19.新たな情報
《考古学者》の称号を取った後は、居ても立っても居られずすぐさま転移装置を使ってヤヌルカの街まで戻って来てしまった。
そしてその足で図書館へと向かう。
「こんにちは。………おや?ホッホッこれはなんとも。随分とお早く資格を取られましたね。」
「フン、誰かさんが御丁寧にヒントを教えてくれたからなァ」
「ホホ。まさかあれだけのヒントで資格を得られるとは、お見逸れ致しました。」
「御託はいい。さっさと案内しろ」
「かしこまりました。ではこちらへ…」
き、貴様なぜ私が称号を得たことを知っている…っ!?
という茶番を一瞬してしまいそうになったけれど、完全にジュカの解釈違いだったので何とか踏み留まった。ふう、危なかったね。
と冗談はさておき、この司書のおじ様が私の称号を見抜いたのは、普通に〈鑑定〉スキルで見たんだと思う。私の〈鑑定〉レベルではまだそこまで見れないけれど、街の主要施設の職員さんたちは大体高レベルの〈鑑定〉スキルを所持している、と以前マルゴットさんが言っていたのを今思い出しました。
そうして案内されたのは、二階の本棚の奥に隠れるように設置された扉の先にある部屋だった。
禁書とまではいかなくても、閲覧するのに資格を必要とする書物なのであればもっと厳重に管理しといた方が良いんじゃないかとは思うのだけれど、何とこの扉、資格のある者にしか視認出来ない仕様になっているらしい。さ、流石ファンタジー…
「こちらの書物は貸出は勿論、この部屋から出すことも禁止となっておりますのでお気をつけ下さい。部屋を出るときは自動で鍵が掛かるようになっておりますので、お帰りの際は特に声を掛けて頂く必要はありませんよ。」
なんとこの扉オートロックにも対応しているらしい。逆にファンタジー感が薄れた気がするのは気のせいか。
こういった道具は魔道具という分類らしく、お値段はかなりお高めらしいがその性能はお墨付きなのだとか。
──ギィ、パタン。
柔らかな絨毯の敷かれた床を進み、本棚へと近付く。
一冊一冊のタイトルを読み取ろうとするも、読み取れるものはそう多くない。
たぶんその本に対する専門の知識なりスキルなりを持っていないと解読出来ないようになっているんだろう。
とりあえずタイトルの読めた本だけ何冊か取り出し、部屋に置かれていた椅子に座り読み始める。
私が持っている称号が《考古学者》なこともあり、基本は全部歴史関連である。
神殿で読んだ絵本の内容を難しくしたようなものから、その内容を深く掘り下げた研究論文のようなものもある。他にも国の成り立ちや、この大陸に残されている遺跡に関しての本なんかもあった。
どうやら遺跡の中には創世の女神ではなく別の神を祀っている所なんかもあったようだけれど、長い歴史の中でそれらの情報は失われてしまったらしい。
今となっては僅かな伝承が各地に残る程度でハッキリとした情報も無く、真偽を確かめる方法も見つかっていないため、これらの伝承は眉唾物なのではないかと唱える研究者もいるようだ。
………ふぅん。歴史の中で忘れられた遺跡ねぇ…
そんなの、探すしかないでしょう!!
なんだその気になりすぎる遺跡。
観光地になっている遺跡も悪くはないけれど、この“忘れられた”って付くだけで好奇心が刺激されまくるのは一体何故なんだろうか。
溢れ出すロマンにワクワクが止まりません。
本の情報によると、遺跡があるのではないかと噂されているのは、アインスベルを北東に進んだ鉱山に囲まれた街〈ヴァイス〉という街から更に東に進んだ森の中なのではないか、とのこと。
……結構な距離があるので徒歩は中々に辛そうなんですけども…。えっ、これ何日かかるの?周りに村とかちゃんとあります?
ふーむ、馬車とか走ったりしてないんだろうか。
ヤヌルカとアインスベルの間に馬車は走っていなかったけれど、荷馬車を牽く生き物がいるのであれば街間を移動する乗り物があってもおかしくはなさそうなものだけれど……
この部屋の書物にそういった情報が載っていそうなものはないので、部屋を出て表の本を探しに行こう。
──パタン、スゥッ…
…おぉ、消えた。
扉が閉まると同時にまるで壁に溶けていくかのように扉が消えて、一見ただの壁にしか見えなくなった。
しかし壁に注目すると、〈特別蔵書室の扉〉と表示される。
さ、流石ファンタジー…(2回目)
気を取り直してまずはこの大陸の地図を探そうかと思ったけれど、よく考えたらこの世界の住人に聞いた方が早いなと思い行き先を変える。
「おや、もうよろしいのですか?」
「あァ、今日の所はな」
「左様でしたか。では何か他にお探しのものでも?」
「転送装置以外で移動が楽になるもンはあるか?」
「そうですね…。安全を考えるのであれば行商や商隊に同行を頼む、スピードを重視するなら騎獣を手に入れる、でしょうか。」
ほほう、騎獣とな。
というか街間の定期便のようなものは走ってないのね。
「街間を走る馬車はねェのか」
「ええ、一度転送装置に登録さえしてしまえばそちらの方が確実で安全ですしね。その一度しか実際に移動しないのであれば、慣れている上に信頼の置ける商隊にお願いした方が安全なんです。」
行商や商隊というのは街の間にある小さな村々にも物質を届ける必要があるため、転送装置を使っての移動というのはあまりしないらしい。
なので道中の危険なんかには慣れているし、有名な商会の隊であれば信用第一ということで余程のことがない限りちゃんと送り届けてもらえるんだそうな。
まあしっかりと料金は取られるそうだけれど。その辺は安全が買えるのであれば当然ということなんでしょう。
ちなみに冒険者に護衛を頼むというのも勿論手ではあるのだけれど、そもそも冒険者には粗暴な連中も多く当たり外れが大きいそうなので、特に女性や家族連れなんかからは敬遠されがちとのこと。
世知辛い世の中である。
「騎獣ってのは?」
「その名の通り乗れる魔物ですね。目的によって選ぶ種族は変わるかと思いますが、特に鳥種なんかはやはり空を飛ぶ分移動速度はかなり早いですよ。」
「へェ。どこで手に入る?」
「それでしたら……」
詳しく話を聞いてみると、どうやら騎獣を手に入れるには二種類の方法があるらしく、一つは単純に購入するという方法。
これは種族によってお値段が大分違うらしい。
一般的な牛や馬タイプは比較的手の届きやすい金額だけれど、狼系や猫種系なんかの気性の荒いタイプほど高額になっていくようだ。
そして一番高額になるのが鳥系を始めとした飛行タイプの騎獣なんだとか。
下手したら高級車を買えるくらいのお値段になることもあるそうなので、ご利用は計画的にといったところだろうか。
そしてもう一つの方法というのが、“自力で捕まえる”である。
これならお金は掛からない上に、自分好みの種族の騎獣を手に入れられる。
それなら迷う余地なくこっちでは?となるかもしれないけれど、ところがどっこいその捕獲の難易度が尋常ではないらしい。
まず捕獲とはどうするのか?と言うと、『一定時間騎乗し続けること』というのが捕獲条件らしい。
よく考えてみて欲しい。
野生動物に鞍などの補助道具が何もない状態で一定時間乗り続けることは出来るであろうか?
まず野生動物は嫌がって暴れるだろうし、そもそもその背中に跨がることすら容易ではないだろう。
というか一定時間というのは果たしてどのくらいなのか。数秒かはたまた数時間なのか。
しかもこれが馬や牛なら、まだロデオ的な感じかな?と想像もつきやすいかもしれない。でもこれがもしも巨大な鷹だったりしたら?
え、普通に無理じゃね?
である。
というか空から振り落とされでもしたら普通に死ぬのでは?ってなもんである。
お金をとるか、命をとるか。
……まあプレイヤーならお金をとるんだろうなぁ。
だって我々は復活出来るんだもの。でもお金は使ったら無くなっちゃうんだもの…
それに誰だって自分好みの騎獣が欲しいでしょうよ。私だって欲しいです。
さらに聞けば、購入したいのであれば〈フュント〉という畜産業の盛んな街が騎獣の販売も行っているとのこと。
そして自ら捕まえに行くのであれば、アインスベルを東に進んだ先にある森を目指せばよいとのこと。
なるほどなるほど。
教えてくれたおじ様にお礼を告げて図書館を出る。
次の行き先は決まった。
とりあえず東の方には色々ありそうでワクワクするね!
……そういえば双子はもう騎獣を手に入れたんだろうか?
ログアウトのついでに後で聞いてみよう。




