15(終幕)
終わりにして始まりの物語はこれで終幕。
命あるすべてのものは眠りにつき、再構成が成される。
創造神を除いてたった唯一、この光景をその目に収めた観測者は期待の笑みを浮かべた。
「精々、セカイを楽しませてくださいよ」
作り替えられる世界へ言い聞かせるように呟く。
リセットは不完全。異端者たちが撒いた毒がどのような結果をもたらすのか、想像もできない。
想像できないからこそ楽しみは広がる。
「妖しの華、妖姫は国を残した。妖だけの国を」
頂点の立つのは彼女が愛した半身。友たる黒い女とともに妖を守るために国を新しく作り上げる。
万物を守りし神の加護を受けた国は帝天すら手を出せない強固な砦だ。
「角なし鬼、鬼神は家を残した。我が子のための桜の家を」
百万の桜に守られた小さな子供。神の血を引く彼を周囲はきっと放っておかない。
いづれ、その家は国に匹敵するほど大きくなるだろう。異端者の子供が作り上げる国、興味のそそられる代物だ。
「藍の子、龍王は本を残した。未来に紡ぐ本を」
新しい世界に興味などなく、ただ愛する姫への贈り物として本を残した。
彼の行く末だけはまったく予想がつかない。ただ唯一残された縁が、朧げな道筋に色をつけるだろう。
「異端は世界の一部となった。けれども、その性質は変わらない」
淡々と語る少女は口の端をあげる。
端正な顔立ちに悪魔的な笑みを浮かべ、笑声の吐息を零す。吐息はやがて明確な音となって白き空間に響き渡り、不意に止まる。
「くだらねぇですね!」
笑い声の代わりと言わんばかりに張り上げた声が孤独の世界を震わす。
「全部全部、どーおだっていいんですよ。未来とか過去とか。守りたいもの、守りゃあいいんです。やりたいこと勝手にしやがってください」
並べ立てられる声の一つとして誰にも届かない。
それを理解しながら、セカイは再構成する世界へ向けて語りかける。訴えかける。
「てめぇらが織り成すすべてをセカイは娯楽として呑み込んでやりますよ」
それは宣戦布告。
「セカイは観測者。終わりも、始まりも、希望も、絶望も! すべてを観測する者です」
静かに、それでいて力強く。己の役目を新しい世界に言い聞かせる。
邪魔立てするな、と自らを創り上げた存在にすら訴える。
――綾木世界は観測者。語られるすべては彼女が観測したほんの一部である。