短編:澤田さんは、いつも分かった顔をする
「君は英語の授業で習った、例の文を覚えているかい?」
唐突な質問は、英語とは全く関係ないタイミングで行われた。
正直、英語に興味はなかったので、最初に習うであろう
私はマイケルです
という、自己紹介の文かな?と適当に返すと
「惜しい、答えは
〈これは、ペンです〉だ。
いつ使うんだよ!?、って侮った記憶はないかい?」
正直に言えばある
しかし、文法学習の観点から考えれば
〈こそあど言葉〉の初歩として最適な文であったと感じる
マイペースに話は続く
「私は、あの例文をそのまま使ったことがあってね。
当時、教科書を執筆した人の思慮深さに圧倒されたよ。」
人生楽しそうである
「特に難しい話じゃない、書道で使う〈筆〉を思い出して欲しい。私は筆について英語で話す機会があったんだ、いわゆる、異文化交流会ってやつだ。その時に、辞書で筆について調べたんだ、すると書道の筆は、英語で表すと
〈writing brush〉と言うそうだ。」
ブラシ、そう言われると納得である。
絵画で使用されるイメージと合い、心地よい気分だ
一方で話は謎に深まる
「当時、私は違和感を感じたんだ。書道における筆の役割は、文字を書くこと、つまり〈Pen〉と同じなんだよ。決して絵を描くためじゃない。この結論に至った私の口からは
〈This is a pen.〉
この一言が必要不可欠だったんだ!」
力説ありがとう、個人的には芸術性を含んだ
〈writing brush〉
の方が好みだ。
「さて、筆ひいては、ペンの素晴らしさについて話した手前アレなんだが…ペン貸してくれない…?忘れちゃいまして……」
……断る理由もないので、大人しく貸すことに
ただし、〈筆ペン〉を
渡した直後、真剣な顔で
「〈This is a pen pen…?〉」
と呟いた姿を見て、思わず吹き出した
澤田さんの見えている世界は楽しそうである