見つけた言葉
彼と出会ったのは高校の2年生になったばかりの頃。
本を読むのが好きな私が、本以外に興味を持ったのは初めてのことだから、とても印象深く残っていた。
詩を発表するなんて、小恥ずかしい授業の中彼だけが私の詩を褒めてくれたっけ。
クラスでも目立つほうじゃない私と彼。
会話は少なかったけれど、それでも私の中にはどんな本の言葉よりも積み重なっていく感覚に心地良さを覚えていた。。
いつの間にか高校を卒業してからも、何度も何度も彼からの言葉を心から取り出しては、飽きもせずにその感情に浸ったっけな。
それから数年してから、突然電話がなった。
最初はびっくりしたけど、相手はその彼からだった。
少し低くなった彼の声にドキドキと心を弾ませながらも、自信の篭った彼の言葉を数年ぶりに心にしまい込んでいく。
でも、時が経つにつれて私の声は彼と対照的に冷たくなって、彼との電話の最後には他人との会話を聞いているような感覚だった。
あんなに聞きたかった声が、言葉が、鉛のように重く感じられる。
桜が舞い散る季節、美しいドレスに身を包んだ彼の新婦を見た時、ああなんて綺麗なんだろうって月並みな表現しかできなかったな。
その横で恥ずかしそうに顔を赤らめる彼は、たしかにあの頃の彼と変わっていなかった。
私は色んな本を読んできたけれど、祝福する五文字がいつまでたっても見つからない。
美しい花嫁が舞い散る桜と共に祝福されているのを下からしか見上げることが出来ない。
いつの間にかブーケトスの時間になって、美しい女性達が前に前にと、場所取りを始めているのを眺めていると不意に彼の声が耳に飛び込んできた。
「突然驚いた?」
「うん、すっごく。結婚するなんて」
嬉しそうにはにかむ彼と、唇を噛み締める私。
いつの間にかこんな嫌な女になっちゃった。色んな後悔が押し寄せる寒さに、心が震える。
「行くよー、せーのっ! 」
美しい声と共に、華々しいブーケがゆっくりと投げられたのをなんとなく感じた。
誰がとるんだろう。
そんな好奇心に心を逃げさせ、振り向いた瞬間。
軽い花束の重さを確かに手元に感じた。
「え......」
「おめでとう」
「幸せに!」
祝福の言葉が私を包み込む。ゆっくりと彼の方に顔を向けると、嬉しそうなあの頃の表情で言うんだ。
「君も運命の人、見つかるといいね」
ああ、そうか。君に伝えたい言葉がやっとわかった気がする。
「うん」
波のような言葉を押し込め、私はゆっくりとその場をあとにする。
あのね
本当はね
私は君の運命の人じゃなかったけど
それでも好きになって欲しかったんだ。