Episode 4
--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス 第二階層
■【偽善者A】ハロウ
後日。
私はメアリーから呼び出され、予定よりも早くログインしキングス工房へと再び訪れていた。
奥の方へ進んでいけば、昨日と同じ場所で作業をしているメアリーが居て。
その更に奥にはメアリーと同じ様に作業をしているCNVLの姿もあった。
「メアリー」
『ん、防具出来たよハロウ!(゜д゜)!』
目の前の彼女へと話しかけながら、パーティ申請を行えばすぐに承認されチャットで返事が返ってくる。
そんな様子に少しだけ頬が緩むのを感じながら、詳しく話を聞くために場所を移動する。
ここにはNPCやCNVL以外にも、他のプレイヤーもいるのだ。
先日の酔鴉のように他区画のプレイヤーも何処かにいる可能性があるために、出来る限り2人だけになれる状態が好ましかった。
どうせなら、という事で端末を操作しセーフティエリアへと移動した私達は、さっそくトレード画面を介して出来上がった防具とその代金を交換し。
「おぉ……いいじゃない。好きよこういうの」
『そう?ありがとう(*‘∀‘)』
メアリーから送られてきた防具をすぐさま装備した私は、その出来に驚いた。
白を基本とし、所々に赤色の幾何学模様が入ったワイシャツ。
私がよく足を使って戦闘行動を行うためだろうか、少しだけ重りが入っている黒の編み上げブーツ。
彼女の持っているスキルやセンスを出来る限りフル活用して作られたものだとわかるほどに、それらは私のアバターにしっくり合う。
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Model:Flame 防具・上
装備可能レベル:8
制作者:メアリー
効果:火炎耐性:小
裂傷耐性:小
物理耐性:中
説明:火鼠の革、人革から繊維を取り出し、組み合わせたものを使って作られたワイシャツ。
軽度な火程度ならば、これを着ている間は問題ないだろう。
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BW・ブラック 装飾品
装備可能レベル:8
制作者:メアリー
効果:床面からのダメージ減少:中
戦闘行動【蹴り】によるダメージ増加+2%
説明:靴底に鉄を仕込むことによって、地面からくる脅威から身を守ると共に。
その重き一撃は、敵対者を葬ることだろう。
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その効果も申し分ないもので。
彼女に素材を渡して作ってもらってよかったと思う。
「うん、良いわね。動きやすいし効果もいいし。素晴らしいわ」
『そう?ありがとう!(*‘∀‘)』
「えぇ。これからはこれらの強化をお願いすることになると思うけどよろしくね」
『分かったよ~('ω')ノ』
それから少しだけメアリーと話してから、私達はセーフティエリアから元居たキングス工房へと戻ってきた。
というのも、今日はそもそもメアリーの件以前にダンジョン攻略をする日なのだ。
そのため、作業に没頭しているうちのアタッカーを回収しなければならない。
私達2人はそのまま工房の奥へと進み、CNVLの後ろ姿を見つけた瞬間にパーティ申請を投げつける。
それと同時に、肩をポンポンと叩き一度集中の海から引き上げてやることにした。
「……ん。あぁ、ハロウか。ご丁寧にパーティ申請まで。って君がいるって事は時間かな」
「まだ少し早いけど、片付けとかもあるでしょう?……ってこれ何よ」
「何ってナイフだよ。投げナイフ」
「刀身だけじゃない」
「あは、こっちの方が都合が良くてね」
本当はマナー違反なのだろうが、つい気になって彼女の手元に存在するそれらについて聞いてしまった。
机の上に乱雑に置かれている数多くの刀身を前に、何かをしていた彼女はそれらを一旦インベントリへと仕舞うと作業道具などを片付け始め。
……まぁ、どうせCNVLのことだから後で使うでしょう。
私もどういうものなのか聞くのを諦め、その作業を手伝った。
「すいません、遅れました」
「大丈夫よ、時間的にはまだ余裕はあるし、私達は勝手に集まってただけだから」
予定していた時間の少し前。
集合場所である決闘場前の広場にて待っていると、マギがログインしてきて合流することが出来た。
少しだけ時間をとり、全員で簡単な作戦会議……と言っても、どういう場合で戦闘を避けるか等といった簡単な決め事程度の事で、それ以外は特に決めずにアドリブでというのが基本的なうちのパーティの行動指針だった。
下手にあれこれ決めてしまうと、逆に咄嗟の事に対応できなくなってしまったりもするためだ。
決して全員考えるのが面倒くさかったから、ということはない。
決して。
「よし、大体決まったわね」
「そうだね、じゃあ行こうか」
そう言って、私達パーティは歩き出す。
ダンジョンが存在する決闘場、その奥へと。
今回の目標は、これまでの最高階層までたどり着く……ではなく。
【決闘者の墓場】完全攻略。
今だ酔鴉たちも成し遂げられていないその偉業を、今回目指してみるという方針で。
それくらいの志の方がテンションも上がるというもの。
「よし、じゃあいっちょこのダンジョンアタックで攻略してやりましょうか。準備はいい?」
「「『OK!』」」
「なら良し。じゃあ行くわよ」
つい先日にも訪れた地下へと続く階段の前。
そこには今日も何人かのプレイヤーが居て。そしてこちらを見るその目には期待や妬みといった色々な感情が混ざっている。
そんな視線に晒されながらも、私達は進んでいく。




