18.アインスベル
浜助くんが走り去ってしまったので、大人しくセーフゾーンへ移動して野営の準備をする。
まあ準備といってもテントを置く位置を指定するだけで設営は完了なんだけども。
基本このRFOの世界でログアウトするときはアバターはその場に残されるのだけれど、宿屋やテントの中というのは一種の不可侵領域になるらしく攻撃したり無断で侵入することは出来ない仕様になっている。
ただしテントの場合は"セーフゾーン内でのみ有効”という注釈が付くので、魔物の蔓延る街の外で何も考えずにテント張ると、普通にテントを壊された上で攻撃もされるのだとか。
ちなみに街の中でテントを張ると、『ここはテントを張ってもいいですよ』とされている場所以外では普通に捕まるらしい。さすがに投獄とまではいかないそうだけれど、お話し合いの後罰金を支払うことで出してもらえるそうな。
稀にいる強者だったりすると、建物と建物の隙間に隠れてログアウトしたりするらしい。いやどんだけ宿代払いたくないんだ。
これも見つかれば普通に罰金になるそうなので、寧ろそのスリルを楽しんでいるのかもしれない。私にはよく分からない世界である。
あと一応このフィールド上にあるセーフゾーンは個人判定らしく、セーフゾーンを解放していない人が来たとしてもその機能は使えないらしい。
これが例えばパーティーだったりすると、パーティーメンバーの中に一人でも解放した人が居ればパーティー全員が使えるようになるんだとか。だがしかし、その解放したメンバーが抜けると再び使えなくなる仕様とのこと。
これは解放する際にパーティーを組んでいれば全員解放したことになるけれど、ソロの時に解放すると個人判定になってしまうという微妙にややこしい仕様となっている。
しかしこのセーフゾーンを完全な状態で使えるようにするには〈修繕〉スキルが必要になることを考えれば、まあこの仕様もそんなものかという印象である。
そんなセーフゾーンでの野営も何もなく終わり、再びアインスベルへと向けて出発する。
街道沿いであれば出てくる魔物の種類は然程変わらず、レベルが上がった程度である。
しかしこれが街道沿いを一歩外れると、今まで出てこなかった魔物がチラホラと出るようになる。褐色猪やはぐれ熊、あとは蜘蛛辺りだろうか。
まあ物は試しと何度か戦ってみたのだけれど………熊はヤバい。
いや、本当に、マジで、熊はヤバかった…
力強すぎ、体力多すぎ、スタミナ有りすぎの三重苦でとてもじゃないけれど対処出来そうになかったので、全力で逃走を図りましたとも。
いつかリベンジ……はもしかしたらするかもしれない。もしかしたらね。
そんな旅路も終わりに近付き、ついにアインスベルの城壁が見えてきた。
城壁はザ・堅牢!といった感じだけれど、アインスベルは商業都市でもあるので城門では大量の荷物を載せた荷馬車たちが頻繁に行き来している。
荷馬車を牽くのは勿論馬もいるけれど、中には牛や鳥、さらには恐竜っぽい見た目をした生き物なんかもいて「これぞファンタジー!」という感じで見ていてワクワクする。
そんな城門を潜り抜けてまず目指すのは転送装置の登録である。
これさえやっておけば、あとは使用料を払うだけで一瞬で街間を移動できるのでやっておかない手はない。
無事に登録完了出来たら、早速街の探索へと繰り出そう。
うん、やっぱり新しい場所はワクワクするね!
◇
街をブラつくこと暫し。
やはり商業都市というだけあって、様々な物が売っている。
中でも一際興味を惹かれたのが、この『蚤の市』である。
アインスベルの住民がいらないものを売っているときもあれば、行商に来た商人が在庫処分とばかりにまとめて売っていることもある。
使えそうなものから用途不明の物まで、実に様々な物が売られていて〈鑑定〉スキルも大活躍である。
パッと見は食器類が多い感じかな。
元々はセットだったけど壊れてしまったか何かで揃わなくなってしまったやつだとか、子供用の小さいサイズのものも結構見掛ける。
あとは変わった模様の端切れをまとめ売りしているやつなんかは姉が喜びそうなので、お土産に買っていこう。
ここは実用品というよりは嗜好品系というか、まあ特に冒険に役立つようなものが置いてあるわけではないのでプレイヤーの数は少ない。
時々生産職かな?と思える人がデザインの参考にでもするのか小物を眺めている程度である。いやせめてデザイン案は買ってから描きなさいよ。
あっ、あとはコーヒー豆も無事に見つけました。
これは蚤の市ではなく、別の市場で発見したので袋一杯買ってしまった。ついでにミルやらドリッパーやらもまとめて買ってしまったので結構な出費である。
あとはコーヒー用のカップも探さねば…!
ところで話は変わるのだけれど現在大活躍中の〈鑑定〉スキル、以前判明したように本を読んだりして知識を得ることでも鑑定の内容が変わったりする。
一度鑑定したことがあるものでも、知識を得た後でもう一度鑑定してみると内容が変わっていた、なんてことがちょこちょこあったんだよね。
ゲームで一度鑑定したものをもう一度鑑定し直すなんて普通はそうそうやらないと思う。何とも意地悪な仕様である。
……まぁ嫌いじゃないけどね?
そして見つけたのがコレ。
[アイテム]???の欠片 品質:普通 レア:Ra
[備考]???の描かれた石板を写しとったもの。
実はこれレイネ村の婆様に見せてもらった瓦の写しである。
これを写したときはアイテム表記にすらならずメモの1枚でしかなかったのに、気が付いたらこんな表記に変わっていたんだよね。
いや???ってなんなのさと聞かれるかもしれないけれど、そんなの私だって聞きたい。
???ってなんやねん。
しかし探してみればあるもので、ここの蚤の市を隅々まで鑑定しまくった結果、10個ほどの[???の欠片]を発見した。
欠片とはいってもその形状は様々で、壺や皿もあればタペストリーの様なものもあった。
共通点といえば、文字や模様にも見える何かしらが描かれていることと、大抵のものが欠けるなり破れるなりして壊れていることだと思う。
《???の欠片を10個手に入れたことによりスキル〈リューヒカイト語〉が解放されました──》
ん?
お、………おお!何か出た!
〈リューヒカイト語〉:遥か昔に使われていたという古代の言語、リューヒカイト語を解読出来るようになる。必要スキルポイント:5
ほおー……なるほどなるほど。リューヒカイト語ね、ふむふむ……
まあ取るよね!ポチっとな!
《条件を満たしました。称号【考古学者】を手に入れました──》
んんん?
称号?はて……
【考古学者】:〈古代語〉スキル、〈修繕〉スキル、一定の歴史知識を手に入れることで取得できる称号。限られた場所へ行けるようになったり、特別な依頼を受けることが出来るようになる。
…………ハッ!
これってもしや図書館のおじ様が言ってた資格ってやつでは!?
資格にも種類があるって言ってたし、必要スキルや知識の種類が変われば植物学者とか魔物学者みたいに◯◯学者って感じで変化しそう。
そこであっと思い出して巡り人のフードを取り出す。
…………、
……………。
あれ?巡り人のローブとしか表示されないんですけど。
光に当ててみたり、ひっくり返してみたりといくら眺め透かしても結果は変わらず。
どうやら初期装備についている謎の文字はリューヒカイト語ではない様子。ぐぬぬ…
というか今気付いたのだけれど、何気に???の欠片がまだ2つ残っている。
この2つはリューヒカイト語の欠片ではない……?
これはもしかしたら他にも古代語が存在しているということなのでは?
うーん、良いですねえワクワクしますねえ!
「……くくっ」
そう目を細めてニンマリ哂う顔が余程凶悪だったのか、ジュカを見た何人かがビクッと肩を揺らして離れて行った。
………べ、別に傷付いたりなんかしてないんだからねっっ!!!




