サハラ王国
次の日。
ファーストは以前の集落と同じ様に水脈を探していた。
「あった」
イメージを固め魔法を発動しようとしたところで、
「ファースト、こんなところで何を!あっ。」
「ホール」
シホが声をかけるのと、魔法を唱えるのが同時だった。
シホは急に周囲の地面が下がる様な感覚で落下するのに巻き込まれていた。
気付くと大きなタライの中にいる様な場所だった。
そして直ぐに中央に立つファーストが何かを口ずさむと水が勢いよく噴き出た。
「ええ!昨日から幾度となく驚いていたシホ、今度も腰が抜ける様な驚きだった。」
そして襲いかかる様な勢いの水からシホを助けるように、飛んできたファーストに抱えられて空に舞い上がった。
眼下に広がりつつある水の池、穴の大きさはとても大きくシホではその大きさを表現できないほどだった。
その穴の脇に舞い降りると、シホは
「ファースト、これは何をしてるの?これは池なの?」
「これはオアシスだよ。これからこの集落が水で困ることは無くなるのさ。」
と答えたファーストは、
「それじゃシホ、元気でな。」
と言って再び空に舞い上がると、北の方向に飛んでいった。
ーー サハラ王国
城塞都市に向かい空を飛ぶファースト、塀を越えることなく手前で地面に降りると、門に向かって向かって歩き始めた。
何人かの旅人がその空を飛ぶ姿を見ていた、そしてある旅人が
「あの子、オアシスを作って回っている・・神の化身では。」
と呟いた。
そんな声に気づく事なくファーストは、門を潜り王都に吸い込まれるように消えて行ったに出会った。
冒険者ギルド
王都の街を歩きながら出店を見ていたファースト、
「気候のせいか香辛料を使った料理が多いな」
と独り言を言いながら、せっせと購入していく。
大通りの先に一際大きな建物が現れた、
「何、冒険者ギルドか。この世界でもこのシステムがあるのか。どれ覗いてみるか。」
と言いながらギルドの扉を開けて中に。
ムンと汗の匂いが鼻をつく、依頼から帰ったばかりの男らが幾人も見える。
風呂に何日も入っていない様な者も普通にいる、コレが冒険者たちの生態だ。
その日限りの依頼を命をかけて達成することだけを目的に生きているような連中だ、むさい、臭い、汚いなど気にもしていない。
生きていることを強く感じられる人種だ、意外と俺は好きだ。
受付の方に向かう、登録の受付は・・ここの様だ。
「何か用?」
受付の女性が俺のことを子供と思い、何用かと声をかける。
「冒険者登録がしたい。」
と答えると
「貴方が?12歳からだけど・・。」
と言う受付嬢に
「もう12歳だ。」
と答えると、大人ぶった子供を見る様な目で
「はいはい、分かりましたこれを書いてね、分からないとこがあったらお姉さんに聞くのよ。」
と一枚の紙をを差し出した。
それを手に取り必要事項を書き込むと
「できたぞ。」
と紙を差し出す。
「うん・・・。嘘はダメよ。本当のことを書かないと後で困るのは貴方よ。」
と書き直しを要求する受付嬢に
「嘘はない、書き直せばそれこそ嘘になる。」
と紙を突き返す。
「困ったものね、分かったわ。コレで受理するからそこでしばらく待ってね。」
と仕方ない様に処理を進める。
しばらくすると一枚の金属製のカードを手に戻って来た受付嬢は
「コレが貴方のギルドカードよ。無くさない様にね。」
と手渡してくれた、そこで
「魔物をいつくか狩って持って来ている、買取はどうすれば良いのか?」
と聞くと
「スライムでも狩ったの?数が多ければ裏の倉庫だけど、普通はそこの買取カウンターよ。」
と別にカウンターを教えてくれた。
「ありがとう。」
と言ってカウンターを移動する。
「おっちゃん、ここは買い取りカウンターでいいのか?」
と窓口に座っていた強面の職員に声をかけた。
「なんだ?魔物の買取かそれとも薬草か?」
と聞かれて、
「サンドワームを狩ったんだよ、1匹だけどここで良いのか?」
「サンドワームを狩った?1匹ここで良いのかってか?小僧が大きくでたな。ミミズでも捕まえたのか、出せるものなら出してみろ。」
と言うので、周りの男たちに
「サンドワームを出すからここ開けてくれ、下敷きになるぞ。」
と言いながら取り出そうとするが誰も動かない。
「あのガキがサンドワームを出すんだとさ。」
と本気にしない、まあ良いかと思い
「「「ドン、メキメキ。ギャー。助けてくれー。」」」
色々な音と声がしているが気にせず
「コレだが買い取って切れるのか?」
と職員に聞くが、驚いているのか俺の声が耳に入らない様だ。
「ドン!」「ミシリ。」
威圧を込めてカウンターを叩く。
「え!何か言った・・言いましたか?」
と慌てる職員に
「買い取れるかと聞いている、どうなんだ。」
と再度聞くと
「買い取ります。ですのでコレを裏に持って行ってください。」
と懇願し出したので収納して、裏の方に向かって歩き出した。
そんな時にギルドの奥で
「なんの騒ぎだ!」
と野太い声が聞こえたが、俺に関係ないのでそのまま裏に向かった。
裏に着くと先ほどの職員が青い顔で
「ここにお願いします。」
と言うのでそこに改めて取り出す。
「しばらくギルドでお待ちください、ギルドカードを確認させてください。」
と言われ、ギルドカードを出した後、ギルドの中に戻った。
ギルド内。
何事か大騒ぎしている声に気づいた、ギルドマスターである沈黙のシャインことシャイニングは、ギルド内に出て行った。
「なんの騒ぎだ。」
と周辺の職員に声をかけると
「それが、買取を申し出た新人の冒険者が・・ここにサンドワームを取り出して・・ちょっと騒ぎに。」
と言い出した。
「ここにサンドワームを出したのか?小物か?いやこの壊れ具合はそこそこの大きさだな。」
「でその新人は何処だ?」
と聞けば、裏で買取をしてもらっていると言う。
「裏に?ならなぜここで出したんだ?」
と言うギルマスに言葉に、言いにくそうな職員。
「ギルマス、ツレが足を怪我したんだぜ、責任とってくれよ。」
と数人の冒険者が騒ぎ出した。
「何、そいつは突然ここにサンドワームを出したのか?」
と鋭い目で聞き返すと
「いや〜。ここに出すから開けてくれとは言われたが・・まさかそこまで大きとは・・です。」
と言うのを
「注意されてそのままだったやつが悪いだろう、ギルドの責任きじゃねえ」
と切り捨てた。
そこに少年が裏から戻って来た
「アイツですよ。」
と先ほどの冒険者、しかしギルマスの様子がおかしい。
「すまんがちょっと部屋に来てくれないか?」
と丁寧に話しかけたギルマスに周りが騒つく。
「ん?あんた誰だ?」
と答える子供に
「俺はここのギルドマスターをしているシャイニングだ。ちょっとで良い時間をくれないか。」
と頭を下げた、周りの様子を見ると、普段この様なことは決してしない男なのだろう。
「まあ、査定の時間があるからそれで良いなら。」
と答えるとギルマスの部屋に案内された。
冒険者ギルマスの部屋。
座り心地の良いソファーに座り、出されたお茶を飲んでいると前に座ったギルマスが、
「あんただろ、最近砂漠の民の集落にオアシスを作っては立ち去る子供っていうのは。」
と聞いて来た、心当たりのあるファーストは
「確かにオアシスをいくつか作った。それが?」
と、なんでもない様に答えるファーストの様子に
「俺の故郷もその一つなんだ。本当にありがとう。それでのことは内緒なのか?」
と聞いて来た
「内緒?大したことではないだろう。言いふらすほどのことでもない、俺が勝手にして回っているだけだ。」
と答えると
「アンタにとってはそうなんだろうが、この国の砂漠の民にとっちゃ物凄いことなんだ。まあ特に言いふらすことはしねえが、感謝している者が多くいるてことだけは覚えておいてくれ。」
と言って再び頭を下げて、話は終わった。
ギルド内。
ギルマスの部屋から戻りギルド内に戻ると、買取の職員がファーストを呼んでいた
「すまない、ギルマスに呼ばれていたんで。」
と言いながら買取カンターに向かう
「買取額金貨50枚です、確認してください。」
と言われ数えて収納すると、それを待っていた様に男たちが立ち塞がり
「おめえのおかげで連れが怪我をして明日からの仕事ができねえ。補償してくれよ。金貨50枚だ。」
と言うのに、ファーストは首を傾げ
「なんの話だ?俺は知らん。」
言いながら外部でようと歩き始めた、すると男らが無理やり押し留めようと掴みかかって来た。
それを何事もない様に引きずりながら出口に向かうファースト。
「こいつなんて力だ。止まんねぞ!」
と騒ぐ男らが鬱陶しくて腕を振り払うファースト。
男らが壁に吹き飛ぶ。
「なんだよお前ら、やると言うなら相手になるが、金を持っているんだろうな?無けりゃ身包み剥ぐぞ!」
と威圧すると、その威圧すら跳ね除けられぬ男らは泡を吹いて意識を失った。
「バカかよ。」
と言いながら外に出るファーストの姿を他の冒険者は、青くなって見ていた。
「おいアイツ、本当に子供か?今の見たか、あれだけの男が取り憑いてもびくともしない身体能力。一体どれだけレベルがたけんだ。」
と言う冒険者の言葉に皆が唸った。
王都の商店街。
ギルドから出たファーストは、物珍しそうに店を見て回っていた。
すると奥の方に壊れかけた教会があるのに気づいた。
「女神に呼ばれた割には、教会の威厳がないな。」
と呟きながら教会に近づくファーストの目の前に、5〜10歳くらいの薄汚れた子供が5人ほど行手を塞いで
「お前も借金取りか?シスターは居ないから帰れ。」
と言ってきた。
「ふ〜ん。何だ教会は金に困って借金取りが押しかけてきてるのか。そのシスターとやらに合わせろ。」
と言うファーストに子供らが困った顔をする。
「お前ら飯食いたくねえのか?早く案内しな。」
と言うファーストに
「メシ!食べれるのか。それならこっちだ。」
と現金なもんで、ファーストを教会に案内し始めた。
王都の教会にて。
しばらくスラムの様なバラックが立ち並ぶ所を抜けると、壊れかけた教会が見えてきた。
庭で擦り切れそうな生地の服を洗濯し干している、シスターが見えた。
「シスター、飯が来たよ。」
子供がそう叫んでシスターの元に駆け寄る
俺は飯じゃねえ、と思いながらもファーストもついて行く。
「あら貴方は、この辺の子供じゃないわね。どうしたの?何か用があるの。」
と、優しく声をかけるシスター
「ああ俺はよその国から来た者だ。ちょいとこの教会を修繕しようかと思ってな。数日邪魔をするよ、今日は挨拶がてらに肉を持ってきた何処に出せば良い。」
と聞けばそばの子供たちが
「「「にくー。」」」
と騒ぎ出した、シスターの案内で肉を厨房に取り出す。
「こんなにお肉を」
驚くシスターを無視して、商店街で購入したお菓子や串焼きを取り出して子供らの前に、皿ごと出すが手を出す子供に
「ダメだ!手も洗わず、しかも体も汚いじゃないか。今からみんな洗ってやるこっち来い。」
と言いながら出した新を収納して歩き出す
「あああー。お菓子が、串がー。」
と言いながら付いてくる子供をさがらせると何もない広場を魔法で平らにすると、収納していた自宅を取り出して据えた。
「すげー。魔法だ!」
騒ぐ子供に
「ここで服を脱げ、家の中が汚れる。」
と言いながら5人を丸裸にして、家の中に連れてゆく。
「何だこの家、すげーぞー」
そんな声を無視して風呂場の洗い場に並べると、シャワーを掛けながら一人ずつ頭から洗い始める。
「ん!お前女か?」
と何人か少女も混じっていたが構うことなく、洗い続けた後、洗った子供から広い湯船に浸からせる。
「何だコレ、お湯がこんなに。すげー気持ちいいぞー。」
大騒ぎしながら湯船に浸かる子供ら。
1時間ほどかけてスッキリ洗い上げた子供らにタオルを手渡し、身体を拭く様に言う。
「こんな柔らかいタオル初めて触るわ。」
何でも驚く子供らだな。と思いながら自分用の服の中から、似合いそうなものを取り出し着替えさせる。
「こんな綺麗な服初めてだ。」
また騒ぐ子供ら。
食堂に連れて行きテーブルに座らせると先ほどのお菓子や串が載った皿を取り出し
「さあ、食べな。」
と言うと、子供らは我先にと食べ始めたが、そこでファーストは
「食べ方が汚い。それじゃこれ以上は食べさせんぞ。こぼしたり手や口につけない様に食べなさい。」
と叱りつけた、ビックッとする子供らでももっと食べたいので、こぼさないように食べ始め出した
「それでいい、また食わせてやるから綺麗に食べろよ。」
と言うと外に出た。
外には家を見上げながら心配そうなシスターが立っていた。
「シスターも少し汚れているな、家に上がって風呂にでも入りな、話はそれからだ。」
と言うと遠慮するシスターを無理やり風呂場にやり、使い方を教えると風呂に戸を閉めた。
観念したシスターは、怖々しながらもシャワーのお湯やシャンプーや石鹸に驚きながら、お風呂を楽しんでくれた様だ。
スッキリしたシスターが風呂から上がると、適当に買い込んでいた女性用の服を手渡し、
「今日はコレでも着ときな。」
と言って厨房に戻った。
先ほど出したものとは違うお肉や野菜を取り出すとファーストは、料理を始めた。
そして着替えて姿を見せたシスターに
「子供は何人だ?シスター達は何人だ?」
と聞いたら
「子供はここに居る5人です、後は外に独立して行きました。シスターは私一人です。」
と悲しげに答えた、多分大きくなった子供らはこの状況を知って、自ら出て行くのだろう。
この国では珍しい新鮮な野菜や肉を調味料を使って料理すると、美味そうな匂いが充満し出す、それに気づいた子供らが、匂いに釣られてやって来る。
「お前らはしたないぞ。じっと食事で待っていろ、でなきゃやらねえぞ。」
と言うと慌てて食堂に戻る子供達。
それを見てシスターは目を丸くした。
料理ができたので、
「シスター手伝ってくれ、コレらの料理を食堂に運んでくれ。」
と言うと手伝い出すシスター。
食堂にはきちんと座って待つ子供らがいた。
「よしそれでいい、コレからもそうするんだぞ。」
と言いながらファーストは取り皿とスプーン・ホークを配り最後にコップを並べると、水を注ぎ始める。
「美味しそうな水。」
そうかここでは水さえもご馳走か。
「なら、いただこうか。大きな皿のおかずを自分の取り皿に食べる分だけ取り分けて、パンと一緒に食べるんだぞ。見苦しいことや汚いことはするなよ。」
と注意すると初めに、それぞれの皿に取り分けて食事が始まった。
「うまー。」
「ほっぺたが落ちるよー。」
などと言いながら子供らが食べ始める、シスターは黙って料理を見るだけ
「どうした?シスターも食べな。」
と言うとシスターは、ファーストを見ながら
「貴方は・・女神から遣わされたのですか?」
と聞いてきた
「まあそんなもんだ、かたく考えるな。受け入ればいいんだ。」
と言って食事をする様に進めると、祈りをしたシスターが食事を食べ始めた。