひっきりなしに襲ってくるためさすがにパーティを組んでいないと厳しいらしい。


なのでソロの私は大人しく、迂回した先にある森の中をステルスしながら東へと向かうのである。



森の中も勿論敵は出てくるけれど、基本単体か多くても2、3体である。

そんな敵の間を潜り抜け、〈跳躍〉スキルを使って木から木へ飛び移りながら移動するのは忍者みがあって中々楽しい。そこは決して猿ではないので間違えないで頂きたい。


そして敵をかわしたり倒したりしながら進んでいると、スキルリストに新しく取得可能なスキルが増えていることに気が付いた。


(ふぅん、〈軽業〉に〈隠密〉ねぇ……。いやカッコいいんだけど、魔法使いにでるスキルではないよね???)


あれですか、木の上でピョンピョンやってたからですか、そうですか。


(まぁあって困るものでもないしね、──ポチッとな)


若干方向性を見失いかけているような気がしないでもないけれど、現状遠距離超火力で一発で敵を倒せるような魔法は持っていないし、敵の攻撃を避けながら戦うしかない状況なので妥当っちゃ妥当なところでしょう。

ソロの魔法職の辛いところである。


というか私は〈気配希釈〉のスキルを持っているのだけれど、〈隠密〉スキルとはどう違うのか。

気になって確認したスキル説明によれば、どうやらフィールド用と戦闘用の違いらしい。


〈気配希釈〉は街中やフィールドでの行動時に効果が発揮され、敵や周りの人間に認識されにくくなる。

〈隠密〉は戦闘時にヘイトを向けられにくくなる、というソロにはあってないような効果だけれど、逃走するときや〈不意打ち〉スキルとの相性がかなり良さげである。これで厄介な敵に会ったとしても、この間買った身代わりの腕輪と併用すれば高確率で逃げられそうなので、これにはジュカもニッコリ。


え~敵を前に逃げるんですかあ~~???という声にはグーパン一つで許してあげようと思う。確かに敵を倒すのは楽しい。楽しいのだけれど、世の中には戦略的撤退という言葉があるのだ。

特に巨大蜘蛛、あれはダメです。ファンタジーの敵としては定番の存在なんだろうけれど、キミを見ると鳥肌が止まらないんだ。お願いだから近付いて来ないで欲しい。


とそんな葛藤もありつつ、どうやら森の端っこまで来たらしい。


森の途切れた先では数頭の馬が草を食んでいる。



[騎獣]ワイルドホース 適正:地

[備考]群れで暮らし、草原を主な生息地としている。

   スタミナに優れ、長距離の移動を得意とする。



ふむふむ、なるほど。

騎獣は分類も魔物ではなく[騎獣]と表示されるのね。間違えて攻撃してしまうということも無さそうなので一安心です。


馬、馬かあ……

まあベタというかオーソドックスではある。勿論馬もいいんだけれど、でも折角のファンタジーなら他の騎獣も狙ってみたいところ。


ここはじっくりと吟味しなくては!




そうして辺りを見回ってみた結果、結構色んな種類の騎獣を見ることができた。


狼や虎なんかもいたし、巨大な角を生やした鹿なんかもいてかなり格好良かった。

他に気になるところだと、地上を走る系の鳥でダチョウみたいな感じではなく、なんかこう丸っこいというか、タワシみたいというか………あ、あれだ。確かキーウィだっけ?そんな名前の鳥に似ていた。羽というよりもでっかい毛玉といった感じで乗ったら気持ち良さそうな見た目でした。ちょっと触ってみたい。


まあ気になったというだけでピンとはこなかったので、まだ候補は探し中である。


ちなみに鷹や鷲なんかの空飛ぶ系の鳥たちも勿論見掛けたけれど、そもそも彼ら地上に降りて来ないんだが?本当に冬李兄は一体どうやって捕まえたというのか…。


あと騎乗チャレンジしているプレイヤーも何人か見掛けた。

馬や牛系は正にロデオ!といった感じでかなり見応えがあった。なんかゴツい闘牛みたいな牛を見事乗りこなしたプレイヤーには思わず拍手を送ってしまったほど。笑顔でピースが返ってきてほっこりしたよね。


あと見ててヤバかったのは熊とか虎かな…

あれは振り落とすというか、木や岩なんかに身体をぶつけて背中にいるプレイヤーを叩き潰そうとしているようにしか見えなかった。いや殺意高ぁ…って震えたよね。

あと虎は跳び跳ね方がえげつなかった。流石猫科ですねとしか言い様がないその動きに「いやこれ普通に無理では?」と不安が広がる。


騎獣ゲット

思ってた数倍難易度が高そうです。



若干、というよりかなりの不安を覚えていると、視界の端に空飛ぶ鳥チャレンジをしているプレイヤーが入ってきた。


(あれは……おぉ、カラスだ。でっかいカラスっていうのもカッコいいなぁ。椿に似合いそう。いや椿なら黒猫とかの方が似合うかな…)


なんてことを考えながら見ていた。

これであのプレイヤーがゲットに成功したら、なんか縁起が良さそうだし頑張って欲しいな~という気持ちだった。


ピタリとプレイヤーを背中に引っ付けたカラスは、空中でフッと動きを止めたかと思いきや錐揉み回転しながら落下してきた。


そして地面が近くなると羽をバッと広げ、そのままスィーっと飛んだあと再びふわりと上昇。何事もなかったかのように飛び去って行った。


プレイヤー?

錐揉み回転が始まった時点でふっ飛んでいったよ。

そのあと地面に激突して淡い光の粒子となって消えていきましたね……。


いや、えっっっっっっぐ

えっヤバない???


みんな知ってるか?なんとこれ、鞍も手綱も無しでやらないといけないんだぜ?

そら落ちるやろ、と。

え、冬李兄マジでこれ何とかしたの?変態か????


そんな確実にトラウマを患ってしまいそうな光景を目の当たりにしてしまった今現在、これ無策で来たらダメなやつでわ?


(うぅ~ん…。これはちょっと……作戦練りつつ気分転換でもしようかなぁ)



場所を変えて森の中の小さな泉で釣り中なう。

いや本当は川辺で釣りしようかと思ったんだけどね、なんか巨大なワニがいてね、ちょっとね…。


あれも騎獣なんだって。嘘でしょ?

あれは乗るとかそういう前に失敗=補食でしょ、絶対。試さなくても分かる。危ないやつです。


という訳で川の上流へ向かっていたところ、この泉を発見したので釣りをしているというわけ。

この辺は森の中ではあるんだけど、どことなくジャングルっぽさを感じる。この地域だけ熱帯雨林になっているとかではなくて、木だけじゃなくてツル植物とかの草がいっぱい生えているあたりがジャングルっぽさを出しているというか何というか。


とりあえずダニエルに作ってもらったディレクターズチェアを出して釣竿をセットする。

初めて来た場所(notセーフティゾーン)で焚き火とコーヒーまでキめるのはさすがにアレかと思ったので、そこは自重した。


〈気配察知〉と〈気配希釈〉を掛けつつのんびりと釣竿を眺める。

ゆったりとした時間に思わずあくびがこぼれた。


流石に魔物の出るフィールド上で寝るのはまずいと思い、眠気覚ましも兼ねて一つのアイテムを取り出した。



[アイテム]リューヒカイト語の欠片 品質:普通 レア:Ra

[備考]かつて使われていたリューヒカイト語が描かれている。所々掠れていて読むことができない。



「……………」


この間【特別蔵書室】で本を読んだことで多少〈リューヒカイト語〉のレベルは上がったけれど、鑑定結果に特に変わりはない。


この〈リューヒカイト語〉というスキルを取得したことによって得られた情報は、この言語を使っていた時代の情報であって言語そのものを解説するようなものはなかった。そしてそこで見つけた遺跡の情報は、おそらくは今私が居るこの“騎獣の森”を抜けた先を指していたんだろう。何というかこのジャングルっぽさがより“らしさ”を表しているような気がする。………映画の見すぎかな?


古代遺跡と言えばジャングルの奥地!みたいなのってない?


幸いこの辺りに他のプレイヤーの姿は見当たらない。さっき、というか騎獣候補を探しているときに〈フュント〉の街が発見されたとワールドアナウンスがあったので、先にそっちへ向かっているプレイヤーも多いのかもしれない。アナウンスの中には冬李兄の名前もあったので、あのあとすぐに向かったんだと思う。


となると、態々この森の先を目指すプレイヤーは少ないかもしれない。

ここは“騎獣の森”というだけあって騎獣が沢山いるけれど、他の魔物は出ないのかと言うとそんなことはない、普通に出る。

そして今私が居る辺りは植物系の魔物が多いらしく、周りの普通の植物と見分けがつきにくい。HPはそれほど高くはないけれど、発見が遅れることで状態異常を食らったり戦闘で大きい音を出しすぎると騎獣が逃げてしまったりと中々に厄介である。


ソロの方が騎獣ゲットはしやすいけれど、ソロだと魔物の対処が難しい。

それならパーティーで群れになってる騎獣をまとめてゲットする方が効率がいい。


ははーん、もしやこれは頑張ったら遺跡に一番乗り出来てしまうやつでは?

ワールドアナウンスされたいわけではないけれど、秘密の遺跡を暴くのは一番にやりたい。というかプレイヤーネームは非公開設定にしてあるので、そもそもアナウンスはされないんだけれど。


いやでもまずは騎獣が欲しい…いやでも遺跡も……って、うん?






ふと気が付いて顔を上げる。





一頭の騎獣と、目が合った。

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