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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 1 第2章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

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Episode 11


--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 Hard 5F

■【食人鬼A】CNVL


避ける。

剣を避け、蹴りを避け、掴みを避け。

私は避け続ける。

攻撃を無理に当てに行こうとはせずに、出来る限り大きな隙が出来るまで待ち続ける。


その間にも、遠方からクロスボウによる射撃が行われる。

まずは足を。その次に腕を。そして頭を。

払われながらもメアリーは撃ち続けてくれる。


『閃光行くよ』


そして。

顔文字を入れる余裕もないのか、彼女にしては簡素なその一文と共に放たれたその一矢は、これまでと同じようにダメージを与えることなく落とされる。

咄嗟に目を覆い、シェイクスピアから少し距離をとり。

瞬間、その矢は眩い光を発しながら爆発した。


『ぐっ?!』


シェイクスピアから呻くような声が聞こえてくる。

確認すれば、目が灼かれたのか一時的にこちらの姿自体を確認できないようだ。


メアリーの【加工師】、そのスキルによって付与された追加効果による隙の作り方。

威力は低いものの、こういう時(パーティプレイ中)にはダメージよりもこういった小細工の方が重要だったりもするのだ。


そして、今。

私は一足飛びに距離を詰め、出刃包丁を使って彼の右腕を切りつけた。

一撃、二撃と入れ。流石にある程度の位置を把握したのか、金の剣を振るおうとした瞬間に少し距離を取り悠々とそれを避ける。

……これならある程度までは戦えそうだけど……それでもある程度だねぇ。

現在は目が見えていないために、どこに私が居るか把握できていないだけ。

恐らくはこれを繰り返していると、私達が立てる音に反応するようになるのではないだろうか。


現在シェイクスピアのHPバーは大体1本目の半分程度。

残り2本もHPバーが残っていることと、ノーマルモードで見せた第二形態とでもいうべきものが今回もあると考えた場合……この方法で削れるのはHPバー1本程度ではないだろうか。

面倒だ、そう思いつつ私は最後のスポーナーの肉塊をインベントリから取り出し、スキルのコストとして使用する。


出現するは赤黒い人型の何か。

これだけ見ればホラーだな、と少し場違いな考えが頭に過りつつ。

私はそれらと共に、改めてシェイクスピアへと近づいていく。

区画順位戦、ナイトゾンビ戦で見せたものと同じように、彼らは相手に近づき。そしてその身体を拘束する。


完全体と名のついたシェイクスピアにもこの方法は有効なようで。

一時的ながら、彼が避けることも攻撃することもできない状態ができ、


「今ッ!」


そこへ私と、その掛け声に合わせたメアリーの攻撃が集中する。

私は正面からシェイクスピアの喉を食み、メアリーはいつの間にか背後にまで回っていたのか背中側から射撃を行い。

急速にその膨大なHPを減らしていく。


そしてここで。このタイミングで。

巨大な影が、シェイクスピアの頭上から落ちてきた。

ぐちゅり、という何かが水気のあるものが潰れるような音がその場に響く。


それはハサミのような形をしていて。但し、その大きさは規格外。

切るためではなく、潰すために作られているその刃を器用に使うその者は。


「全く、遅いぜリーダー」

「ごめんなさいね。リアルSANが逝ってたのよ。ここから挽回するわ」


私達のパーティのまとめ役。ハロウだった。

彼女は私の軽口に反応しつつも、そのまま自身の潰したものへ更に体重をかけ念入りに潰していく。

普通ならば即死、アクターゾンビならばすぐに光へと変わっているだろう。

しかし、相手はそこらの雑魚ではなくボス。

今もHPバーが減っているのが見えているが、それが見えているということはまだ生きているということ。


「マギくん、バフ更新お願いー!」

「了解です、ハロウさんそのまま前衛変わってあげてください」

「はーい。メアリーやるわよー」

『りょ!('ω')ノ』


前線を離れ、後方へと下がる。

ハロウが来たという事は、彼女の対処を任せていたマギの手が空いたという事で。

それならばと私はハロウと入れ替わるようにして、切れかかっていたバフの更新を行っていく。

次いで、マギの持っていた腐った肉片を受け取りながらハロウ達の居る方向へと目を向ける。

後少しでHPバーの1本目が底を尽くためだ。


「ハロウさん、そろそろ1本目終わるんで離れてください!」

「あら、もう?私適当に上から潰してただけなのに……」


少しだけ残念そうな顔をしながらハサミを持ち上げ、近くへと寄ってくる彼女だが、すぐに真剣な顔に戻る。

唯一私達から離れた位置にいるメアリーも、彼女特有の影の薄さを活かしてこちらへと安全に戻ってくることだろう。


そして、皆で見守る中。シェイクスピアのHPバー1本目が底を尽きる。

瞬間、予想通り変化は訪れた。


『ふ、ふふ……やはり。流石にこれだけではただただ制圧されるだけ、か』


どこからかシェイクスピアの声が聞こえてくる。

本体が遠目から見てもぐっちゃぐちゃとなっているというのに、割と余裕のあるような喋り方をしているのが少しだけ愉快だった。


『では、これを追加しよう。よく言うだろう?【加筆、後付け設定というものは話の整合性をより完璧にするためのものだ】、と。【だからこそ、私はここで一筆、私の存在に書き足そう】』


歌うように、彼はセリフを続ける。

声を止めようと走り出そうとしても、ゲームの演出なのか一歩も動くことができない状態になっていた。


『【今回書き足すは、何者にも勝つ英雄の力を】。【私の身体が保ずとも、目の前の敵を倒す力を】。【今ここに、魂という名の脚本に書き込もう】』


何か目に見えないものが動くような、そんな感覚。

周囲の何かが、ぐちゃぐちゃに潰れたままのシェイクスピアへと集まっていき。

そして徐々に形を変えていく。


『――【始まりの(First)脚本(Folio)】。さぁ、最終幕の始まりだ』


一言。私達のスキル使用のように、彼が何かの名前を発した瞬間にそれは完成した。

演出なのか、彼の身体のある辺りから突風とでもいうべき風が発生し。

そこから何かが立ち上がっていくのが見えた。


それは金に輝く剣を持ち。

それは銀に輝く鎧を着て。

そして、それは朽ちた王冠をかぶっていた。


彼は一度、剣を横に振るう。

瞬間、轟と風が吹き荒れ図書館の床が少し剥がれ飛んでいく。

頭の上に見える名前は、【劇場作家 シェイクスピア 完全体】。別の敵モブというわけではないようだ。


「うわぁ、ちょっとアレと近接戦闘はしたくないんだけど……?」

「やるしかないのよ……メアリー、マギ、いつも通りに任せたわよ」

「あはは……個人的には逃げたいんですけどね……」

『ヘイト管理はミスらないようにしないとね(;´Д`)』


そんなことを言い合いながら。

私達は己の武器をそれぞれ改めて構え直す。

どうせやるなら初攻略初撃破。そんな気持ちでいこうと、気合を入れ直し。

私が飛び出し、ハロウが後に続き。

マギとメアリーはそれぞれの武器を使って攻撃を開始した。




切って、斬られて、喰らって。

蹴って、斬られて、また喰らい。

喰らって、斬られて、喰らって、斬られて、喰らって、喰らって、喰らって。

手持ちの腐った肉片だけではなく、その場でハロウに渡されたものも使い回復を行いながら戦っていく。

……これじゃあどっちがゾンビかわからないなぁ!

所謂ゾンビアタックに近いことを、私は今ダンジョンボスに対して行っていた。


ただ、そんな無茶をしているからか。

私へのヘイトは異常に高くなっているらしく、下手にハロウが攻撃を加えたところでターゲットは切り替わらない。

だからだろうか。彼女はハサミ以外使っておらず、狙っているのも剣を握る腕のみだ。

それに加え、ハロウはシェイクスピアの背後を常に取れる位置を維持していた。


「うぉ、あっぶなぁ」


目の前を金色の残像が通り過ぎていく。

あと少しでも前に出ていたら真っ二つになっていたのだろうと考えると、少しだけゾクっとした。

しかし相手が攻撃を外したというのは、逆に考えればこちらの攻撃のチャンスが出来たということで。

私とハロウは同時に隙を晒したシェイクスピアへと攻撃を仕掛けた。


私は唯一肉体を晒している頭へと、ハロウはそのまま鎧に包まれている右腕をそれぞれ攻撃していく。

前後からの攻撃を避けるには、横に避けるしかない。

そう考えたのか、シェイクスピアは私から見て右側へと飛ぶようにして避ける。

しかし、そこには。


「逃がしませんよっと」

『忘れてるでしょ、私達のこと(、´・ω・)▄︻┻┳═一』


マギとメアリーの後衛組の攻撃が待っていた。

様々な追加効果の付いた矢が、生身では浴びたくない薬がシェイクスピアへと殺到し。

様々なエフェクトを生じさせながら、最終的に爆発した。


「あはっ!いいじゃんいいじゃん!」


突如起こった爆発に笑いながら、黒い爆煙の中へと入っていき。

更に追撃を加えていく。


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