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海の絵  作者: 上原直也
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 葛岡くんは本屋まで車で来ていた。わたしは家から自転車来ていたので、その本屋の駐輪場に自転車は置いておいて、葛岡くんの車で一緒に出かけることになった。帰りはまた葛岡くんが本屋まで送ってくれることで話はまとまった。


「葛岡くん、いつの間に免許取ったの?」

 と、わたしは車を運転している葛岡くんの横顔に視線を向けて尋ねてみた。すると、彼はわたしの方をちらりと振り返って、それからまた視線をフロントガラスの向こうに戻しながら、


「三ヶ月くらい前かな。俺、ずっと地元だし、だから、学校の合間とかにちょくちょく通って」


「一回仮免のときに失敗しちゃって、余計お金かかっちゃったけどね」

 と、葛岡くんはつけ加えて言うと、自嘲気味に少し笑った。


 わたしは葛岡くんにつられるようにして小さく笑うと、

「でも、車の免許持ってるなんてすごいね」

 と、感心して言った。


「べつにすごくなんてないよ」

 と、葛岡くんは笑って言った。

「お金払って教習所通えば誰だって取れるんだからさ」


「まあ、そうなんだけどね」

 わたしは笑って認めた。

「でも、車ってなんとなく親が運転してるイメージしかないから、同級生の子が普通に車を運転しているのを見てると、何かちょっと不思議な感じがするんだよね」

 と、わたしは続けて言った。


 すると、彼はわたしの言葉に小さく笑ってから、

「あー。なるほどね。そういう感じはちょっとわかるかも」

 と、共感するように頷いて言った。

「俺も最初の頃は自分がひとりで車運転してるなんてすごいなって思ったよ。まるで大人になったみてぇて思ったもん」

 葛岡くんは楽しそうな笑顔で続けた。


「って、わたしたちもう二十歳なんだし、一応大人なんだけどね」

 と、わたしは笑って鋭く突っ込みをいれた。

「まあ、確かに」

 と、葛岡くんは笑って頷いた。それからふいに葛岡くんは真面目な顔つきに戻ると、

「でも、二十歳っていっても全然大人になったって感じしないよな」

 と、独白するように言った。


「確かにね」

 と、わたしは葛岡くんの横顔に向けていた視線を正面に戻しながら言った。

「内面的なものは高校の頃とかとあんまり変わってない気がする。・・・でもまあ、二十歳になったからって急に何かが変わるわけじゃないだろうけど」


「うーん。でもさ、もっと二十歳って大人なのかなと思ってたな」

 と、葛岡くんは自分が伝えたいと思っていることがわたしに上手く伝わっていないと感じたのか、更に言葉を付け足した。


「小さいときは高校生くらいのひとでもさ、すごく年上のひとって感じがしたじゃん。でも、実際なってみると、そうでもないんもんだなって。


 もしかすると、案外、自分たちの親ぐらいの年齢のひとでもさ、内面的な部分は全然俺たちと違わなかったりするのかなって。ただ社会的な役割とかそういうのが変わっちゃっただけでさ、中身は全然子供のときと変わらないのに、世界だけがどんどん変わっていっちゃって、それでときどき戸惑ったり、理不尽に感じたりするのかなって思う」


「うーん。どうなんだろうね。そういうのはもっと歳をとってみないことにはわからないけど、でも、もしかしたらそうなのかも」

 わたしは葛岡くんが言ったことについて少考えてから答えた。

「精神的なものって、ある一定の年齢に達するとそれ以上は成長しないものなのかも」


「でも、どうしちゃったの?」

 と、わたしは彼の方を振り返りながらからかうように言った。

「葛岡くんって、そんな真面目なこと考えたり、言ったりするひとだったけ?」

 わたしの言葉に、葛岡くんは少し照れ臭そう笑うと、

「いや、べつに。ただ大人になるってどういうことなのかなってふと思っただけだよ」

 と、誤魔化すように答えた。





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