プロローグ
闇に塗りつぶされていた視界に、一粒の白い光がうっすらと光った。
初めは点だった光が次第に広がっていく。光の強さに目を細め、目覚めたばかりのような感覚がした。ぼんやりとした意識の中で、ただ光を見つめている。
(私、どうしたんだっけ……)
いつの間にか寝てしまったのかとも思ったが、眠りについた記憶はない。
(あれ……?)
頭はいまだにぼんやりしていて、思考がうまくまとまらなかった。
記憶には自信があったはずなのに……そう考えようとすると、めまいを起こして思わず呻く。
考えるのを止めて、もう一度光に目を向ければ、小さく広がっていた光はずいぶん大きな円を描いていた。
その円の向こう側には、誰かがいて、こちらへ手を伸ばして何か叫んでいるのが分かった。
しかし逆光になってしまっていて顔は分からない。
『ティ………!』
上手く聞こえない。顔どころか姿は真っ黒だ。だが、どこか知っている人だと思うのに、なぜか思い出せない。
『や……ろ、…………ィウ……!』
相手が焦っているのが分かった。そんな顔をさせてしまったのが申し訳なくて、胸にツキンッと針で刺されたような痛みが走った。
(ごめん、ごめんね。もう無理なの。……忘れたいの)
忘れたいとは何の事だろう。自分の事をどこか他人事のようにぼんやりと思ってしまった。分からないはずなのに、なぜか涙があふれ出る。
涙で視界がぼやけ、おぼろげだった人の形がもっと歪んでいく。
目の前の光はどんどんと広がっていたが、これ以上相手を見たくなくて目を閉じた。




