さようなら僕の歯
僕の歯は最近四本も抜けた。上の前歯の真ん中が二本と、下の歯の真ん中二本はもう大人の歯が生えていて、その大人の歯の隣が一本ずつ。おかげでご飯を食べにくくなった。夜八時前、ママが歯を磨いてくれながらこう言った。
「たけしちゃん、野菜を沢山食べなさい」
僕は、野菜が嫌いだ。チャーハンとおにぎりは大好き。
「キュウリなら食べれる」
「キュウイは野菜じゃないよ」
「キュウリ!」
「生の人参もガリガリ食べなさい」
「歯が無いから無理」
ママは僕の歯を磨き終わってから、僕を捕まえてこう言った。
「たけしちゃん、知ってる? 子供の歯が何で抜けるのか。子供の歯は、弱いんだよ。だから、抜ける相談をしているんだよ」
「え? そうなの?」
「そうだよ。”たけしくんのために、僕たち抜けようね。さようなら、たけしくん”そう言いながら抜けていくんだよ」
「何で?」
「色んな食べ物を、たけしくんに食べさせるために抜けるんだよ。子供の歯は小さいからね。そして、おとなの歯はこう言いながら歯茎の中で生える準備をしてるんだよ、”おい、おれたちが頑張ろうぜ、たけしくんが硬いものや野菜を食べられるように”って」
僕は、床に寝転びながらママの話の事を考えたら悲しくなって、涙が出た。
「あれ、たけしちゃん泣いてるの」
「悲しくなっちゃった」
「子供の歯が、たけしちゃんのためにさようならするってお話が悲しかったの?」
「感動した」
「あらー。このお話で感動する、たけしちゃんの心が綺麗なんだよ」
たけしくんのママは、息子に野菜を食べさせようと思って適当に嘘話を語ったのだが、思わぬ反響があったので驚き、子供の心は美しいなあ、と逆に感動したのでした。