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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 1 第2章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

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Episode 8


--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 Hard 3F

■【食人鬼A】CNVL


階段は正直探す必要のないくらい近くにあった。

というのも、私は食事(他意無し)に夢中になっていたから気付かなかったが、どうにもこのオフィスのような部屋に他の廊下へと繋がっている扉が出現していたらしい。

その廊下を歩いていくと、階段を発見した。


「私が先頭で行った方が良いよね?」

「そうね、お願いできる?……あ、でもコスト用のナイトの腕とか使っちゃったんだっけ?」

「一応ナイトの方は1、スポーナーは2残りあるよ。まぁ2Fに行けばタダで採れるけど……ここまで来て戻る必要もないんじゃない?これ、ボスへの階段だよね?多分」

『多分、というかノーマルとほとんど同じだから確実にそうかも(*‘∀‘)』

「……バフかけておきますよ。前回みたいな状況だと流石に咄嗟に必要なバフかけるの大変ですから」


今回発見した階段は、ノーマルのボスへと通じる階段と似たような崩れ方をしていた。

パッとみるだけならば、ここから下の階層である4Fがボスとの戦闘エリアということなのだろう。

しかし、ハードモードにその考え方が通じるとは限らない。

ここまで遭遇した敵や3Fの決闘イベントなんかを見る限り、今までとは違うと考えた方がいいだろう。


「じゃあ行くよー。ついてきてね」


私の掛け声と共に、階段を飛び降りる。

その先に何があるのかは、まだわからない。




--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 Hard 4F


落ちた先。

そこは見たことのあるステージの上で。

聞いた事のある声がノイズ混じりに聞こえてきた。

立っているのは、大体成人男性程度の大きさの1体の状態の良いゾンビ。


『レッディーッス!エェーンンンド!ジェントゥルメェエエエン!!』


しかしながら、やはりノーマルとは違う点が存在した。

それは私達とシェイクスピアの位置関係。

ノーマルでは私達がステージの上に居たのに対し、今回は観客側で椅子に座っている。

それに加え周囲にアクターゾンビは居らず、シェイクスピアのみがステージ上で声を発していた。


『今ッ回!ミナサマに観てイタダクのハ!王ノ物語ィィ!』


-【劇■作家 シェ■ク■■ア】-


HPバーと共に出現したその名前は、所々黒塗りになっていて文字を読むことができなかった。

そして仮称シェイクスピアはそのまま虚空から金色の剣を取り出すと、こちらへと向かって飛び出してきた。

戦闘開始だろう。


「散開ッ!」


ハロウの言葉と共に、私は椅子を蹴るようにして仮称シェイクスピアへと飛び出していく。

右手に出刃包丁。左手にはナイトゾンビの腕という、いつも通りの戦闘スタイル。

互いに近づいて行ったからか、彼我の距離はすぐに0となる。


右手の出刃と、相手の剣がぶつかり合う。

一撃、二撃、三撃。金属音を響かせた後、互いに後ろへと飛び距離をとる。

これが1人との戦いだったのなら、相手の距離の取り方はそれで正解だっただろう。

しかし、私達は4人パーティ。


私と入れ替わるようにして前に出たハロウが、大きくハサミを振り回しつつ。

仮称シェイクスピアの体ではなく、彼の持つ剣を挟み潰そうとその刃を開く。

それに気付いているのかいないのか。ハロウと戦おうとはせず、更に距離をとろうと力を入れたであろう足へ、金属製のボルトが突き刺さる。

メアリーのクロスボウによる後方支援。その第一射が放たれたのだ。


『よし命中ッ!(゜д゜)!』


それによってバランスが崩れたのだろうか。

一瞬だけ、彼の動きが止まった。

そんな絶好のチャンスを逃さないように、私は再度走り出す。


前ではハロウがハサミを器用に扱い、彼の手に持つ剣を挟み込もうとしているのが見える。

まずは武器を破壊してから、という考えなのだろう。

……なら、私はもう片方をもらおうかな。


剣を持っているのとは反対側の腕。左側にあたる方へと私は回り込み。

ナイトゾンビの腕を喰らいつつ、スキルを発動させた。


瞬間、私の体は加速する。

【アントロポファジー】、【暴食本能】という2つの自己バフによって更に強化されたためか、少しだけ自分以外がゆっくりと動いているように感じた。

甲冑と共に出現した白銀の剣を使い、仮称シェイクスピアの左腕へ出来る限りの力を入れて斬りつける。


反応ができなかったのか、しなかったのか。

私が行ったその攻撃は特に防御や回避などされず、そのまま吸い込まれるように彼の体を傷つけ、腕が宙に舞う。

HPバーも2割ほど今の一撃で削ることが出来た。恐らくは部位欠損させたためにダメージが多くなったのだろう。


「いただき、ますッ!」


左手の甲冑と剣が光となって消えていくのを横目で見ながら、私は空中へと放り出された彼の左腕へと喰らいついた。

そしてそのままに、肉を噛み千切り飲み込めば。【祖の身を我に】が発動する。

それと共に、何か固いものを潰すような音が聞こえてきた。見れば、ハロウの使っているハサミから何かの光が舞っているのが見えたため、恐らくは彼の剣を潰したのだろう。


スキルによって私の手に出現したのは、金の剣。

たった今ハロウによって潰されたオリジナルの再現だ。

丁度近くにいたハロウと目を合わせ、意思疎通を図りながら再度攻撃するために動きだした。


新たに金の剣を虚空から取り出した彼は、まず私の方を倒すことにしたらしい。

ハロウを一旦無視し、こちらへと身体ごと向き直り。

牽制の為か、はたまた私の速度に合わせてか、剣を横に薙ぐように振るう。


咄嗟に避けようとして身体を後ろに逸らすが間に合わず。

そのまま一撃、胴に受けてしまう。

それだけでもほぼ満タンだったHPが約3割削られているところを見るに、やはり攻撃力自体は高いのだろう。


……というか、やっぱりハロウよりも私の方が狙われやすいなぁ。

彼女の【犯罪者】の影響だろうか。

同一の個体を一緒に狩ろうとした時、ほぼ確実と言っていいほどに私の方が狙われ続ける。

その分私は相手を喰らえば回復出来る為、集中的に狙われても一応問題はないのだが。


「ちょっとハロウー!またこっちに来てるんだけどー!」

「ごめんなさいね、まだヘイト管理とか慣れてないのよ……【虚言癖】っと」


彼女は謝りながらも、自身が注目されやすくなるスキルを使ってこちらから敵を引き剥がしにかかる。

が、それも簡単ではないようで。

ナイフに変えて手数でなんとかしようとしても、そもそも与えたダメージ的に難しいのだろう。中々私に向かって飛んでくる熱い視線は外れてくれない。


片腕にも関わらず、体勢を崩すこと無く間隔短めに放たれる斬撃を何とか躱し、時には出刃包丁で逸らしながら耐えていく。

しかし完璧に防御出来ているわけではないのか、徐々にHPが減っていくのが見えていた。


どうしたものか、そう思った瞬間。

仮称シェイクスピアの頭へ1本のボルトが突き刺さり、


「……き、【起爆】」


次の瞬間、爆発を起こした。

微かに聞いたことのない女の声が聞こえたが、今はそちらに意識を割いている暇はなく。

その爆発によって怯んだ彼へと対し、私とハロウは同時に攻撃を仕掛け始めた。


私が切り、ハロウが潰し。

私が喰らい、ハロウが刺し。

切って切って潰して刺して。

喰らって喰らって切って刺して。


怯んでいる間に行われた暴行によって、彼の身体はぐちゃぐちゃに変わっていく。

そしてついにその時がきた。

仮称シェイクスピアのHPバーが底をついたのだ。


一瞬喜びそうになる。

しかしながら、その時点で身体が動かすことができないことに気付き。

勝手に顔の向きが、今しがた倒れた彼の方へと向いていく。


『……ヒッヒヒッ……』


彼は笑っていた。

HPが尽き、このまま消えるしかないというのに笑っていた。

その姿に、ゾクッと言いようのない恐怖を感じた私は、唯一動かせる目だけで近くにいる筈のハロウ達に視線を送ろうとした、が。


『さ、サァ!コヨこよよよゃいひらぁぁぁぁぁかれるぅううう!!』


そんな壊れた声が聞こえると同時、今まで立っていた観客席の床が崩れ、下へと落ちていく。

その過程で、先程ぐちゃぐちゃにした彼が膨張し、増殖し、そして新たな形へと変貌していくのが見える。


シェイクスピア風に言うならば、第二幕が始まったとでも言うべきなのだろう。


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