Episode 22
--イベントフィールド 【決闘者の廃都】 駅前エリア
■【食人鬼A】CNVL
金属同士がぶつかり合う。
一度ではなく、複数回鳴り響いたそれは私の攻撃が全て防がれていることを意味していた。
自身を【狂画家】と称した対戦相手……バディは、その名に似つかわしくない動きでこちらと互角に渡り合っている。
出刃で突き刺そうとすれば逸らされ。
意識がそちらに向いていると思い、剣を死角から入れようとすれば身体を捩ることで避け。
足払いをかけようとすれば、距離をとられ不発に終わる。
未来でも見えているのかと思うくらいに正確に防がれ、致命の一撃を入れることが出来ない。
しかしながら、相手もそれは同じようで。
彼女の攻撃は全て、血の絵具を投擲する所から始まり。
手に持つペインティングナイフでこちらの肉を抉ろうとするのを、紙一重で避け。
いつの間にか取り出していた筆を使い、こちらの身体に何かを描こうとするのを距離をとることで避け。
やはり、彼女も彼女で思うように攻撃が出来ていない。
どちらかがミスをしない限りは終わることのない試合が繰り広げられていた。
「あは、しぶといねぇ。そろそろ諦めてくれるとありがたいんだけど」
「それはこちらの台詞ですよっ!流石にうちの区画トッププレイヤーさんは甘くないですね!」
「褒めても何も出ないぜ?」
「褒めてないので出さないでくださいね!」
時々そんな言葉を交わしながら、私と彼女は殺し合いを続けていく。
切り、防がれ、突き、逸らされ、投擲し、食われ、しかしながらどちらもHPを減らさずに。
そんな中、やはり気になるのは彼女のスキルだろう。
……使ってる素振りが見えない、というか。使ってるとしても絵具みたいなの作りだすくらい?
私の視界からは特段何かスキルを使っているように見えないのだ。
もしかしたら目に見えない範囲で何かの自己強化系スキルを使っている可能性はあるが、それでも【狂画家】という名前の【犯罪者】にしては大人しいという印象を受ける。
確かめる必要があるかもしれない。
もし使っているのならば、使っていなかったアイテム群を使って決着をつけるだけで。
もし使っていないのであれば……。
……こっちがすっごい不利になるなぁ。
そんなことを思った瞬間、頬が緩むのを感じた。
身体は正直と言うけれど、私の身体は特に正直だろう。好きな事に対面した時の反応が本当に正直だ。
そうして、走り出す。
先程までと同じように彼女の懐に入り込むようにではなく、思い出すのはハロウと共に戦った一回目のシェイクスピア戦の時のように。
あの時のハロウのように、勢いを殺さずに走り抜けるように。
しかし手に持つのは彼女の持っていた得物ではなく、出刃包丁を持ち。
バディはその姿を見て何を思ったのか、こちらを見て目を見開き笑った。
何が来ても対応できるように腰を低くし、ペインティングナイフと筆を構え、防御に重きを置いた体制でこちらをしっかりと見据えて。
地を駆り、獣のような速度で私は近づいて。
狙うは半身。出来るならば致命傷となり得る脇腹辺りに当たればいいなと、出刃を構え。
そして私達の影は交差する。
「……ふぅ、やっと一撃かぁ。長いねぇ」
「あっちゃちゃ!貰っちゃいましたね!ミスったなぁっ!」
結論から言えば、私の一撃はバディの身体……左腕へとヒットした。
といっても、深手になるようなものではなく。あくまでも浅く切っただけのもの。
しかしこれで色々と分かったこともある。
……手応えが全然違ったねぇ。人の身体にしては堅かった。
目に見えていないだけで彼女は何かしらの防御系のスキルを使っている。
それが【ゲイン】からアジャストされたものか、【狂画家】特有のスキルなのかはわからないが。
しかしながら、スキルを使っていることが分かったならばこちらのものだ。
ここからの戦いはただの、結果が見えた蹂躙劇でしかない。
ゾンビスポーナーの肉塊を喰らい、彼女が身動きをとれないようにしながら。
私は取り出した【解体丸】によって堅い皮膚を削いでいく。
「ぐっ……!CNVLさん狂ってるとか言われません!?」
「あは、よく言われるよ」
五体満足でありながら、彼女は動けない。
赤黒い何かが手足に絡みついてその場に固定しているからだ。
すぐに腕を切らない理由としては、簡単で。
単純に彼女の防御力が高すぎて刃が入っていかないためだ。
「面白いなぁ。君これ、血をスキルの対象にしてるんだろう?しかもこの堅さってことは……系統はDかな。いやはや、防御系と戦うのはこれで2度目だけど奥が深いな」
「はぁ……!」
「私もすぐに楽にしてあげたいんだけどね?でもここまで刃が入らないんじゃあ仕方ないじゃないか。それに君もスキルを解いてくれないしね。あぁ、困った困った――」
そう言いながら、彼女から削いだ皮膚を喰らう。
【祖の身を我に】が発動し、視界の隅にバフが表れているのが分かるが、今はそこまで関係ないだろう。
「――あぁ、いや。スキルを解かないのは、それが血を操作する系のスキルだからかな。こうして大量に血を流すことによって、油断している私を後ろからこうザクっといくための」
何か後ろに立つような気配があったため、適当にマグロ包丁を後ろへと振るえば。
スライムを切ったような感覚と共に、液体状の赤い何かが弾けて消えていった。
「うん、ビンゴ。……さて、質問をしようか」
「……質問ですか?」
「あぁ、質問さ。それ以上でもそれ以下でもない。単純に聞きたいから聞くんだけど……君は、目に刃物を入れられて耐えられる人間かな?」
「は?ぁ?!」
彼女の呆けた顔、その中に存在する目玉へとマグロ包丁を突き入れようとする。
が、しかし。思った以上に堅く、刃が入ってはいかない。
刃先だけが刺さっているのか、どうにか入っていかないかとぐりぐり力を無理やり入れているからか、彼女の叫び声が誰もいない駅前へと響き渡った。
彼女の瞳からは涙が溢れ始めた。
「痛みはないだろう?でも怖いだろう?いやだろう?圧迫感はあるだろう?楽になる方法は一つだぜ?」
「……ッ!」
「だからそれは……って、おぉ。これは予想外」
再度血を操ってくるのかと思いきや。
彼女は自身の眼球から伝う涙を操り、攻撃をしてきた。
咄嗟に片手に持っていた出刃で防いだものの、ガキンという音と共に重い衝撃が伝わってきたため、喰らっていたら危なかったかもしれない。
「成程、血だけじゃなく涙も……この分だと体液が対象なのかな。興味深いね。今度区画で会ったら色々話をしようか」
「嫌ですねっ!」
「そうかい、それは残念だ。では、また」
力を再度かけると。
彼女がスキルを解除したのか、それとも元から限界だったのか。
刃がパキュッという小気味いい音と共に彼女の頭の中へと入っていき、急速にHPを減らしていった。
そしてそのまま身体を光へと変え、消えていく。
--System Message 『CNVL選手の勝利です。転移しますので今暫くその場でお待ちください』
システムメッセージが表示され、私が勝ったことが分かった瞬間。
その場に座り込んだ。
「あぁー……疲れた。柄じゃあないねぇ、こういうの」
第二試合、終了。




