旅立ち
ーー 旅立ち。
ファーストは朝早く自宅を収納すると、空に舞い上がり北を目指した。
数時間ほど飛行すると国境を超えたことがわかった、砂漠が広がるその地はあまり豊かには見えなかった。
砂漠のオアシスに舞い降りたファーストは、オアシスの街に入って行った。
オアシスは半径500mほどの大きさで、水が少し少なく感じた。
ファーストは途中で掘り出した鉱石などを換金していて、そこそこ大金を持っていた。
宿を探し見つけた宿に入ると、暇そうにしていた宿の娘が
「いらっしゃい・ま・・せ。なんだ子供か、どうしたの?何か用?」
とファーストに向かって少しガッカリした顔で尋ねた。
「これで一部屋何日泊まれる?」
と言いながら金貨1枚をテーブルの上に置いた。
「え、金貨!あなたお客様?・・食事付きで・・15日は大丈夫よ。」
と答える女性に
「意外に高い様だが、砂漠という立地からか。」
と呟きながら
「部屋に案内してくれ。」
と追い立てる様に案内させた。
◇
数時間後。
ファーストは宿の食堂で食事をしていた。
「あまり美味しとは言えないな。」
と感想を呟きながら、宿の娘にこの街の情報を聞いていた。
「このオアシスの街のこと。いいわ私の知っている事を話してあげるわ。」
と目の前の椅子に座ると語り出した
【このオアシスは約50年前に突然見つかったそうで、そこを見つけた初代の領主が街を開いた。
この国は国土の多くが砂漠化しており、穀物が出来にくく常時食糧難の状況だった。
その為他国からの食糧輸入が盛んで、当然砂漠のオアシスはその商人らの足を止める場所として、大いに栄えているのだ。
しかしここ数年、オアシスの水が減り始め出した、特にここひと月は目に見えて減少しているらしい。
その為、商人もここを通るルートを別のルートに変更し始め、街に訪れる人がめっきり減った様だ。】
これが宿の娘が語ったこの街の歴史と状況である。
ーー オアシスをもう一つ。
ファーストは次の日、オアシスのほとりに立っていた。
「さてとオアシスの状況を確かめるか。」
と言うと地面に手を着き、「ソナー」と唱えた。
「なるほど、水脈が細くなっている様だ。別の水脈を見つけて・・・。あった、これならここではなくあそこでもいいか。」
と独り言を言うと、街の外に歩き出すと立ち止まり。
イメージを高めて
「ホール」
と唱えた途端、ファーストを中心に半径1kmの規模で大きな穴が出来上がった。
穴の壁は水を通さぬコンクリートの様な材質で、中央に穴が開いていた。
ファーストは中央の穴のそばに立つと、水脈に届く真っ直ぐなパイプをイメージし
「性質変換」
と唱えた、これは土を金属の様な物質に変質しながら押し固める魔法で、イメージ次第では何kmでも行える、ファースト独自の創造魔法で作った魔法だ。
次の瞬間、噴き出す様に水が噴き出す。
空に舞い上がったファーストはその様子を見ながら、街に戻って行った。
この新しいオアシスの発現を知った街の者は大喜びで、神に感謝を口にしていた。
この神への感謝の祈りを感じた女神は、大喜びでオアシスの街を見つめた。
「さすが日本人ね、もうこれほどのことが出来るなんて。」
と脳天気な事を呟いていた。
ーー 次の街へ
新しいオアシスが出来上がった街は大騒ぎであった、ファーストは宿の娘に
「街が騒がしくなった、違う街に向かう、残りの金は取っておいて。」
と言って宿を出た。
街の外の出たファーストは、空に舞い上がるとさらに北を目指して飛び去った。
そんな頃ファーストが泊まっていた宿に領主の使いが現れた。
「ここに11・2歳くらいの子供が宿泊しておろう、領主様が会いたいと申されている。
取り次いで貰おう。」
と、言う使いに宿の娘は
「その子供であれば、30分ほど前に宿を引き払い旅立たれましたよ。」
と答えた。
「何!30分前とな。すぐに探さねば。」
使者は慌てて外に飛び出して行った。
「何かしたのかしら?あの子」
娘の言葉が虚しく響いた。
◇
夕刻。
ファーストはフラフラと砂漠のあちこちを飛び回りながら、枯れかけた井戸にしがみ付きながら生きている砂漠の民の集落に寄ると、水脈を探しては大きなオアシスを作りその場を黙って離れるのであった。
人々はその少年は神が姿を変えて砂漠の民を助けているのだと、噂していた。
そんな噂が広がっていることなど梅雨知らず、ファーストは気の向くまま空を飛んでいたのだ。
もう少しで遠くに見える城塞都市に辿り着くと思った時、ファーストの耳に助けを求める声が聞こえた。
「助けて・・誰か。お願い・・。」
その声は弱々しく諦めの思いが滲んでいた。
声のする方に飛ぶと、大きなミミズの様な魔物サンドワームが餌を見つけて襲い掛かるところだった。
餌は1人の少女だった。
「もうダメ。ごめんなさい・・お母さん。」
と呟くと少女は目を固く瞑り、これからくる痛みに身を固くした。
「ドドーン」
すぐ近くに大きな音と地鳴りがした、魔物が私を弄んでいるんだ。
そう少女は思いさらに悲しくなった。
しかしいつまで経っても痛みが襲ってこない。
そっと目を開けると、目の前に自分と同じくらいの男の子が立っていた。
「ええ?だれ?何があってるの?」
思わず口にする少女。
すると少年が振り向いた、少年は漆黒の黒髪に黒く深い瞳をしていた。
「怪我はなかったかい?」
少年が少女に手を差し出しながらそう言う。
少女は少し気恥ずかしい思いをしながらその手を取って立ち上がった。
「助けてくれたの?ありがとうございます。私シホ11歳よ。」
と質問と違う答えをしていた。
「うん、怪我はなさそうだね。俺はファースト、家まで送っていこう。方向は分かるかい?」
と尋ねるファーストにシホと名乗る少女は、腕をあげるとある方向に指を示し。
「この方向よ。」
と示した。
ファーストは方向を確認すると
「失礼するよ。」
と言うと少女を抱き上げて、フワッと空に舞い上がった。
「ええ!空に・・どうして?ええ・・・貴方は神様?」
と混乱する少女。
暫くすると小さな集落が見えてきた、
「あそこかい?」
ファーストが少女に尋ねると
「多分・・あ、あそこです。」
と答えたらファーストはそのまま集落に舞い降りた。
その頃集落では、シホが帰ってこないと母親が心配していた。
「もう暗い、明日の朝早く探しに出よう。」
集落の長がそう言うと小屋を出て行った。
「シホ、元気でいてね。」
母の祈る様な声が小屋に響いた。
「あ母さん!ただいま。」
「え!シホ、シホなの?貴方どこに行っていたの、心配して・・・その子はだれ?」
と母親は安心したと同時に、娘が男の子を連れていることに気付いた。
「私、魔物に襲われて・・」
「ええ!魔物!怪我は大丈夫なの?」
慌てて娘の体を確認する母。その手を押さえて娘は
「大丈夫よ、その時彼、ファーストが助けてくれてここまで飛んで送ってくれたの。」
と説明する娘話におかしなとこがあったが、気にすることなく
「それはどうもありがとう。でも貴方はここの集落の子じゃないよね。そうなら今日はここに泊まって行ってね。」
と言うと母親は食事の用意をし始めた。
集落の様子を見ていたファーストは、この集落も貧しい様だ。
と思っていたので
「夕飯作り手伝うよ。」
と言いながら狭い台所に歩き寄って、収納から食材を取り出した。
「これは・・お肉?それに新鮮なお野菜・・こんな高い物使えないわ。」
と言うと母親に
「俺が食べるんだから関係ないでしょ。沢山あるから一緒に作って食べようよ。」
と言いながら横でさっさと調理を始めた、さらに貴重な調味料をたっぷり使いたくさんの料理を作り上げた。
「さあ、みんなで食べようよ。」
と自分の家の様にファーストがシホとその母に声をかけた。
「お母さん、この料理美味しいね。私こんな美味しいご飯初めて食べた気がする。」
「貴方だけじゃないわ、お母さんも初めて食べるわよこんな料理。」
と言いながら笑顔で食べていた。