決戦
ーー 決戦の朝
王都の騎士隊が遠巻きに布陣する中、トランド子爵の兵1500が姿を現した。
かき集めるだけかき集めたのだろう。
弓隊が火矢を開拓村にい掛け始める。
全く無反応な開拓村、暫くするとあの少年が姿を城壁の上に現した。
「俺はファースト、神につながるもの。これより神罰を下す。」
と言うと。
周りが真っ白になるほどの光と音が周囲を覆った。
その場の者は耳や目を塞いでその恐怖に耐えていた、王都の騎士隊が晴れ出した戦場に観たのは。
黒焦げになった1500人の子爵軍の死体だった。
「これからトランド子爵の屋敷を撃ち壊し一族全てに天罰を下す。」
と言うと少年から何かが飛び出した。
その結果を確認したのは、その場を離れ王都に向かった途中であった。
「あれは何だ?この辺りには確か子爵の屋敷が・・・!まさか。」
慌てて瓦礫の山に向かうとそこは先日訪れた子爵の屋敷であった。
近くにいた村人に
「ここにいた子爵の一族は無事か?」
と聞くと、村人は首を横に振りながら
「誰も生きておりません。空が光ったかと思うと激しい音がして・・・この有様でした。天の怒りを買われたのでしょう。」
と言うと村人は手を合わせてその場をさった。
「本当にあの少年は・・神につながるものかもしれん。国王に間違いなく伝えねば。」
と心に決めた隊長であったがその思い話通じなかった。
ーー 討伐再び
「お主の言うことは信じられぬ。開拓村が正しくて王国の貴族たる子爵が逆賊と言うのか。」
と声を大にして言うのは、トランド子爵の寄親のエステール侯爵。
「国王、神の名を語る痴れ者を討伐する任を我に与えてくだされ。王国の威信を守ってみせます。」
とにじり寄る侯爵の迫力に負けた国王が
「分かった、そちにまかす。」
と答えてしまった。
王国軍2万が開拓村へ向かった。
開拓村を前にしてエステール侯爵は、準備していた攻城兵器を押し出して
「城壁を攻め落とせ!」
と号令をかけた。
先を尖らせた丸太を積んだ荷車がスタンバイする中、準備した浮橋を多数水濠に投げ込むことに成功した王国軍は兵士が蟻のように城壁に取り付いた。
「これで成功したも当然。」
と言う侯爵。
兵士も皆開拓村の攻略は問題ないと思ったその時。
炎の壁が城壁を囲った。
取り憑いていた兵士らは丸焦げになりながら水濠に転落するが浮き橋が邪魔をして水に逃げられず、ほとんどのものが焼け死んだ。
「魔法を使う者がいたか、そう魔力も持たぬであろう。繰り返して向かえ!」
侯爵が第二第三波と攻城兵を向かわせる。
しかし何度向かわせても炎の壁に失敗し続ける。
「攻城兵器を使え!他の者は火矢を打ち込め!」
と命令する。
浮き橋のおかげで門への水濠に橋がかかった状態に、丸太の矢が向かう。
「ドーン」
激しい音が響く、一度二度そして三度と。
しかしびくともしない門、さらに続け様に叩きつけるが丸太の方が砕け散った。
すると少年が城壁の上に姿を現した。
「こりもせずに。神の怒りの意味がわからないと見える。」
そう言うと少年が右手を高く上げた。
エステール侯爵は慌てて
「あの小僧を狙え!」
と弓兵に命令した。
無数の弓が少年向けて放たれたが、少年にあたる寸前で全て止まった。
「どうしたのだ?」
次の瞬間、空を覆う光と音のシャワー。
エステール侯爵以外の兵士が黒焦げで死に絶えていた。
「お前は今から急いで国王に伝えるが良い。これから神がこの国を潰すと。」
と言うと少年が侯爵の足元に雷撃を落とした。
「ああ!助けてくれ!」
腰が抜けた侯爵が尻もちをつくがそれを追い立てるように雷撃が向かってくる。
命辛辛逃げ帰った侯爵が王都に戻ったのは、それから10日後であった。
そしてそれを追いかけるように、報告が舞い込む。
「申し上げます。エステール公爵家の屋敷が跡形もなく崩れ去りました。」
それを聞いたエステール侯爵は
「それで我が家族は無事か?」
それに対し報告者は、首を横に振るのみ。
また報告が続く
「ステードア伯爵家崩壊、生存者確認できず。」
「トーアル男爵家崩壊。」
「エビネン子爵家崩壊。」
次々に入る報告は、王都に向かっていることがわかる。
国王を始め主だった者が話し合うが解決策はない。
「王国騎士団長を呼べ。」
との呼び出しに、ダンディー隊長が呼ばれる。
「ダンディー子爵よ、かの者は本当に神につながるものか?どうすれば話し合えるであろうか。」
と言う国王にダンディー子爵は
「私はかの者の伝言を正確に伝えました。それを無視して攻め込んだのはエステール侯爵であり、国王様が許可されております。もしも会うことが可能ならば、国王自らあの者の面前に出向かねばならぬと思います。」
と答えると
「逆賊の者の前に国王を出せと言うのかお前は!」
と言う叱責が飛び交うが、ダンディー子爵は
「逆賊と思われるならば、打てば良いでしょう。打てるものなら。しかし神につながるものであれば、その時はこの国はこの世から消え去るのみでしょう。」
と答えてその場を去った。
その場に残された面々は、
「誰ぞ、あのものを打ち取って来い!」
と言う宰相に誰も声を上げない。
その様子を見ていた国王が、
「わしが向かおう。」
と言うと席を立った。
誰もそれを止めることはできなかった。本当に神につながるものであれば、神に弓引く者は天罰しかないからだ。
その時
「ズドーン」
と言う音と共に会議室が光った。
崩れ去った会議室で生き残ったのは、宰相以外のもの。
「打ち取れと言った宰相のみが死んだ。やはり神につながるものなのか。」
その場の大臣らが呟いた。
国王は馬車を走らせていた、これ以上家臣が死に絶えては隣国に飲み込まれる。遅かれ早かれこの国は滅亡するかもしれないとその馬車の速度を恨めしく思いながら
「急げ!少しでも早く。」
と檄を飛ばすのみだった。
◇
その馬車を眼下に見ながら俺は、どうしようかと考えていた。
今まで殺した者は貴族とその兵士のみ、平民にはほとんど被害はない。
国王が夜を徹して進んでいたが、さすがに馬が動けず野宿することになった。
「国王様、今宵はここで野宿いたします。しばしご辛抱をお願いします。」
騎士隊長のダンディー隊長がそう言うと、天幕の前で警戒に当たり出した。
するとその目の前に音もなく例の少年が舞い降りた。
剣を抜き天幕を守ろうとする騎士隊長に少年は
「わざわざ足を運んできたのだ、俺を待たせるな!王をここに出せと!」
と叱りつけた。
一瞬悩んだ騎士隊長は、頭を下げると天幕の中に入った。
「王よ、かの者が自ら参りました。王を呼べと言っております。」
と伝えると、国王は「分かった。」と答えて天幕の前に出てきた。
何処から出したか椅子に腰掛けて待ってる少年が、もう一つの椅子を指差し
「王よ、座りなさい。」
と命じた。
王はそれに応じ椅子に座る。
「今回のことは事前に俺は注意していたはずだが、王もそれを聞いているだろう。」
と少年が言う。
「聞いていたがワシは信じられぬかった。」
と答える王に少年は
「忠実な家臣の言葉が信じられぬ王よ、ここに来たのは何故だ。」
と問う。
「あなたが本当に神につながる者であれば、私の判断が間違っていたということ。それならば私自身が謝罪する必要があると思ったからだ。」
と答える王に少年は
「神を疑ったあなたの謝罪がどこまで通じると思いますか。」
とさらに追い詰める少年。
椅子から立ち上がり、傍らの地面に膝をつき祈る姿で王が
「我が命に替えて、王国をお許しください。」
と言った。
「仏の顔も三度までという諺があります。私は仏でないので三度も我慢しませんが、今回はこれでおしまいにしましょう。次はこの国自体を灰にしますよ。」
と言うと少年は空に舞い上がった。
残された王はその消えゆく姿を見ながら
「許されたのか。」
と呟いた。
その後滅ぼされる貴族はなくなった。
王国は開拓村について、こう命じた。
「干渉は許さぬ。それを破る者は王国が処断する。」
と。
ーー 開拓村にて
戻ってきたファーストに駆け寄ったステファンは
「どうなった?もう王国は来ないのか?」
と聞いてきた、それに対しファーストは
「先程国王と話をつけた。もうここを襲うことはないだろう。」
と答えると、ステファンは腰を落として
「はー。力が抜けた。」
と言いながらステファンは息を吐いた。
「これからどうするんだ?」
ステファンは、ファーストのこれからと開拓村について質問した。
「この村はこれからどこからも干渉されない、逆を言うと助けてももらえないと言うことだ。だから自活できるようにする、それが叶ったら俺はここを出る。」
と言う、ファーストは未来が見えているように語った。
◇
ファーストは開拓村の地下に大きな空洞を掘っていた。
そこに冷蔵庫タイプの時間停止の機能のある大型保管庫を据付けていた。
「これで数年分は保管できるだろう、後は魔物を狩ってきて・・。」
と独り言を呟きながら幾つかの部屋を作り上げて、森へと姿を消した。
数日後森から戻ってきたファーストは、地下に降りると保管庫に大量の魔物を放り込み始めた。
その姿を見ていたステファンは、
「どんだけ魔物を狩ったんだ!」
と驚くがファーストは気にすることもなく、次に金庫型の保管庫に魔石や宝石の様なものを詰め込み始めた。
「これで5年は籠城しても大丈夫だろう。魔石類は世話になったお礼だ、明日の朝にはここを出ていく。世話になった。」
と言うとファーストは、自分の家に戻っていった。
「2度目も平穏な生活は望めないか。」
彼の呟きは誰の耳にも届きはしなかった。