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6 三人でお茶会

 次のお茶会の前にメルヴィが同席する講義があった。これをチャンスと思ったセレナはメルヴィにお茶会にも同席してくれるよう頼んでみた。

「実は、前回のお茶会の時にうっかり寝てしまって、王子…殿下にガゼボに置き去りにされてしまいまして…」

「寝るって…あなた、またなの?」

 メルヴィはセレナの居眠りのことは知ってはいたが、懲りることなく同じ失敗を繰り返すセレナに呆れずにはいられなかった。

「それで、ちょっと今回、気まずいんです。お願いです。どうか一緒に行って場を盛り上げていただけませんでしょうか」

「場をって、あなた、婚約者とのお茶会でしょう?」

「許可は取ってます」

 王子の許可、ではなく、お茶を世話する者の許可、ではあるが。

「許可まで取ってるなら…、行くって事じゃない。もう、何考えてるの。せめて前日に言ってくれれば…」

 前日に言おうと、聖女である二人が身につけるのは聖女の服だ。大したおしゃれができるわけでもない。…はずだが、セレナと違い、メルヴィなら特別な装いがあるのかも知れない。しかし、王城に来る時点でメルヴィはいつもより気合いの入った格好をしているのだから、問題はないように思えた。


 メルヴィを連れて指定されていた応接室に行くと、いつものように不機嫌な顔で睨み付けようとしていた王子が目を大きく見開いた。それだけでセレナは「よしっ」と心の中で拳を握りしめた。

「え…、ハールス伯爵令嬢…」

「殿下、本日はお茶会に参加をお許しいただき、身に余る光栄にございます」

 セレナの予想通り、メルヴィを同席した途端それまでの不機嫌で、常に殺気立ち、時間と同時に帰る業務モードのお茶会ではなくなった。

「よ、よく来てくれた。…まあ、座ってくれ」

 女性と同席する紳士として心得ておくべきことを思い出したらしく、柔和な笑顔で人々が想像するような「王子様」としてのもてなしを見せた。

 普段とのあまりの格差に、セレナは、誰これ? と思わずにいられなかった。


 行儀の勉強という建前もあり、メルヴィは王子の許可を得てから、おぼつかないセレナの身振りに声をかけ、いつも以上に優しく丁寧にセレナを「指導」してくれた。

 それを見ていたヘンリは、

「さすが、ハールス伯爵令嬢。セレナはなかなか言っても聞かなくてね。君が指導してくれると助かるよ」

などと言っていたが、セレナは一度だってヘンリから指導された覚えはなかった。

 強いて言えば、嫌いな奴には無視をする。無視をしている間はヘンリの意に適っていないという表現方法で指導されていたのかもしれないが。


 初めはセレナに関する話題で、時にヘンリがチクリと嫌味を混ぜることはあったが、セレナもメルヴィも笑顔でスルーしていた。やがてセレナにはわからないこの国の貴族にまつわる話題に変わると、ヘンリはセレナが話題に取り残されていても何の配慮もなく話を続けた。メルヴィがヘンリに気を遣いながらもさりげなくセレナに解説してくれたので、おかげでそれなりに話題に取り残されることなく、相槌くらいは打つことができた。王子はお茶の席でこういう真面目で面白くもない会話をしたいのだとしたら、自分とではいつまで経っても会話は成り立たないな、と改めて思った。


 ヘンリとメルヴィのお茶会に付録のセレナ、という感じは拭えないながらも時間までヘンリはきちんと応対し、最後は別れの挨拶までした。

 そう、王城に来て以来、初めてヘンリから別れの挨拶を受けたのだ。

 メルヴィと共に部屋を出て、王子より先に自分が部屋を出るものなのだということさえ気がついていなかった。

「王子って、別れの挨拶できたんだ…」

 セレナが思わずつぶやいた一言に、メルヴィは自分が思っている以上に今回の婚約の話は危ういものになっているのだと気がついた。それは自分にとってチャンスともなりうるが、それ以上に王位を継ぐ可能性の最も高いヘンリに対し小さな違和感を持った。


 それから毎月、お茶会には付添人としてメルヴィが同席することになり、それなりにお茶会っぽい雰囲気にはなった。給仕たちも少し安心したようだ。


 引き続き毎日勉強やら作法やらを詰め込まれ、朝晩の祈りも欠かさない。時に治癒の力を求められれば行かなければいけない。無理が日常になり、それを繰り返しているうちに、思いのほか治癒にかかる時間が長くなっていることに気がついた。


 そろそろ頃合いかもしれない。

 いつ、どうやってこの婚約のお断りを告げようか。


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