Episode 28
--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス 第一階層
■【偽善者A】ハロウ
「……まぁ初心者キットだし、工房とか行くまでもないわよねぇ」
セーフティエリア内で初心者キットを広げてみると、床や机に敷くための布、材料を削るためのやすり、鑿など、ある程度の道具一式が詰められているようだった。
彫刻刀も入っていたため、この初心者キットでも敵を攻撃することが可能かもしれない。ダメージがあるのかはわからないが。
「えーっと、この本に作り方自体は載ってるのよね。とりあえず初期も初期、ホントに最初に作る印章でも作ってみましょうか」
初心者キットと一緒に貰った印章作成解説・1を開き、初心者用の印章の作り方を探す。
知識書でもあるのか、最初の数ページは長ったらしい文章でこの世界における印章の立ち位置とは何なのかという事を説明されていた。
……成程?バフデバフ系の生産物なのね。
意外と面白く読んでみれば、この世界での印象というのは特殊なインクを用いてなんにでも印を押す事が出来る……言ってしまえば魔法のアイテムらしい。
他のゲームであるような、所謂魔力を使って作成なんてこともなく。
印章自体は魔力のようなものは宿さず、インクの方に宿っているらしい。
「インクはっと……あぁ、キットの中に入ってるのね」
広げた初心者キットの中に、黒色の液体のようなものが入っている小瓶が発見できた。
劇場作家の炯眼で見てみれば確かに『印章用インク※初心者キット』という名前がついていたため、これで間違いないだろう。
「……成程。初心者キットって名前が入ってるって事はまた別に作る必要もありそう」
他の道具も確かめてみれば、全てに『※初心者用』と入っていたためどこかのタイミングで変えるべきなのだろう。
まぁ続けるかどうかも分からない生産系のコンテンツだ。気になったら変えるというスタンスでいい。
ある程度道具の確認、作り方も確認したため買ってきた木材を使って早速印章を作っていく事にした。
「……ん、ガイド出るのね。意外と親切」
木材を持ちやすい大きさに削るためにやすりを手に持つと、どう削ればいいのかがうっすらと視界内に表示された。
それに従って手に持ちやすい大きさへと加工していく。
いつぞやのCNVLの生産風景を見ていた側からすると、自分の手際の悪さというよりかは手の遅さがかなり気になってしまう。
……今のイメージが強いけど、CNVLも一応【ゲイン】だったし生産メインの【犯罪者】だったのよねぇ。
生産系のスキルもあったはず。それと比べるのは流石に隣の芝生は青く見えるという奴だろうか。
言葉の使い方が正しいのかは知らないが。
「よし、削り終わり。うん、ある程度は持ちやすいわね。初めての割にはいい出来じゃない?」
片手で持てるくらいの大きさの円柱状へと削り終えると、その次は印面……メインである印を彫る面の加工に移っていく。
現実の手作りはんこならばここに自分の名字などを彫るのだろうが、ここはゲーム内。
ここに彫るのはまた違うものだ。
「えーっと、印一覧……一覧……あったあった。これの?どれにしようかしら……」
本を改めて開き、どの印にするか決めるため一覧をみてみれば。
ざっと20ほどの種類と、それを捺した時の効果も載っていた。
印章本体に使っている材料によって効果も微妙に変わるのか、私が作れそうな印を見るだけでも一苦労だ。
……まぁ、今回は試しってことで。
その中から一つを選び、印面とする方へと彫刻刀と鑿を使い彫りこんでいく。
現実で印章を作っている人から見ればかなり雑で、必要な道具も足りていない生産風景なのだろうなぁと頭の隅で考えながら、今回も表示されているガイドに従っているため動かしている手にあまり迷いはない。
--System Message 『印章が完成しました』
「あー……やっと完成したわね……」
そうすること数十分。
やっと表示されているガイドが消え、システムメッセージが出現した。
――――――――――
再生の印章
制作者:ハロウ
効果:捺印した対象に対し、再生効果を付与(30~60s)
説明:木材によって作られた印章
再生を意味する印が彫られており、特殊なインクを用いることで効果を発揮する
――――――――――
「初めてにしては良い感じじゃないかしら」
「へぇ、ハンコかいそれ?このゲーム手作りもできたんだねぇ」
「ぇい?!」
突然背後から話しかけられ、驚きながらも振り向けば。
そこにはニヤニヤとこちらを見つめるCNVLの姿があった。
「何よCNVL……突然背中側から話しかけられたらびっくりするじゃない」
「一応セーフティエリアに入る前にチャット送ったんだけどね。あぁ、そうそう。メアリーちゃん以外やりたいこと終わったから一応報告に来たんだよ。どうする?ダンジョンでもいくかい?」
「あー……少しだけ試したい事もあるしいいかもしれないわね。ただ、もう一個だけ作りたいから明日でもいい?」
「ん、いいよ。じゃあマギくんにそう言っておく」
一言断った後。
CNVLはそのまま帰っていき、私はもう1つ印章を作り始めた。
……今度は鉄で作ってみましょうか。
そんなことを考えながら。




