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2 婚約者決定

 それから数日後、奉仕活動から帰ってきたセレナは、聖堂の前に立派な馬車が止まっているのに驚いた。何事かと仲間の聖女と共に見ていると、そのままその馬車に乗せられ、王都にある大聖堂まで連れて行かれた。

 大聖堂では自分を遠目に見ながらひそひそ囁く声がした。その中には先日一緒に王城で面接を受けた聖女の姿もあった。睨みつける目から嫌な予感がした。


 翌日、大聖堂の司祭に連れられ王城に出向いた。

 謁見の間には王は不在で、第一王子のヘンリ、それに宰相がいた。呼ばれていたのはセレナだけだった。

 宰相に、

「あなたが第一王子の婚約者に選ばれました」

と言われたときには、

「はあ?」

としか声が出なかった。

「あなたと他の二人との力の差は歴然としていました。平民であることが憂慮されましたが、あなたをお送りした馭者があなたの治癒の力を見て、その速さと正確さを褒め称えていました」

「いや、あの…」

「よって、あなたを第一王子の婚約者とし、二年後婚姻を結ぶこととします」

「ちょっと待ってください」

 王族の前で平民が話を止めるとは思っていなかった宰相は、ぎろりとセレナを睨み付け、冷たい声で

「何か?」

と言った。それは問いかけながらも、問うことを禁じている声だった。

 それでも聞かないわけにはいかない。何せ、もう一人の当事者であるヘンリも歯を食いしばり、自分を睨みつけているのだから。

「第一王子の婚約者だと、将来王妃になる可能性もありますが、私は王族として暮らすには足りないものだらけです。ご存知の通り平民ですので、礼儀も知らず、勉学も不足しています。そういったことに長けた方を選ばれた方が、王家にとって利となるのでは…」

 宰相は眼鏡に手をやると小さく溜息をつき、

「…神託に、…従うしかないでしょう」

と、この決定が本意でないことをつぶやいた。ヘンリもまた顔を背けた。

「神託、ですか?」

「ええ。…先日の顔合わせの翌日、大聖堂の筆頭聖女が我らが女神より神託を受けたのです。『最も強き聖女と王族との婚姻がこの国に吉祥をもたらす』と。そしてあなたの力が、筆頭聖女をも上回っていると認めたのです」

 セレナは、二度ほどしか会ったことのない筆頭聖女の顔を思い浮かべ、あのばばあ、余計なことを…、と心の奥で毒づいた。

「これは決定であり、何人たりとも覆すことはできません。明日よりあなたは大聖堂から王城に通い、未来の王妃としての教育を受けていただきます」

「うわぁ…。最悪…」

 思わず漏れた声と苦々しい表情に、その場にいた誰もが顔をしかめた。

 セレナも、第一王子も、宰相も、この婚姻を好意的に受け止めている者はいない。しかし神託に逆らってまでこの婚姻を取りやめることのできる者は、今のこの場にはいなかった。


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