Episode 4
これで本日分は終わりです。
--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス
■【リッパー A】ハロウ
少しログアウトして休憩した後、再度ログイン。
区画散策の途中だったことを思い出した為、それの続きだ。
まだ見ていないのは、現代のような区画とファンタジーのような区画だったはず。
ただここまで回ってきて気になるのは、この浮遊『監獄』都市には監獄と名がついているにも関わらず、それらしいものがないのだ。
……まぁ、考えても仕方ないか。後で時間があるときにでも。
今は区画散策を優先しよう。
残る区画は2つ。
さくっと散策してから、他の要素を触っていこう。
--浮遊監獄都市 カテナ 第三区画 オリエンス
第三区画。
まるでファンタジーの世界へと迷い込んだかのように、そこでは機械のようなものは一切存在しない。
代わりとして、他のゲームでよく見るゴーレムなどといった、所謂魔法生物と類される者らが労働力として動いていた。
「ここに所属したら呪術が使える〜とかだったら喜んで所属するのだけど……なさそうね」
これで私が【リッパー】ではなく他の【犯罪者】だったら、もしかしたら系統によっては取れたのかもしれないが……明らかに物理特化なこれでは望みも薄いだろう。
周りを見れば、何やら試験管を腰から複数ぶら下げているプレイヤーや、時折何か黒い靄のようなモノが身体から出ているプレイヤーが多く見られた。
恐らくは【シップマン】と【ラミレス】を選択したプレイヤー達なのだろう。
「んー……興味はあるけど、無しね」
オリエンスには所属しない。
理由としては色々あるが、単純に自身の【犯罪者】と区画の特色が合わないのが一番の理由だろう。
散策も程々に、最後に残った区画であるディエスへと歩き出した。
--浮遊監獄都市 カテナ 第四区画 ディエス
「なんというか……無いわね。ここも」
最後の区画、ディエスはほぼほぼ現実世界と同じ風景が広がっていた。
というか、ほぼ同じだからかプレイヤーが場違いに見えてしまうほどだ。
NPCと思われる通行人はスーツやら現代的な服装をしているし、他の区画で見られた機械や魔法生物のような労働力も使われていない。
では、そんなディエスは何をやっている区画なのかと言えば、
「……奴隷の生産、他区画への輸出ってウチの国への皮肉かしら……」
見れば、所々に人を扱う店があるのが分かる。
しかもそれが普通の現代にありそうな店としてデザインされているのだ。
なんとも言い難い感情が湧いてくるが、ゲームはゲームと割り切るべきだろう。
パッと見、様々な得物を持ったプレイヤーが歩いているため、どの【犯罪者】がここに多いのかはわからなかったが……まぁ、そこまで気にする必要もないだろう。
兎に角、これで全ての区画の散策が終わった。
ディエスの中にある公園のベンチに座り、改めてシステムメッセージを表示した。
「オリエンスとディエスはなしとして……残りはネースとデンス。んーどうしようかしらね」
ネースはその珍しさから、デンスは一番【リッパー】に合っている区画だから。
少しだけ悩んだ末、私はデンスに所属することにした。
やはり自身の【犯罪者】に合っている区画というのは重要だろうし、そもそも私の【犯罪者】は課金しない限りは変えられないのだ。
変えるつもりもないため、それなら合っているところに所属したほうが色々と都合が良いだろう。
ウィンドウを操作し、所属区画を決定する。
--System Message 『称号【第二区画所属】を獲得しました』
--System Message 『第二区画において、所属者のみが使う事のできる機能が解放されました。詳細はゲーム内ヘルプをご参照ください』
システムメッセージを横目で見ながら、まずは手に入れた称号を確認してみる。
――――――――――
称号【第二区画所属】
効果:なし
説明:君は第二区画に所属することに決めた【犯罪者】だ。
これから沢山犯罪を犯そう!
――――――――――
説明文は気になるものの、特に変哲もない所属記念の称号だ。
効果の欄があるということは、他の記念称号でないものに関しては何かしらの有利になる効果があるのだろう。
取得条件が分かり次第取っていきたいものだ。
続いて、ヘルプが更新されたとのこと。
開いてみれば、確かに所属区画という項目に『NEW』というマークがついている。
というか、ゲームを始めてから一度もゲーム内ヘルプを開いていなかったため、ほぼ全ての項目についているのだが。
「……成程、【犯罪者】と系統の変更が行えるのね」
所属区画、私の場合ならば第二区画で行えること、起こることについてのヘルプだ。
所属区画内に設置されている端末を使うことで、プレイヤーはそれぞれの【犯罪者】や系統を変化させることが出来る。
所属区画以外の端末を弄ろうとしても、そもそも起動してくれないらしい。
さらに、簡易的な倉庫として端末を利用できるらしく、バックパックなどといった大型インベントリが作製できるようになるまではお世話になることだろう。
他にも、自室として使えるセーフティエリアへ行けたりもするらしい。便利だ。
基本的にはこれらが現時点での所属区画にて行える事らしいが、今後のアップデートによっては区画特有の施設が追加されたりするのではないだろうか。
「成程ねぇ……他のヘルプ読んでみましょう」
ディエスからデンスへと移動しつつ、残りのヘルプを確認していく。
中にはダンジョンについてのヘルプだったり、スキル、系統レベルなどのヘルプもあったりしたため、これからは定期的にヘルプを確認する癖をつけようと思う。
そんなヘルプの中で気になった項目が二つある。
『ランクアップ』と『区画順位戦』だ。
『ランクアップ』は文字通りの意味ではなく、自身の【犯罪者】を成長させる要素……らしい。
言ってしまえば、ジョブチェンジ。上位の職へと成長するため『ランクアップ』という名称なのだろう。
そんなシステムだが、他のゲームとは違う点が存在する。
「【世襲戦】ねぇ……」
【世襲戦】と言われるシステムがその一つ。
このゲームでは、なんと特定の上位職になれる人数が決まっているらしく、その人数から弾かれた場合その上位職にはなれない……らしい。
一応、名称が変わっただけの似たような上位職も用意されているらしいのだが、ここで出てくるのが先ほどの称号による付加効果。
『ランクアップ』することによって、その上位職に纏わる称号を得ることができるらしく。上を目指すならば様々な上位職を経由して称号を獲得することが重要になるのではないだろうか。
その問題をどうにかするのが【世襲戦】。
上位職へと既についている者と、まだ就いていない者による1対1の残機形式の決闘だ。
「ハンデありってことは、ステータス制限とかかしら……」
勿論、上位職のプレイヤーの方が力量的にも有利になる。
その為、上位職側にはハンデが【世襲戦】中掛けられ続けられるのだ。
例えば、ステータスが相手と同じまで下げられたり。
例えば、残機の数に差があったり。
他にも様々なハンデがあるらしいが……関わるのは当分先になるだろう。
続いて、『区画順位戦』。
こちらは一定期間ごとに行われる、それぞれの所属区間に分かれて競い合うイベントだ。
開催毎に何で争うのかは変わるものの、順位戦で1位になることができればゲームを進めるのに有利な恩恵を受けることができる。
言ってしまえば、一種のお祭りのようなものだ。だからこそ、気になるというか楽しみなのだが。
「あぁ、中央はこれの為にあるのね」
順位戦による順位決定後、メディウス……中央区画はその順位戦における1位の区画の街並みに沿ったものに変化する……らしい。
今でこそ、何もない広場のようにはなっているが、順位戦後はにぎやかになるのだろう。
--浮遊監獄都市 カテナ 第二区画 デンス
そんなことを考えていると、目的地であったデンスへと辿り着いた。
そのまま近くにあった、近代的な端末に近づいてセーフティエリアへと移動した。
「わぁ殺風景」
移動した私の視界に移ったのは、ただただクリーム色の壁で覆われた正方形の部屋だった。
私が現在いる入口に当たる部分の横に、街にあったものとは少しだけ色の違う端末を弄ってみると、セーフティエリアの内装を弄る項目を発見することが出来た。
「成程、ハウジング要素。それに家具とかには素材を使うと」
椅子や机など、一般的な家具から、サンドバッグなどのトレーニングマシーン。
他にも、恐らく生産系の器具なんかが素材を消費して作成できるようだ。
といっても、私はそこまでハウジングに力を入れるようなプレイはしないし、これといった興味も特にない。
唯一あるとしても、素材を一定時間ごとに生産してくれる『アイテムチャージャー』くらいだろう。
現状作れるようなものではないが。
家具を確認していると、何個か作成することが出来る家具を発見することも出来た。
ただ、
「肉片シリーズかぁ……」
腐った肉片を使い、作成する家具シリーズだ。
椅子、机に始まり、本棚やベッドなんかも網羅している辺り、これを考えた運営は少し頭がおかしいのではないだろうか。
サンプル画像をみてみれば、肉だけで作られた家具が表示されたため、私がこのシリーズを作ることはないだろう。
ハウジング用のウィンドウを閉じ、何もない殺風景なセーフティエリアをちらっと見た後、ログアウトする。
流石に最低限のまともな家具くらいは揃えよう、そう心の中で思いながら。