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海の絵  作者: 上原直也
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 喫茶店を出たあと、葛岡くんが一度歩美の描いた海を見にいってみたいと言い出していくことになった。わたしたちは車を三十分程走らせて、その歩美が最後に絵に描いた浜辺に向かった。


移動するあいだわたしたちはほとんど言葉を交わさなかった。ときおりポツリポツリと短い言葉を交わす以外は、それぞれに自分の思考のなかに沈み込んでしまっている感じだった。


 わたしは窓の外に見える海をぼんやりと眺めながら、歩美が死んだときのことを思い出した。


 歩美が死んだのは、ちょうど今ぐらいの時期だった。学校が夏休みに入って少し経ったくらいの頃。


歩美は自宅の自分の部屋で首を吊って死んでしまった。それを発見したのは彼女のふたつ年上のお姉さんだった。


 これは歩美が死んでしまってからわかったことなのだけれど、彼女の家は両親の仲が悪くて、そのことで歩美はずっと悩んでいたみたいだった。それから、彼女のお母さんが所謂教育ママのような感じで、彼女は将来絵の勉強がしたいと思っているのに、それを認めないで、彼女に有名大学に進学することを強要していたみたいだった。



 今から考えると、何も死ななくても良かったんじゃないかって思うのだけれど、でも、そのときの歩美はきっとすごく思いつめてしまっていて、何かを冷静に考えたりすることができなかったんだろうなと思う。


・・・わたしだって、そんなにいつもというわけじゃないけれど、意味もなく暗い気持ちになって、全てを投げ出してしまいたいような衝動に駆られることはある。


 わたしが歩美に最後に会ったのは、夏休みに入る直前くらいだった。家に彼女から電話がかかってきて、絵が完成したから見て欲しいと言われて、彼女の家に遊びに行ったのだ。


 ほんとうに、彼女が描いたその絵はとても綺麗な絵だった。あまりにも綺麗過ぎて、透き通ってしまような感じがするくらいだった。


その絵の、海の青の色彩を今でも印象的に覚えている。少し沈鬱な感じのする、曇り空の灰色の色素が溶け込んだような感じのする青だった。何か哀しい感じのする青。


 その日の彼女はいつも通りの彼女で、暗いところや、思いつめたような様子はどこにも見受けられなかった。彼女の描いた海の絵を観させてもらったあと、わたしたちは彼女の部屋で無駄話をして、じゃあまたねと言って別れたのだ。


 でも、もしかすると、あのとき、彼女はもう全て決めてしまっていて、それですっかり気が楽になってしまっていたのかもしれないな、と、思う。たぶん、あのときにはもう、歩美は死ぬことを決めてしまっていたのだ。だけど、でも、わたしはそのことに何も気がついてあげることができなかった・・・。



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