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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 1 第2章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

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Episode 29


--イベントフィールド 【決闘者の廃都】 屋上エリア

■【食人鬼A】CNVL


扱うのに慣れてきたマグロ包丁を振るい、私は目の前にいるホラー映画の殺人鬼のような友人を近付けないように牽制する。

彼女の持つ【HL・スニッパー】は私が作った作品で、ある程度の間合なども分かっている。


というか。

……流石にこれまでほぼ一緒に戦闘してたから手の内バレバレだよねぇ。

伊達に初日からこれまでの期間を共にしていない。


彼女の持つスキルや癖、視線の動きなどを見て把握して彼女の攻撃を避けていく。

しかしこれは私にも言えることで。

ハロウも私の動きや癖などを見てこちらの攻撃を避け、時に攻撃に転じたりと端から見れば拮抗しているようにしか見えない戦闘が続いている。


「あはッ!【真実の歪曲】は使わないのかい?!」

「手の内が割れてるのに使うわけないでしょう!」

「そりゃ、ざんっねんッ!」


時々言葉を交わしながら、私達の攻防は続いていく。

上から振り下ろし、払い、突いて突いて。

ナイフで防がれ、身体を半身後ろに倒すことで避けられ、ハサミで弾かれ弾かれ。


下から振り上げ、ナイフに持ち替え切りつけ、蹴り殴り。

下から来たハサミを横に身体をずらすことでよけ、ナイフを出刃で止め、マグロ包丁で受け流し受け流し。


どちらも先の試合では使っていた自己強化をロクに使わずに、真正面から戦いを続けていく。

研ぎ澄まされた技術というものは、それが何であれ人を惹く魅力がある。

しかしながら私達のこの戦いは、お互いの技術をぶつけ合ってはいるものの、その領域には届かない。


単純な技術の押し付け合い。

自身のやりたい事だけを通すためのがむしゃらな動き。

いつしかお互いの距離はほぼ0となり、お互いの得物もナイフや出刃ではなく己の身体だけとなる。


殴り、蹴り、防がれ、防がれ。

急所を狙おうにも、お互いに同じようなことを考えているからかお互いの拳を打ち付ける結果になって、その衝撃にお互いよろめいて。

そして距離を取り合った。


「所謂千日手って奴じゃないのかいコレ」

「HPはお互い削れてるからその状況にはならないわ。……ふふ、良いわね。貴女とこうして1対1で戦える日がくるなんて」

「そうかい?正直私としては満足してもらえてるか不安でしかないのだけど」

「満足しているわよ。私の好きなもので、自分と同じかそれ以上の技量の相手と戦える。素晴らしいじゃない」


そういった彼女は、爽やかな笑みを浮かべているが……その手に持つ巨大なハサミの所為で頭がおかしい人なのかと一瞬過ってしまう。


「……それならいいけれど。とりあえず、そろそろスキルも使ってやっていこうぜ。長引かせるのは運営さんにも悪いしね」

「そうね、やりましょう。【偽善活動】、【メイクビリーブ】」


そう言って、私がマグロ包丁とナイトゾンビの腕を取り出せば。

彼女は嬉しそうに自身の持つスキルを発動させていく。

改めて【解体丸】を右手に、ナイトゾンビの腕を左手に持ち。

彼女は【HL・スニッパー】を両手に持って、再度構え。

お互いにまた、距離を詰めるために地を蹴った。



肉を喰らい、白銀に光る剣を振るい光を生じさせる。

武器として現時点では優秀な剣ではあるものの。それを挟みこみ潰していく【HL・スニッパー】には意味がなく。

しかし私の持つ得物はもう一本存在している。


彼女の持つハサミは両手で使わなければならないほどに、重量があるものだ。

だからこそ、今までの対戦相手と同じようにまず腕を潰すためにマグロ包丁を振るう。

単純に斬りつけるようにではなく、上から突き刺すように。


しかしそれは通らない。

私のやりそうな事は予想できていたのか、彼女は咄嗟に手を離し【HL・スニッパー】を空中に投げ出して。

【HL・ナイフ】をインベントリから取り出して私のマグロ包丁を横へと受け流し、私の身体に対し、そのまま蹴りを入れて距離を強制的に取らされる。


ダメージはそこまで高くなく、肉片や他の肉を食べてさえいれば何とかなる程度でしかないため問題はない。

問題はといえば、


「ま、分かられてても使うしかないわよね。【真実の歪曲】」


今まさに、私の目の前から武器と一緒に消えていくハロウの方だろう。

【真実の歪曲】の効果は、一撃加えるまで自身に【隠蔽】と呼ばれる相手から認識され辛くなるバフを付与するというもの。


よくよく観察すればどこにいるか程度は分かるのだろうが……戦闘中、そんなことをしている暇があるかと言われるとそうではなく。

それに加え、私は『劇場作家の炯眼』のような目に関する装備を持っているわけではない。

つまりは、種が分かっていても対策がない状況で。

……どうするかな、これ。とりあえず一撃受けないとやばいかな……。


ほぼ不可視となった相手がどこから来るのか、急所を狙われたらそこで終わりとなってしまうため、それだけは防がねばならない。

ただ、事前に掲示板でちらっと見た情報から察するに、何かこの状態からでも彼女の動きを察する事くらいはできるのだろうと予測する。


目ではなく、他の部分で。

そう考えた私は、今は要らないものでしかない目を閉じた。

元々高度の高い屋上だからか、風の音が耳へ聞こえてくる。


それ以外に、鼻を使って周囲の匂いを嗅いでみたものの。特に何か変な匂いがするわけではなく。むしろ自分の身体から漂う血の匂いの所為で、他の匂いが分からないくらいだった。後で洗っておくことにしよう。落ちるかどうかはしらないが。

……音かな。音で位置を察するとか割と難しいけど……まぁ、やってみないことにはどうにもならないからね。


そう考え、私は再度耳を澄ませる。

ハロウが姿を消してからもう10秒ほど経っていて。そろそろ私の元へと辿り着き、攻撃を加えようとしていてもおかしくはない。

どうにかして見つけ出さなければ。


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