Episode 14
--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス
■【食人鬼A】CNVL
アップデート直後。
私がログインした場所は、ダンジョン前。
ログアウトする前に居た位置へと降り立っていた。
--System Message 『アップデート情報がメッセージに届きました』
「おや、こういう通知もくるんだねぇ。便利だ」
そう言いながら、現実側で確認した内容を改めてメッセージで確認していく。
ほぼほぼホームページで確認した内容と同じだったものの、第二階層へと行く方法なども載っていたため、目を通しておいて正解だったのだろう。
私はそのメッセージに記された第二階層への入り口へと足を運んだ。
たどり着いたのは、図書館。
デンスから第二階層へと移動するには、この図書館に入場する必要があるとのことで、ここに移動してきたのは良いものの。
図書館というだけで、つい数時間前に行っていた戦闘を少しだけ思い出して身体が熱くなってきてしまう。
「ここがそうかぁ……なんともそれっぽくはないねぇ」
「おや、CNVLじゃないか。1人は珍しいな」
「ん?……あぁ、スキニットくんじゃあないか。君も第二階層へ?」
不意に後ろから声を掛けられる。
誰かと思いつつ、後ろを振り返ればそこには見知った顔が居た。
いつもパーティを組んでいる者らは一緒ではなく、彼も1人で来たようで。
どうせだからと一緒に第二階層に降りてみることにした。
「あぁ。まぁやっぱり新要素ってのはいち早く覗いてみたいだろう?俺らも最近ノーマルクリアしたから資格はあるからな」
「成程ねぇ。あ、後でメアリーちゃんがまた掲示板にハードの攻略載せてくれると思うぜ」
「それはありがたい。……が、いくらなんでも早くないか?」
「いやぁ、私はそこまで気にしないんだけどハロウがね。『公開しないと、色々後ろ指刺されそうで怖い』って言っててねぇ。その割に本人チャット苦手だから書かないんだけど」
「メアリーならアレはアレで一種のデンスのアイドルみたいになってるから、印象的には良いんだけどな」
図書館の中に入り、奥へと進んでいくと。
扉が一つ。本棚と本棚の間にぽつんと存在していた。
一瞬だけ書庫への入り口かと思ったが、それにしては扉が普通の木製のもので。
ドアノブに触れてみると、システムメッセージが送られてきた。
--System Message 『第二階層に移動しますか? Y/N』
スキニットと顔を見合わせながら、『YES』を選択する。
すると、だ。
扉が独りでに開き、その先には階段が存在していた。
その先は暗く。見通すことは出来なさそうな闇が広がっていた。
「いかにもって感じはするけど……どっちかというと、ダンジョンぽくないかい?これ」
「特にデンスだとそうだな……他の所だと、それっぽいテレポーターだったりするんだが」
「ん?スキニットくんは他区画のダンジョンに潜ったことがあるの?」
「むしろそっちはないのか?割と普通に入らせてもらえるぞ?」
「成程ね……後で行ってみることにするよ。オリエンス辺りなら面倒は少なそうだ」
適当な話をしながら階段を下りていくと。
徐々に明るくなっていき。完全に階段を降り切った時には第一階層に居る時とほぼ変わらないくらいには光に溢れていた。
--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス 第二階層
煉瓦造りの壁、何かによって光の灯っている街灯。
一見すると何を売っているのかわからないような店や、第一階層と同じように生活しているように見えるNPC達。
そして特に目を引くのは、この階段を降りてすぐの場所からでも見えてしまう巨大な建造物だろう。
「アレが……」
「闘技場。これまでは襲おうと思ったら街中でもいつでも襲えたものが、賞金、賞品を伴ってルールの元に行えるようにしている場所……コンテンツの追加としては妥当だろうな」
「あとで剣闘士として登録しておこうかなぁ。君はやるのかい?それなら色々楽しそうだけど」
「いや、やめておこう。【立会人】は確実に剣闘士向けの【犯罪者】ではないからな。……というか、犯罪者ですらない気もしないでもないが」
彼も私も見たいものが少し違う、という話になったため一度分かれることにした。
と言っても、私が見たいのは闘技場しかないのだが。
暫く歩いていくと。
それの入り口が見えてきた。
闘技場……というよりは、コロッセウムといった方がいいのだろうか。見た目的にはギリシャとかにありそうなイメージのある闘技場がそこにあった。
その周囲にはNPC達が出している出店と共に、何やら名前とスコアのようなものが書かれている表のようなものも存在している。
近くのNPCに話しかけ何なのか聞いてみると、
「あぁ、アレは剣闘士のランキングですよ」
「ほう?」
「あのランキングは『CP』……所謂、人気度だったりするものを競いあうためのものですね。他にも順当な実力順のものだったりと色々あったりしますよ」
「成程、ありがとう」
礼を言った後、NPCから離れ近くにあったベンチに座り考えることにした。
……一口に剣闘士ってだけでも色々とルールがありそうだねぇ。
未知のポイントである『CP』。恐らくは『Crime Point』の略だろうが、それでもどうやって稼ぐのか見当もつかない未知の単位でもある。
何も情報がないまま突貫するのもどうだろうか、と考えながら闘技場の入り口の方をぼんやり眺めていると。
見知った美人が、狂ったように走っていくのが見えてしまった。
「……追いかけようか。確実に彼女だろうし」
すぐに追いつくために、手持ちの腐った肉片を食べ【アントロポファジー】、【暴食本能】を発動させ自己強化を行った後に、走り出す。
見えた背中を追うように。普段とは少し……いや、大分かけ離れた友人へと声をかけるために。
「おーい、ハロウやーい」
「うぇへっへ……ん?何よCNVLじゃない」
「なんかすごい鳴き声してたけど大丈夫?確実に正気じゃないだろ君」
すぐに追いつき、肩を掴みその場で止める。
ほぼほぼ闘技場の目の前だったために、あと少し止めるのが遅かったら完全に中で何かやらかしていたのではないだろうか。
「離して!私は正気よ!ただ私は闘技場で決闘をしたいだけなの!」
「いや、君そういうタイプじゃあなかっただろう……?」
「そういうタイプよ!」
どうしても決闘がしたい決闘がしたいと喚く彼女を一旦なんとか落ち着かせた後に。
どうしてそんなに決闘がしたいのかを聞くことにした。
普段見られない姿を見る機会が最近多いなと思いつつ。
「いやね?私このゲームをやる前にも色々とゲームをやっていたのだけど」
「うん、まぁそうだろうね」
「その中でも決闘とかそういうPvPコンテンツが好きで好きで。やってると身体の芯が熱くなってきて気持ちよくなるっていうか」
「それちょっと変じゃない?変態入ってないかい君」
「あ、ちょうどいいわ。CNVLも一緒に剣闘士やりましょう!1位は譲らないけど、絶対に貴女と決闘するのは楽しそうだわ」
「今日は一段と話聞かないねハロウ」
そうやって押し切られつつ。
私とハロウは剣闘士としての登録を闘技場で行う事となった。
手数料は取られないらしく、その場で簡単に調べられた程度で登録できてしまった。
こちらとしても楽だったためにありがたい。
……押し切られる感じにはなったけど、たまに挑んでみてもいいかもね。
そんなことを思いつつ、私は第二区画の他の場所……まだ回っていない場所を回ることにした。
今日は戦闘もせずに、こうやって街を回るだけでもいいかもしれない。




