12.至高のイケオジ
現実での用事を済ませてログイン。
ちょうどログインする前に姉から連絡が来ていて、無事に防具が完成したので取りに来て欲しいとのこと。姉の店の近くには他のプレイヤーの店もいくつかあったので、ついでに杖も新調してもいいかもしれない。
そんな風に今日やることをつらつらと考えながら宿を出ると、ふと街の北にある小高い丘の上に建つ神殿が目に入った。
(神殿かぁ……。冬華姉の店に行く前にちょっと寄ってみるのもいいかな)
まだ神殿に行ったことがなかったというのもあるし、前に図書館のおじ様に言われた「古い物を探してみるとよいでしょう」というのも神殿なら何かしらありそうな気もするしね。
………嘘です。いやこれも別に嘘ではないのだけれど、あれです、マルゴットさんが言ってた街の9割ものマダムを虜にしているという噂の神殿長を見てみたかったんです…!ほ、ほら!あわよくば何かしらキャラ作りの参考にできないかなぁって…!
いやだって神殿長って今はアラフィフも近いらしいですよ?
なのにそこまでの人気ってすごない?
そんなの見たくない訳なくない?見たいよね?私は見たいです!
という訳で神殿へレッツゴゥ!!
◇
「…………………」
我今神殿着也。
は~~ーこれは圧巻ですわ……街の人が神殿を大切に想うのも納得というもの。
……ちなみにこれは神殿の建物の話であって、神殿長の話ではないです。
そもそも神殿長ってその辺ブラブラしてたりとかしないんですね、はい。普段は奥のお部屋でお仕事されているそうです、はい。
まあそこは残念ではあったけれど、この建物を見れただけでも割と満足かもしれない。日本の寺社仏閣なんかは好きで色々見に行ったりもするけれど、西洋の神殿っていうのも雰囲気が全然違って良いものです。
何か神殿ってステンドグラスとか窓が多いからか、こう『光』がメインというか…とっても神聖な感じです。日本は『静謐』とか『厳か』みたいなイメージのが多いから、神様は祀るもの、触れてはいけないものって感じがするけれど、西洋のこの『光』のイメージは見守るものとか行き先を照らす道しるべ感があるよね。
そりゃ天使とか救世主の思想が生まれてもくるよなあ……という感じ。私個人の感想ですが。
そう考えると神様に抱くイメージって国によって違うよなあと思ったり思わなかったり。
そして宗教というものは得てして、その時代の社会情勢やら政治体制なんかが背景にあったりするよね。宗教の生まれた時代が辛く苦しい時代だったから救世主が生まれたり、王の威厳を確固たるものにする為に神話が変質させられたり等々。
まあ現実ではそういった感じなので、神話なんかも「そうはならんやろ」みたいな話も多い。
しかしゲームは違う。
日本神話ではイザナギとイザナミが天沼矛で下界を掻き混ぜることで日本を誕生させていたけれど、実際に「そうやって日本はできたんだよ」と言われたらシンプルに「は?」である。
しかしこれがゲームの中であれば話は別。物理法則も地質学も何一つ関係ない。謎の神様パワーで神話は実話として存在するのである。何かよくわからん棒で掻き混ぜて島を造ったのだと言われたならば、実際にそれで島ができるのである。これぞファンタジー!
まあRPGで神様がラスボスやら裏ボスやらで実在するのはよくある話なので、さもありなんである。
それはさておき、このRFOの世界での神話とはどんなものがあるのだろうか。
そんなことを考えながら奥へと進むと、目の前には巨大な女神像。
ギリシア彫刻とかでよく見るような布の服を纏い、こちらを迎え入れるように両手を広げ薄く微笑んでいる美しい女神様である。
背後にあるバラ窓から差し込む光が、その神秘性をより高めている。
周りのステンドグラスに描かれているのは他の神々だろうか。
残念ながらこの世界の礼拝の作法を何も知らないので、とりあえず周りの住民の皆さんを後ろの方から観察してみる。
ううむ、これは図書館で先に作法の勉強をしてから来るべきだったか。
「もし、どうかされましたかな」
突然掛けられた声にん?と思いながら振り返る。
「何やらお困りの様子だったので声を掛けさせていただきました。どうやら初めてお見掛けするお顔のようだ。して、どうかなさいましたか?」
そこに居たのは、さらさらとした長い銀髪をオールバックにして背中に流し、その凛と伸ばした背中から厳格な印象を滲ませる、しかしそれを優しげに細めた薄いグレーの瞳が上手く馴染ませ和らげさせる。そんな一目見たら誰をも虜にしてしまいそうな絶世のイケオジが立っていた。
「………いや、ここの礼拝の作法を全く知らなかったんでな。どこかで調べるなりしてから来た方が良かったかと思っただけだ」
「そうでしたか。はは、何そのようなことは気になさらなくともよいのですよ。敬虔な気持ちで祈れば、それだけで祈りは神へと届くでしょうから」
果たして私の声は震えていなかっただろうか。
マルゴットさんの言っていた通りかなりのイケメンである。年をとることで更に渋みやら色気やらが熟成され、微笑んだときにできる目尻の皺さえセクシーに見えるという、正にこれぞ至高のイケオジと言えよう。これはマダムたちを次々と虜にしているのも納得。
しかしそんなイケオジを相手に照れてどもるジュカさんなど完全に解釈違いであるので、何とか間を空けることで淡々とした返事は出来たと想う。えらいぞ私、よく耐えた。
この至高のイケオジであるセレス様(自己紹介してくれた)と話していると周りが何やらザワ…ザワ…としています。
どうやら突然現れたセレス様に皆さんテンションが上がっている模様。周りにいる住民のマダムたちはチラチラとこちらを見はするものの、頬を染めながら会釈する程度なので問題はない。問題なのはおそらくプレイヤーであろう人達である。
「えっあれがセレス様!?初めて生で見た!マジでヤバくない?」
「うお、マジだ。てかキャラデザ良すぎ。これデザインした奴自分の性癖盛りまくっただろwww」
「あ~んセレス様マジでイケオジ!かっこよすぎぃ……」
「私も一緒にお喋りしたい…。声までイケボとか最高すぎる…」
「はぁ……あのお声で叱って欲しい……」
「てか一緒にいる人誰だろ?クソイケメンなんだが」
「なんだあの耳けしからん」
「イケオジ×イケメンありがとうございます…ありがとうございます…!」
「お願いしたらSS撮らせてくれるかなぁ?」
「ゴールドを払ってもいい」
「むしろ払わせろ」
「「……………」」
神殿や教会といった天井の高い建物は音が響きやすいものである。
いや響かなかったとしても、この獣人族となった今の身体能力からしたら普通に丸聞こえなんですけどね。
あまりにも不躾な言葉に思わず眉が寄り、耳も伏せ気味になっている気がする。
だんだんと視線も煩わしく感じ始めていると、セレス様もどうやらそれを察知したらしい。
「よろしければあちらの小部屋に蔵書室がございますよ。礼拝の作法や神話の絵本なども置いてありますので、もし興味がおありでしたらご覧になってみるのもよいでしょう」
と小声で提案してくれた。
心遣いと配慮がマジで神。そして“蔵書室”という言葉に、顔には出さなかったが思わず耳がピンッと立ち上がる。
機嫌が上向きになったのを感じたのか、セレス様もどことなく満足そうである。
「あァ、わかった」
満足気に揺れる尻尾を僅かに視線で追いながら、セレス様は会釈をして去って行った。
他人を気にかけ、気配りも完璧。これぞ正に至高のイケオジである。
私はそのまま先ほどのプレイヤーたちの視線から逃れるように蔵書室へと向かった。
蔵書室は冒険者ギルドの部屋と似たような大きさだったけれど、また集中し過ぎて気が付いたら夜だったということが無いように気をつけよう。
そして早速神話の絵本を手に取りながらふと思う。
(そういえばセレス様は何で最初私が困っていることに気が付いたんだろう……)
そんなに挙動不審だっただろうか?
それにあのとき私はセレス様に背を向けていたはず。
特に怪しげな挙動をした覚えもない。
フードは外していたけれど、顔は見てすらいなかったはず………
セレス様と会話していたときの様子を思い出してみる。
基本的に相手の目を真っ直ぐに見て話す人だった。でも周りの様子も気に掛けていたのか時々視線が動いていた。ほんの一瞬だったけれど。
(ん………?)
よくよく思い出してみると、周りを確認するにしては目線が上だったり下だったりとちょっと変だったな…?
………、
…………、
………………ハッ!
あの人、もしかして……
ケモナーですか!?!?!?
セレス様はただの猫好き。




