Episode 22
--第二区画 第二階層ダンジョン 【決闘者の墓場】 4F
■【偽善者A】ハロウ
枷が外れたかのように、ヨハンは笑う。
首からは今も滝のように血が流れ、身体のキレも先程よりはない。
しかしながら、彼は笑う。
自身の血に塗れながら、声を上げる。
『あァ!いいじャないかァ!大罪2人!ごり押しながらも俺にここまでダメージを与える事が出来る!後ろの2人もいい支援、援護だッたァ!』
「……何よ、もう終わりみたいな台詞じゃない」
『そりャあそうだ。ここまでは――ンン。ここまでは、お客人様達がこの先へ進んでも問題ないかのちョッとした確認なのですから』
「あは、今更口調を取り繕っても遅いぜ?それともアレかい?一応仕事のスイッチ的な奴かな?」
そんなものです、とお辞儀した彼は瞬きした瞬間に身体についていた傷を全て回復していた。
所謂イベント戦のようなものだったのだろうか、そんな事を考えながら彼の白い煙と共に去っていくのを呆然とただ見ていた。
……あっ。大罪云々聞く前に逃げられた。
やってしまった。
恐らく悪魔、それも悪魔の中でも高い位に設定されやすいヨハン……メフィストフェレスならば、私の持つ【強欲性質】の制限についてもわかるのではないかと思ったのだが。
聞く前に逃げられてしまったのなら仕方ない。
二回目は会えなさそうな気がするし。
そんなこんなで、私達はCNVLが何故か持っていた紅茶を貰いながらヨハンとの戦闘があった部屋にて一時的な休憩を行っていた。
というのも、基本的には私が使ってしまった【強欲性質】のクールタイムが長すぎるのが原因ではあるのだが。
「しっかし、予想通りに居たわね。メフィストフェレス」
『えっ、何処かにいたの?(゜ω゜)』
「おや、知らないのかい?ヨハン・ファウストっていうのはメフィストフェレスが良く良く使う偽名というか……まぁ偽の名義なんだよ。まぁゲームの範囲とは少し離れてるから知らなくても仕方ないさ」
「先輩、それ僕がこの前教えた事そっくりそのまま喋ってますよね?最後以外」
少し調べれば分かることだが、基本的に彼の悪魔は人間として振る舞う場合ヨハン・ファウストの名を騙る事がある。
今回もそう。否定しなかったのが一番の答えだ。
「でもてっきりメフィストとはボスとして戦うかと思ってたわ」
「彼の話的にこの後……第5階層がボス部屋ってことですよね。ファウスト博士が来るにしても、そのままだと純後衛だろうし……」
『決闘者の墓場って名前も名前だよね(゜ω゜)ここまで決闘者出てきたっけ(゜ω゜)』
「スケルトンがそうじゃないかい?……いや、でも劇場作家の方はボスがシェイクスピアか……」
話題はこの後出現するボスについて。
というのも、私達の知っているファウスト伝説は決して剣闘士や決闘者の伝説ではないし、そういった類の人物が出てきた記憶も無いのだ。
ファウストに関して言えば、彼は学者であり決して武闘派ではない。
では誰が、しかしファウストがこの先にいるのはほぼほぼ確定で……という問題に皆で頭を悩ましていたのだ。
「誰かファウスト伝説の登場人物で決闘者とか居たかどうか覚えてる人いる?」
「……僕の知ってるファウスト伝説はそういった人物は出てきませんね」
「私は当然知らないぜ」
『私もー!(´・ω・`)』
何故かハイタッチしているCNVLとメアリーを置いておきながら。
私の知っているファウスト伝説にそういった類の人物が居ないかを思い返し、しかしながらやはり該当者はいなかったと記憶していた。
「んー、考えるのが面倒になってきたわね。もうあれじゃない?ゲームだから、決闘者になったのよファウスト博士」
「あは、IFというよりは二次創作の類だねぇ。その前提ならもう誰が出てきたって驚けないなぁ」
事実、先ほど私たちと戦闘を行っていたメフィストフェレスも言ってしまえば二次創作、三次創作以降の類だ。
考えるだけ無駄なのかもしれないし、そもそも私達がそこらの情報を積極的に集めていないというのも理由にあるだろう。
……あ、そういえば……。
ふと、あることを思い出す。
「CNVL」
「なんだい?……おっと、愛の告白なら流石にボス前にやるというのは死亡フラグじゃないかな」
「違うわよ。……貴女、確かこのダンジョンが出来た経緯とか何かの資料持ち出してきてたわよね」
「ん、持ってはいるけど……あぁ成る程?了解了解、取り出すから待ってくれよ」
こちらの意図を察してくれたのか、CNVLはすぐにそれらが書かれた資料をインベントリから取り出してくれる。
彼女の持っている資料には、私が言った通りダンジョンが出来た経緯やファウスト博士が行ったと思われる実験内容が記載されていた。
では、それの目的は?
CNVLは言った、『死者蘇生』であると。
ではその死者は誰だ?ファウスト博士がこんな規模の実験施設まで作ってまで蘇生させようとしているのは誰なのか?
「……見つけた」
「お、本当かい?あったのか……」
「誰です?」
『???』
約1名、流れが分かっていないが……まぁ良いだろう。
「グレートヒェン。ファウストが一目惚れしたとされる女性ね」
「……グレートヒェン……あぁ!ゲーテの方の!成程確かに。それにゲーテのファウストなら確かファウスト自身も決闘していましたよね?」
「そうね、グレートヒェンの兄としてたはず。あー、なんで忘れてたのかしら」
私達だけで盛り上がってしまっていて、他の2人がついて来れていないがそこまで難しい話でもない。
結局の話、ファウストの恋人がこの先で待っている可能性が高いというだけなのだから。




