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Festival in Crime -犯罪の祭典-  作者: 柿の種
Season 1 第2章 【食人鬼】は被食者の夢を見るか?

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Episode 7


--第二区画ダンジョン 【劇場作家の洋館】 Hard 3F

■【食人鬼A】CNVL


言葉はほどほどに。

私は再び距離を詰めるために、足を一歩踏み出した。

対してジョンソンはといえば、私から離れるように後ろへと飛ぶ。

それと同時、彼の持つ本から黒色の光が漏れ始めた。


瞬間、彼の周囲の机や椅子がその形を変え始めた。

それは骸骨のように。

このゲームでは今まで見たことのない、有名な西洋のモンスターであるスケルトンのようなものに変わっていく。

身体を構成する物質が骨ではなく鉄などであるために、その身体の強度も高いだろう。

それらは槍や剣を持ち、こちらへと攻撃をしようと迫ってくる。


数は合計で3。全部をまともに相手にしようとすれば、少し面倒な数だろう。

だが、それで止まる理由は全くない。

スキルによって強化された身体能力によって、すぐに彼我の距離は縮まり。

近づいてきた私に向かって各自の武器を振るう。


「あはっ!」


自分の体の勢いはそのままに。

無理やり身体を捻り、剣を避け。

急所を狙うように突き出された槍を出刃包丁を使って逸らし、前へとさらに進む。


スケルトンたちをわざわざ相手する必要はなく。

恐らくあれらを作り出したのであろう本体……ジョンソンを倒せばいい戦いなのだ。

【アントロポファジー】による強化、さらにそれを【暴食本能】によってブーストした私の身体能力についてこれないのか、スケルトンたちは私の背中を見送った。


前には少しだけ驚いたように目を見開いている彼の姿があった。


「まず、一撃ッ!」

『成程、君は少しばかり血の気が多いようだ』


出刃包丁ではなく、左の白銀に輝く剣を使って一撃。

下から上へ向かって斬りつける。

しかしながら、その刃はジョンソンに届く前に彼の持つ本によって止められてしまった。

……本当に本なのアレ!?


剣と本。片方は相手を傷つけるために、もう片方は自身を守るために力を込めているからか、拮抗状態のように私の勢いも止まってしまった。

このままでは後ろに残してきたスケルトンたちが追い付いてしまうかもしれない。

ジョンソンは私に見えるようにニヤリと笑った。

このままこの状態が続けば勝てるとでも思っているのだろう。


しかし、私の手はまだ尽きていない。

彼に見えるように大きく、ニヤリと口元を歪ませて。私は左手に持つ剣を光へと変えた。

瞬間、突然押し込むように加えられていた力がなくなったからか、ジョンソンの体は大きく前へと態勢を崩していく。

驚いた顔をしている彼の腹へと向かって、フリーだった右手の出刃包丁を突き出しつつ。

左手で新たにインベントリからアイテムを取り出していく。


取り出すのはソルジャーゾンビの腕。汎用性の高い効果を得られる優秀な素材(食料)だ。

突き出した出刃包丁をジョンソンの左手によって逸らされつつも、新たに腕を喰らいスキルを発動させ剣を振るう。

右から左へ薙ぐように振るわれたその剣を避けるように、彼は後ろへ飛んで距離をとりつつ紙一重に避けた。剣が光となって消えていく。

あと一歩ほど。間合いさえ届けば私の攻撃が届くのだろう。

彼の顔を見れば、少しばかり楽しそうに笑っていた。


『仲間が居るのに1人で来るとは何者だ、とは思ったが。なかなかどうして興味深いじゃないか』

「どうも。何なら呼んであげてもいいぜ?」

『冗談を。自分が不利になるような真似を薦めるとでも?それに、君も1人で戦いたいのだろう?』

「あは、バレてるんじゃあ仕方ない」


後ろから迫ってきているスケルトンを気にしつつ。

私は新たに肉塊を取り出し、それを喰らって。自身の身体から溢れ出た赤黒い何かが人型に変わりつつ、背後のスケルトンへと向かっていくのを感じながら。

再度、ジョンソンへと駆けだした。


今度は攻撃の始まりを変えてみて。

こちらを捕まえようと伸ばしてくる左手をしゃがんで避けながら。私は足払いをかけようとする。

しかし、それは軽くその場で跳ねるようにして避けられてしまう、がそれでいい。

足払いの勢いそのままに、身体を回転させ。右手に持つ出刃包丁を使って空中にいるジョンソンを切りつけようとする。

しかしそれすらも読まれていたのか。今の所こちらの攻撃全てを防いでいる本を使って防御し、その衝撃を使って後方へと飛ばされていく。受け身くらいは取れるだろう、ほぼダメージはないのと等しい。


……次ッ!

その状態で相手に次の準備をさせないために、私は攻め続ける。

先程から狙っているあること(・・・・)さえ出来ればこの状況もある程度好転するのだろうが……そのあることをさせてもらえない。

大きな隙さえ晒してもらえればと思うのだが、それを晒すような敵ではない事も分かっている。


次にインベントリから取り出したのは、先程と同じソルジャーゾンビの腕。

しかし個数は先程よりも多く、2本。それが空中……私とジョンソンの間に空いた空間へと投げ出された。

1つを口で受け取り、すぐにスキルのコストとして使用して私は走り出す。

始めに生成されたのは盾。右腕に装備されたそれを横目で見つつ。

今だ空中に浮いている腕を左手で掴み喰らい、コストに変える。


次に生成されたのは剣。

それを左手で持ちながら。彼の近くにたどり着いた私は、左手に持つ剣を上段から振り下ろす。

しかし身体を右半身を斜めにずらすようにして避けられ、逆に私が彼に隙を晒すような形となった。

剣が光となって消えていく。暗闇ならばちょっとした目くらまし程度にはなっただろうが、ここではそれも叶わない。


がら空きとなった私の身体に対して、ジョンソンは名前に似合わず掌底を放とうとするのを見て。

私は、


「――待ってたよ」


再度、ニヤリと大きく笑った。

掌底の軌道上に、私は使っていなかった右手の出刃包丁……その刃先を置く。

まるで読んでいたかのように、彼の行動を予見していたかのように。

彼も気が付いたようだが、勢いのついた身体というのは車と同じように急には止まれない。


精々で軌道を逸らす程度。しかし、彼はそれを成し遂げた。

何とか出刃包丁に直撃しないようなルートへと変えられた掌は、刃先をなぞりながら私の横を通り過ぎていき。

そこには私以上に隙を晒している男の姿があった。


伸びきったその腕を、逃げられないよう左手で掴み。

私はそのままの勢いで喰らいつき、噛み千切る。

瞬間、【祖の身を我に】を発動させる。

周囲の観葉植物や椅子がデフォルメされた二頭身ほどのスケルトンに変わっていくのを見ながら。

私はそのままフリーとなっていた右手の出刃包丁を彼の腕に突き立て、使えないように何度も何度も抜いては刺しを繰り返す。


この瞬間私とジョンソンの関係は、敵同士から調理人と食材へと変化して。

ここからは私のターン(調理の時間)だ。




-【詩人 ジョンソン】が討伐されました-

-次の階層へ続く階段が出現しました-

-決闘イベントを終了します-


「あー、ごめんねぇハロウ。連絡するの忘れてた」

『……何かあったの?』

「ちょっとしたイベントが発生しててね。今終わった……というか。ログ行ったろう?」

『来たわね。討伐ってこれ名前有り(ネームド)じゃない。ボスよね?』

「まぁ、ボスかなぁ。普通に話出来たしNPCだったかも」


私以外生きている者が居なくなったオフィスで、椅子に座りながら音声入力で報告していく。

色々と言いたいことがあるだろうに、ハロウは一言『分かったわ、少し待ってて』とチャットするだけで、こちらに合流することを第一に行動を開始したようだった。

言いたい事はたくさんあるのだろうが、チャットではこちらの顔色などを伺えないからという理由もあるだろう。


程なくして、合流したハロウ達3人にこの階層で起こったこと、やったことを話し。

次の階層へ続いているという階段を探し始めた。


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